最近はSNSの普及に伴い、デザインに対して正直どう感じるか?という意見を、デザインに詳しくない人でも気軽に発言しやすく、かつ可視化されやすい環境になった。またそうなったことで、デザイナーがある種「専門領域に口出しするな」という暗黙の空気を出すことは、信頼を失うことに繋がりやすい世界になったのではないだろうか。
例えばデザインの意図を説明する際、人によって解釈が異なる内容を、デザイナーが論理的な根拠もなく、いかにも素晴らしいものであるかのように説明するのは、デザインを知らない、またはデザインという専門領域には口を出しにくいと感じる人に対して誠実な対応とは言えない。
デザインの説明では、意図だけを伝えること、感じ方まで決めつけないこと、この2つが大切になると心得ておくのが良いだろう。
意図だけを伝える
まず作成したデザインを提示した上で、ユーザーはどんな特性を持っているか、そこに対してクライアントはどのような行動を促すべきか、そして具体的にそれらをどのように表現にすべきか、を説明する必要がある。例えば、コーポレートサイトのメインビジュアルの写真の選定意図を説明する場合、以下のような説明が望ましい。
サイトに訪れる投資家、採用希望者、製品ユーザーに対して御社は日本以外に、世界的な規模で世の中を変えていくことを目標としていることを伝える必要がある。だから、メインビジュアルには「世界の広さ」「対象とするさまざまな人種」「グローバル感」が感じられる「スケール感のある街」「さまざまな人種」などが望ましいと考えた。
ポイントとなるのは、前提条件を踏まえてこんな表現が望ましい、というところで説明を終えているところだ。これによってユーザーがどのような感情を持つかまでは言及していない。
感じ方まで決めつけない
先に挙げた表現に対して、NGな表現はこういったものだ。
サイトに訪れる投資家、採用希望者、製品ユーザーに対して御社は日本以外に、世界的な規模で世の中を変えていくことを目標としていることを伝える必要がある。だから、メインビジュアルには街に光が射している写真を選び、溢れる光の中で世の中の人々が希望を感じられるようなイメージの写真を選んだ。
一見するとこの説明は立派でよく考えられた説明のようにも見える。しかし街に光が射す写真を見て確実にどのユーザーも希望を感じるのかと問うと、そうとは言い切れないだろう。そう感じる人と感じない人が居て、どちらが多いかを示す定量的な情報も無い。
また以下のような説明もNGである。これはwebサイトの配色案として、グレーベースの暗い案、ブランドカラーのブルー案、白ベースの明るい案の3つを提案した際、どれがいいか悩むので専門家としてオススメを教えてほしい、と聞かれた時の説明だ。
ブランドパーソナリティを考慮すると、暗いものよりも、より明るい印象である「明案」、もしくはブランドカラーを取り入れた「多色案」といった明るい印象のものをお選びいただくのが、より御社のブランドを表現できる。
この例では、デザインだけでブランドイメージが左右されると言い切っているところに問題がある。ブランドに影響を与える要素は非常に複合的で、配色のみでブランドイメージが左右される、というものではない。コピーやコンテンツ、製品自体の品質、会社自体のイメージなどすべて含めてブランドは形成されるため、この言い切りはおかしいということになる。
最後に
まずもって、説明は正しい論理に基づく必要がある。これは説明やデザインだけにとどまらず、日ごろから物事を考える際に「自分の発言は論理的に破綻していないか?」と、注意深く客観視する力が必要になる。
加えて、その道を歩む人でなければ理解しづらい「デザイン」という概念を仕事とする上で、その分かりにくさを逆手に取ったズルいコミュニケーションに流されない力も必要になる。
手慣れたデザイナーであれば難なく作り出せるデザインであっても、いざそれを言葉で説明するとなった場合、難しさを感じる人は多い。その難しさを放置せず、デザインを知らない人にも分かりやすい言葉で説明する力こそが、デザイナーに求められているのではないだろうか。
私がデザイナーとして働きはじめた15年以上前から、NGに挙げたような説明をするデザイナーは周囲に沢山いた。またその不自然さに対して指摘をする人・気付く人も少なく、お客様へのプレゼンの現場では「デザイナーさんが言うことだから」という暗黙の空気で物事の判断が流されていくケースが多々あった。
こうした状況を、我々デザイナー自身が許してはならない。