デザイナーはなぜPhotoshopを触る前にラフを描くべきなのか?

デザインを始めた当初、上司から「ラフを描け」としつこく言われた。どんな構図にするのか、どんな書体にするのか、どんな色にするのか、どんな写真にするのか、などのアイデアをA4の裏紙に手描きでまとめる作業だ。

自分は割とこの「ラフ作り」が苦手だった。

実際にPhotoshopやIllustratorを操作して作業してみなければ、そのアイデアでいけるのか、いけないのかが判断できなかったからだ。ラフをうまく描くこと自体できなかったので、その作業は最低限に留めたいと思っていた。ラフを描くことは、じっくりデザインする時間を削ると考えていた。スクリーン上で手を動かることに時間を費やした方が、ずっと効率的だと思っていた。

しかし、ラフを描かずにいきなりPhotoshopに向き合うと、短時間でスムーズに完成するときと、時間をかけても完成のメドが立たない時との落差が激しかった。

自分が得意なテイストのデザインや、過去に経験したデザインだと、ラフを描かなくても、自然と手が動いてスムーズに完成させることができた。

しかし、やったことがない未知のデザインの場合、時間をかけて作成してもしっくりこず、ゼロに戻して再度新たな方向性を検討する、ということが多く発生した。そのために徹夜することも何度かあった。

当時在籍していた会社の先輩ADの下についた時のことだった。その先輩はアイデア検討段階で何枚かのラフを描き、「あーこの方向性ではダメだ」と言ってまた次のラフを描き、そうこうしているうちに「あ、コレならいけるかも」と言って、できあがったラフを自分に渡してくれた。

ラフを描かない自分と、ラフを描く先輩と、何が違うのかをその時に考えたのだが、一番の違いは、「初期段階で多くの仮説を検証している」ということだった。

Photoshopで手を動かしながら仮説を検証していると、細かなディティールにどうしてもこだわってしまうため、検証に何時間もかけてしまうことがある。

また、時間をかけて作ったものはもったいないと感じ、そのまま進めても良くならないアイデアをスパッと捨てることができず、さらに無駄な時間を費やす、という悪循環に陥りやすかった。

一方で先輩は、頭の中とA4の裏紙という最小限の出力装置を使い、最小限の時間でいくつものアイデアを検証し、「これで行けそうだ」と確証が持てて初めて、オペレーションに移っていた。自分もそのスタイルを真似るようになり、実際、作業時間や質のムラを、ある程度無くすことができるようになったと感じている。

その後、自分の中で一つのルールとして決めたのが「5:5の法則」だ。作業時間が10あるとしたら、ラフの時間を5、Photoshopでデザインする時間を5くらいの配分で進めるというものだ。

アイデアが自分の中で煮詰まり、これで行けるという確証が持てるまではPhotoshopを触らない。2日の時間があれば、丸一日は徹底的にラフを描き、2日目にラフを見直し、後は一気に手を動かして作る。スムーズにデザインできるだけでなく、アイデアの段階で上長の承認もとれるので、安心してデザインを進められるようになった。

かつての先輩と同じような立場になった今、自分も同じように、後輩デザイナーにラフを描くことの大切さを伝えている。その背景には上記のような経験があるからだ。いきなり精度の高いラフを描くのは難しいだろう。しかし「5:5」くらいの時間配分をイメージし、最初にアイデアを練りこむことで、デザインの核になる思考力も鍛えてほしいためである。

デザインに限らず、作業前に想像力を働かせてラフなスケッチで思考実験をする習慣は、いろんな仕事にも応用できる。自分自身も、デザイン以外の仕事の中でも、事前にラフを描いてアイデアをまとめる、ということをより一層習慣化していきたいと思っている。