
職種によって採用の仕方が変わることは、ほとんどの採用担当者が理解していると思います。エンジニアと営業では候補者の動き方も判断軸も違う。それ自体は、現場にいれば体感で分かることでしょう。
しかし、具体的に何がどう違うのか、どのように分けて考えたらいいのかとなると、深く突き詰められていないケースも多いのではないでしょうか。結果として、各職種の採用戦略はその職種の現場に任せる形になってしまっている、という企業も少なくありません。
採用担当が職種ごとの違いを構造的に理解し、コントロールできていないと、採用の成否は現場の能力や意欲次第になり、職種ごとのバラつきが大きくなります。実際に弊社が採用を支援してきたお客様も、全職種の採用状況が等しく良い/悪いということはそうそうなく、「この職種はまだ良いが、この職種は厳しい」といったケースが多いです。職種ごとに採用状況の差が生まれている原因が見えないと、対策も打てません。
この記事では、そもそも職種によって採用のどういった部分に違いが出るのかという話から、実際にどう切り分けて、各職種でどのように違いを意識すべきかまでを整理します。
職種別に戦略を設計する出発点は、その職種の市場がどうなっているか、そしてその市場の中で自社がどこにいるかを把握することです。前者はどの企業から見ても共通する市場側の特性、後者は同じ市場の中でも企業によって異なる自社の立ち位置です。それぞれ確認すべきポイントを整理します。
希少性は、戦略の力点をどこに置くべきかに影響する要素です。
たとえば、dodaの転職求人倍率レポート(2026年2月)を見ると、「エンジニア(IT・通信)」は11.11倍、「事務・アシスタント」は0.53倍と、職種によって想像以上に大きな需給バランスの差があることがわかります。
希少性が低い職種であれば、メッセージングやチャネルの最適化で成果につながることも多いでしょう。一方、希少性が極めて高い職種では、コミュニケーションの改善だけでは構造的に限界がある場合があります。報酬水準の見直し、ターゲットの再定義、あるいは「そもそもこのポジションを外部から採るべきか」まで遡らなければならないこともあるでしょう。
同じ職能の中でも、希少性の差はあります。レバテックの調査では、IT人材の転職求人倍率(2025年12月時点)が10.4倍なのに対して、セキュリティ関連の求人倍率は42.6倍となっています。同じエンジニアでも、「エンジニア採用戦略」として一本で設計してしまうと、上手くいかない場合もあるということです。目的や重要度に応じて、より細かい粒度で希少性の差を見ていくことも考えましょう。
参照:転職求人倍率レポート(2026年2月)|doda
参照:サイバー攻撃激化でセキュリティ人材の需給逼迫が加速 求人倍率は42倍超えに|レバテック
行動特性とは、候補者が転職市場に出てくる頻度、情報収集の方法、意思決定プロセスの進め方までを含む一連の行動パターンです。
たとえば、同じ転職意欲の高い候補者であっても、情報収集の仕方は職種によって異なります。エンジニアの中には技術コミュニティや企業のテックブログを自分で巡回して情報を集める層がいる一方、エージェント経由や転職サイトを主に使う層もいます。
マーケターであれば、SNSや業界の勉強会・イベント経由で企業を知ることもあります。こうした行動パターンの違いは、ダイレクトソーシングの有効性やコンテンツマーケティングへの投資判断を左右します。
実際に、弊社が過去に法人営業とITエンジニアそれぞれに実施したアンケート調査では、「転職先を検討する際に参照する情報」として、ITエンジニアでは「企業の技術ブログ」がトップ5に食い込んでいました。
行動特性には流動性も含まれます。流動性が高い職種は顕在層が常にいるため媒体掲載が機能しやすく、低い職種では潜在層への長期的なアプローチやリファラルが主軸になります。この違いが、チャネルの設計に大きく影響します。
参照:【2025年版】法人営業の転職実態調査 | 採用マーケティングの教科書
参照:エンジニアの転職実態調査(2025年版) | 採用マーケティングの教科書
採用競合として、事業上の競合だけを想定していないでしょうか。たしかに、事業競合がそのまま採用競合になる職種もあります。しかし、職種によっては事業競合とはまったく別の相手と人材を奪い合っていることもあります。
たとえば経理を採用する際の競合は、同業他社よりもBPO会社や会計事務所かもしれません。営業やエンジニアなど、業界を越えて広く競合が存在する場合も多いです。実際、弊社も採用支援の中で社員の方にアンケートを取って「転職時の他の検討先」を聞いてみると、採用担当の方が認識していなかった競合企業が浮かび上がることは、よくあります。こうした、事業競合とは異なる職種固有の採用競合が、見落とされていることは少なくありません。
競合が誰かによって、差別化すべき軸も変わります。「採用競合はどこか」を、事業競合とは切り離して職種ごとに考えることで、メッセージングの方向性が見えてきます。
転職(就職)時に候補者が重視するものも、職種によって傾向が異なります。
給与やインセンティブの優先度が高い職種もあれば、ワークライフバランスや働き方の柔軟性を重視する職種もあります。仕事内容の面白さや成長機会を求める職種もあるでしょう。その傾向を踏まえずに全職種に同じ訴求をしてしまうと、一部の職種には響くが別の職種にはまったく刺さらない、ということが起きます。
たとえば、「裁量が大きい」「若手でも挑戦できる」という訴求は、営業や企画職には響くかもしれませんが、経理や法務のように正確性や安定運用が求められる職種にとっては、「仕組みが整っていない」という不安に聞こえる可能性があります。
「風通しの良い社風」という訴求も全職種向けに使われがちですが、エンジニアが気にしているのは社風よりも技術的な意思決定の進め方だったりします。このように、同じ言葉でも職種によって受け取り方が変わるため、職種ごとの動機の傾向を踏まえた訴求設計が必要です。
一般的には有名な企業であっても、技術的なイメージがなく、エンジニアからは転職先の候補として認識されていないということはよくあります。逆に、世間的な知名度はないBtoB企業でも、業界内での評判が高く、特定の職種の中では人気の転職先になっているということもあります。
手前味噌ながら、弊社ベイジも一般的な知名度は高くありませんが、Web制作の業界内では一定の認知があり、媒体やエージェントに頼らない直接応募を一定数獲得できています。
重要なのは自社の世間的な知名度ではなく、その職種のコミュニティの中で自社がどう認識されているかです。
まずはコミュニティ内での交流や情報発信を通じて転職先として認知されることから始めなければならないのか、それともすでに認知はされている中で、より人気の企業と比較されたときに選ばれるための戦略を描かなければならないのか。認知・評判の状態次第で、考えるべきことが変わってきます。
自社が候補者に提供できる価値も、職種によって異なります。同じ企業の中でも、ある職種では給与水準が市場より高いが、別の職種ではそうでもないというケースはよくあるでしょう。ワークライフバランスも、職種によって実態が違うことがあります。その職種ならではのやりがいや成長機会も、職種によって打ち出せるものが変わります。
たとえば営業職に対しては「業界トップクラスのシェアを持つ商材を扱える」という強い訴求ができる企業でも、バックオフィスに対してはそれは響かず、むしろ「少人数で幅広い業務を経験できる」ことの方が価値になるかもしれません。
こうした職種ごとの提供価値を個別に棚卸しすることが重要です。それをしないまま全社共通のメッセージだけで採用を進めると、「成長できる環境」「裁量が大きい」のような、どの企業も言っている浅い訴求しかできなくなります。
その職種で自社が本当に強いと言える部分は何か。それは報酬なのか、仕事の面白さなのか、働き方なのか、キャリアへのインパクトなのか。職種ごとに提供価値を棚卸しし、それを言語化する作業が、職種別の採用戦略の土台になります。
選考プロセスにおける候補者体験の質は、職種間で差が出やすい領域です。その理由は大きく2つあります。
1つは、現場社員の関与に依存する部分が大きいことです。多くの企業では、選考プロセスを採用担当だけで完結させることは難しく、該当職種の現場社員の協力が不可欠です。そのため、候補者体験の質は現場の採用への協力度やリソース、選考への理解度に左右されます。全社として採用オペレーションを整備しているつもりでも、特定の職種だけ歩留まりが悪化するということは、現場側の体制に起因している可能性があります。
もう1つは、選考で必要な内容や見極めの難易度が職種によって異なることです。たとえばエンジニア採用ではスキルテストが必要になることがありますし、デザイナーであればポートフォリオレビューの工程が加わります。適切な選考期間や候補者への対応の仕方も職種によって変わるため、候補者体験の設計は全社共通のフローだけでなく、職種ごとにも考慮するのが望ましいでしょう。
職種ごとの採用の優先度づけは、どの企業でも無意識的にはやっていると思います。ただ、それを意識的に言語化しておくことには意味があります。事業戦略上のインパクト、欠員の影響度、採用難易度などを踏まえて、どの職種に優先的にリソースを投下するかを明確にしておくことで、後続の判断がスムーズになります。
限られた予算とリソースの中で採用の成果を出すには、まんべんなく広く配分するよりも、優先度の高い職種に集中的に投下した方が、短期で結果につながることもあります。結果的に、成果の出ない施策にコストをかけ続けることを避けられるかもしれません。優先度の低い職種は、気長に待つ・効率的に回すと割り切ることも、全体の採用成果を最大化する上では合理的な判断です。
市場構造と自社の立ち位置の把握ができたとして、すべてのポジションに対して個別に戦略を立てるのは現実的ではありません。ある程度の粒度で職種をグルーピングし、共通化できる部分と個別に検討すべき部分を切り分ける必要があります。
実際に弊社が採用サイトの制作を支援する際も、求人数が数十~百を超える企業の場合は、どのように職種をグルーピングして優先順位をつけていくか、という議論を必ず行います。
たとえば採用サイトの場合、掲載する情報には職種間で共通する部分も多く、細かな職種ごとに個別のコンテンツを用意するのは手間として現実的ではありません。「エンジニア向け」「営業向け」といった職能レベルの括りで共通化するのが自然でしょう。
一方、採用サイトの中でも募集要項(求人票)のページについては、細かなポジションレベルまで細分化させる必要があります。転職サイトやエージェントに出す求人票も同様です。ただし、それらについても、各ポジションごとに完全に個別の戦略を立てるというよりは、ある程度まとめて動くのが現実的です。
つまり、大きな括りから細かい括りまで、いくつかの粒度でグルーピングをしておき、戦略の目的に応じて使い分けるのが実践的です。どこまで共通化できて、どこから個別に検討する必要があるのか。そして、個別に検討するリソースをかけることが可能なのか。その観点で粒度を判断していくことになります。
実際の手順としては、まず自社が採用している(または採用予定の)ポジションを最小単位ですべて洗い出します。その上で、大きな括りから順にグルーピングしていきます。
大分類は、求人媒体のカテゴリ分類や自社の組織図・部門構成を参照するのが手軽です。重要なのは、候補者が自分をどのカテゴリに属すると認識しているかに合わせることです。自社独自の分類を一から作る必要はありません。
中分類は、大分類の中で市場構造が大きく異なるサブグループがあるかどうかで判断します。希少性、行動特性、競合、候補者の判断軸が判断材料になります。たとえば同じ「営業」でも、新規開拓のフィールドセールスと既存顧客のルートセールスでは候補者の行動パターンや動機が異なるので、分けた方がいいでしょう。迷ったら「同じチャネル・同じメッセージで採れるか」を基準にすると判断しやすくなります。
その上で、優先度の高い職種は中分類をさらに細かく、それ以外は括ったまま、という形で粒度に傾斜をつけます。全職種を同じ解像度で定義しなくても問題ないです。
なお、グルーピングは完全なMECEである必要はありません。境界が曖昧な職種や、複数のグループにまたがるポジションもあるでしょう。完璧な分類に捕らわれるよりも、まずは粗くても動き出せる状態にすることの方が重要です。運用しながら必要に応じて見直していけば十分です。
グルーピングができたら、優先度の高い職種から戦略設計に入ります。ただし、全ステップを全職種で個別に検討する必要はありません。採用サイトの全体的な訴求や選考フローの大枠など、全社共通で問題ない部分もあります。「ここは共通でいい、ここは個別に考える」という線引き自体が、職種別戦略の設計の一部です。
具体的な戦略の内容は職種それぞれで異なるため、以下では各ステップにおける職種差の出やすいポイント、意識すべき観点、グルーピング粒度の目安を参考として整理します。
ターゲットは、基本的に中分類以下の粒度で検討します。転職媒体やエージェントの求人など、目的によっては、より細かく分けて考えます。特に職種別で意識したいのは、希少性と転職の判断軸です。
たとえば希少性が高い職種では、ターゲットを広げる(未経験者やキャリアチェンジ層を含める)判断が必要になることがあります。重要な判断軸がいくつも考えられる場合は、一つの職種の中でも複数のターゲットを設定しないと、メッセージングやチャネルを上手く設計できないこともあります。
全社で共通して求めたい人物像とは別に、各職種における人材要件と、その人材が何を求めていてどのように行動しているのかを、改めて整理しましょう。
メッセージングは、施策によって検討すべき職種の粒度が変わります。採用サイトなどにおける訴求は大~中分類レベルで設計できますが、求人原稿においては細かくポジション単位での調整が必要です。
転職の判断軸、提供価値、競合、認知・評判など、かなり多くの要素が職種によって変わります。候補者が何を重視しているか(判断軸)、自社がその職種で何を出せるか(提供価値)、誰と候補者を奪い合っているのか(競合)、そしてそもそも自社が転職先として認識されているか(認知・評判)。競合が誰か、これらを職種ごとに掛け合わせて何を訴求すべきか考えます。
特に注意したいのが、その職種の「文脈」に乗れているかです。専門用語の使い方や業務内容の解像度が浅いと、その職種の候補者にはすぐ見抜かれます。求人原稿や採用コンテンツを現場メンバーにレビューしてもらい、この書き方で候補者に「この会社は分かっている」と思ってもらえるかを確認しましょう。
チャネル選定は、大分類レベルで検討してもよいですが、転職活動における行動の仕方が異なりそうな職種があれば、切り出して考えましょう。職種ごとの違いとしては、行動特性、希少性、競合の3つが特に重要になります。
その職種の候補者が顕在層中心なのか潜在層中心なのかによって、媒体掲載とダイレクトソーシングの投資比率が変わります。希少性が高い職種では媒体掲載だけでは応募が集まらない可能性がありますし、競合がどのチャネルに集中しているかを踏まえて、あえて競合の少ないチャネルを選ぶという判断もあります。
よくある失敗は、ある職種での成功体験をそのまま別の職種に横展開することです。媒体やエージェントにはそれぞれ得意な職種領域があります。まずは媒体やエージェントに職種別の登録者数や紹介実績を確認し、自社データでチャネル別の実績を職種ごとに振り返ることから始めましょう。
選考設計は、評価観点の切り分けやクロージングの設計など、中分類以下の粒度で個別に検討する必要があります。職種ごとの違いとしては、希少性、候補者体験、提供価値が深く関わります。
希少性が高く競合が強い職種では、選考スピードが競争力に直結します。候補者体験に課題がある職種では、現場と連携して体制を整備することを優先したほうがよいかもしれません。クロージングにおいては、その職種の候補者が最も気にしていること(判断軸)と、自社が最も強く応えられるポイント(提供価値)のマッチングが重要です。
全職種共通の選考フローや面接シートで運用している場合、それが職種の特性に合っているかを確認しましょう。職種ごとに評価観点を切り分け、選考で確認すべきポイントを明文化することから始めるのが有効です。
職種によって何が違うのかを構造的に理解し、採用担当がコントロールできる状態にすること。それが、職種ごとの採用成果のバラつきを減らし、組織としての採用力を底上げすることにつながります。
「Aさんはエンジニア採用に詳しい」「営業のことはBさんに聞いて」。そうした属人化は、現場の担当者が優秀で協力的なうちは回りますが、その人が異動や退職をした途端に振り出しに戻ります。職種別の採用知見を個人の経験知にとどめず、組織のナレッジとして残しておくことには、人事組織としての耐久性の観点からも大きな意味があります。
全職種を一度にカバーする必要はありません。まずは重点職種を1〜2つ選んで、この記事で挙げたような全社共通の内容と区別して考えるべき点を洗い出してみましょう。その過程で「この職種はここが手薄だった」「ここに強みがあった」という発見が出てきます。
「この職種は何を重点的に考えるべきか?」を問い続け、その判断根拠を言語化していくこと。その積み重ねが、職種ごとの採用戦略を現場任せから、採用担当が主導できる仕組みへと変えていきます。
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