企業ブログを長続きさせる意外な視点

どうすればブログから集客できるのか、どうすればブログをうまく運用できるのか、というご相談を、クライアントからよくいただきます。ブログは決して、デジタル戦略において必須の施策ではありませんが、ブログによる情報発信から、なんらかの恩恵を受けられる企業が多いことは、間違いありません。

しかし、今までブログに取り組んだことがない、あるいは取り組んだけどうまくいかなかった企業は、そもそもブログなんて続けられるのか、という点で二の足を踏むことが多いです。

ブログで生計を立てているのであれば、業務時間のすべてをブログに費やすこともできるでしょう。しかし、私もそうですが、他に主体業務がある人にとっては、ブログ運営には確かにハードルが高い面があります。一番の障壁は、記事を作るのに手間がかかるのに、効果がすぐに見えないことでしょう。

ブログを始めても、なかなかアクセスが伸びないと、やがてモチベーションが下がり、更新が途絶えてしまいます。担当者をきちんと決め、計画的にコンテンツを用意しても、この手の「ブログ・モチベーション・クライシス」に陥ると、やがてブログは停滞します。

では、どうすれば、ブログを長続きさせられるのでしょうか?

私はクライアントに、私自身が実践している、すごく簡単で効果的な一つの視点をよくお伝えしています。それは、「ブログは、顧客に向けてではなく、社員に向けて書きましょう」ということです。

訪問数ではモチベーションになりにくい

企業ブログの指標として一番気になるのは、やはり訪問数ではないでしょうか。せっかく記事をアップしても、訪問数が一向に伸びないと、失敗したかのような印象を持ってしまいます。

企業ブログを、集客目的に使うのであれば、直接的な集客ではなく、見込み顧客創出を狙うのが現実的です。Googleでのキーワード検索から、たまたま記事に辿り着いたユーザに、企業名やサービスを知ってもらう。ブログを読んですぐに顧客になる、というのは稀な例でしょう。

しかし、その場で顧客にならなくとも、その訪問者が、何らかの問題を抱えた時、それは半年後かもしれませんし、1年後かもしれませんが、ブログを通じて知った企業やサービスを思い出し、見込み顧客から顧客にステップアップしていきます。

こういった企業ブログのマーケティング的特性から考えると、ブログ開始の初期段階において、訪問数がぐんぐん伸びることはあまりありません。それ故に、訪問数上昇をモチベーションにブログ運営をすることは難しいと言えます。

がんばって更新しても訪問数は全然伸びず、次第にモチベーションは下がります。やがて、ブログなんか書かずにもっと他の仕事をした方がいい、と思い始めることでしょう。

SNSでのシェア数は、KPIにはなりえない

ブログを公開したあと、FacebookやTwitterのシェア数が秒単位で伸びていくのを見るのはなかなか痛快です。SNSでシェアされれば、短期的に訪問数も増えるので、効果があるような気にもなります。

しかし、これをモチベーションにするのも、実はオススメではありません。というのも、SNSでシェアされることは、必ずしもビジネスに結びつかないからです。

例えば、当ブログ内に「ワンランク上のHTMLコーディングを行うための18のポイント」という記事があります。この手のTIPS系の記事は、SNSで拡散されやすい傾向があり、実際に、それなりの数のシェアを獲得しました。しかし、これを読んで「なるほど!」と思うのは、私たちの同業者だけでしょう。残念ながら、顧客ではありません。

一方、私たちの顧客を意識した「BtoBサイトにありがちな、25のあやまち」は、シェアはほとんどされていません。原因として、顧客であるBtoB企業のWeb担当者たちは、必ずしもSNSで共有するようなユーザではない、という点があげられるでしょう。一方、シェア数は伸びずとも、クライアントからの受けは比較的良い記事だったりします。

このように、SNSと親和性の高い業態の私たちですら、SNSのシェアと顧客のミスマッチが起きるわけですから、他の業界ではさらに状況は難しくなります。

例えば、弊社のクライアントには、バイオマス発電やヨウ素といった、かなり特殊な技術を扱う企業も存在します。しかし、彼らが顧客に向けて貴重で有益な記事を書いたとしても、それはきっとほとんどシェアされないでしょう。逆にSNSでシェアされやすい記事を書いても、多くは彼らのビジネスとは直接関係のない記事になるはずです。

こうなってくると、モチベーションの源泉をSNSのシェア数に求めてブログを更新していくのは、とても不毛な行為になってきます。

社員向けに書くだけで、モチベーションはあがる

だから私は、まず最初は訪問数やSNSでのシェア数は気にせず、「身近にいる社員に向けて言いたいこと、知っておいてほしいことを、ブログ記事にしましょう」とすすめています。

社員向けに記事を書いたら、顧客に繋がらないじゃないか、と思うかもしれません。しかし、冷静に考えてみてください。社員に教える業務知識の中には、顧客にも役立つ情報もたくさん含まれていないでしょうか。社員向けに記事を書いても、専門用語を控えて口調をやわらかくするだけで、顧客にも役立つ記事に様変わりしないでしょうか。

社員向けに書くわけだから、訪問数やシェア数を気にする必要はありません。社員がブログについて話していたり、日報に感想を書いていたり、ブログの内容を業務で実践していたら、また新しい記事にまとめようというモチベーションが湧いてきます。

最悪、顧客にとってはあまり役立たない記事になったとしても、訪問数が全然伸びなかったとしても、それが社員たちの役に立ったのなら、良しとできます。

こうして、社員向けと思って積極的に発信した情報のアーカイブは、やがてはその企業のブランドとなり、自然に検索エンジンなどにもかかるようになるでしょう。

このブログも、実は社員向けに書いている

私のブログは、まさにこれです。フリーランスの頃もブログをしていたのですが、実のところ、あまり長続きしませんでした。しかし、会社にして、スタッフが増えて、自分の知識や思いをみんなに知っておいてもらいたいという気持ちが高まってからは、ブログがずいぶん続くようになりました。

記事を書いて、運よくSNSで数多くシェアされることもあります。でもそれはあくまでオマケです。クライアントから「すごく役になった」と言われたり、お客さんが問い合わせてくれたりすることもあります。でも、いつもそれを期待しているわけではありません。

私のモチベーションを支えているのは「受注がほしい」「顧客に注目してほしい」という気持ちが一番ではなく、あくまで、社員のみんなも知っておいてほしい、こういう記事をまとめたら彼らの役に立つのでは、という気持ちです。

だから、実は顧客向けじゃない情報も含んでしまいます。モチベーションが社員に向けてだから、そうなってしまうのでしょう。

当然、この記事も、社員のみんながブログを書く上での私からのアドバイス、という気持ちで書いています。しかし、多分この内容は、ブログが続かなくて悩んでいる企業の担当者にとっても有益な情報になるだろうから、ついでにブログとして公開しているわけです。

企業ブログを始めるのなら、まずはこういうスタンスでいいのではないでしょうか。

企業ブログは誰が書くべきか

 社員に向けての情報発信をモチベーションにブログを運営するとなると、自然と、誰がブログの執筆者として適切かがハッキリしてきます。

まず、Webに詳しいだけの若手に書かせるのは不適切です。彼らは社内を教育する立場にありません。むしろ、先輩たちからの情報を欲している立場です。彼らが社内教育をモチベーションにブログを書くのは、無理が出てきます。

企業によっては、広報や営業がブログ担当になることもあるようですが、これもオススメではありません。彼らは社外に向けて情報を発信したり、顧客と接したりするのが主体業務であり、社内全体の教育の中心にはなりにくい存在です。彼らが企業ブログを書くと、結局は訪問数やシェア数を基準にするしかなくなり、先に述べたような問題が起こり、停滞しがちです。

 一番のオススメは、会社のトップです。単一のビジネスモデルで成り立っている中小企業であり、トップ=創業者であれば、これがベストです。

 一方、会社の規模が大きかったり、組織やビジネスドメインが分かれたりしているのであれば、知見の源泉となっている部署のリーダーが書くべきでしょう。彼らが、社内のみんなに学んでほしい、こういったことをみんなも知っておくべきだ、という目線で、ブログを書いていくのです。

 リーダー職の人材であれば、社内を教育したいというモチベーションがあるので、訪問数やSNSの数に左右されず、ブログを書くことができます。また、リーダーに立つような経験豊富な人材が提供する情報なら、自然と、若い社員にとって学べる部分が多く含まれるものになります。結果的には、外部の見込み顧客にとっても価値ある情報に仕上がることでしょう。

 「ブログは面倒だから若い人に任せておこう」ではなく、いつも仕事の中で社員に語っていること、教えていることを文章にまとめて、ブログにしていきましょう。まだ見ぬ顧客ではなく、いつも接している彼らの顔と反応を思い浮かべて、書くようにしましょう。

もちろん、すべての企業ブログがこういった視点で運営できるわけではありません。しかし、BtoB企業やプロフェッショナルサービス系の企業をはじめ、数多くの企業において、こういった視点でのブログ運営が可能なのではないでしょうか。

是非一度、試してみてください。思った以上にブログ運営が長続きするのではないかと思います。