
「競合他社に負けること」は、採用活動においてよくある悩みごとのひとつでしょう。どれだけ予算を投下して候補者との接点を増やしても、他社と比較してそちらを選ばれてしまっては、採用は上手くいきません。
ところが、いざ採用競合を意識しようとしても、大きく2つの壁があります。
ひとつは、そもそも自社の採用競合がどこなのかわからないこと。内定者や選考中の候補者に併願先を聞くこともできておらず、思い浮かぶのは同業の2~3社くらい、という場合もあるのではないでしょうか。
もうひとつは、採用競合について調べようとしたところで、何を見て何を分析すればわからないこと。競合を意識して求人などを見てみたりしても、そこから自社の採用活動に還元できなければ、結局は意味がありません。
本記事は、この2つの壁を越えるためのヒントとして書いています。前半で「採用競合とは何か」という捉え方を、後半で競合をどう特定し、何を読み取り、どう活かすかという進め方を扱います。ぜひ参考にしてください。
具体的な手順に入る前に、採用競合を考える上での障壁になりやすい思い込みを先に押さえます。
「採用競合はどこか」と聞かれて、最初に思い浮かべるとしたら、大抵は同業他社でしょう。間違いではありませんが、それだけに目を向けていると、本当の競合を取りこぼしてしまうことがあります。
同業他社には負けていないつもりなのに、候補者には選ばれていないとしたら、想定していなかった別領域の他社に流れてしまっているのかもしれません。逆に言えば、同業他社と比べて待遇などの面で不利に感じていても、諦める必要はないということでもあります。
基本的に、採用競合は職種やポジションによって変わります。どんな人をターゲットにするかによって、その人の会社選びの基準も選択肢も変わるからです。
「ウチの競合は、この会社と、この会社で~」という粒度で考えていたとしたら、まずそれが問題と言えるでしょう。自社の採用競合として一括りにしてしまうと、競合に対して取れる対策が粗くなってしまいます。
採用競合に対して、すべての面で勝つこと、完全に独自であることを目指すのは不毛です。あらゆる候補者にとってすべての観点で競合に勝つことは不可能ですし、本当に唯一無二の会社なんて存在しません。
ターゲットとなる候補者にとって意味のある観点で、競合より少しでも選ばれる理由を見つけられれば十分です。完全な差別化ではなく、一歩ずらす。これくらいの感覚でいたほうが、競合を調べる上でも消耗しにくく、不用意に行動のハードルを上げずに済みます。
では、採用競合と何なのか。それは「ターゲットとする候補者が比較・検討している別の選択肢すべて」であると私は考えます。
ただし、選択肢すべてだと広すぎて途方もないので、マーケティングにおける競合分析の手法を参考に、直接競合・間接競合・代替の3つに分けて捉えることをオススメします。
直接競合は、業界や職種が重なる相手です。候補者は転職先や就職先を探すとき、「金融業界で働きたい」「法人営業としてキャリアアップしよう」といったように、業界や職種を軸にすることが多いです。ですから、その2点が重なる他社は、直接的にバッティングする相手だと言えるでしょう。いわゆる同業他社の多くは、ここに入ります。
間接競合は、業界や職種は異なるが、候補者が満たしたいニーズで重なる相手です。たとえば、自社がIT系のベンチャーで営業を募集するとして、「若いうちに裁量を持って成長したい」という候補者を狙うなら、IT業界ではないコンサル系の会社が他の選択肢に挙がってくるかもしれません。「海外で働きたい」「リモート中心で働きたい」といった軸で競合することもあるでしょう。
代替は、「別の会社に移る」こと以外の選択肢です。たとえば、現職に留まる、フリーランスになる、起業する、大学院に進む、などの可能性が考えられます。候補者が「そもそも転職・就職しない」と判断することも、自社が選ばれない要因のひとつとなり得ます。
3つの競合をどこまで意識すべきかは、狙う候補者によって変わります。
経験者採用では業界や職種の経験を要件にすることが多く、競合は直接競合が中心になります。即戦力を求めるほど、候補者も近い経験を活かせる会社を選ぶからです。一方、新卒採用や未経験者採用では経験を問わないぶん選択肢が広がり、間接競合まで意識する必要が出てきます。
代替は、行動力のある優秀な学生なら起業、理系の学生なら大学院進学、エンジニアならフリーランス、などターゲットによって意識すべき必要性や対象が変わります。しかし、中途採用における「現職に留まる」という代替は、誰しもが持っている選択肢であり、意外と強力なライバルになり得るため、見落とさないように注意しましょう。
ここからは、実際にどうやって採用競合を見つけるか、参考手順を解説していきます。
手元に具体的な候補者の比較先の情報がないときは、考えやすい直接競合から考え始めましょう。自社と同じ業界、あるいは同じ職種で、より事業内容や会社規模が近い会社から調べて、数社挙げてみましょう。基本的には、会社としての属性が近いほど、候補者の比較リストに一緒に並ぶ可能性が高いです。
そこから、間接競合にも考えを広げます。間接競合を探すには、候補者のニーズから逆算します。自社に来る候補者は何を求めることが多いか、自社が打ち出せる強みは何か。それを起点に「同じニーズに応える、業界・職種の違う会社」を探します。たとえば商社の営業で「海外で働けること」が大きな魅力なら、「他に海外で働けそうな業界・職種はないか?」と考えてみましょう。
推測を具体的な社名に落とすときに効くのが、候補者と同じ目線で自社を探してみることです。候補者は転職サイトやナビサイトで、業界・職種・勤務地・こだわり条件などの検索軸を使って会社を絞り込みます。
同じことを、自社がヒットするようにやってみましょう(自社が掲載していなくても、もし掲載されていたらと仮定して)。たとえば、「リモート可」の条件にチェックを入れて自社がヒットしたとしたら、同じ検索画面に並んでいる他社は、採用競合になり得ると推測できます。こだわり条件を使えば、特に間接競合を探しやすいです。
「〇〇業界 採用」で検索してみたり、AIに「〇〇で働きたいんだけど、どういう会社がある?」と聞いてみたり、転職サイト・ナビサイトを使う以外にも、候補者の目線で会社を探してみる方法は他にもあります。
もちろん最も確実なのは、選考中の候補者に併願先を聞いたり、社員に転職・就職時の他の選択肢を聞くことです。とはいえ、思い立ってすぐに実行できる方法ではないため、まずは推測するところから始めるでよいかと思います。
しかしながら、どうしても推測では外れてしまうこともあるため、できるかぎり候補者や社員に話を聞いて、後からでも確かめるようにしてみてください。
採用競合を見つけても、満足するのはまだです。ここからが本題です。採用競合の何を見て、何を読み取るか、改めて確認しておきましょう。
最初に押さえるのは、単純比較しやすい基本情報です。どんな職種を募集しているか、業務内容はどう書かれているか、どんな働き方か、待遇はどれくらいか、福利厚生には何があるか……など。良し悪しの判断はいったん脇に置き、事実を淡々と拾います。
見るのは、主に求人や募集要項となります。近しいフォーマットで具体的な情報が書かれているため、横並びに比較しやすいです。まずこの基本情報で、競合と自社のザックリとした差分を掴みます。
次に読み取るのは、その会社が何を強みとして打ち出しているかです。採用サイトのトップのキャッチコピー、力を入れているページ、求人媒体のメッセージ部分などを見るとわかります。
成長機会を前面に出す会社、事業の社会的意義を語る会社、働きやすさや制度を強調する会社。打ち出しの中身を見れば、何を強みとして候補者を惹きつけようしているかを読み取れます。採用競合として対策する場合、その内容との差別化を考えなければなりません。
ただし、打ち出していることが、そのままその会社の強みとは限りません。打ち出しは「そう見せたいもの」であって、実態とも、候補者に刺さっているかとも、必ずしも一致しないからです。「風通しのよさ」を繰り返し強調する会社が、本当に風通しがよいとは限らない、というのは想像がつくはずです。
打ち出されている情報は額面どおりに受け取らず、参考にはしても鵜呑みにはしません。
求人と採用サイトで基本情報と打ち出しを掴んだら、残りの媒体は根拠を探るために使います。コーポレートサイトの事業紹介や経営計画、社員クチコミ、SNSの発信など。見たいのは「なぜこの会社は、これを打ち出せるのか」です。
事業の成長性を打ち出していたとしたら、裏に伸びている事業や投資があるのか。裁量の大きさを打ち出していたとしたら、組織の規模やフェーズがそれに見合っているのか。根拠を確かめることで、同じような打ち出しは自社でも言える(もしくは上回れる)可能性があるのか、自社では根拠がなくて言えないので戦いにくい内容なのかを掴めます。
あわせて読み取るのが、どんな候補者を狙っているかです。求める人物像、必須・歓迎要件、給与レンジ、メッセージ内容などから、その会社の採用ターゲットが推測できます。そこから「本当に同じ人を奪い合っているのか」を確かめるようにしましょう。
たとえば業界・職種は一緒でも、その会社が狙っているのが即戦力の経験者層で、自社の狙いはポテンシャル重視の未経験者層なら、競合にはなりにくいです。メッセージ内容を見る限り、明らかにターゲットとしている候補者の性格・キャラクターが自社とは異なりそう、といった場合も採用競合としての優先度は下がります。
集めた情報を、観点ごとに自社と比べます。そして競合に対して自社が「勝っている」「負けている」「同じくらい」のどれかを当てていきます。ただし、この勝ち負けは絶対的な優劣があるものではなく、「ターゲットとする候補者にとって、どちらが望ましいと感じられそうか」で測る必要があります。
裁量の大きさを「成長できる」と歓迎する候補者もいれば、「放任されそうで不安」と感じる候補者もいます。手厚い研修も、安心材料になる人と窮屈に感じる人がいます。自社が勝ってるように見えても、狙う候補者がそこを重視しなければ意味は薄く、負けているように見えても、候補者が気にしていないのであれば問題ありません。
採用競合の調査をすることで、「ターゲットの候補者は何を求めているか」の解像度も上がっていきます。競合他社がどんな候補者のニーズを読んで訴求を打ち出しているのかを知ることで、自社の参考にできるからです。
採用競合の数によっては、一社ごと個別に対策を検討するのが現実的ではない場合があります。そうした際には、採用競合をグルーピングし、自社のポジショニングを定めることで、採用競合を個社ではなくかたまりとして捉えて対策を考えると良いでしょう。
グルーピングに決まったやり方はありません。どうやって採用競合を括っていけばいいか全く検討もつかない場合は、まず冒頭の章で解説した「直接競合」と「間接競合」に分けましょう。
そこから業種が同じ直接競合の中でも、「会社規模が大きい/小さい」「単一事業/複数事業」「歴史が古い/新しい」といった属性、「安定志向/成果主義/ボトムアップ/変化が激しい」といった組織文化、「社会貢献性/成長性/働きやすさ/待遇」といった訴求のポイントなど、何らかの共通点を見つけてまとめていきます。
業種・職種が異なる間接競合であれば、まずは「金融業界」などの業種や「営業」などの職種でまとめる、もしくは「海外で働ける」「早くから裁量を持てる」など自社と重なっている候補者ニーズの内容でまとめるのが基本です。
グルーピングは、大きな単位でまとめるほど取れる対策が粗くなって効果は出にくく、細かな単位に分けるほど複雑になって採用活動に反映するのが難しくなります。そのため最初は大きな単位でザックリ分けながら、ちょうどよく対策を考えやすくなる粒度になるまで、塩梅を見ながら細かくしていきましょう。
採用競合をグルーピングできたら、各グループに対して自社の採用活動ではどのように対策していくか考えます。その際に、何らかの軸に沿って採用競合を並べてみて、自社の立ち位置(ポジショニング)を定めると、対策の方針が考えやすくなります。
ポジショニングの定め方としては、「規模が大きい/小さい」「単一事業/複数事業」などグルーピングの軸を2つ選び、四象限のマップを作って並べていくのが、オーソドックスな方法です。正解はなく、自分が考えやすければ、3つ4つの要素の重なりを表したベン図にしてみるなど、どんなやり方でも自由です。

たとえば、このような四象限で採用競合を整理して、自社のポジショニングは左下に位置すると考えたとしましょう。すると、左上の「規模が大きい×複数事業」に位置する競合に対しては、「事業の幅広さは同じなので勝負できないけど、組織規模が小さいことによる個人の裁量の大きさでは勝てそうだ」という風に、ほどよい粒度で対策を練ることができます。
最後に、ここまでの分析をアウトプットへ落とします。基本の戦い方と、それでも分が悪いときの選択肢の2つです。
基本は、勝ち・負け・同じの整理を、そのまま打ち手に変えることです。
勝てる観点、とくに競合があまり言っていないのに自社なら言えることは、前面に出して際立たせます。差別化が効く場所なので、コンテンツでも求人でも強く打ち出します。負けている観点は、なるべく差が大きく見えないようにフォローするか、あえて触れないかを選びます。
たとえば給与で負けている際のフォローの仕方としては、評価制度の納得感や昇給の早さを伝えて、入社時は負けていてもその後に巻き返せると感じさせる、といった対策が考えられます。どうにもフォローしきれなさそうであれば無理に触れず、候補者の関心を別の魅力へ向けます。
競合も自社も言える横並びの観点は、出し惜しみせずできるだけすべて出します。差別化にならないからと省きたくなりますが、出していないだけで「ない」と受け取られ、負けて見えてしまうことがあるからです。
とくに採用サイトでは、競合が当たり前に載せている情報を自社だけ載せていないと、それだけで見劣りします。競合が出している項目を網羅的に拾い、自社でも言えることは漏れなく出す。これは守りとして効きます。
ここまでは、決めたターゲットの中で競合と戦う前提でした。けれど調べていくと、「この競合とは、どう戦っても分が悪い」と感じられることもあります。
そのときに持っておきたいのが、ターゲットを変えることで競合を変えるという選択肢です。採用競合は人材要件によって決まるので、狙うターゲットを動かせば競合の顔ぶれも変わります。経験の軸を少しずらす、ポテンシャル層に広げる、特定のニーズを持つ層に絞るといった調整で、自社より強い競合が少ない場所を選び直すのも、立派な戦い方のひとつです。
これは逃げではありません。勝てない場所で消耗するより、勝てる場所を選ぶ方が合理的なこともあります。競合分析は「今のターゲットでどう勝つか」だけでなく、「そもそもどのターゲットで戦うか」を問い直すきっかけにもなります。
採用競合の調べ方や考え方には決まった正解がなく、特にグルーピングやポジショニングは、最初は上手く考えられないかもしれません。しかし、最も大切なのは採用競合を分析した結果が、自社の採用活動に活かせることです。スマートに考えられているか、綺麗にMECE整理できているか、といったことは二の次でいいのです。
この記事の内容も、すべて実行できなくても構いませんので、少しでも参考にしていただいて、自社の採用競合がわからない、競合の何を調べてどう活かせばいいかわからない、という状態を脱するきっかけになれば幸いです。
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