私たちにご相談ください
豊富な支援実績を持つ専門家が伴走します
無料で相談してみるデザイン思考やUXデザインの流行もあり、アイデア出しのワークは一般認知されるようになりましたが、文化として上手く取り込めていない企業もまだまだ多いです。
アイデア出しは、事前準備や結果分析を十分行ってこそ、質の高いアイデアを生み出す可能性が高まります。しかし、それが不十分だと、企業が求めるレベルのアイデアは生まれにくく、効果を実感できずに一度で止めてしまう企業も少なくありません。
そこで今回は、組織文化の問題、アイデア出しの方法に対する誤解など、アイデア出しの失敗の主な原因を16個にまとめました。
「新事業」、「既存事業の拡張」などの曖昧なテーマでアイデア出しを行うと、本来の議論とは外れたアイデアも多く出てしまいます。一見斬新に思えるアイデアでも、「会社が手を出せる領域ではない」、「膨大な投資が必要になる」などの基本的な理由で却下されるようなものばかりでは、せっかくの時間が無駄になります。
新規事業の創出が目的であれば、どういう社会課題、どういうユーザーの困りごとに焦点を当てるかを、あらかじめ設定しておきましょう。会社の関与の仕方、売り上げ規模などの方向性も設定しておくと、さらにテーマはまとまるでしょう。
既存事業の改善や拡張が目的なら、事前に現状の課題分析をしてからテーマ設定するのがおすすめです。例えば、「既存サービスのヘビーユーザーからよく受ける〇〇というクレームに対して、解決のアイデアを考える」といったようなレベルのことです。
課題解決によるサービスの目標(シェアを〇%伸ばす、顧客満足度を〇%上げる、クレーム数を〇%削減するなど)も明確にしておくと、アイデアの質がより高まるでしょう。
このように具体的なテーマが設定できれば、関係のないアイデアが減り、アイデア選定を効率化できます。選定の根拠も明確で、具体化に向けて議論しやすくなるでしょう。
アイデア出しの取組みは、組織の中で業務優先度が低くなりがちです。せっかく具体的なテーマを設定しても、多忙な参加者は、テーマを理解する時間がとれないまま、アイデア出しを行ってしまうことがあります。
理想は、アイデア出しのイベント以前に、参加者にテーマを具体的に伝える場を設けることです。これにより、参加者がテーマを意識するようになり、イベントまでの期間に関係する情報を無意識に集める「カラーバス効果」も期待できます。
事前にテーマを熟考できれば、アイデア出しでの議論も活発化し、アイデアの質も高まりやすくなります。参加者の事前準備も加味して、余裕のある計画を立てましょう。
テーマの背景を十分に把握しているのは、組織のメンバーです。組織に詳しくない外部の専門家に企画・運営まで任せると、前に言及した「テーマの曖昧さ」や「インプットの理解不足」を生む原因となります。
専門家に依頼する場合でも、企画・運営は組織の中から専任の担当を割り当てましょう。お勧めは、組織内に5名程度の推進チームを作り、企画~アイデア出し~収束~具体化の全てプロセスを一貫して行うことです。取組み全体の質を上げ、PDCAも回しやすくなり、取組みを組織に根付かせやすくなります。
アイデア出しのイベント自体も、専門家であるファシリテーターに全てを任せず、内容を理解している推進チームが参加者をサポートしましょう。大人数でのワークショップ形式で行う場合、1グループに推進チームのメンバーを1人入れましょう。
参加者の多様性を重視しすぎると、他部門、社外、エンドユーザーなど、イベントに人を多く招集しすぎてしまいます。私が過去に経験したアイデアワークショップでは、30名以上が参加したことがありますが、上手く機能しませんでした。
人数が多すぎると、テーマを全員に理解させることが難しくなります。ファシリテーターや推進チームが、全ての参加者に目を配り、フォローすることも困難になります。参加人数の多さがワーク中の集中力を削ぐ可能性もあります。参加者が多すぎることは、アイデアの質を高めるのに最適とは言えません。
参加者は、多くても15~16名(4人4チーム、5人3チームの構成)程度に厳選しましょう。各チームで保有スキル(マーケティング、営業、開発など)が固まらないよう分散し、アイデアの偏りを防いでいきます。
さらに、チームに1名は他メンバーを鼓舞できるリーダーシップのある人を入れておくと、チーム全体のアイデアの質を上げることができます。
有識者は、組織の誰よりも現状の課題を認識し、アイデアを内に秘めている可能性が高いです。アイデア出しは、この有識者のアイデアを昇華する場として活用されるべきですが、できていない企業が多いようです。
優秀な有識者ほど、多忙でアイデア出しに参加できません。既に自身でアイデアを持っているため、アイデア出しの取組み自体を懐疑的に見ている可能性もあります。
しかし有識者の意見は、アイデア発散の足がかりになります。他のアプローチがないか、目的に立ち返ると別のアイデアにならないかなど、議論を活性化させられれば、アイデアの質をより良くできます。有識者にアイデア出しの意義を正しく伝え、参加するよう働きかけましょう。
幹部はビジネス的な観点を熟知しています。貴重なアイデアが出る可能性が高いため、積極的に参加を促すべきです。
しかし、トップダウン型の組織では、幹部の一言がアイデアの決定を左右します。アイデアを対等に評価できなくなり、アイデア自体も出にくくなります。時に、影響力の強い幹部は、他の参加者のアイデアを殺し、ワークを仕切りだすこともあります。
企画やアイデア出しの意義を理解し、最後まで一緒に駆け抜けてくれる幹部なら、むしろ参加者に良い影響を与えます。計画段階で早めに協力的な幹部へ働きかけましょう。
取組みを始めた直後の組織では、参加立候補者が出にくいため、多忙なベテランより、若手が招集されやすい傾向にあります。しかし、これでは研修のような雰囲気になり、「何が何でも良いアイデアを出す」という気持ちが薄れてしまいがちです。
現に、アイデア出しに初めて参加した方は「こんなに大変だとは思っていなかった」とよく口にします。参加者には目的意識を持たせ、責任をもって臨ませるようにしましょう。良いアイデアが生まれたら、その事業を引っ張れる人材も指名できるとベストです。
アイデア出しは、堅苦しい場では議論が活性化しません。そのため、楽しくやることは重要ですが、楽(らく)をするという気持ちで臨まないよう、参加者のモチベーションを高める工夫をしましょう。
アイデア出しのイベントでは、優先業務が入ると、途中参加、途中退席をする人がよくいます。特に、外部との連絡で忙しい営業担当者などは、突然の電話で退席し、帰ってこなくなるケースも多いです。
アイデアワークショップは、集中と休憩を適度に与えることで高い集中力持続させる「ポモドーロ・テクニック」を利用して、プログラムが設計されていることが多いです。集中と休憩のサイクルがアイデアの質を高める鍵となります。
しかし、優先業務を抱えている参加者は、イベントの途中でもメール等をしており、アイデア出しに集中できていません。アイデア出しの合間にリフレッシュの時間も十分とれず、アイデアの質を低下させます。
また、途中参加する場合だと、テーマやアイデアの手法を十分理解できず、ついていけません。途中退席は、他の参加者の士気をも奪います。参加人数が流動的なイベントはアイデアの質に大きな影響を及ぼします。
これらの問題は、イベント会場を社外にすれば解決することも多いです。イベントでは業務PC、社用携帯電話の持込みを禁止し、参加者全員が集中できる環境を作ることをお勧めします。
どうしても途中参加・退席のリスクがある人は、参加させないことも選択肢です。しかし、忙しい人ほど重要な意見やアイデアを持っていることもあります。多忙で優秀な営業担当者などは、顧客のニーズを一番理解している可能性も高いです。参加させないというのは最終手段と考え、なるべく集中して参加してもらえるよう、事前の調整や根回しをしておきましょう。
グループワークでのアイデア出しでは、考えを整理する時間が十分にはとれません。そんな中、瞬発的にアイデアをアウトプットできる人は案外多くありません。特に、失敗を恐れる「ネガティビティ・バイアス」の強い人ほど、アイデアを簡単に外に発信することができません。
私が過去に経験したアイデアワークショップでは、アイデアを言いたそうな参加者が、チームの中で少し発言が出遅れただけで、自身のアイデアに自信をなくし、塞ぎこんでしまいました。
良いアイデアをアウトプットするには、1人で考える時間も必要です。グループワークばかりではなく、間に個人ワークを挟んだプログラムにすることをお勧めします。
ただし、個人ワークも制限時間が短いものばかりでは結果は変わりません。「気持ちに余裕をもって、長い時間考えたかった」という参加者の声をよく耳にします。敢えて1人で熟考する時間を設けることも、アイデアの質を高める方法の一つではないでしょうか。
アイデア出しのワークを無理に1日でやりきらず、複数日に分散させることも有効な手段です。一晩ゆっくり考える時間があるので、翌日のアイデア出しに良い影響を与えます。
イノベーティブな場では、自由な発想が重要です。だからといって、自由にしすぎると制御が効かなくなります。
多種多様な参加者が自由に発想すると、使えないアイデアが量産され、アイデア選定に時間がかかります。発想を阻害しない程度に制約を設けたり、利用する手法を変えたりする工夫が必要です。
実効性のある質の高いアイデアを求める場では、ビジネスやシステムを理解した少人数でアイデア出しをすることも間違いではありません。テーマの特性に併せて、企画をアレンジする力が求められます。
アイデア出しの結果はアイデア数で報告されることが多いです。しかし、報告を受ける人は、アイデア数の基準を知らず、厳密に評価するのは難しいです。
取組みを組織に根付かせる目的で、アイデア数を管理することは有意義ですが、常にアイデアの数に拘る必要はなく、数をKPIに設定する必要もありません。
一方で、「有用なアイデアが何割程度あったか」はあまり報告されません。質を評価してプログラムを改善する方が、イノベーションの打率を上げるためには重要です。組織での取組みが進んだ段階で、量から質へ評価基準を移すことをお勧めします。
アイデア出しに慣れていない組織では、アイデア全体を評価せずに多数決で選定してしまい、価値のあるアイデアが埋もれてしまうことがあります。
アイデア選定では、アイデアの採用可否を吟味するだけではなく、変換したり、掛け合わせて新たなアイデアを生む時間でもあるため、時間をかけて評価を行う必要があります。
アイデアを選定したら、顧客価値、実現可能性、コストなどの軸で、実行可否の優先順位をつけます。良いアイデアが少なかった場合は、テーマを絞って少人数で、再度アイデア出しを行うことも視野に入れます。
アイデア出し後の選定結果を共有しないと、参加者が取組みの意義に疑問を感じるようになります。そのまま取組みを継続しても、次のアイデア出しには協力してくれない可能性があります。
アイデア出しの結果を参加者に共有すると、取組みへの自身の貢献を実感でき、モチベーションを維持できます。自身のアイデアワークを見直すこともでき、アイデアの質を徐々に上げられるでしょう。
アイデアを参加者以外の組織全体に共有するとより効果的です。周囲からの注目度を高めることで、さらにモチベーションを高める「ホーソン効果」を利用します。参加者の当事者意識を高められれば、今後の活動にも協力してもらいやすくなり、新たな協力者を募る手助けも期待できます。
アイデア出しの機会が少ない組織では、失敗を恐れるあまり、実績のある手法しか使わなくなる傾向にあります。
アイデア発想法は日々の業務でも気軽に取り入れることが可能です。新しいアイデア発想法を積極的に試して、引き出しを多くしておけば、アイデア出しのプログラムを柔軟に設計できるようになります。
例えば、私は発散のやり方に悩んだ際、「オズボーンのチェックリスト」という発散観点と「マンダラート」を組み合わせてアイデア出しを試みました。
これは「マンダラート」のマスを使うことで、図の完成を強く意識させ、埋まらないチェックリストの観点を能動的に考えてもらう「ツィガニクル効果」を期待した工夫です。結果として、「アイデアを発散しやすくなった」という感想をもらい、改善の効果を実感できました。
アイデア出しに慣れていない組織で、すぐに良い結果を出すのは困難です。アイデア出しのスキルは習慣化することで鍛えられます。
しかし、大規模なワークショップを日々行うのは現実的ではありません。小規模なアイデア出しを定期的に行うことで習慣化しやすくなります。
ウォーターフォール型開発が主体の組織では、アイデア出し自体を日々行うことが難しいですが、以下のような取組みを行って習慣化する方法もあります。
ここまでの条件では、アイデアの質を高めるための重要性を中心に説明してきました。しかし、これら全てを気にしすぎると、真面目にやらなければと考える人もいるでしょうが、ここで注意が必要です。
クリエイティブ性の高いアイデア出しの場において、ストレスフルな環境は禁物です。ロンドン大学クイーン・メアリーが2018年に発表した研究(※)により、リラックス時に出る脳波であるアルファ波が、クリエイティブな発想を促進することが分かっています。
このアルファ波を出すには、自然の音や単調な音楽を聴いたり、柑橘系の香りやコーヒー・紅茶の匂いを嗅いだり、甘いものを食べたりすることが効果的と言われています。参加者をリラックスさせる環境を作ることも、アイデアの質を高める方法の一つです。
※出典:Right temporal alpha oscillations as a neural mechanism for inhibiting obvious associations
アイデア出しが得意な組織を作るには、「質の向上」と「組織文化への定着」の両面で推進していく必要があります。そのためには、根本的なこととして、以下の2点が非常に重要であると私は考えています。
このような活動を地道に続けていけば、価値のあるアイデアが生まれやすい組織が育っていくのではないかと思います。