「求人媒体に多額の費用をかけているのに、欲しい人材からの応募が来ない」
「採用サイトだけでは自社の本当の魅力が伝わりきっていない」
「入社後のミスマッチが多く、定着率に課題を感じている」
このような悩みの解決策として今、大きな注目を集めているのが「採用オウンドメディア」です。
本記事では、採用オウンドメディアの基本的な定義から、なぜ今必要とされているのかという背景、具体的なメリット・デメリット、そして成功事例までを網羅的に解説します。特に、BtoB制作会社である弊社の成功事例「ベイジの日報」を深掘りし、そのノウハウもお伝えします。
この記事を読めば、採用オウンドメディアが自社にとって本当に必要なのかを判断できるだけでなく、採用活動の成功に向けた第一歩を踏み出せるはずです。
まず、「採用オウンドメディア」がどのようなものか、混同されがちな「採用サイト」との違いを明確にしながら解説します。
オウンドメディア(Owned Media)とは、企業が自社で保有し、運営するメディア全般を指します。具体的には、自社ブログやWebマガジン、広報サイトなどがこれにあたります。
媒体に広告費を払って掲載する「ペイドメディア(求人広告など)」や、SNSや口コミサイトなどの第三者から発信される「アーンドメディア(Earned Media)」とは異なり、自社の裁量で自由に情報を発信できることが最大の特徴です。
採用オウンドメディアと採用サイトは、どちらも企業が採用目的で運営するメディアですが、その目的と役割が根本的に異なります。
採用サイトの主な目的は、すでに応募を検討している「顕在層」に対して、募集要項や待遇といった必要な情報を正確に伝え、応募へとつなげることです。いわば、企業の「公式な採用パンフレット」のような役割です。
一方、採用オウンドメディアの目的は、まだ転職を具体的に考えていない「潜在層」も含めた幅広い層にアプローチし、企業のファンになってもらうことです。社員の生の声や仕事の裏側、企業文化といった「ストーリー(文脈)」が伝わるコンテンツを通して、読者との長期的な関係性の構築を目指します。応募は、あくまでその結果として生まれるものと捉えます。
求人媒体とは、Indeedやリクナビ、マイナビといった、多くの求職者が集まるプラットフォームに、広告として求人情報を掲載するものです。短期間で多くの人の目に触れる機会を作れますが、掲載できる情報量やフォーマットに制限があり、他社との差別化が難しいという側面があります。
採用オウンドメディアは、自社のプラットフォームで、伝えたい情報を、伝えたい形で、制限なく発信できます。これにより、求人媒体では伝わりきらない独自の魅力を深く訴求することが可能です。
近年、採用オウンドメディアを導入する企業が急増しています。その背景には、現代の採用市場における3つの大きな変化があります。
少子高齢化による労働人口の減少に伴い、有効求人倍率は高止まりしており、企業にとって優秀な人材の獲得競争は激化の一途をたどっています。従来の求人広告や人材紹介だけに頼る採用手法では、他社との差別化が難しくなり、応募者を集めること自体が困難になっています。
このような状況下で、企業は自ら情報発信を行い、候補者に直接アプローチできる「ダイレクトリクルーティング」の一環として、採用オウンドメディアに注目するようになりました。
近年の就職・転職市場の主役となりつつあるZ世代は、インターネットやSNSを駆使して、企業のリアルな情報を徹底的に収集する傾向があります。彼らが重視するのは、給与や待遇といった条件面だけでなく「企業理念への共感」「社風とのマッチング」「自己成長の機会」といった内面的な要素です。
採用サイトに掲載されている綺麗な情報だけでなく、社員のリアルな声や企業のありのままの姿を発信する採用オウンドメディアは、彼らの価値観に合致し、信頼を勝ち取るための有効な手段となっています。
SNSの普及により、個人が自由に情報を発信できる時代になりました。企業の内部情報も、社員や元社員によって良くも悪くも外部に伝わりやすくなっています。
企業側も、隠すのではなく、積極的に情報をオープンにすることで、透明性を示し、信頼性を高める戦略が求められます。社員一人ひとりのストーリーや、時には失敗談さえもコンテンツにすることで、人間味にあふれる魅力的な企業文化を伝え、候補者の共感を呼ぶことができるのです。
採用オウンドメディアを運営することで、企業は多くのメリットを得られます。
継続的な情報発信を通じて、「この企業で働くと、こんな面白い経験ができそうだ」「この企業の考え方が好きだ」といった共感を醸成し、企業のファンを増やすことができます。これにより「〇〇といえばこの企業」という独自のブランドイメージが確立され、指名応募の増加につながります。
今すぐの転職を考えていない潜在層に対しても、仕事に役立つノウハウや業界のトレンド情報、面白い読み物などを提供することで、接点を持つことができます。彼らが転職を考え始めたときに、第一想起される存在になることで、質の高い母集団形成が可能になります。
企業のリアルな姿、仕事のやりがいだけでなく厳しさ、社員の雰囲気などをありのままに伝えることで、候補者は入社後の働き方を具体的にイメージできます。これにより、「思っていたのと違った」という入社後のミスマッチが減り、結果として社員の定着率向上に貢献します。
採用オウンドメディアは、立ち上げや運用にコストとリソースがかかりますが、一度作成したコンテンツは企業の資産として蓄積され続けます。メディアが育てば、高額な求人広告費や人材紹介手数料をかけずとも、安定して応募が集まるようになり、中長期的にみて1人当たりの採用単価を大幅に削減できる可能性があります。
作成した記事は、採用活動だけでなく、営業資料や社内研修、広報活動など、さまざまな場面で活用できる資産となります。例えば、事業内容を深く解説した記事は、顧客への会社紹介資料としても有効です。このように、コンテンツを多角的に活用することで、企業全体の価値向上にもつながります。
採用オウンドメディアには多くのメリットがある一方で、知っておくべきデメリットも存在します。対策と合わせて理解しておきましょう。
採用オウンドメディアは、記事を公開してすぐに効果が出るものではありません。読者に認知してもらうまでには、少なくとも半年から1年以上の地道な運用が必要です。短期的な成果を求めず、中長期的な視点での投資と捉えることが重要です。
【対策】:経営層や関連部署に、中長期的な施策であることを事前に説明し、理解を得ておきましょう。短期的なKPI(応募数など)だけでなく、長期的なKPI(PV数、ファン数など)も設定し、進捗を共有することが成功の鍵です。
質の高いコンテンツを定期的に制作し続けるには、企画、取材、執筆、編集、公開、分析といった一連の作業に、専門的なスキルと多くの工数が必要です。社内にリソースがない場合、担当者の負担が大きくなり、運用が滞ってしまう可能性があります。
【対策】:専任の担当者を置くか、チームで役割分担をするなど、継続可能な運用体制を構築しましょう。社員へのインタビュー記事など、他の社員を巻き込む仕組みを作るのも有効です。リソースが不足する場合は、コンテンツ制作の一部またはすべてを外部の制作会社に委託することも検討しましょう。
オウンドメディアの主な目的はファン作りであり、必ずしもすべての記事が直接的な応募につながるわけではありません。有益な情報や面白い読み物を提供しても、それがすぐに応募ボタンのクリックに結びつくとは限らないことを理解しておく必要があります。
【対策】:各記事の役割を明確にしましょう。認知拡大を目的とする記事、興味喚起を目的とする記事、そして応募を後押しする記事(社員のキャリアパスや募集要項への導線がある記事)などを戦略的に組み合わせることが重要です。すべての記事で応募をゴールにするのではなく、まずは「もっとこの企業のことを知りたい」と思ってもらうことを目指しましょう。
採用オウンドメディアは、特に以下のような課題を持つ企業や、目標を掲げる企業にとって有効な施策です。
ここでは、採用オウンドメディアの成功事例を11つ紹介します。特に弊社が運営する、「ベイジの日報」については詳しく解説します。
BtoB領域に特化したWeb制作会社である弊社、株式会社ベイジが運営する「ベイジの日報」。発信内容の特徴や、このメディアがもたらした効果については、主に以下があげられます。
フリマアプリ「メルカリ」が運営する採用オウンドメディアです。「人」に徹底的にフォーカスし、メルカリで働く人々のストーリーを通じて、企業文化や価値観(Go Bold, All for One, Be a Pro)を伝えています。多様なバックグラウンドを持つ社員が登場することで、読者はメルカリで働くことのリアルを体感できます。
https://global.honda/jp/career
HONDAが運営する採用オウンドメディアです。社員が持つ「原動力」に触れられるコンテンツを展開しています。個人のバックグラウンドまで掘り下げることで、その社員がどんな経験をもとに、何を考え、どのように仕事に取り組んでいるかを鮮明に伝えています。
決済・金融を主軸としたプロダクト事業を行うBASE株式会社の、エンジニア採用を目的とした採用オウンドメディアです。エンジニアの開発や、組織づくりに関する情報を発信することで、エンジニア職種へのオウンドメディア経由での応募を実現しています。
株式会社ディー・エヌ・エーが運営する、「人」と「挑戦」を伝えることをテーマとした採用オウンドメディアです。コンテンツは主に「事業を知る」「技術に触れる」「働くを考える」で分類されており、求職者が関心のある領域にアクセスしやすくなっています。
ナイル株式会社が、ナイルの「今」と「挑戦」を伝えるをテーマにした採用オウンドメディアです。社員のキャリアや社内制度などを発信し、入社後の活躍イメージや、独自のカルチャーを伝えています。事業、職種、テーマ別で記事が分類されています。
https://www.cyberagent.co.jp/way
株式会社サイバーエージェントが運営する、採用オウンドメディアです。若手から、ジョブチェンジを経験した中堅まで、さまざまな社員へのインタビューが掲載されています。入社後のキャリアイメージの醸成につながるコンテンツが多いことが特徴です。
https://recruit.moneyforward.com/times_mf
「マネーフォワードで働く人が見える」をテーマとした、株式会社マネーフォワードが運営する採用オウンドメディアです。社員へのインタビューや、1日のスケジュールを紹介することで、リアルな業務のイメージを伝えています。また、リファラル採用で働いている人へのインタビューが複数掲載されていることも特徴です。
https://jp.corp-sansan.com/mimi
Sansan株式会社が運営する、人・組織・カルチャーを伝える採用オウンドメディアです。1つのテーマで複数の社員が答えるインタビュー記事があるため、読者は1度に複数の視点からの意見を知ることができます。また、記事が職種やプロダクトなどで整理されているため、知りたい情報をすぐに探せることも特徴です。
https://lightswill.com/https://lightswill.com/
「クリエイティビティ×テクノロジーで未来世界の道標を描き出す」をコンセプトに生まれた、ソニーセミコンダクタソリューションズ株式会社が発信する半導体専門メディアです。「自社の事業領域」と「求職者が持つ興味関心」を結び付けながら、半導体業界の魅力を発信しています。専門性の高い分野でありながら、コンテンツの企画力で、潜在層からの認知拡大や好意度向上を実現しています。
https://funfare.bandainamcoent.co.jp/series/spotlight
SPOTLIGHTは、バンダイナムコエンターテインメントが運営するメディア「ファンファーレ」で連載する、“いま注目される社員”にスポットを当てる連載企画です。制作現場やマーケティング、イベント運営などで活躍する社員に、自身の経験や思いを語ってもらうことで、人柄やキャリアを深く掘り下げています。『アイドルマスター』や『鉄拳』『ドラゴンボール』など、さまざまな人気IPに関わる社員へのインタビューが掲載されているのが特徴です。
最後に、これから採用オウンドメディアを始めるための具体的なステップを解説します。
自社でサーバーを契約し、WordPressなどで自由に構築する方法が最もカスタマイズ性が高くおすすめです。また、手軽に始めたい場合は「note」のようなプラットフォームを活用する方法もあります。それぞれのメリット・デメリットを比較し、自社に合ったものを選びましょう。
誰が、どのくらいの頻度で、どのような役割を担うのかを決めます。編集長、企画担当、ライター、編集者など、必要な役割を洗い出し、社内で完結させるのか、外部パートナーと協力するのかを検討します。継続できる体制を築くことが最も重要です。
STEP1で設定した目的に基づき、具体的なKPI(重要業績評価指標)を設定します。
Google Analyticsなどのツールを使って定期的に効果測定を行い、改善を繰り返していくことが成功への近道です。
採用オウンドメディアは、短期的に成果を出すための特効薬ではありません。しかし、自社の思想や文化、働く人々のリアルな姿を継続的に発信し続けることで、企業のファンを育て、採用競争を勝ち抜く力を手にすることができます。
それは、単なる採用活動にとどまらず、自社の価値を社会に投げかけ、共感する仲間を集めるための、未来への投資です。
求人媒体への出稿だけでは伝わらない、あなたの企業の本当の魅力を、採用オウンドメディアという形で発信してみませんか?まずは、自社のどんなストーリーを伝えたいか、どんな人に仲間になってほしいかを考えることから始めてみましょう。
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