募集要項は、採用サイトを訪れた多くの人が最初に見るページであり、採用サイトにおける最も重要なコンテンツといっても過言ではありません。
一方で、良し悪しを定量データで評価しにくいという採用コンテンツの特性から、募集要項の研究はあまり進んでおらず、「こういう募集要項がいい」という一般的なセオリーが存在しません。
そのため、何をどう書けば正解かわからず、最低限の情報だけが書かれた簡素なページとして作られていることも多いです。
こうした採用にまつわる課題に対して、この記事では、私たちがこれまで数多くの採用サイトを制作して培ってきた知見と、採用サイトに関する様々な調査データをもとに、「募集要項の最適な作り方」をご提案します。
改めて、採用サイトにおける募集要項の重要性を解説しましょう。
当社が2024年に行った「転職活動における採用サイトの利用実態調査」では、「Q.採用サイトを見るときは、まず何の情報が見たいですか?」という設問に対して、「募集要項」という回答が最多で、約51%を占めました。
当社がクライアント支援の中で実施しているアクセス解析、ユーザーリサーチなどでも、「募集要項をまず見る」という傾向は、同様に見られます。
また同じ調査において「どんな採用サイトだと、その企業の印象が良くなりますか︖」という設問では、「募集要項がすぐに見つかる 」という回答が、45.98%で最多となりました。
募集要項は中身の充実はもちろんのこと、すぐ辿り着けるよう目立つ場所に配置することが重要であり、そのことが企業に対する好印象にも繋がる、というわけです。
これらのデータからもわかるように、採用サイトを訪れた多くの求職者は、自分が希望する職種や条件の募集かを確認するため、まずは募集要項を見に行きます。仮に採用サイトから応募しようとしていたとしても、多くの人がいったんは募集要項を経由する傾向にあります。
このようなUX(求職者の体験)を踏まえると、以下のような機能を有した募集要項が理想的であると考えられます。
募集要項の具体的な内容については次章以降で詳しく解説しますが、募集要項は、基本的に設計思想で作られるべきと言えるでしょう。
そもそも、採用サイトなどで人材募集を行う場合、明示しなければならない条件が「職業安定法施行規則」という法律によって定められています。まずは以下の内容を漏れなく埋めるところから始めましょう。
これらの項目は法改正などによって変更される場合もあるため、詳しくは厚生労働省の情報をご確認ください。
なお、単にこれらを募集要項に掲載すればいいという訳ではなく、書き方に注意が必要な項目もあります。
たとえば、性別や年齢を制限することは、特定の理由を除き、法律で禁じられています。また、人種・国籍、心身の障害・身体的特徴などによる制限も原則NGです。
厚生労働省が採用選考時に配慮すべき事項として掲げている、本人に責任のない事項(本籍・出生地、住宅状況、家族、生活環境・家庭環境など)、本来自由であるべき事項(宗教、人生観・生活信条、思想、購読新聞・雑誌・愛読書、支持政党、労働組合、社会運動など)についても、募集要項で触れるべきではないでしょう。
一方で、これらの内容と混同されやすいですが、学歴による制限は違法ではありません。「高卒以上」などを応募条件として募集要項に記載することは可能です。
転職サイトやハローワークの求人票と違って、採用サイトの募集要項には、決められたフォーマットや文字数制限がありません。だからこそ、最低限の情報しか書いていない企業も多いのですが、これは非常にもったいないことです。
前述のように、多くの求職者は採用サイトを訪れた後に募集要項を訪れます。そんな求職者に魅力的に感じてもらうためなら、どんな内容をどれくらいの量で書いてもいいし、自由にカスタマイズしてもいいのです。
とはいえ、自由だからこそ、「何を書けばいいかわからない」となる方も多いかと思います。また、求職者が求めているのはその企業のリアルな情報であり、着飾った情報を求めているわけではありません。自由に書けるからと言って、演出的な書き方ができるわけでもありません。
そこで、これまで数多の採用サイトを制作・研究し、試行錯誤してきた私たちの経験と、採用に力を入れている企業約30社の募集要項の比較調査を踏まえて、求職者に魅力的に思ってもらえる可能性が高い募集要項の共通要素を「募集要項のフレームワーク」としてまとめました。
以下に、それぞれについて、もう少し詳しく解説します。ちなみに私たちの募集要項もこの構成に従って作っているので、具体例が知りたい場合には、こちらも参照ください。
たとえ似たような職務内容だったとしても、「欠員補充のため募集」と「経営肝いりの新規事業のスターティングメンバ―募集」では、求職者が受ける印象が大きく異なります。また、同じような業種業態だと、業務内容や労働条件が他社と似た内容になりがちですが、募集背景は企業ごとの色が出やすいです。会社として、その職種をどのような存在として捉えていて、なぜ募集しようとしているのか、といった内容を詳しく熱量を感じさせるように書くことが、他社との差別化にもつながります。
近年の若い世代や、あるいはある程度のキャリアがあるハイクラス人材は、報酬や労働条件だけでなく、その会社や仕事の社会的意義を重視する傾向があるとされています。そのため、ミッションやパーパスがきちんと定義されているのであれば、募集要項に掲載しておきましょう。社会に対して何を成そうとしているかを明示することで、価値観がマッチした方からの応募が期待できます。
あえて現状の会社もしくはチームにおいて、どのような課題があるか伝えるのも効果的です。良い面ばかりではなく現実的な話をすることで、求職者に対して誠実な印象を与えられますし、入社後のギャップ軽減にもつながります。特に一定の経験やスキルを持ったキャリア採用の候補者は、会社の課題をネガティブなものではなく、自分の能力を活かして貢献できる余地として、ポジティブに受け取る傾向もあります。
後述する募集条件には、一般的には経験・スキル・資格など「ハード面」の条件が記載されます。一方、ハード面だけだとミスマッチが起こる可能性が高い場合は、行動や価値観など、ソフト面の要件も明示してしましょう。これが「求める人物像」です。ただし、経験や資格と違って、行動や価値観による要件は「自分が当てはまっているか」の判断するが難しく、ハードルを上げるような内容を書くと、機会損失が生まれやすいため、「求めすぎ」には要注意です。
求職者はよほど待遇が良かったり、すでに志望度が高い状態でない限り、業務内容のイメージが付かないと、その企業に応募しようという気持ちは生まれません。また、機械的に業務内容を伝えるだけでなく、その仕事の魅力や働く意義、やりがいが想像できる書き方を心掛ける必要があります。特に未経験者や他業界の候補者は、端的に仕事内容を書くだけではやりがいをイメージするのが難しいため、より丁寧に伝える必要があります。具体的にどんな仕事をするのか、その仕事をすることで、どんな喜びやプラスの経験が得られるか、実際に社員が何にモチベーションを感じているかなどを、募集要項の限られたスペースの中でも、可能な限り詳しく記載しましょう。
求めるスキルは「必須(満たしていなければ書類選考に通らない)」と「歓迎(満たしていると選考で優遇される可能性がある)」に分けて記載することをおすすめします。区別なく書いてしまうと、本当は歓迎レベルの要件を候補者が必須要件だと受け取って応募を躊躇してしまう可能性があります。基本的に、必須要件は応募者を絞り込む目的で可能な限り少なくする、歓迎要件は応募者との接点を広げる・背中を押す目的でなるべく多めに書くのがいいでしょう。
他社との違いがわかりにくい場合には、そのことをストレートに書いてみるのも、一つの手です。特に知名度が低いBtoB企業などは、業務内容や待遇を見るだけでは、その会社ならではの個性が見いだせない可能性があります。企業間の採用競争とは、突き詰めると差別化の競争でもあります。面接の場で求職者に「御社は他社と何が違うのですか?」と聴かれたと想定して、職場としての他社との違いを明確に言葉にして掲載しておきましょう。
知らない企業に関心を持つ際に、多くの求職者は期待以上に不安を多く抱えています。また、冒頭で引用した私たちの独自調査においても、「人間関係」が不安要因の最上位という結果になっています。人間関係は実際に入社しないと分からないことですが、「10名のチーム」「平均年齢は30歳」「未経験から入社したメンバーが多い」「リーダーは業界のベテラン」など、入社後の人間関係が想像できる情報を開示しておくことで、不安を軽減する可能性が高まります。また、キャリア採用においては、チームの規模や自分の役割は「活躍できるかどうか」を判断する上で重要情報になるため、できるだけ記載しておきましょう。
事業や仕事への興味以前に、働き方の面で譲れない条件を持っていて、その条件をクリアする企業から探しているケースもよく見られます。リモートワーク、フレックスタイム制、副業など、働き方に関する情報はできるだけ載せておいたほうが応募の確率を高められます。そうした「制度があるということだけでなく、「週何日まではOK」といった詳細なルールや実際の利用実態なども書けると良いでしょう。働き方については候補者から質問されることも多いため、事前に詳細な情報を開示しておくと、面接の効率化にもつながります。
特別な休暇制度や、資格取得や学習に対する補助、育児・介護への支援など、会社として整備している福利厚生は漏らさず書くべきでしょう。福利厚生によって応募を決める人は少ないかと思いますが、内容によっては他社との差別化要素になる可能性がありますし、平均的な内容だったとしても書いてあったほうが安心につながります。企業によっては「福利厚生をウリにすると保守的な社員の応募が増えそう」と考えて控え目に書きたがることもありますが、ある制度はできるだけ掲載して間口を広げ、保守的かどうかはその後の選考で見極める、と考えた方が良いでしょう。
入社後にどんな仕事を任されるかだけでなく、その先にどのようなキャリアが待っているかも求職者にとっては重要な情報です。想定されるキャリアアップ・キャリアチェンジの選択肢、平均的な昇進スピード、本人の希望の通りやすさ、会社からのキャリア形成の支援、実際のキャリア事例などを伝えられると、将来像をイメージしやすくなります。「入社〇年目で〇〇職」のような決まったキャリアパスがない場合も、社員のキャリアに対する考え方や実際の事例だけでも伝えられると良いでしょう。
これは先ほどご紹介した、「法的に義務付けられた項目」で構成される要素です。ここについては、一般的な募集要項に倣って、不足なく掲載するようにしましょう。
「書類選考→一次面接→課題→最終面接→内定」といった選考プロセスを事前に伝えることで、求職者の不安を払拭するとともに、適切な準備を促して面接の効率化にもつなげられます。選考プロセスを記載する際には、どのようなステップがあるかだけでなく、全体の選考期間の目安や、各ステップの関与者・内容・必要な準備、結果の連絡までの目安などを書いておくと良いでしょう。特にキャリア採用の候補者の場合、経済的な問題で、選考がどのくらいのスピードで進むかを不安に感じている人も多いです。
「面接時の服装はカジュアルでも良いですか?」「入社後の転勤はありますか?」など、求職者からよく寄せられる質問とその回答をまとめておくと便利です。これによって応募前の細かな不安を払拭できますし、事前に疑問を解消しておくことで面接の効率化にもつながります。他の項目で伝え切れなかった内容を、よくある質問の中で補完するという使い方もあります。
他のページへのリンクを自由に設置できるのは、自社サイトの募集要項ならではのメリットですから、最大限に活用しましょう。募集要項で概要は理解できるようにしつつ、事業紹介、職種紹介、社員インタビュー、プロジェクト事例、オフィスの写真、制度紹介など、より詳細な内容が書かれている採用サイトの各ページのリンクを設置しておきます。そうすることで、募集要項を見てすぐに応募の決断をしなかった求職者に、採用サイト内の回遊を促すことができます。
採用サイトにおける募集要項は、多くの求職者が最初に訪れるページであり、採用サイトから応募する際には必ずと言っていいほど通るページです。
こうした募集要項の重要性と役割を踏まえると、「採用サイトは募集要項を起点に作るのが良い」と私たちは考えています。まずは募集要項に載せる情報を整理し、そこに収まりきらない情報、を採用サイトの他のページのコンテンツとして作っていくのです。「採用サイトは募集要項の拡張版」「募集要項は採用サイトのサマリー版」と言ってもいいでしょう。
もし採用サイトの制作やリニューアルを考えているのであれば、まずは募集要項の改善や検討から始めて見てはいかがでしょうか?
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