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今回はSaaSにおけるUIデザインの重要性についてお話します。
近年SaaS市場は拡大を続けており、とくに2020年のパンデミック以降はリモートワークの普及によりクラウドソリューションの導入が進みました。
一方で大企業を含む多数の企業がSaaS市場に参入しており、競争は激化しています。快適なユーザー体験を提供しリテンション率を向上させるために、質の高いUIデザインは欠かせない要素のひとつです。
しかし直感的に魅力を感じにくいUIデザインのせいで、サービスの拡大に苦戦しているSaaSが多く見られます。こういったデザイン上の課題が生じる背景としては、以下のようなケースが考えられます。
UIデザインの改善が、経営課題と直結しているSaaSも少なくありません。上記の課題を解決できれば、事業の大きな成長を見込めるでしょう。
そこで今回は、SaaSがUIデザインに力を入れることで得られるメリットを改めて整理してみました。
SaaSのUIデザインは、SaaSが提供する機能をより有効に活用してもらうために施されるものです。しかし、UIデザインに問題があるとユーザーとの対話がうまく行かず、せっかく実装している機能を正しく使ってもらえない恐れがあります。
機能があることに気づいてもらえなかったり、本来の機能とは違う使い方をされたりした結果、「使いにくいプロダクト」とユーザーに認定されてしまうリスクが高まります。せっかく高度な機能を実装しても、それを引き出すUIデザインでなければ、機能やサービスの価値は理解してもらえません。
機能を正しく使ってもらうには、人が自然に使えるような配慮が重要です。インタラクションデザインを加えたユーザー目線の誘導や、初回利用時のチュートリアル画面の準備がその一例です。十分に考慮されたUIデザインが備わっていれば、ユーザーが機能の存在に気付き、きちんと使えるようになります。
さまざまな企業による利用が前提のSaaSは、いち企業の業務特性だけに合わせて作ることはできません。企業内の業務の完全な理解も困難なことが多いため、100%直感的に操作できるUIを作ることは、現実的ではないでしょう。
つまり、「ユーザーが迷うことを前提」としてUIデザインをする必要があります。ユーザーが迷う時間や回数を減らし、たとえ迷ってもユーザー自身での解決や学習ができるようにするのも、UIデザインの役割です。
マニュアルの用意や、ヘルプページの充実という方法もあります。しかしUIデザインを工夫すれば、自然な動線かつ最小限の労力で必要な情報に辿り着けるようにすることもできます。
例えば、難しい用語や機能にツールチップを併設すれば、解説がすぐ読めるようにできます。ユーザーが操作に失敗することを前提に、操作の取消しができるサービスも存在します。UIデザインを極めれば、セルフサービスに近い自己解決型のサービス提供が可能になります。
使い勝手を追求すると、機能やUIはシンプルになっていくものです。しかしながらUIデザインの方向性を見誤ると、反対にどんどん複雑になっていきます。そうして複雑化したUIは、ユーザーだけでなく開発にも悪影響を及ぼします。
各画面の個別仕様が多い複雑なUIにしてしまうと、当然実装の手間が増えます。テストの負担も増え、さらには開発コストを圧迫します。
優れたUIデザインには、「一貫性」があります。画面レイアウト、画面遷移の構造、インタラクション、そのすべてに一貫性があれば、メニューや機能が豊富であったとしてもユーザーは同じように使いこなすことができます。またコードを流用して実装を効率化し、テストを減らせるなど開発にもメリットをもたらします。
理想的なUIデザインは、ユーザーにとって使いやすいだけでなく、開発効率にも良い影響を及ぼすのです。
クラウド上で提供されているSaaSは、アップデートが容易という特性があります。そのため、激しい競争環境下にあるサービスは、改善サイクルを短期間で回していくことが戦略上重要になります。また競合が少ないサービスであっても、創業期にはPMF(プロダクト・マーケット・フィット)させるための高速な改善が不可欠です。
こう考えると、スピーディーに改善・拡張しやすいUIデザインであることは、SaaSの成長性を握る重要な鍵になります。
複雑なUIデザインは、初期の開発だけでなく、改善や拡張にも問題をもたらします。複雑なUIに合わせて実装されたシステムでは、改善してもその影響範囲が見えにくく、その都度大規模なテストが必要になり、改善サイクルのスピードを下げます。
公開当初は良いデザインであっても、改善・拡張時にデザインコンセプトを継承しないと、徐々に同様の問題を抱えたサービスになることもあります。デザインは最初も大事ですが、継続することはもっと大事です。
顧客がSaaSを導入する大きな目的は、クラウド環境を活用してインフラ投資や保守などのコストを最大限抑えて業務効率化することです。しかしながら、UIデザインに問題がありユーザーの利用が思ったように進まないと、その効果は得られません。それどころか、導入に対する社内の冷たい風当たりが生まれるケースもあります。
SaaS導入の意思決定をする責任者として何より重要なのは、現場の「使いやすい」という声です。しかも、明らかに実感できるレベルでなければなりません。また数値化された明確な効果も必要です。例えばSaaS化によって短縮される業務時間、学習コスト、サポートチームへの問合せ対応コストなどの削減数/削減率などが指標になるでしょう。
UIデザインの役割として求められるのは、見た目をスッキリさせて使いやすくすることだけではありません。ROIの観点から、明確な業務効率化につながる必要があります。これを実現するには、ビジネスとデザインの高度なバランス感覚を持ったUIデザイナーが不可欠です。
事業を成長させるうえで、ユーザーの声を収集することは非常に重要です。しかしUIデザイン的な問題が多いサービスに対してフィードバックを求めても、「このボタンのせいでミスをする」「2つの要素の見分けがつかない」など、初歩的な内容がそのほとんどを占めてしまいます。
ユーザーの本来の目的や心理が見えないまま、表面的なフィードバックに対して反射的に改善を行ってしまうことは避けましょう。UIデザインの一貫性がなくなり、システムはさらに複雑性を増し、結果的にサービスの価値を下げてしまう可能性が生じます。
ユーザーが適切な使い方をできる優れたUIであれば、「このような使い方もしたい」「こういう状況に対応できる機能が欲しい」など、サービスをさらに成長させるような建設的なフィードバックが得られるようになります。
マーケティング/インサイドセールス/フィールドセールス/カスタマーサクセスに分けて組織編成をする企業が増えています。これはSalesfoece.comが提唱した「ザ・モデル」と呼ばれるレベニューモデルに基づくものです。UIデザインの質は、この4つそれぞれのプロセスに影響を与えます。
例えばマーケティング。サービスのUIデザインに魅力がないと、展示会に出展してもブースへの集客に苦労するでしょう。競合との差別化ポイントが少ないありきたりなUIでは、広い会場で興味を持ってもらうことは困難です。これは展示会だけでなく、ウェブサイトやホワイトペーパー、メールマガジン、ウェビナーなど、あらゆるマーケティング施策で起こりえます。
逆に魅力的なUIデザインが備わっていれば、マーケティング施策を打ち出したときに成果が出やすくなるだけでなく、その後工程であるインサイドセールス/フィールドセールス/カスタマーサクセスにも好影響を与えます。
直感的に魅力が伝わるUIデザインはマーケティングを容易にし、顧客獲得プロセスをスムーズにする効果があるのです。
スイッチングコストが高いSaaSほど解約率は低くなる傾向にありますが、だからと言ってユーザーが不満を持っていないとは言い切れません。問題を放置すれば徐々に解約リスクは高まります。そして一度解約されると、ユーザーは二度と戻ってきません。
このような事態を回避するためにも、UIデザインは重視すべきポイントです。「使いやすい」というユーザーからの信頼が得られれば、他社員や他部門への展開も狙えますし、より高額なプランへの乗り換えも発生するでしょう。また提供元企業に対する信頼が生まれれば、他サービスのクロスセルも期待できます。
良質なUIデザインは、カスタマーサクセスチームにも良い影響を及ぼします。使い勝手がよく明解なUIデザインが備わっていれば、導入時のサポートも容易です。良質なデザインがユーザーとの直接的なコミュニケーションをサポートし、信頼関係構築の可能性を高めます。
アップデートが頻繁に行われるSaaSでは、機能優位性は長く続きません。そのため中長期的には、機能競争や価格競争に陥らない「ブランド力」が必要になってきます。
ブランドを構築するうえで、ブランド体験の一貫性は欠かせません。そのブランド体験の構成要素には、サービスの利用体験に大きな影響を与えるUIデザインも含まれます。
立派なカルチャーを持ち、洗練されたイメージを打ち出しても、肝心のサービスの利用体験がイマイチであればそのブランドは「大したことない」と受け取られてしまうでしょう。逆に、ブランドをきちんと体現した良質なUIデザインが備わっていれば、ブランドイメージがより強固になります。
強固なブランドは、顧客の離反を防ぎ、新規顧客の獲得を容易にし、競合との不毛な競争を回避させます。投資家にもポジティブな印象を与え、資金調達にも良い影響をもたらすでしょう。
ブランドは一朝一夕で作れるものではありませんが、ブランドへの影響も踏まえて、UIデザインを磨いておくようにしましょう。
現在の採用市場は明らかに売り手市場です。優秀な人材は引く手あまたで就職先に困らない一方、企業は優秀な人材の確保に苦労しています。このような企業側に不利な状況の中で、「明らかに使いにくく、見るからに魅力がない」UIのサービスを提供していることは、採用戦略にも暗い影を落とすでしょう。
優れたUIデザインを持つSaaSであれば、マーケティングやセールスがしやすくなり、成果ややりがいも感じやすくなります。エンジニアも、複雑で魅力に乏しいUIより、心の底から良いと思えるUIの方が開発する喜びを感じられるものです。そして当然、魅力的なUIが備わったサービスであれば、優秀なUIデザイナーからの応募も期待できるようになります。
良質なUIデザインは、顧客を引きつけ開発者を助けるだけでなく、優秀な人材獲得に貢献する可能性があります。
良質なUIデザインは、単にユーザーの使い勝手を良くするだけでなく、事業成長、マーケティング、ブランディング、資本戦略、採用戦略など、経営のあらゆる面に好影響をもたらすと考えられます。
これまでデザイン投資をあまり行わず、一方で事業に閉塞感や限界を感じているSaaS企業は、これを機に大々的にデザインを見直してみてはいかがでしょうか。