給与水準で採用競合に負けていたら、どう戦うか?

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採用支援をしていると、「競合に給与水準で負けていて苦しい」という悩みは本当によく聞きます。給与水準を引き上げられるならそれが一番ですが、それができるなら誰も困っていません。「ウチは給与が低いから仕方ない」と、半ば諦めかけている会社も珍しくないのが実情です。

とはいえ、採用コミュニケーションの工夫でできることは、まだあります。株式会社ワークポートが2026年に実施した調査では、賃上げが5%以上あっても9割超が転職活動を継続する意向を示しています。転職理由の上位には「キャリア成長不足」「人間関係・社風のミスマッチ」「労働環境への不満」が並んでおり、給与が上がっても転職を続ける人が多くいることがわかります。つまり、転職先も給与に関係なく選ばれる余地は存在しているということです。

参照:【2026年春・意識調査】賃上げ5%でも「離職」止まらず 転職活動継続は9割超|株式会社ワークポート

採用競合に給与水準で負けている場合に取れる打ち手は複数あり、どれが自社に合うかは状況によって変わります。「給与が低いなら〇〇すればいい」と一概には言えません。

この記事では、給与競争への打ち手を4系統に整理した上で、自社にどれが合うかを診断するステップを解説します。給与で負けているからといって諦める前に、自社が取れる打ち手を改めて考えるきっかけにしてもらえればと思います。

4つの方向性から戦い方を考える

給与で競合他社に劣る状況への打ち手は、大きく4系統に整理できます。

ここからは、それぞれについて詳細に解説していきます。

A. 報酬の見せ方を変える

候補者が給与を比較するとき、最初に目にした数字が基準になります。その数字が初任給なら、初任給同士の比較になる。見せ方を工夫することで、比較の起点そのものを変えること。これがAの核心です。

総報酬(賞与・福利厚生含む)で語る

求人票に基本給だけを掲載していると、実態より不当に低く見えている可能性があります。賞与・住宅手当・研修費補助・副業OKなどを加えた「総報酬」で語ることで、月給の差が縮まるケースは少なくありません。

特に賞与は出しやすい情報で、それなりの実績があるなら積極的に開示すべきです。「基本給○万円+賞与実績○ヶ月分」でも、「モデル年収○○万円(○年目・○○職の場合)」でも構いません。候補者が年収をイメージできる情報を用意することが先決です。

入社後の伸びを数字で示す

1年目から高い給与を提示するのがどうしても難しいなら、比較の軸を「入社時点」から「数年後」に移すことを考えます。入社後の給与推移を時系列で示すことで、「1年目は負けているが、その後追い抜いてトータルで得をしそう」と感じてもらえる可能性が生まれます。

このとき有効なのは、抽象的な推移グラフより「入社○年目・○○職・△△の経験を積んだ社員が、□□万円から××万円に上がった」という具体的な事例です。属性・経験・成果がセットで示されると、候補者は自分と重ねやすくなります。

昇給の仕組みを言語化する

入社後に給与が上がり続けると断言できる会社は、どこにもありません。一方で、昇給の仕組みをできるだけ明確に開示すれば、「自分ならここで上げていけそうだ」という確信を候補者が持てる可能性は高まります。確信の源になるのは「何をどのように評価するか」という基準の明示です。

「成果・行動・スキルのどの軸で評価し、どのレベルに達すると等級が上がり、給与がどう変わるか」が見えると、候補者は自分の努力をシミュレーションできます。「頑張れば上がります」という言葉では、そのシミュレーションは動きません。

B. 将来の収入ポテンシャルで戦う

「今いくらか」より「5年後にどうなれるか」を判断軸にしている候補者は、目の前の給与差をそれほど大きな障壁と感じません。キャリア初期の候補者が中心ですが、現職の給与を一度リセットしてでも別の道に進もうとしているキャリアチェンジ層も同じ視点を持っています。「今の給与差を将来の成長で取り返せる」と踏んでいる人たちです。

「育ててもらって辞められたら損じゃないか」と思う方もいるかもしれません。実際、採用した人材の一部は成長後に次のキャリアへ移っていきます。しかし身も蓋もない話ですが、自社が踏み台になることをある程度割り切る、という考え方も必要です。定着する人は定着しますし、転職後に社員が良いキャリアを築けたなら、その事実を採用広報に活用することもできます。

重要なのは、転職市場のニーズや将来予想を捉えた上でロジックを組み立てることです。「この経験・スキルが市場でなぜ価値を持つのか」を外部の文脈で説明できると、候補者は自分の将来と重ねてイメージしやすくなります。

技術・スキルの習得

「提案からアフターフォローまで一気通貫で担当してスキルの幅を広げられる」「業務の中で最新の技術スタックに触れながら学べる」といった新たな技術・スキルが習得できる環境は、将来の収入ポテンシャルにつながって見えます。

もっとも、「成長できます」で終わらせては意味がありません。自社の仕事が関わる領域の市場動向・求人ニーズを把握した上で、「この分野では〇〇のニーズが強まっていくと推測されるからこそ、△△の技術を身につけておくと市場価値が高まる」といったロジックを示せると、候補者の納得感が変わります。

有益・希少な経験

「入社1年目から大きなプロジェクトのリーダーを任された」「新規事業の立ち上げを担った」といった実績は、職歴として候補者のキャリアに刻まれます。

こうした役割に就くまでのスピードが早ければ早いほど、キャリアは前倒しで積み上がっていきます。「ここでどんな役割を、どのくらいの早さで経験できるか」を具体的に語ることが、将来の収入ステージを早める可能性として候補者に伝わります。

C. ターゲットを変える

給与水準の高い経験者を取り合う競争から降りて、採用対象そのものを変えるという選択肢もあります。A・Bが「同じ候補者への伝え方を変える」打ち手だとすれば、Cは「そもそも誰を採るかを変える」打ち手です。

ただし、採用担当者だけで完結できる判断ではなく、育成・評価の設計にも影響します。表向きだけ「未経験OK」と書いて実態は即戦力を求め続けても機能しません。組織として受け入れる体制を整えた上で動く必要があります。

人材要件を緩和する

即戦力採用からポテンシャル採用・育成前提に切り替えることで、経験者市場の給与競争から降りられます。この戦い方が成功するかどうかは、入社後の育成にどれだけ投資できるかにもよります。

まず必要なのは、求人票の必須・歓迎要件を改めて見直すことです。「同業界3年以上」「同職種経験必須」と書いていると、経験者市場の争奪戦に参加し続けることになります。

一度立ち止まって、「この仕事で本当に必要なのは何か」を分解してみると、職種・業界経験そのものではなく、普遍的に必要な能力(論理的思考・コミュニケーション力・学習速度など)や、他職種・他業界からでも応用が利きやすいスキルが見えてくるはずです。それを要件の軸に据えることで、ポテンシャル層・キャリアチェンジ層を候補者として狙いやすくなります。

競合(狙う人材の業界・領域)を変える

同業・同職種の転職者の争奪戦から降りて、給与水準が相対的に低い業界・会社から採用するという発想もあります。非営利・教育・地方中小・メディアなど、業界構造的に給与が抑えられている分野には、スキルはあるが給与が見合っていない人材が一定数います。候補者にとって、自社の給与が魅力的に映る市場を探すのです。

この方向性で見落とされがちなのが、求人票・媒体・エージェントでの「見せ方」です。実態と乖離した職種名をつけるのは論外ですが、同じ仕事でも複数の呼び方が成立するケースは少なくありません。その範囲で職種名やカテゴリを変えるだけで、まったく異なる候補者層にリーチできます。

たとえば「法人営業」ではなく「カスタマーサクセス」「事業開発」として掲載すると、営業経験者の争奪戦とは別の方向性で候補者にアプローチできる可能性があります。エージェントに対しても、「どの業界・職種からのキャリアチェンジを想定しているか」を明示することで、紹介候補が変わります。

D. 給与以外の価値を打ち出す

転職市場には、給与が下がっても育児や介護との両立を優先したい人、人間関係のトラブルで疲弊してとにかく職場環境をリセットしたい人、副業や地方移住を実現できる働き方を求めている人など、お金には代えられないものを探している層が一定数います。

そういった候補者には、給与の差を正面から埋めなくても選んでもらえる可能性があります。もちろん、狙う候補者像を定めずにこの打ち手を使おうとしても漠然と「ウチはいい会社です」としか言えず、他の企業と同じになってしまいます。どんな人のどんなニーズを刺しにくかを先に決めることが前提になります。

ワークライフバランス

残業時間・有給取得率・リモートワークの可否などワークライフバランスに関わる要素は、今や給与と並ぶ判断材料です。「月平均残業10時間以下」「有給取得率85%」といった数字を採用ページに掲載するだけで、候補者の受け取り方は変わります。さらに「なぜそれが実現できているのか」まで説明できると、「建前ではない」と伝わるりやすくなります。

たとえば「業務フローを○年に見直して属人化を解消した結果、残業が半減した」といった背景があれば、数字に裏付けが生まれます。加えて有効なのが、実際に生活と両立している社員のリアルな働き方を見せることです。「育児しながらフルリモートで働いている」「副業を続けながら4年目になる」といった具体的なケースは、数字よりも候補者の生活イメージに直接届きます。

人間関係

人間関係も転職理由の一因となることが多く、求職者は非常に重視しています。しかし、「職場の人間関係が良い」ということを言葉だけで証明するのは難しいです。距離の近さや仲良し感を打ち出せばいいわけでもありません。

候補者にはそれぞれ求めている距離感・空気感があり、自社のカルチャーとマッチしていることが伝わるほうが重要です。カジュアル面談や面接で現場メンバーに会わせたり、社員インタビューをコンテンツ化したりすることで、社員の人柄を伝えましょう。職場の雰囲気をそのまま伝えるには動画も有効です。テキストや写真より場の空気が伝わりやすい分、合う候補者には刺さりやすくなります。

やりがい

「ウチには語れるような立派なやりがいはない」と感じる方もいるかもしれないですが、社会課題の解決や壮大なだけがやりがいではありません。

「罪悪感なく営業できる」「自分の声がサービスに反映されやすい」「顧客と長期で向き合える」といった小さな話でも、ハマる候補者には深く刺さります。見つけ方としては、現職にどんな不満・不足・課題感を感じている人がいるかを起点に考えると出てきやすいです。

その中で自社なら満たせるもの、自社自身も同じ課題感を持って向き合っているものが、語れるやりがいとして見えてきます。等身大の内容で十分ですです。そのほうが、キレイなビジョンより候補者に届きます。

自社の戦い方を考えるための4ステップ

実際の支援でも、「全部当てはまるように見えて、どれから手をつけていいか分からない」という声は多いです。A〜Dの打ち手は理解できても、自社にどれが合うかはすぐには見えてきません。以下の4つを順番に行うことで、勝てる軸が絞られてきます。

1.辞退・選考離脱理由の分析

最初に確認すべきは「そもそも給与が本当の負け筋なのか」という点です。採用がうまくいっていない原因を給与のせいにしてしまっていると、対策を間違えます。

辞退者へのヒアリングが難しければ、面接担当者に「最後の選考で何が争点になっていたか」を確認するだけでも傾向が見えます。「給与が理由」なのか、「会社の将来性や雰囲気への不安」なのか、「他社の選考が先に進んだだけ」なのかを切り分けることが先決です。

給与が明確に負け筋であれば次のステップへ。給与以外の要因が大きいなら、そちらの対策が優先します。

2.報酬・評価制度の精査

給与が問題だと分かったら、次は自社の報酬実態の棚卸しです。候補者に伝えられるはずの情報が整理されていない会社は、想像以上に多く見られます。

確認すべき主な項目は以下です。

  • 過去3〜5年の昇給実績(職種・等級別)
  • 賞与の支給実績(平均・最高・最低)
  • 住宅手当・通勤手当・研修費補助などの福利厚生
  • 昇格の条件と平均的な年数

整理してみると、基本給では負けていても総報酬では差が縮まるケースが見つかることがあります。昇給の仕組みが曖昧なまま運用されていると分かれば、この機会に言語化するのも一手です。A(報酬の見せ方を変える)の素材が出そろうだけでなく、現社員の定着にも効いてきます。

3.採用競合の調査

自社の実態が把握できたら、次は競合が何を打ち出しているかを調べます。採用競合は事業競合と一致しないことも多く、「同じ候補者を取り合っている会社」という視点で設定するのがポイントです。

競合の採用サイト・求人票を見て、「どんな人材要件で、何を訴求しているか」を整理します。やってみると分かりますが、多くの場合、各社が「成長できる」「やりがいがある」「チームが良い」という同じ軸で訴求しています。

その中で誰も強く打ち出していない軸や、自社が実態として勝っている軸が、差別化のポイントになります。競合が即戦力の経験者採用に集中しているなら、C(ターゲットを変える)の方向性が見えてくることもあるでしょう。

4.社員ヒアリング・アンケート

最後が、最も独自性の高い情報源です。実際に入社した社員に、入社時の意思決定を振り返ってもらいます。

有効な方法のひとつは、「入社時に自社のほうが優れていたと感じた点」と「他社のほうが優れていたと感じた点」の両方を聞くことです。他社が優れていた点には挙がらず、自社が優れていた点に多く挙がった内容は、給与に代わる自社の武器になる可能性が高いでしょう。

C(ターゲットを変える)の観点からは、どんな業界・会社と迷っていたかを把握することで、自社の給与が相対的に魅力的に映りやすい競合像が見えてくることもあります。

具体的な質問例:

  • 「最終的にウチを選んだ決め手は何でしたか?」
  • 「他社と迷った場面はありましたか?そのときの判断軸は?」
  • 「どんな会社・業界と比較しましたか?」
  • 「他社と比べて、ウチが劣っていると感じた点は?」
  • 「入社前に期待していたこととのギャップはありましたか?」
  • 「転職を考えたことはありますか?そのとき、なぜとどまりましたか?」

採用支援の現場でこれをやってみると、「候補者には見えておらず、社員には当たり前になっている自社の魅力」が、想像以上に多く出てきます。

入社後のギャップを聞くことも有効です。「社員には伝わっているが、応募・選考段階では候補者に伝わっていないこと」を抽出できれば、発信すべき情報が見えてきます。

給与競争に頼らない戦い方を考える

給与で競合他社に勝てない状況は、一朝一夕には変えられません。とはいえ、「どこで負けているか」を正確に把握し、「どこなら戦えるか」を見定めることで、採用の打ち手は変わります。

Step 1〜4で得た情報をもとにA〜Dの打ち手を1〜2本に絞り、候補者へのメッセージとターゲットを設計する。その積み重ねが、給与競争に頼らない採用の土台になります。

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