デザイナーの池田です。
ベイジといえばBtoBサイトの印象があるかもしれませんが、実は採用サイトも多く手掛けています。
採用サイトの案件では、ほぼ確実に撮影が発生します。そのため、担当するデザイナーは、撮影にも立ち会い、ディレクションする必要が出てきます。
撮影といっても、何を撮るかによって撮り方も進め方も変わりますが、採用サイトを含む採用目的の撮影となると、以下の条件が前提になってきます。
求職者に職場のリアルな雰囲気を伝えるのが一番の目的になるため、日常の自然な風景をカメラに収める必要があるのと、モデルが一般の会社員になるため、スムーズかつ短時間で撮影が済むようにナビゲートしなければなりません。
本記事は、私たちが採用サイトの撮影で学んだ、採用目的の撮影におけるディレクションのフローや考慮すべきポイントをまとめました。
撮影が発生することになったら、クライアントとともに、撮影の目的、予算、撮影日数、写真の用途、注意事項、前提条件などを確認しましょう。特に予算は、撮影スタッフのアサインや撮影計画に大きな影響を与えるので、確実に確認しておきましょう。
サイトだけでなく、パンフレットや会社案内、新聞や雑誌広告などの他媒体に利用する場合は、二次使用料が発生することもあるため、撮影データの利用用途も、事前に確認を取っておきましょう。
カット数は、撮影計画や予算、スケジュールに影響を与えやすいため、アタリの写真を入れたデザインカンプを確認しながら、必要なカット数を決めていきます。
カット数が多くて管理が複雑になる場合は、サイトマップを撮影用にカスタマイズして洗い出すこともあります。
フォトグラファーやヘアメイクアーティストなどの協力パートナーを選定します。まず、メール等にて以下のような概要を伝え、費用や対応可能期間などを確認します。
案件によっては、候補を紹介する提案資料を作成して、クライアントと一緒にどのフォトグラファーにするか、協議することもあります。
プロジェクトメンバーが決まったら、サイトの公開日などから逆算して、まずは大まかなスケジュールの見通しを立てます。例えば、以下のようなイメージです。
ロケハン 6/01〜05(うち1日)
撮影 6/08〜12(うち2日)
レタッチ 6/15〜7/3
画像加工 7/06〜07
HTML反映 7/07〜08
これを元に関係者で調整を行い、より詳細なスケジュールを決定していきます。
最近の撮影はデジタルで行われるので、撮影データ自体は撮影後すぐに手に入れることが可能ですが、レタッチをフォトグラファーへ依頼する場合は、撮影データが納品されるまでの期間を、改めて確認する必要があります。
スケジュールが決まったら、撮影の計画をさらに精緻化していきます。この段階では、主に以下のようなことを確認、作成していきます。
a) 香盤表
撮影当日のスケジュールをまとめた「香盤表」に情報を落とし込み、当日の計画をより精緻にし、フォトグラファーを含めた関係者に共有します。香盤表には以下のような情報があると、コミュニケーションがスムーズになります。
フォーマットも用意しましたので、以下よりダウンロードしてお使いください。
香盤表雛形(.xlsx)
香盤表を作る際には、以下のようなポイントでバッファを見込んでおきましょう。当日現場で撮影が延びたり、想定外のことが起きたりした時にも、計画通りに撮影が進められるようになります。
b) 撮影ラフカンプ
撮影イメージをフォトグラファーと共有しにくいカットについては、例えば以下のように、各写真のストーリーやシチュエーションを元に、ラフカンプを作成しましょう。カンプには必要な説明も加えておきましょう。
c) 撮影マップ
会場が広く、迷う可能性がある場合には、どのカットをどんな場所で撮影し、そのためにどう移動していくかを、撮影マップで示すといいでしょう。撮影マップを作っておくと、香盤表の時間配分もより現実的なものになり、ロケハンでの確認もスムーズになります。
撮影計画を各関係者へ共有します。主に以下のような点について、フィードバックや変更箇所がないかを確認します。
対 クライアント
対 フォトグラファー
対 ヘアメイク
ロケハンとは、ロケーション・ハンティングの略で、撮影の前に現場に行き、撮影計画と照らし合わせて確認を行うことです。
撮影は、その場に行けばすぐできるわけではありません。アングル探しに時間がかかり、アングルによって必要な機材が変わることもあるので、できるだけロケハンは行うようにしましょう。
どうしてもロケハンを実施できない場合は、アングルや光の当て方などをシミュレーションできるよう、デザインのラフカンプなどをフォトグラファーへ共有しておくといいでしょう。
ロケハンが決まったら、前日までに関係者全員に以下の内容を共有します。
現場では立って話すことも多いので、資料を数部印刷しておくと便利です。そしてロケハン当日は、以下を確認しましょう。
撮影関連
ヘアメイク関連
その他
ロケハンが終わったら、必要に応じて、フォトグラファーが撮影した画像を受け取ります。
a) デザインカンプへ反映
ロケハンで撮影した写真をデザインに当てはめて、カットに変更がないかなどを確かめます。小物や目線、表情などを確認し、必要であれば、関係者にも共有します。
b) 香盤表へ反映ロケハンで変更になった箇所を香盤表へ反映し、最終版として完成させます。
c) モデルシート作成
採用サイトの場合、モデルが複数になることがほとんどです。その際に、名前と顔が一致していると、撮影時の指示や依頼もしやすくなります。モデルが確定し次第、クライアントから顔写真をいただくといいでしょう。
服装については、後述しますが、事前にどんな服装か決めておくといいでしょう。また、複数回の登場するモデル様は、印象を変えるために、服のバリエーションを決めておき、カットによって着替えていただくこともあります。
d) スタイリング指示書作成
採用サイトの場合、被写体は一般の社会人になるため、モデルへの要望は、事前に細かく指定しておく必要があります。
服装は、サンプルを示してイメージを共有しておけば、当日の認識の差は発生しにくくなるでしょう。避けてほしい服装もあれば、事前に伝えておきます。
また、メイクや髪型に関する要望を伝えておきましょう。最近の撮影では、例えば、女性の場合、以下のようなことを伝えました。
薄化粧でお越しください。強いリキッドライン、濃いチーク・リップは控えめでお願いします。長髪の方は、結ぶと髪に折れ目が付くため、なるべく結ばないようにご協力ください。また、ヘアアイロンも型がつくため、巻き髪などご遠慮ください。
駐車場や機材搬入の手配が必要であれば済ませておきます。小物を準備する場合は担当者を決めて、きちんと揃っているか、直前に確認しましょう。
念のため、撮影1~3日前には、以下のことを関係者全員にリマインドをしておくといいでしょう。資料に変更が加わった場合には、最新版も送付しておきます。
入場
入場や準備に戸惑う可能性もあるので、撮影開始時間に対して、余裕を持って会場入りするようにしましょう。特に自然光を扱う場合、光の状態が刻々と変化していくので、決して遅れないようにしましょう。
事前ミーティング
関係者が集まったら、最新の香盤表などを配り、改めて当日の流れや動きを確認します。撮影にあたっての不明点や連絡事項などもこのタイミングで確認します。また、割れ物など、取扱注意の品物に触れる場合には、改めて注意喚起をします。当日は、ロケハンに参加していないメンバーが参加することもあります。必要に応じて、各場所へ案内します。
現状復帰用の撮影
撮影では、部屋のレイアウト変更や備品を動かすことがあります。撮影終了後、元の状態に戻せるように写真を撮っておくと便利です。
撮影環境の準備
元の状態を記録したら、カットに合わせて、部屋のレイアウトを変更しましょう。また、パソコン、ペン、コーヒーなどの小物を用意し、セッティングしていきましょう。また、撮影の雰囲気によりますが、音楽をかけることができる環境であれば、 BGMを流すと現場の雰囲気が和むのでおすすめです。
タイムキープ
採用サイトでは特に、モデルとなる一般社員の拘束時間や、会場となるオフィスの利用時間が決まっていることが多いため、時間通りに進行するように心がけます。想定外のことや予定通り進まない場合は、全体のスケジュールを見て柔軟に調整します。
テスト撮影
本カットの前にテストで何枚か撮影しながら、フォトグラファーとコミュニケーションを取り進めていいきます。また、モデルが必要なカットは、まず別の人が立ち、どの場所にどんなポージングで撮るかを事前に確認することで、モデルの負担を減らします。
モデルの誘導
待合室やメイクルームから、モデルを現場へ誘導します。撮影ディレクションを担当するデザイナーは、フォトグラファーと現場で絵を作ることに専念したほうがいいので、モデルの誘導は別の担当を立てるといいでしょう。メンバーが足りない場合は、クライアントの担当者に依頼してもいいかもしれません。
雰囲気づくり
採用サイトのモデルは一般の方なので、撮影に慣れておらず、カメラの前で自然な表情を作ることも難しいです。そのため、できるだけリラックスする環境を作り、表情やポージングを引き出す工夫も大事です。フォトグラファーが率先してやってくれることも多いですが、撮影ディレクションを担当するデザイナーもモデルに話しかけるなど、現場の雰囲気づくりに積極的に参加していきましょう。
クライアントへ確認撮影現場に、クライアントがいる場合は、写真の撮れ高を確認をします。万が一、撮影終了後の大きな調整は現実的に厳しいため、余計な被写体が移ってないかなども含めて、撮影の現場である程度クライアントチェックを入れてもらいましょう。
予定していたカットがすべて撮れたことが確認できたら、部屋のレイアウトや備品を元の状態に戻します。その際は、事前に撮っておいた写真と比較しながら戻しましょう。ゴミや汚れはないかなども確認します。
また、関係者が部屋を出るときに、忘れ物はないか確認しましょう。万が一、忘れ物をするとクライアントへ手間をかけてしまうことになります。職場に戻ったら、関係者に御礼と、今後のアクションをメールするといいでしょう。
撮影が終わったら、レタッチしていない写真データをフォトグラファーからもらい、サイトに使う写真を確定させていきます。現場で写真が決まることもありますが、デザインに当てはめながら写真を選ぶこともあるでしょう。
別の日に見ると、他の写真の方がよく見えることがあるので、迷った写真は、1日寝かせてもう1度確認するといいかもしれません。
フォトグラファーにレタッチをお願いする場合は、デザインのはめ込みイメージなども添えながら、どういうテイストに仕上げてほしいかを改めて伝えましょう。
ただ、単に「●●を明るくしてください」というだけであれば言わなくても分かることもありますし、フォトグラファーのセンスに任せてしまった方がいい場合もあります。
仕上げたいイメージがあればできるだけ具体的に伝えつつも、フォトグラファーの良さを活かすようにしましょう。
納品データが届いたら、写真を作成していきます。webサイトの読み込みを早くするために画像を圧縮しますが、劣化しすぎることもあります。また、レスポンシブwebやリキッドレイアウトの場合、縦横比が変わり、想定した構図にならないケースも出てきます。
必ずブラウザ上でチェックし、写真の良さと技術的な制約の丁度良いバランスを見極めるようにしましょう。
採用サイトであれば、サイト公開時には、フォトグラファーやヘアメイクの方など、協力してくれた方々に公開の連絡をしましょう。自分たちの仕事が最終的にどういう風に仕上がっているのかは必ず気になるはずなので、真っ先に連絡するようにしたいものです。
それと合わせて、協力パートナーに請求書の発行を依頼し、必要であればクライアントに撮影データを共有しましょう。
私もいくつかの案件で撮影に立ち会い、多くのことを学びました。全体の流れについては上記で説明しましたが、全体を通じたポイントを以下にまとめておきます。
通常、モデルのスタイリングとメイク全般をヘアメイクの方が担当しますが、案件によってはアサインしないケースもあるかもしれません。
モデルが大きく映るカットでは、寝癖がついていたり髪の毛の広がりが目立つと写真のクオリティに左右してきます。また、髪の毛が長い女性は、途中で髪型を変更して撮影することもあります。
そういったケースに備えて、ヘアブラシやヘアピン、ヘアスプレーなどを用意しておくと、すぐにお直しできるので便利です。あとからPhotoshopなどで加工するこもできますが、修正の手間もかかるので、できるだけ撮影現場で整えるようにしましょう。
採用目的の撮影では、絵としての美しさよりも、職場の臨場感やリアルさをカメラに収めることの方が重要です。例えば、オフィスのデスクが移り込むカットでは、派手な私物やケーブルを片付けてしまうこともあるでしょう。
しかし、普段の業務で必ず使用する書類やファイルまで片付けてしまうと、写真としてはスッキリしますが、仕事場としてのリアルさがなくなってしまいます。
また、モデルのポーズや表情も、ファッションモデルのようにかっちりと決めずに、表情を引き出すようにコミュニケーションを取った方がいいこともあります。
求職者の多くは、企業が作る採用サイトや採用パンフレットは広告的で真実味に欠けると思っている、というアンケート結果もあります。デザイナーとしての美意識だけでディレクションするのではなく、求職者が知りたいことは何なのかという視点を決して忘れずに、現場でディレクションしていくことが大切だと思います。
採用サイトの定番コンテンツに「インタビュー」がありますが、オフィスのデスクで、パソコンの操作や電話対応をしているシチュエーションばかりだと単調になります。このように、採用目的の撮影におけるモチーフは、絵としては単調になりやすいです。
そんな時は、視点や行動のシチュエーションを変えて、写真のバリエーションを増やすようにしましょう。例えば以下のようなものです。
また、カットごとに人物の顔がアップ度合いを変える、空間演出シーンやシルエット的な登場をさせるといった工夫をすると、印象が変わります。こういった引き出しは、他社の採用サイトの写真や、人が多く映っている雑誌を見ると、アイデアの幅が広がります。
登場するモデル(社員)があまりにも少ないと、「他に登場する社員がいないのかな?」と感じられてしまい、職場の多様さが伝わってきません。なるべく多くの社員を入れるのが理想ですが、業務との兼ね合いもあり、そうはいきません。
勤務地が複数ある場合やシフト勤務制の場合などは、撮影計画の組み立て方がより複雑になります。計画を立てる段階で、多すぎず、少なすぎずの人数を見極めて、モデルを選定したいところです。
またモデルの情報は、クライアントの協力を得て事前に名前や顔写真などをもらい、どのカットに誰を含めるのか、複数人が入るシーンではどう組み合わせるか、服装はどう指定するかなどあらかじめ決めておくと、撮影がスムーズに進みます。社員が複数関わることになるので、クライアントにも積極的に協力してもらうようにしましょう。
いろいろと書きましたが、撮影ディレクションをするデザイナーにとって 1番大事なことは、楽しむことです。初めての場合、事前の段取りに漏れがあったり、実際の現場で緊張してうまくいかないこともあります。
しかし、フォトグラファーのような撮影のプロもその場にはいるので、すべて自分で抱え込む必要はありません。チームでよりよいものを作りあげるという視点に立ったうえで、自分にできることを考え、関係者を巻き込んで進めていくことが大事だと思います。
最初から完璧にできる人はいません。もし、スムーズにいかないことがあってもそれを学びとして、次の撮影時に活かせればいいと思います。
本ブログ掲載者様
クライアント:インフィールド様(モデル:社員の皆様)
撮影写真:関口 史彦 様
ヘアメイク:松川 達弥 様
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