フリーランスから会社組織に変えて感じた8つのこと

私が10年に及ぶサラリーマン生活にピリオドを打ち、フリーランスとして独立したのが2007年でした。最初に勤めていたNTTデータには、1997年から2001年までの4年在籍していました。その中でWebに興味を持ち、35歳までに独立する、ということを目標にWeb業界に飛び込みました。28歳のときです。

そこから制作会社を2社経験しました。自分の理想を具現化できる会社であれば一生会社員であってもいい、という思いはあったのですが、様々な条件を考えるとそれはやはり難しいと感じ、予定通り独立しようと再度決意したのが33歳のとき。そのまま会社員として働きつつ独立の準備をし、ちょうど35歳になる1か月前の2007年の10月、当初の予定通り、独立に漕ぎ着けました。

その時に事業形態として選んだのは、フリーランス(個人事業主)でした。待望のフリーランス生活は会社員と違って開放感に満ち溢れていました。幸いにして仕事に困ることもなく、充実した毎日でした。しかしその一方、組織でないことの弱みを再確認したのも事実で、しばらくして会社を作って人を採用し、組織化することを具体的に考えるようになりました。そして会社組織として再出発したのが2010年の10月。今はそれから2年と2か月が過ぎた段階です。

実は昨年より、フリーランス(登記上は株式会社の方もいるけど)をやっている友人から、会社化に関する相談を持ちかけられる機会が何度かありました。そういった時に話をしていた、フリーランスを経験してから会社を作った私が思っていること(主に会社化のメリットについてですが)を、会社を作って2年を過ぎたこの機会に、まとめてみようと思います。

その1:自分の強みを最大化し、弱みを最小化できるようになった

これは誰もが真っ先に思いつく組織化のメリットでしょう。そして事実そうであると改めて実感しています。例えば私の仕事の場合、フリーランスの頃は、提案も、設計も、ディレクションも、デザインも、コーディングも、そして営業や経理も、ほとんどを自分で行っていました。これは、細部まですべてを自分でコントロールできる反面、自分の強みを最大限発揮しにくかったともいえます。

会社組織にしてからは、自分の得意分野である戦略提案やアートディレクションに注力できるようになりました。私の強みではない業務は、それを得意とするスタッフが担当することで、自分の弱みを解消し、より精度の高いアウトプットができるようになりました。このように個々の特性を活かして課題を急速に解決し、高いところまで一気にレベルアップすることは、フリーランスではなかなかできないことです。

その2:労力の集約・分散が可能になり、新しいことにチャレンジしやすくなった

強みに集中できるようになるということは、苦手分野に時間を取られなくなるということです。時間の使い方が変わることで、新しい取り組みに割り当てるための時間が生み出されました。例えば、私がフリーランスの頃に作りはじめたwebサービスは、構想から公開まで3年以上の月日がかかりました。一方、会社化してから作ったアプリは、構想から数ヶ月でモックアップまで辿り着きました。

いずれも失敗したサービスなので大きなことは言えませんし、開発規模も違うので単純比較はできませんが、新しい取り組みへのスピード感は会社になって明らかに変わりました。技術的な刷新が激しくトレンドを追い続けなければならないビジネス、PDCAを高速に回していくようなビジネスであれば、このスピード感は強いメリットになるでしょう。というよりも、フリーランスであることはハンディを背負っている、といった方がいいのかもしれません。

その3:誰かに気軽に相談ができるようになった

一人でやっていると、すべてのことを自分一人で判断しなければなりません。しかし、一個人がいつも適切な判断ができるとは限りません。意思決定する前に、第三者の客観的な意見を聴いた方がいいケースも多々あります。同じ会社組織であれば、そういった意見を簡単に聴くことができます。

もちろん仲のいい友人であれば、気軽に相談できるかもしれません。しかし、経済基盤の違う相手になにかを聴くのであれば、それは対価が発生する行為です。いくら仲が良くても、些細なことまで頻繁には聴けないでしょう。守秘義務に抵触するようなことも当然聴けません。同じ会社のスタッフ同士であれば、こういうハードルはありません。一つ一つの相談は小さなことでも、リスクを回避したり、本来やるべきではない作業を減らすなど、積み重なって大きなメリットになっていると感じます。

その4:自分の考えを行き渡らせることができるようになった

仕事の中には、単純な正誤ではない、価値観や考え方に依存する部分が多く存在します。個々のスキルだけでなく、それをつなぎ合わせるための、文化や行動規範があった方が、より効果的に仕事を進められる局面が出てきます。例えば行動指針のようなものは、同じ会社だから共有できるもので、外部の人にまで行動指針を啓蒙し、それに合わせて行動することを促すのは難しいでしょう。

フリーランス同士でも、チームを作ること自体は可能です。しかし、こういった精神面、プロフェッショナリズム、ソフトスキルの考え方、ビジョンなどを共有した上で、より強固なチームを作り上げることができるのは、会社組織であることの大きなメリットではないかと思います。

その5:ある程度の信用が担保されるようになった

フリーランスの中には、仕事が大変になると連絡が取れなくなり、仕事を投げ出して雲隠れしてしまうような人がいます。そういう人は極僅かでしょうが、フリーランスというカテゴリにいる以上、そのような方と同列に見られる傾向はあります。これは特に、新規顧客の開拓において不利に働きます。あるいはフリーランスだと、その人が病気や急な事情で動けなくなったときに仕事が回るのだろうか、といった不安が、発注側には存在し続けます。

会社組織になっていると、そのような発注側の不安は、最小限に抑えられます。もちろん、フリーランス時代はまったく信用されなかった、というほど極端ではありませんが、会社組織にしてから、社会的な信頼度が上がり、仕事の選択肢は増えました。仕事を紹介をしてくれる人も増えました。一部上場企業との直接取引もできるようになりました。仕事の選択肢が増えたということは、当然ビジネスをするうえで、自分のビジョンを描く上で、間違いなく有利な状況になったと言えます。

その6:仕事や将来を計画的に考えるようになった

会社には、計画が必要です。たとえ会社代表でも、役員報酬は毎月決まった額しか支給されません。つまり、いくら売上げをあげて月々いくらの収入に設定するかを事前に考えなくてはなりません。社員の給与、あるいは事務所費などの固定費もより具体的に、計画的に考える必要が出てきます。融資を受けるのであれば、金融機関に事業計画を提示しなければなりません。

一方、フリーランスは、自分や家族が困らないキャッシュさえ入ってくれば、そこまで計画的に考えなくても問題はありません。その影響を受けてか、フリーランスの時代は、将来イメージが今よりもずいぶん漠然としていました。計画的に物事を考えるかどうかは、個人の性格にもよるでしょう。ただ、会社を作ると、性格がどうあれ計画性を求められてきます。やがて、それが面倒とは思わずに、計画的に物事を考えたくなります。会社化するということは、自分自身の意識すらも変えていく面があります。

その7:人を雇っても責任感で押しつぶされそうになることはなかった

会社組織にするうえで一番不安だったのは、雇用の責任を負うことでした。社員の生活のために売上げを確保しなくてはならない。フリーランスが会社組織を作るうえで二の足を踏むのは、この点が大きいのではないでしょうか。

実際に、会社を作り、社員を雇ったことで、責任の重さを感じる面は確かにあります。しかし、それに押しつぶされる、というほどではありませんでした。なぜなら、いつもそのことばかり考えているわけではないからです。うちのような零細企業の場合、会社代表が経営だけをやれることは稀で、クライアント対応から現場のディレクションも同時にこなさなくてはなりません。そんなときも雇用の責任感で重苦しくなっているわけではなく、当然、その時直面している問題の解決に全精力を集中しています。

一方で、社員に対する責任が、いいスパイスとなり、自分を厳しく律することになっている面もあります。他人の責任を背負うことは、決して悪いことばかりではありません。自分自身を成長させる良いキッカケにもなります。このようにポジティブに受け取ることができれば、人を雇用することが自分を押しつぶすようなものにはならない、ということを感じます。

その8:フリーランスのときには、会社化の良さは実感しにくかった

今までにあげた7つのことは、フリーランス時代に予見できたかというと、必ずしもそうではありませんでした。私の場合は特に、会社員時代に感じていた窮屈さの反動もあり、フリーランスの自由さ、快適さを強く感じる機会が多く、会社化による不安の方が大きかったです。経済的に満足していれば、現状の楽しい部分の方が大事に思えて、その環境を手放したくなくなるものです。しかし、業態、目指すべきビジョン、個々の方が持っているスキルの特性によっては、フリーランスよりも会社化した方がいい場合もあります。

フリーランスの経験だけでは、フリーランスがいいか、会社がいいかを判断することは難しいです。私も当時は明快には判断できませんでした。そしてその結論を出す上で、実際に会社をやっている人の話が非常に参考になりました。特に大事なのは、本に書いてあるような綺麗ごとではなく、本音の部分です。このままフリーをやっていくべきか迷いを感じたら、そういった方に話を聴いてみるのが一番いいのではないかと思います。

まとめ

読んでいただくと分かるかと思いますが、私の結論は、会社にして良かった、というものです。ただし私は、誰にとっても会社がベストと思っているわけではありません。会社とかフリーランスというのは、単なる働き方の選択肢です。自分のやりたいことと照らし合わせて、その事業形態が適しているかどうかで判断すべきと思います。また、フリーランスになる、会社を作る、といった事業形態への憧れだけでビジネスを考えると、うまくいかないとも思っています。

そういう意味で、自分の立場はあくまで中立です。ただ、今の自分には会社組織の方が都合がよかった、というだけです。それを前提として、現在フリーをやっている方々が、今後の事業形態を決める上での参考情報になれば幸いです。