Webサイトでの正しいブランディングと3つのベネフィット

Webサイトのリニューアルを担当する際に「Webサイトでブランドイメージをもっと伝えたい」と依頼されることがよくあります。では「Webサイトでブランドイメージを伝える」というのは、一体どうすることなのでしょうか。

ブランドイメージとは本来企業が持っているものではなく、顧客の心の中に作られるものです。そのため厳密には、企業から「Webサイトでブランドイメージを伝える」ということはできません。企業ができることは、「Webサイトを見た顧客の心の中に、企業が望んでいるイメージに近いブランドイメージを描かせる」ということです。ブランドイメージがそもそも顧客の中に存在するものである以上、主導権は顧客にあり、企業ができるのはそこに影響を与えることだけです。

そのため、顧客の心を無視し、企業にとって都合のいいイメージだけを一方的に発信する、というのはもってのほかでしょう。企業側が勝手に望んでいる「かっこいいデザイン」「おもしろいコンテンツ」のWebサイトを短絡的に押し付けることなどは、まさにそれにあたります。そのような視点では顧客の中にブランドイメージを醸成させることはできません。

ブランドを構成する3つのベネフィット

では、顧客がブランドイメージを心の中で形成するのは、どういう瞬間におこるのでしょうか。それはコンタクトポイント(ブランドとの接点=この場合Webサイト)で、該当のブランド(製品やサービス)が持つベネフィット(便益)を自分のこととしてうまく感じ取れた時、と考えることができます。ベネフィットとは、顧客にとっての便利さや効能などの機能ベネフィット、顧客に好意的な感情を抱かせる情緒ベネフィット、そのブランドを所有することが顧客の自己アピールになる自己表現ベネフィットの3つです。

これらの3つのベネフィットは、いつも同じ配分で存在しているわけではありません。例えばiPhoneは、使いやすい、高機能、アプリが多いという機能ベネフィット、楽しい、ワクワクするという情緒ベネフィット、持っていると自慢できる、新しいものに強いように見られる、などの自己表現ベネフィットの全てが、どれもそれなりの強さで備わっているブランドです。

一方、高級ラグジュアリーホテルの頂点に立つといわれるリッツカールトンのベネフィット構造はどうでしょうか。立地の良さの便利さ、アメニティの充実といった機能ベネフィットもないわけではないでしょう。しかし、ホテルの持つ高級感・上質感や快適さなどの情緒ベネフィットと、そこに宿泊することで得られる自己表現ベネフィットが強く作用しているブランドではないでしょうか。有名な接客サービスも、機能ベネフィットというよりは情緒ベネフィットを強く訴えかけるものといえます。

消費者金融のサービスなどはより極端な構造です。自己表現ベネフィットは限りなくゼロに近く(人に自慢できるものではないため)、情緒ベネフィットも最低限の信頼感というレベルで、返済方法などのサービス体系や借りる/返済するといった際の気軽さといった、機能ベネフィットにかなり偏ったブランドではないでしょうか。

もちろんこれらのベネフィットの構造は厳密には一人一人の心の中で違ってきます。そのため、多くの人にどのようなイメージを持たれるべきか、という根本的なブランド戦略がまずは必要になってきます。

その上で、Webサイトでは特にどのベネフィットを重点的に顧客に伝えるのか、という役割を明確にしなければなりません。役割の明確化がしっかりしていれば、Webサイトの戦略、掲載コンテンツ、そしてデザインも自ずと決まり、企業側が望む「Webサイトを見た顧客の心の中に、企業が望んでいるものと近いブランドイメージを描かせる」ということが可能になってきます。

機能ベネフィット重視のWebサイトの具体例

では、ここから具体的なWebサイトとブランドベネフィットの関係を見ていくことにしましょう。ちなみにこれから紹介するそれぞれのブランドのベネフィット構造は、単純に私が感じているイメージです。また考え方をわかりやすく伝えるために、意図的にシンプルにまとめている部分もあります。実際の企業との折衝では、ヒアリングや市場調査などを踏まえたうえで、もっと入念に定義されなければならない、ということは言うまでもありません。

というわけで、まずはユニクロのWebサイト(ECサイト)をご紹介します。一連のCMなどを見ていると、最近のユニクロは情緒ベネフィットを強く打ち出しているブランドのようにも見えますが、基本的には機能ベネフィットが強い商品群が多く、購買プロセスが進行すればするほど、本来の強みである機能ベネフィットの訴求が大切になってくるブランドではないかと思います(右図)。

ECサイトという購買ファネルの最終段階に位置しているWebサイトの役割も、この機能ベネフィットの訴求が色濃く出ています。例えば、この記事を執筆している現在展開している特集の「カラーアンクル」のページなどもまさにこの作りです。

美しい写真で当然の様にビジュアルにも細心の注意が払われてはいますが、コンテンツとして重視されているのは、やはり商品の機能性です。「丈とディテール」「超細身のシルエット」「さわやかなはき心地」「ラクなはき心地」「なめらかな肌ざわり」という機能性訴求が中心で、タイル状に敷き詰められたバリエーション紹介も「選択肢が豊富」という機能ベネフィットを訴求したものです。これら機能ベネフィットから関心を高め、好意的なブランドイメージを確実に形成したユーザは商品をクリックし、詳細ページでさらに細かい機能特長を把握して購買を正当化して、商品を購入することができるようになっています。

ユニクロのWeb上でのブランド戦略といえば、UNICLOCKのようなグローバル・ブランディングを意識した非言語なリッチコンテンツが有名ですが、一見、普通に見える情報構造・レイアウトのECサイトにも、ユニクロブランドがしっかりと受け継がれています。このようにブランドの持つベネフィット特性とWebサイトが果たすべき役割が明確にされているからこそ、一貫したブランドイメージを顧客の心の中に築くことができるのでしょう。

情緒ベネフィット重視のWebサイト

一方、機能ベネフィットよりも、情緒ベネフィットを強く伝えるタイプのWebサイトも存在します。ここではLEXUSの新しいGSシリーズの魅力を伝えるスペシャルサイトを例にあげてみましょう。まずはこのWebサイトの意味を読み解くために、ユニクロと同様に、購買プロセスにおける各ベネフィットの重み付けの構造を推測してみました(右図)。

このスペシャルサイトでは「心、動かす力」というまさに情緒的なキャッチコピーに導かれて、美しい車体の写真がトップに表示されます。開発者インタビューのタイトルも「本能を揺さぶる魅力を」「感性に響く走りを」「存在感を放つ次世代レクサスデザイン」と徹底的に情緒に訴えかけるコピーが並んでいます。一方の機能ベネフィットに関わる情報は「New GSの魅力」というコンテンツの中に収め、ここから別サイトへ遷移させてしまっています。機能的な側面のフューチャー度は明らかに小さいです。これは、このスペシャルサイトを訪問する顧客においてはまずは情緒ベネフィットの訴求が重要であり、それこそがサイトの主な役割と定義されているからでしょう。機能ベネフィットは、購買プロセスがもっと進んだユーザに訴求すればいい、という割り切りです。

さて、このような派手なスペシャルサイトを紹介すると、情緒ベネフィットを伝えるためには写真を大きく使ってイメージ訴求をするほうがいいと捉えられがちですが、必ずしもそうでもありません。例えばサントリーの伊右衛門は情緒ベネフィットの強い商品ですが、Webサイトはイメージ訴求ばかりではありません。むしろ「茶葉へのこだわり」「製法へのこだわり」といったテキスト主体の情報もふんだんに提供されています。

一見機能ベネフィットを訴求しているように見えますが、その内容は伊右衛門が持つ情緒ベネフィットを補完する情報提供になっています。このように、情緒ベネフィットを正しく伝えるためにはビジュアルで派手に訴求すべきと単純に考えるのではなく、該当のブランド特性や訴求内容を踏まえて、適切な表現方法を考えていく必要があります。

自己表現ベネフィット重視のWebサイト

広告などで自己表現ベネフィットを伝えるには、機能ベネフィットや情緒ベネフィットを組み合わせて所有した喜びを感じさせるということになるのでしょうが、Webにおいては、他のメディアとは根本的に違う自己表現ベネフィットの活用方法があります。それがソーシャルメディアです。

ソーシャル上に乗ってくる各ユーザのつぶやきはまさに自己表現そのものであり、ここにブランドの自己表現ベネフィットをうまく乗せることができれば、ブランドを物理的に所有することなく顧客の自己表現ベネフィットを満たし、好意的なブランドイメージが広がっていくキッカケを作ることができます。

ソーシャルメディアを活用して自己表現ベネフィットを表現したサイトが、無印良品にありました。無印良品には、クセのないナチュラルなデザイン、高品質でありながらリーズナブルといった機能ベネフィット、安心、快適、信頼といった情緒ベネフィットのほかに、「MUJIが好き」「MUJIを使っている」ということをアピールしたくなるような自己表現ベネフィットが強く備わっています。これをうまく活用したのが、MUJI LIFEです。

MUJI LIFEの利用には、Facebook、Twitter、mixiのいずれかのアカウントが必要です。これらのアカウントを使ってログインすると、自分の棚が作れるようになります。ここに無印の商品を並べて、友人にシェアすることができます。How Toページには「自分らしい棚をつくって、棚を友だちに自慢しましょう。」とありますが、これこそがまさにブランドの自己表現ベネフィットと直結した機能です。今話題のゲーミフィケーション的な特性も、この自己表現ベネフィットと相乗効果となって顧客のモチベーションを高めることが予想されます。

MUJI LIFEのようなコンテンツを作るには相応のブランドパワーも予算も必要ですが、魅力的な読み物コンテンツとシェアボタンを置くだけでも、ソーシャル上での自己表現に繋げることができます。自己表現ベネフィットが強く存在するブランドは、ソーシャルメディアの有効活用を検討してみるとよいでしょう。

大事なのは、顧客に響くベネフィットを伝えること

機能ベネフィット、情緒ベネフィット、自己表現ベネフィットのそれぞれについて、具体的な事例をご紹介しましたが、大切なのは、「顧客がWebサイト上でそのブランドに何を求めているのか?」という視点です。機能ベネフィットが強いブランドであるのに、情緒ベネフィットを訴える表現のコンテンツを提供しても、顧客には何も響かないでしょう。またあるブランドが情緒ベネフィットが強いブランドであったとしても、Webサイトで顧客が求めるのが機能ベネフィットにもとづく情報提供であるならば、機能ベネフィットに力を入れたコンテンツ展開をすべきでしょう。今話題のソーシャルメディア対策も、ブランドに自己表現ベネフィットが希薄で、顧客がネット上でそのようなベネフィットを求めていないとすれば、無駄な投資になってしまうでしょう。ブランドが持っているベネフィットの特性とネット上での顧客の視点を等間隔で見定めながら、Webサイトやコンテンツの正しい方向性を検討していかなくてはなりません。