採用メッセージは候補者の「葛藤」を狙え

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希望にも不安にも応えているのに、なぜか平凡になる

採用のメッセージを考えるとき、多くの方が候補者のペルソナを設計しているかと思います。この候補者はどんな仕事をしたいのか、何を求め、何を嫌がっているのか。そうした希望と不安を丁寧に洗い出し、そこに応える言葉を用意していく。ここまでは、採用活動に慣れた方なら自然にやっていることでしょう。

ところが、いざ出てきたメッセージを眺めてみると、どうにも平凡に感じることがあります。「成長できます」「風通しのいい職場です」「裁量があります」。間違ったことは言っていないのに、同じことは他社もきっと言える。候補者の希望にはちゃんと応えているはずなのに、自社ならではの優位性が、どうしても見えてこない。

この行き詰まりは、ペルソナ設計をサボった結果ではありません。むしろ、希望と不安をきちんと拾えている人ほどぶつかりやすい壁だと、私は考えています。本記事では、その壁を越えるための視点として、候補者が抱える「葛藤」に目を向けるという考え方を紹介します。

希望と不安に、別々で応えていないか

平凡なメッセージしか出てこないとき、その原因は候補者心理の捉え方にあるのではないかと思います。

ペルソナを考えるとき、候補者の希望・欲求(ゲイン)と、不安・不満(ペイン)を、それぞれ別々に書き出していないでしょうか。「成長したい」「年収を上げたい」といった希望。「残業が多いのは嫌だ」「放置されたくない」といった不安。これらを並べたうえで、ひとつずつ応える言葉を考えていく。

この進め方は丁寧ですが、落とし穴があります。求めることだけに応えれば「成長できます」になり、避けたいことだけに応えれば「働きやすいです」になる。どちらも、単体で応えると誰でも言える言葉に着地してしまいやすいのです。

しかし候補者の頭の中では、求めることと避けたいことが、綺麗に分かれて並んでいるわけではありません。多くの場合、その二つは結びついて、一人の中で同時に存在しています。そこにこそ、平凡を抜け出す手がかりがあると考えています。

本音は「したいけど、嫌だ」の中にある

求めることと避けたいことが結びつくと、「〇〇したいけど、△△は嫌だ」という形の葛藤が生まれます。

わかりやすいように、少し極端な例から考えてみます。「できるだけ稼ぎたい」という候補者がいたとして、これに「稼げます」と応える。これだけでは差別化になりません。年収の高い会社はいくらでもあるからです。

ところが「稼ぎたい」の裏には、しばしば「とはいえ、ハードに働き詰めになるのは避けたい」という気持ちが隠れています。「稼ぎたい、でもハードな環境は嫌だ」。一見すると矛盾したこの本音は、「稼ぐ=ハード」という固定観念から生まれていて、候補者自身も二つが両立しにくいことに薄々気づいています。だからこそ、口に出しにくい葛藤として抱え込むことになります。

この「〇〇したいけど、△△は嫌だ」という葛藤に着目する視点は、私独自のものではありません。クリエイティブディレクターの細田高広さんの書籍『コンセプトの教科書』(ダイヤモンド社、2023年)でも、「人の本音は矛盾した感情がぶつかる葛藤の中にある」と書かれています。

同書では、調理キットを提供するオイシックスを例に、「手間はかけたくない、でも手抜きはしたくない」という相反する心理を捉えたことが支持につながった、と説明されていました。ターゲットの本音が葛藤の中にあるという構造は、マーケティングでも採用でも変わらないのだと思います。

では、その葛藤に応えると、どうなるか。「うちは稼げます。しかも、人を疲弊させるほどハードな働かせ方はしていません」と、根拠とともに伝えられたとします。すると、ただ「稼げます」と言う会社よりも、候補者の本音に深く届くはずです。狙うべきは、希望と不安それぞれ単体だけでなく、その二つがぶつかる葛藤そのものだと私は考えています。

葛藤に応えると、打ち出しが変わる

葛藤は、先ほど例に挙げた報酬に限った話ではありません。職種や事業の特性に応じて、さまざまな形で現れます。いくつか他の例も挙げてみます。

「裁量を持って早く成長したい。でも、何も整っていない環境に放り込まれるのは不安だ」

ベンチャーによくある「裁量があります」という魅力に惹かれつつ、放置されることを恐れる候補者です。ここには「裁量は大きいが、立ち上がりはしっかり伴走する」と、その仕組みを示すことで応えられます。

「チームで動く一体感は欲しい。でも、同調圧力に飲み込まれるのは嫌だ」

「仲のいい職場」を掲げる会社に惹かれつつ、距離の近さを重く感じる候補者もいます。「つながりはあるが、個人の領域は尊重される」と伝えられると刺さるでしょう。

「社会的に意義のある仕事がしたい。でも、待遇が犠牲になるのは困る」

社会的な意義を打ち出す事業に惹かれながら、ボランティア的なイメージで迷う候補者です。「意義のある事業でありつつ、ビジネスとして成立していて待遇も出せる」と言えるなら、その葛藤に応えられます。

「一つの専門分野を極めたい。でも、それしかできない人になるのは怖い」

特化のポジションに惹かれつつ、つぶしが効かなくなる不安を抱える候補者には、「専門性を高めながら、隣接する領域にも広げられる」という道を見せられると良いでしょう。

どの例も、求めることと避けたいことを単体で拾っていたら出てこない打ち出しです。葛藤を起点にすると、メッセージの解像度が一段上がります

狙うのは「完全な独自性」ではなく「言える会社が少ないこと」

ここまで読んで、「そんな都合よく、他社が言えないことなんて見つからない」と思われたかもしれません。それはもっともな反応です。

正直に言えば、完全に独自で、他のどの会社にも言えないことを持っている企業のほうが、世の中には少ないと思います。そこを本気で求め始めると、いつまでも打ち出しが決まらない沼にはまってしまう。だから私は、完全な独自性を探すのではなく、「他社も言えなくはないかもしれないが、これを胸を張って言える会社は少ない」という一歩の優位を積み上げるほうへ、考え方をずらすことをおすすめしています。

そして葛藤に目を向けることは、この「一歩の優位」に届きやすくする方法でもあります。「稼げます」と言える会社はいくらでもありますが、「稼げて、しかもハードすぎない」を根拠つきで言える会社は、ぐっと減ります。葛藤に応えようとするほど、自然と他社が並びにくい場所に立てるのです。

葛藤に応えるなら、根拠が欠かせない

ただし、葛藤を狙ってメッセージを出すには大きな条件があります。一見矛盾することを「両立できます」と言う以上、その根拠を示せなければ、ただの調子のいい売り文句になってしまうという点です。

「稼げてハードすぎない」と言うなら、なぜそれが可能なのかを説明できなければなりません。利益率の高い事業だから少人数でも稼げる、業務の進め方が仕組み化されているから長時間労働に頼らない、といった裏づけです。根拠のない両立アピールは、候補者にとってはむしろ警戒の対象になります。矛盾を解いてみせるからこそ、その解き方に説得力が要る。葛藤を狙うことと、根拠を用意することは、セットで考える必要があります。

葛藤を見つけるための着眼点

最後に、自社の候補者が抱える葛藤をどう見つけるか、手がかりになりそうな着眼点を三つ挙げておきます。考えるときの糸口として使ってもらえればと思います。

比較されている選択肢のトレードオフから探す

候補者は自社だけを見ているわけではなく、ほかの会社や働き方と天秤にかけています。そこでまず、候補者が自社と迷いそうな選択肢を具体的に挙げ、それぞれの魅力と弱点を書き出してみます。

たとえば大手と比べられているなら、向こうの魅力は安定や知名度、弱点は意思決定の遅さや昇進の遅さ、といった具合です。すると「安定は欲しいが、できるだけ早く裁量が欲しい」という形で、候補者の葛藤が輪郭を持ってきます。どんな会社と比べられているのかをはっきりさせるほど、この見立ての精度は上がります。

求めることと避けたいことの組み合わせを見る

まず、候補者が求めることと避けたいことを、それぞれ書き出します。ここで終わらせず、求めること一つひとつに「それを手に入れようとすると、セットでついてくると思われている嫌なこと」を当てはめてみましょう。たとえば「成長したい」の隣には「でも、消耗するほど働かされるのは嫌だ」が、「自由に働きたい」の隣には「でも、放っておかれるのは不安だ」が並びます。

こうして「〇〇したい、でも△△は嫌」と一文につなぐと、多くの会社が候補者に当然のように飲ませている我慢が見えてきます。あとは、その我慢を自社なら引き受けさせずに済むかを考え、根拠を持って伝えられそうな内容が見つかれば、それがそのままメッセージの候補になります。

入社した社員に、実際に聞く

ここまでは候補者の葛藤を想像する話でしたが、いちばん確実なのは、自社の社員に直接聞いてみることです。入社を決めるとき、ほかにどんな会社と迷い、何に惹かれ、同時に何を不安に思っていたのか、聞いてみましょう。アンケートでもヒアリングでも構いません。

実際に自社を選んだ人の声には、想像だけでは出てこないリアルな葛藤が含まれています。しかも、その人が自社を選んだ事実は、その葛藤に自社が応えられた証でもあり、決め手まで聞ければ打ち出しの根拠もそのまま手に入ります。

打ち出し方に困ったら、葛藤に目を向けてみる

平凡なメッセージしか出てこないとき、問題なのは情報量ではなく、候補者の本音に踏み込む角度かもしれません。「したいけど、嫌だ」という葛藤をひとつ見つけられれば、同じ事実からでも少し違ったメッセージの方向性が見えてきます。採用したい候補者はどんな葛藤を抱えているのか、その中で自社が応えられそうな矛盾は何か、一度目を向けてみてはいかがでしょうか。

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