プロフェッショナルな焼肉屋の店員がかけたとある魔法

私生活の中でプロフェッショナリズムについて考えるのは、外食をする時が特に多い。というのも、外食する時は家族や友人といった大切な人と一緒にゆっくりと話をしながら楽しい時間を過ごしたい、という思いがあるので、その最中にお店からどんな対応をされたかには、自然と敏感になる部分がある。

ある時、とある街の焼肉店に行ったことがあった。いわゆる芸能人が行くような高級な店ではないがその土地で50年以上続く老舗。店員も店長らしきおじいさんが1名とその他数名という少人数での経営のようだった。入店後、そしてひとしきり肉を頼んで焼いて食事を始めた。味は普通に美味しい。価格は特別安いわけではないが、特に気になるレベルではなかった。

同席した人と話をしながら食事を進める中でとあるアクシデントがあった。私が1枚の肉を網の中に落としてしまったのだった。この店の焼き網は縦に隙間が空いているタイプだったので、下手をしてその隙間から、肉を落としてしまったのだった。思わず「あ~…」と言いつつ、まぁ仕方ないと食事を続けていると、店長の次に年配(おそらく60歳くらい)の男性店員がそっと寄ってきて、満面の笑みで「実は私は魔法が使えるんですよ~」と我々に伝えた。そして何をするのかと思いきや、網の上で手をクルクルと回し、後ろ手に隠していた1枚の肉皿を自分たちのテーブルに差し出してくれた。肉を落とした自分たちの行動がまさか見られているとは思わなかったので、その店員の行動、そしてユーモアに接して一気に場が和んだ。

フランチャイズなお店ではないため、そうしたお客様の失敗に対する厳格なマニュアルがあるとは思えなかったが、おそらくのところでこういったケースはこう対処すべき、という考え方がきちんと教育されているのではないかと感じた。その店員は店長ではない。しかしきちんとお客様の行動に目を配り、自分の判断でその失敗をサポートしている。その行動に、この店のプロフェッショナリズムを感じずにはいられなかった。

例えばこれを我々のWeb制作に置き換えてみる。お客様からのフィードバック内容は漠然としていたりすることもあるし、原稿も期日までに綺麗に整理されたデータで届かないこともある。我々の想像のつかない、思わぬところで失敗されることなど日常茶飯事である。もちろん、そうした部分をリードして教育するような姿勢も必要だが、相手は対価を払って我々に依頼してくれている以上、そこに対しては真摯に向き合う必要がある。

焼肉屋の店員が影で「ちっ、肉落としやがった」「知らねぇ、ほっとこう」などと思ったはずがない。やはり心から、自分の仕事を全うして楽しい気持ちになってもらいたいと考えていたのではないだろうか。日々仕事は忙しいが、その忙しさにかまけて目の前の作業を完了することだけを目的にしていたら、プラス1枚の肉を差し出すような配慮はできないだろう。顧客の満足を満たしてこそ、プロフェッショナルであると感じる出来事だった。