デザインに何度も社内チェックを入れることの大切さ

枌谷 力のプロフィール画像
代表取締役 枌谷 力

3,189 view

うちの会社はデザインの社内チェックを非常に重視している。デザイナーが初案を作り上げてからクライアント提出までに一週間近くかかることも特に珍しいことではない。

一方、採用の応募者や他社の方とお話をすると、デザインの社内チェックをほとんど入れない会社もあるようである。つまり、デザイナーがデザインを仕上げたらディレクターがそのまま持っていく、というケースである。さらに、今まで色々なキャリアのデザイナーと話をしてきたが、この社内チェックについて、否定的な考えを持っている人も少なからずいるようである。

そのベースになっているのは、主に以下のような考えではないだろうか。

  • 出してみないと分からないんだからさっさとクライアントに見せた方がいい。
  • クライアントに直接ダメ出しをされた方がデザイナーが育つ。

物事はバランスだと思うので、この見解を全否定するつもりはない。しかし、それでもうちの会社では、デザインの社内チェックを入れないような会社になることは当面はないだろう。それは、以下のような考えが根底にあるからである。

  • クライアントは会社の実績などから期待して依頼してきているわけだから、一個人の属人的な能力に依存したデザインではなく、会社としてきちんとクオリティ管理されたデザインを提案すべきである。
  • クライアントはデザインのプロではないから、クライアントがOKを出すかどうかを基準にしてはいけない。クライアント以上に厳しい審査基準を社内で持ち、それをクリアできないものは外に出さない、というワークフローにしないと、本当に「良いデザイン」が生み出せる組織にはならない。
  • クライアントにデザイナーの教育の一端を担わせるべきではない。クライアントは、少なくともその会社のベストメンバー、ベストデザインが出てくることを期待して発注している。中途半端なアウトプットを出し、クライアントに鍛えてもらうのは仕事を請けた企業としての基本的な責任を放棄しているのではないか。
  • デザインには正解がないからこそ、様々な意見に揉まれたうえで結論に至るべきである。
  • 社内チェックの文化がない会社にいるクリエイターより、社内チェックが厳しい会社にいるクリエイターの方が結果的に優れたクリエイターに成長している(気がする)。

例えば、自社サービスを運営していて、ユーザには無償でサービス提供を行い、広告などから収入を得ている会社であれば必ずしも上記の限りではない。質の低いものを世に出し、それで何らかの失敗をしても、自社の売り上げに直接返ってくるだけなので、その責任を自社の範囲内で全うすればいい。

しかし、クライアントやユーザから対価をもらい、その対価に対してサービスを提供している場合はやはり顧客に対する責任としての、最低限の質の保証が必要となってくる。その質を保証する行為の一つが「きちんと社内で検討する」ということなのだと思う。つまり、私たちのような受託企業においては社内チェックは最低限の責務であり、これをしないのは、やはり職務怠慢ではないかと思うわけである。

もちろん、社内チェックが繰り返されることの弊害もある。例えば、スピードの問題などはその最たるものだろう。特にディレクターなどをしていると、デザイナーにフィードバックを行い、修正をしてもらったプランがクライアントに承認されず、元々デザイナーが考えた案のままで良かった、ということを経験した人も多いだろう。

こういうことが、「デザインを社内チェックすべきではない」という意見を正当化させる一つの理由であったりするし、こういうときに、プロデューサーやディレクターは、自らの判断の誤りにバツの悪さを感じるかもしれない。

しかし、そんなことは気にする必要はない。デザインには正解がないのだから、たまにはそんなこともある。あるいは、そんなことが続くこともある。

しかし、それはある確率で発生する事象であって100%そうではないだろう。デザインには正解がない。出してみないとわからない。だからこそ、基本的な仕事の流れというのは、「より良いものに仕上がる確率がより高い方法」を選択すべきなのである。

この話は、逆に言えば、社内チェックが不要な組織もあり得る、ということも意味する。つまり、プロデューサーやディレクターがあれこれ言わず、アートディレクターやデザイナーに一任した方がより良いものに仕上がる確率が高まるチームであれば、そうしていいのだろう。

その最低条件は、アートディレクターやデザイナーが優秀であり、自ら、ビジネス要件なども理解しながら、深く考え、デザインをクリエイトできる場合、ということになる。あるいはデザイナーの方が詳しい案件の場合は、デザイナーに一任してしまってもいいのかもしれない。

そもそもデザイナーたるもの、ある程度の経験を積んだのなら、社内チェックなど入れられず、アイデアを直接クライアントにぶつけられるようになることを目指すべきである。

ただ、そこまでに至っていない成長段階のデザイナーを抱えるチームであるならば、やはり厳しい社内チェックを行って、アウトプットの質を会社のポリシーとして許される水準まで引き上げたり、あるいは社内チェックによってデザイナーを鍛えたり、ということをしないといけないのではないだろうか。

少なくとも、会社という一つのブランドに対して何かを期待し、発注をしているクライアントに対して、会社として推奨レベルに達していない未熟なアウトプットを作り、それを直接クライアントにぶつけるようなことをしてはいけない。

そういった姿勢を持っている組織であるかどうかが、プロ集団かどうかの分かれ目なのではないかと思う。

関連する日報

    フリー素材のアイコン・イラストを流用する時のコツ

    2,538 view

    岡本 早樹のプロフィール画像
    岡本 早樹 デザイナー
    経験やスキルがなくても、デザインのフィードバックはできる

    2,194 view

    原浦 智佳のプロフィール画像
    原浦 智佳 デザイナー
    「壁打ち相談」をうまく使って、情報設計を効率よく進めよう!

    1,516 view

    高島 藍子のプロフィール画像
    高島 藍子 デザイナー
    ベイジディレクターのリアル

    2,582 view

    本山 太志のプロフィール画像
    本山 太志 コンサルタント
    BtoBサイトにおける「ファーストビュー攻略法」

    2,901 view

    池田 彩華のプロフィール画像
    池田 彩華 デザイナー
上に戻る