採用人事で先を行くサイボウズが本気で採用サイトを作ったら? 戦略と制作過程を解説

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ライター
古閑 絢子

ベイジはこのたび、サイボウズ株式会社さんの採用サイトリニューアルを担当しました。

年を跨いで約8ヶ月を要する、ウェブサイトとしては比較的大規模なプロジェクトとなった本案件。公開後のサイトは会社説明会など採用現場でも活用されており、訪れた方に「なんかわかりやすいな」「企業のカラーが出てるな」と直感的に感じてもらえる点にもご満足いただいています。プロジェクトとしても、サイボウズさんの社内イベント「サイボウズオブザイヤー」で特別賞をいただくとても印象的なものになりました。

こうしてさまざまな場面で高く評価された採用サイトですが、よりよい形で実現できた理由はベイジの知見やスキルと、ほかの誰よりも「サイボウズ」について知っているサイボウズさんの力をうまく掛け合わせられたことにありました

クリエイティブのクオリティを上げるヒントは、制作プロセスにこそ多く隠されているもの。そこで今回は、普段私たちの目には見えにくいものづくりの過程を、サイボウズさんへのインタビューも交えながらご紹介させていただきます。

以前のサイトが抱えていた問題と改善方針

ベイジは制作の前にヒアリングやワークショップ、ユーザーテスト、アンケートといった調査を実施し、ウェブサイトの戦略を組み立てていきます。求職者にアプローチするプロセス自体にはとくに問題を抱えていなかったサイボウズさんですが、ヒアリングの段階では「働き方の自由さがラクさと誤解される」「チームワークのイメージを伝えられない」といった問題がよく挙げられました。

サイボウズさんは採用においてカルチャーフィットを重視し、面接の場でも「サイボウズでその人らしく働けるか」「役割を果たすことに楽しさを感じられるか」などについて求職者の方と対話を重ねることを大切にしています。

それでも働き方や制度などキャッチ―なイメージが先行し、「すべてはチームワークあふれる社会を達成するために存在しており、自分で選択することには責任が伴う」という本質的な構造まで求職者の方に理解していただくことが難しくなっていました。

そこで応募者を大幅に増やすというより、応募者の情報取得体験を向上させ、カルチャーフィットする人の採用を促進することで企業理念の実現を加速させる、という流れを作るのがリニューアルの目的・意義となりました。

改善方針① マルチエントリーポイント設計で多様な人に対応する

サイボウズさんの採用方針でユニークなのは求める人物像の多様さ。ペルソナのように特定の人物像を決めることはできません。もちろん求職者のニーズに一定の傾向は見られますが、個々人が重視するポイントは千差万別で、同じ求職者でも選考のステータスによって見たい情報が変わる可能性も十分あります。

また、サイボウズさんはBtoBビジネスであることに加えて職種も多様なため、異業種からの転職希望者や学生にとって具体的なイメージを持つのが難しいという一面もあります。

こうしたカルチャーや事業理解を促進するために、マルチエントリーポイントの設計思想を採用しました。業界や社会人経験がない方に向けてビジネスとそれを取り巻く環境、職種内容について詳しく解説するコンテンツ。評価制度が気になるキャリアアップ志望の転職者にはキャリアステップや評価基準を明記したコンテンツなど、どんなタイプの求職者にも対応でき、納得感を得ながら情報収集してもらえるサイトにすることを目指しました。

改善方針② 情報の断片化を解消する

「企業の公式発信だけでなく、社員が自由に発信する情報も含めてサイボウズらしい」という考えのもと、豊富な情報発信をされているサイボウズさん。しかしコーポレートサイトや採用サイト、サイボウズ式(オウンドメディア)、外部のメディア、社員のSNSなど各媒体に重要な情報が点在し、求職者の目線から見ると情報収集が困難になっている可能性がありました。加えて、インタビュー記事やチーム発信のコンテンツが豊富な一方で、大前提となる事業やカルチャーを伝えるコンテンツは新しい記事の中に埋もれてしまうといった問題も。

そこで、採用サイトには「情報の集約」という役割を与えました。採用サイトに来れば必要な情報がすべて揃っている状態を作り、「情報が多くて追いきれない」「見るべき情報を見落としていそうで怖い」という求職者の不安を解消します。

また、それぞれの情報に容易にたどり着けるようホームにサイトマップ的機能を与えコンテンツの一覧性を担保。基本的に1テーマ1ページを徹底し、自分が欲しい情報がどのページにあるのかタイトルからわかるように設計します。

改善方針③ 求職者が求める情報を正直に公開する

採用サイトはまずは求職者のニーズに応えて、次に企業が言いたいことを整理して伝える、求職者ファーストが基本です。

求職者は表面的なニーズとしての期待、深層に隠れたインサイトとしての不安の両面を持ち合わせています。働き方や福利厚生などを通して「良い会社であること」をアピールするのではなく、誤解されがちなポイントはストレートに説明し、人事評価制度や採用に対する考え方などブラックボックスになりやすい情報を公開するなど、オープネスな空気を感じられるコンテンツやコピーを用意。外部サイトでは得られない豊富で詳細な情報を提供し、誠実かつ正直な情報発信によって不安のインサイトに応えることを基本方針としました。

また、サイボウズさんの場合は企業文化に「公明正大」として嘘をつかない・隠し事をしない姿勢が明言されており、社内での情報共有やコミュニケーションの基盤を作っています。可能な限り考えや実情を正直に伝えることが職場の空気を感じてもらうことにも繋がり、求職者とのカルチャーフィットが期待できました。

ベイジから見た、サイボウズ式ものづくりのすすめ

コロナ禍のベイジで始まったプロジェクトのほとんどがそうであるように、長い時間をかけたものの最後まで対面せずオンラインで進んだ採用サイトリニューアル。しかし公開から3ヶ月ほど経って、サイボウズさんの感動課の方が社内イベント用の動画撮影のため下北沢のベイジオフィスまで遊びに来てくださいました。これがきっかけとなり、1年越しのご挨拶も兼ねて日本橋のサイボウズさんオフィスでの取材が実現。

改めて新採用サイトの評判をお聞きすると、「内容がよくまとまっているので私たちも採用イベントでのQ&Aに回答しやすくなりました」「採用チーム以外のメンバーからも、求職者の方に説明する時使いやすくてとても助かっていると聞いています」と、早速活用されているご様子です。

そこで今回は、現場でも効果を感じられる採用サイトをつくるためにサイボウズさん社内ではどのような動き方をされていたのか、外部の制作会社であるベイジと連携するためのポイントなど、プロジェクト全般で悩むことの多い話題について話していただきました。

サイボウズ側プロジェクトメンバーの皆さん。左から武内さん、武部さん、石川さん。いずれも人事部所属。

採用サイト、社内をどう巻き込んだ?

今回の採用サイトリニューアルはコンテンツの拡充が要だったこともあり、新しく作成したページは30ページ以上にもおよびました。各ページ事前に関連する既存記事や資料をご提供いただいていたとはいえ、採用サイトならではの情報を掲載することも重視。1ページずつサイボウズさん社内で情報を集め、ベイジで原稿を作り、両者で内容をすり合わせていく過程を踏むとなると、本来の採用業務と並行して対応するには膨大な負担になります。

それでもスケジュールに大きな遅れが出ることはなく、当初予定していたほぼすべてのページを実現。「改めて社内に紹介しようと思って推しページを決めたら全ページになってしまいました」と、サイボウズさんにとっても思い入れの深いアウトプットになったようでした。

こうした結果が得られたのは、サイボウズさん側のプロジェクトメンバーが自分たちだけ作業を抱え込まず、適宜社内に協力を求めながら進めてくださったことも大きく関係しています。どのようにして現場で働くメンバーを巻き込みながらコンテンツを制作していったのかお話を伺うと、情報共有のコツと採用活動への思いが見えてきました。

過去に二度の採用サイトリニューアルを経験している武部さん。

武部:サイボウズではプロジェクトでも打ち合わせでも、「誰に対して、どういう効果を与えたいのか、伝えたいのか」というコンセプトを最初に意識するんです。今回の制作でも、一次情報をチームに記入してもらったりレビューをお願いするとき、リニューアルの背景もあわせてページのコンセプトを伝えていました。言わないと、逆に「誰向けですか?」って聞かれたり。

ベイジさんにも「このコンテンツ/デザインのコンセプトをどうしたいのか」って、同じフォーマットでお伝えしていましたよね。共通のゴールが見えていたおかげで、表現したいことや見せ方を検討する時も社内と社外でうまく連携できていたのかなと思います

ベイジ:なるほど、考え方や情報整理のフォーマットみたいなものが存在しているんですね。

それでも、返ってくる内容がどれも採用を見据えていて、情報の粒度や量に大きな乖離がなくすごいなと感じました。何を書くかもそうですが、どの内容を誰にお願いするのか、迷うことはありませんでしたか? プロジェクトが始まる前にある程度協力者を募られていたのでしょうか。

石川さん。趣味はカレーづくり、出店するほどの本格派。

石川:今回のプロジェクトのために、チームや連絡体系を整えたという意識はありません。サイボウズは採用活動自体、各チームや本部が自分たちで自走してくれていて、私たち人事はそれを横串で見て支援する仕事です。普段から採用活動に詳しいメンバーを把握しているので、各チームのハブになりながら情報共有して、協力を仰いでいきましたね

内容も、サイボウズで働く一人ひとりが「採用活動を一生懸命やりたい」「採用サイトがよくなれば嬉しいな」っていう思いを持って書いてくれたのではないでしょうか。制作前に実施した社内アンケートにも、90人以上のメンバーが回答してくれました

「多様な人を受け入れたい」を言葉で終わらせない

こうしてサイボウズさん社内の各チームにも制作の一部をお願いしつつ進んだプロジェクトでしたが、両者は必ずしも一方的なタスク依頼で終わる関係ではありませんでした。チーム側からも「ぜひ関わりたい」という声があがったことで、プロジェクトの初期段階からシステムやデザインについて専門的な議論が可能に。全画面にMovable Typeを導入する難易度の高い実装でしたが、サイボウズさん側のシステム担当者の方と綿密なコミュニケーションをとりながら開発を進めることができました。

また、「多様な人に対応できる」というサイトの改善目標をよりよい形で達成するために欠かせなかったのが、アクセシビリティへの対応です。この点でも、今回はサイボウズさん社内で活動されているアクセシビリティチームにご協力いただきました。

アクセシビリティエンジニア 杉崎さん

サイボウズさんは現在、採用イベントや新人研修でも字幕対応を行っている。

武内:サイボウズでは「すべての人がチームにアクセスできる」をミッションに、アクセシビリティ専門のチーム(通称Poca11y:ポカリチーム)が製品の改善や社内向けの啓蒙活動を行っています。今回の採用サイトリニューアルでもアクセシビリティ対応で意識したいポイントをまとめて、「これは今どうなってますか?」とすごく積極的に関わってくれました。

サイボウズとしてはできるだけ多様な方を受け入れていきたいし、実際に障害を持つメンバーも増えてきています。それなのにサイトが見づらくて応募意思が下がってしまうと、すごくもったいないですよね。

ベイジ:ベイジもアクセシビリティに関する知識を積み上げてはいたのですが、これまでプロジェクトの中で要件として求められることはなくて。今回はワークフローの見直しやレギュレーションを作るきっかけにもなりました。

アクセシビリティチームもそうですが、このプロジェクトには見えないところでも本当に多くの方にご参加いただいていたのではないでしょうか。たくさんの人の力を借りて、使いやすさやシステムの面でもいいものが作れたと思います

実装を担当したベイジのエンジニア、野村。「今回の管理画面は自信作です」と語る。

武内「ベイジさんと一緒にプロジェクトをやってみたい」と社内のメンバーから声を掛けてくれたことも大きかったです。もともと自社サイト全般を担当しているチームには技術面のサポートをお願いするつもりだったんですが、ここまでがっつり入ってくれるとは思ってませんでした。

ベイジ:今回はシステム面でも「管理画面をもっと使いやすくしたい」「マニュアルがなくても使えるようにしたい」というご要望がまずありましたよね。情報を更新したりサイトを維持する上でも使いやすさってすごく大事な部分だと思うので、実現できてよかったです。

武内:おかげさまでリッチエディタで簡単に内容を修正でき、コンテンツや画像の順番の変え方もわかりやすくて、慣れてないメンバーでも使いやすいものになりました。

制作を経て掴めた「サイボウズらしさ」

これまで採用サイト制作の戦略からコンテンツづくりは自社で完結させてきたため、今回のプロジェクトもベイジと協動するにあたって探り探りだったいうサイボウズさん。制作中のコミュニケーションはkintoneを介したテキストベースで進め、お互いに背景や意図についてきちんと説明することを心がけました。こうした細かい部分のニュアンスのすり合わせと言語化の作業は制作をスムーズにするだけではなく、社内にも副産物を生んでいました。

原稿作成中のやりとり。制作中のコミュニケーションはすべてkintone上で行った。

武内:サイトを作っていて思ったのが、サイボウズには意外と言語化できてないところ、共通認識をとれてないところが多いんだな、ということでした。「サイボウズっぽさ」とか、なんとなくみんなそう表現しているものが人によって少し違ったり。

発信している情報が多いので材料は豊富にあるんですが、今回の採用サイトのコンセプトを表現するためにコンテンツでどう見せたらいいか、デザインからサイボウズらしさを感じてもらうためにはどうすればいいかを言語化していくのが大変でした。コンテンツもデザインも時間をかけて作りながら、改めてそのあたりについて話し合えるいい機会だったと思います。

武部:メンバーの意見を聞けば聞くほどカオスになってしまうこともありましたが、おかげで「採用サイトからすごくサイボウズらしさが出てるから、これを分析してみたい」という話も社内から出ています。

デザインを担当したベイジの高塚。「サイボウズらしい」表現を最後までサポート。

ベイジ:一人ひとりの意見を尊重しながら、それでもまとめるために取捨選択をするのは難しいことだと思います。集まった意見に対して、どういった軸で方向性を決めていましたか?

武部:方向性というか、「これがサイボウズらしいか」のイエス or ノーに関してはみんなそんなにズレないんですよ。ただ、「どうしたらもっとサイボウズらしくなるのか」「サイボウズっぽさとは何なのか」という、サイボウズらしさを構成する要素が掴みきれなくて。

特に悩んだのがデザインに落とし込む時で、メインビジュアルの写真撮影では絵の中にどういう要素があればいいのか熱く議論しました。サイボウズのオフィスは「サイボウズらしさ」を体現しているところがすごくあると思うんです。

でもどこで撮るのか、誰に出てもらうのか、何人写るのか、アングルはどうするのか……。社内にフォトグラファーがいるんですけど、引きずりまわしてロケハンを重ねました(笑)

動物がたくさんいる、有名なエントランスにて。「今見返すと笑えるんですけど、迷走してた当時はとても真剣でした」
「地面を指さし」に固執していた頃。どこか儀式的な雰囲気が漂う。
「虹」に執着していた頃。ここから撮影アングルを変更し、最終版に近づく。

今後の運用について、育てていくウェブサイト

シンプルなUIでまとめ、操作性の高い管理画面で更新しやすさを担保するなど、豊富な情報の器としても長く使ってもらえるものに仕上がった今回の採用サイト。一度作りきって終わりではなく、サイボウズさんの変化を最新の情報として求職者の方に提供できるよう、ベイジは今後の運用・改善も継続して行っていく予定です。最後に、これから対応していきたいことをお聞きしました。

武内:サイボウズは組織の変化がかなり大きいので、増えるチームや部署名の変更にどう対応していくかは今後も課題ですね。いまはすべての更新を人事で行っていますが、管理画面も使いやすく作っていただきましたし、ページによっては部署ごとに権限を渡すことも検討できると思います。

武内さんはこの春からグローバル採用チームも兼務することに。

武内:あとは、グローバル対応。最近英語だけの募集要項が出始めていて、日本語話者じゃない方に向けた情報発信も増やしていこう、という動きがあります。

ベイジ:その話はサイトを作っている時も少し出てましたね。いよいよ現実味を持って迫ってきたというところでしょうか。

石川:もう少し先かな? と思っていたのですが、急に(笑) 非日本語話者の方でも難なく募集要項までたどり着けるように、改善するべき部分は改善していきたいです。

あと社員紹介やチーム紹介も、古くなった情報の扱い方や、今後どう人を追加していくかとか、運用を考えていきたいですね。役割が増えたチームからはもっと情報を載せたいという声も出てきていますし。

武部:そうですね。今回採用サイトのコンテンツを増やしたおかげで、「こういう情報があると新しく入ってくる人もイメージつきやすいよね」というのを各チームのメンバーも意識してくれるようになりました。情報発信や伝え方に興味を持ってもらうきっかけになって、すごくよかったなと思います。

ベイジのディレクター大舘(左)とディレクター兼ライター林崎(真中)。推しページは事業紹介ページ。

あとがき

今回のプロジェクトメンバー。山本さん(右奥)と内原さん(右壁際)は有志でご参加。

「私たち、文章が多すぎると読んでもらえないんじゃないかと実は心配してたんです」と、当時不安に感じたことも話してくれたサイボウズさん。「でも公開後メンバーや求職者の方に話を聞くと、読み物としてコンテンツが面白いと言ってくれて。客観的な意見をいただけたのがよかったのかなと思っています、自分たちだけでは作れませんでした」。

通常のプロジェクトはサイト公開直後にフィードバックをいただくため、今回のように時間が経ってからわかる効果をお伺いすることは稀でした。自分たちが普段あたりまえに過ごしている会社だからこそ、いざ外部に発信しようと思うと切り口や適切な伝え方を見つけにくいこともあるのではないでしょうか。

チームでの働き方について改めて学べると同時に、制作会社という立場から企業の採用活動やメッセージ発信にどう関わることができるのか、多くのヒントを得られた取材でした。

なお、サイボウズさんは現在「チームワークあふれる社会を一緒に創る」新しいメンバーを積極的に募集中です。ぜひ新しい採用サイトに遊びに来てみてください。

サイボウズ株式会社 採用サイト

企画/インタビュー/執筆:古閑 絢子
撮影:加藤 アラタ(オフィシャルサイト

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