求人票原稿の作成に必要な視点

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きっかけは、一枚の求人票

とある商談で、先方が現在、大手転職ナビ媒体に出稿している求人票の原稿を見せてもらう機会がありました。率直に言うと、訴求内容が薄く、「これに共感して応募する人はどんな人だろう」「この原稿でどんな人を採りたいのか」が読み取りにくい内容でした。

ただ、私はこの原稿を見て「なぜこうなるのか」という構造的な背景が、すぐに腑に落ちました。実はかつて私自身、大手転職ナビ媒体の制作部門に7年間在籍し、まさにこうした原稿が生まれる現場の内側にいたからです。

「御用聞き原稿」が生まれる構造

転職ナビ媒体での求人制作には、独特の力学が働いています。

私が関わってきた大手転職ナビ媒体では、ここ数年で媒体パワーが大きく低下し、薄利多売の悪循環に陥っているところがありました。そんな中で1掲載あたり数十〜百万円程度の費用がかかるため、営業担当者は「まず応募数を集めましょう」という提案をしがちではないでしょうか。

応募数という可視化しやすい指標を優先することで、クライアントへの説明責任を果たしやすくなる。一方で原稿の質や訴求内容に深く踏み込んだ提案は、効果検証が難しく、結果への責任の所在も曖昧になりがちです。こうした構造の中では、担当者個人の意欲や力量にかかわらず、自然と「まず件数を」という方向に向かいやすくなります。

これは外から見た分析ではなく、私が現場で何度も目にしてきた光景です。営業担当者がクライアントと向き合う打ち合わせの場で、原稿の中身よりも「掲載期間中にどれだけ件数を稼ぐか」という話に終始するケースを、数えきれないほど見てきました。

制作担当者側にも似た意識が根付いていきます。「結局は職種・エリア・月収という検索軸で反響が決まる」という経験則が積み重なると、原稿の中身で改善を図るという発想や意欲が少しずつ薄れていく。私自身、その空気に引っ張られそうになったことが何度かありました。気づけば、クライアントの要望をそのまま形にする「御用聞き」体質が定着してしまいます。

もちろん、そうした状況でも誠実に改善提案を続けるベテランの担当者も一定数います。ただ、大多数が構造的に御用聞き的になってしまう事も否定はできないと考えています。

こうした現場の実態の中から、冒頭のような原稿が生まれてくるのです。

本当の問題は、原稿の質だけではない

ただし、ここで立ち止まって考えたいことがあります。

「Who(誰に届けるか)」と「What(何を伝えるか)」の掘り下げが不十分なのは確かです。しかしそれ以上に、私たち制作側が無意識に自分たちの価値観やキャリア観を前提にしてしまっていないか、という問いが重要です。

派遣という働き方を例にとると、以下のようなデメリットを直観的に感じる人も多いかもしれません。

  • 案件が変わるたびに積み上げたノウハウがリセットされる
  • キャリアの見通しが立てにくい
  • 実際に働く職場環境を紹介されても、実感が湧きにくい
  • 裁量が小さく見える

こうした印象は、ある種のキャリア観を持つ人には自然な反応でしょう。

しかし実際には、この働き方を自分なりに納得して選んでいる人たちが確かにいるのです。

「ブラック企業でも、納得して働いている人がいるなら価値を言葉にしろ」

採用の仕事を始めたころ、ある上司からこんな言葉をかけられました。

当時、外から見れば決して働きやすいとは言えない環境の企業を担当していました。それでも当時の上司は「そこで納得して働いている人がいるなら、その価値を言葉にするのが仕事だ」と言いました。

制作の現場にいると、この言葉の重さを実感する場面が何度もありました。求人票を書く側の人間が「こんな会社に入りたいと思う人がいるんだろうか」という先入観を持った瞬間、原稿は途端に薄くなります。逆に、その会社で働くことに本気で価値を見出そうとした時、初めて候補者の心に届く言葉が生まれてくる。それは頭でわかっていても、実践し続けることの難しいことでした。

これは、劣悪な環境を美化しろということではありません。現実(FACT)に正面から向き合い、そこにある価値を誠実に言語化するということです。

人が働く目的は多様です。仕事にすべてをかける人もいれば、生活の安定を最優先にしている人も、今いる環境を少しでも良くしたいと考えている人もいます。どんな価値観の人に、どんなメッセージが刺さるのか——それはケースバイケースです。

採用コンテンツに関わる人へ

採用領域の仕事で大切なのは、自分のキャリア観の外側にある多様な価値観を、どれだけ想像し、知っているかだと思います。

7年間の制作現場で痛感したのは、書き手自身の価値観の幅が、そのまま原稿の幅になるということです。洗練されたメッセージや意識の高いキャリア感をもった候補者だけを想定していると、見えなくなる層がいます。「内容のない求人票」を笑うのは簡単ですが、その原稿が届けようとしている人たちの存在と、その人たちにとっての価値を考えることのほうが、ずっと本質的な仕事だと感じています。

今回の商談は、改めてその原点に立ち返るきっかけになりました。

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