
採用戦略のコンサルをするときに必ず聞くのが、採用上の競合に関する質問です。採用活動を積極的に行っている企業ほど、いわゆる事業上の「同業他社」を上げるケースは少ないように思います。一方で、真っ先に同業他社を挙げる企業も存在します。
事業上のライバルがそのまま採用のライバルだと考えるのは、ごく自然な発想です。ただ、この認識のまま採用活動をしてしまうと、求職者の心理や行動を読み違え、せっかくの投資が空振りに終わることにもなりかねません。
当社には、社員インタビューで数百人、社内アンケートでも数千人規模のデータが集まっていますが、これを見てみても、同業他社ではなくまったく別の業種と迷っていたケースが明らかに多いです。こうしたインタビューやアンケートをしてみて初めて、「採用競合が思ってた企業と違う(あるいは割合が違う)」と気付く採用担当者や現場担当者もいます。
社内にいると、事業の競合と採用の競合を無意識に混同するというバイアスが働きます。特に採用の全体像をつかんでいる採用担当と違い、面接などを担当する現場担当者において、この傾向は顕著に現れます。
ビジネスの競合はたしかに同業他社ですが、採用における競合とは「同じ求職者を求めあう相手」です。この2つは本来別物ですが、事業に深く向き合うほど、この固定観念に流されがちです。
ではどうやって採用競合を捉えればいいのか。私がよく整理に使っているのは、以下の5つの視点です。
IT、飲食、金融、製造業といった、いわゆる業界の軸です。多くの企業が競合と言ったときに真っ先に思い浮かべるのはここですが、先に述べたよう、ここだけが採用競合というケースは少ないです。
事業会社か支援会社か、BtoCかBtoBか、といった違い。同じIT業界でも、自社サービスを運営している事業会社と、受託開発の支援会社では、求職者が感じる魅力の種類がまったく違います。ここを混ぜて考えると、求職者へのアトラクトポイントがブレてきます。
求職者が今と同じ職種で転職したいのか、それとも職種を変えたいのか、など。ジョブ型採用が一般化してる現在、同じ職種で募集をかけている企業と競合する、というケースは非常に多いです。
安定堅実、ベンチャー気質、外資系、ゾス系など、社風の軸です。特にキャリアが浅い若い求職者は、他の項目よりもこちらの方が重要な選択基準になっていることも少なくありません。
自宅からの距離、勤務地、リモートワークの可否、給与水準、福利厚生。いわゆる労働条件面です。求職者は勤務条件で仕事を選ぶ性質が強いのに、カルチャーを訴求しても、当然採用競合よりも選ばれる確率は上がりにくいでしょう。
ポイントは、この5つを単独で見るのではなく、組み合わせで考えることです。
たとえば、地方の中堅メーカーが若手の営業を採るときに、ペルソナを「地元で働きたい20代の営業」と置いたとすると、「職種=営業職」「勤務条件=地元勤務」という2軸の組み合わせが中心になり、その軸での採用競合対策が重要になってきます。
この場合の競合は、同じ地方のメーカー企業だけではありません。地元の公務員、地元のインフラ企業、地元の地方工場、さらには東京本社だが地方を開拓したいIT企業も競合になるかもしれません。
こうした、自社にとってのリアルな採用競合をどうやって特定するか?の一番の近道は、過去の内定辞退者に話を聞くことですが、それに近いのが社内にいる社員です。なぜなら彼らは最近まで求職者だったからです。
最終的なオファーで、「最終的にどこと迷ったか」「その会社のどこに惹かれたか」、この2つを聞くだけで、自社が本当に戦っている相手がクリアになります。
「やっぱり地元の企業に決めました」「フルリモートの会社にしました」「大手のブランドが決め手でした」、内定承諾理由のパターンの中から、真の採用競合が浮き彫りになってきます。
競合を正しく定義できると、採用活動、特に採用サイトや求人広告などで何を訴えるべきかが自然と決まってきます。事業上の同業他社との横並び比較ではなく、求職者が本当に迷っている選択肢に対して、どこまで具体化し、どこまでを抽象化して伝えるか、そのバランスが見えてきます。
採用競合の再定義は、採用戦略の出発点です。ここがズレたまま走り出すと、どれだけコンテンツを積み上げても手応えのない採用活動になってしまいます。上記の5つの視点で自社の競合を棚卸ししてみると、今まで見えていなかった景色が見えてくるかもしれません。
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