こんにちは、ベイジのエンジニアのアマノです。
年末年始で「LEAN UX – アジャイルなチームによるプロダクト開発」を読んだので、レビューとレコメンドを兼ねた記事を執筆したいなーと思い立ち、本記事を書くことにします。
本記事のターゲットは以下のような人たちです。
アジャイルをやりたいけどできていない、移行しきれていない組織のデザイナー、エンジニア、マネージャー
本書は上記のような課題を持つ人たちが、プロジェクトの中でコラボレーションしながらうまく進めていくための最初のステップとして活用できる良書だと思います。
本書では、Lean UXというデザイン手法を通して、アジャイルなチームにおいてデザイナーがどのようにコミットしていくかというところに焦点を当てており、いわば「デザイナーのためのアジャイル実践本」という印象を筆者は受けました。
最低限のアジャイルの原則やスクラムなどの実践手法の概要程度の知識は必要ですが、アジャイル開発における細かなプラクティスなどについての理解はいらず、代わりにUXやチーム内のコラボレーション方法といった部分への関心があればサクサク読み進められるのではないでしょうか。
そういう意味では技術書の分類ながらも、デザイナー目線の書籍といえるでしょう。
あくまで筆者の見解ですが、アジャイル本は世に多くあれど、その中でもデザイナー目線の書籍はあまり多くない印象を受けます。
「アジャイルな開発をしているチームの中でどう振舞うべきか」を模索するエンジニア以外の職種にとっては何かしらのヒントになり得ると感じました。
職種を選ばずに読み進めることができるのが、本書の良い点のように思います。
本書全体を通して、組織が成果物中心の仕事の進め方から脱却しアウトカム、つまり「人間の行動変化による価値創造」を成功の指標にすることを説いています。
Web制作会社であれば、例えばFigmaによるワイヤーフレームやデザインカンプ、またはWebサイトそのものといった成果物の納品や公開を、プロジェクトの完了の指標にしてしまいがちです。
以前、弊社におけるあるプロジェクトにて、アプリケーションのモック及びUIコンポーネント制作を中心に支援したところ、顧客企業内で以下のような変化があったようです。
これはまさに、成果物(アウトプット)の先にあるアウトカムが明らかになったケースでした。
本書ではこのようなアウトカムを見据えたうえで戦略的にアウトプットを取捨選択していく重要性と具体的なプロセスについて説明しており、アウトカムの重要性を再認識することができた点が良かったと感じます。
また、本書の最後の方には「第18章:エージェンシーにおけるLean UX」ということで、弊社のような顧客企業からの依頼を受けてプロダクトを改善及び開発する、いわゆる受託の会社がLean UXを実践するにあたり求められる改革だったり、注意点などが記載されています。
まさに弊社においても心当たりのある課題や、その解決のヒントになりそうな内容が書かれており、非常に興味深く読むことができました。
自社でプロダクト開発をしているチームはもちろんですが、受託でUX改善などの業務を行う組織においても実践できそうな内容が書かれているのもポイント高めです。
本書は以下の構成となっています。
手法の紹介本としてはかなりオーソドックスな構成で読みやすいです。頭から最後まで順序通りに読むのが望ましいでしょう。
第1部においてLean UXは以下のように定義されています。
Jeff Gothelf, Josh Seiden著.坂田 一倫 監訳, 児島 修 訳, LEAN UX アジャイルなチームによるプロダクト開発.第3版,オーム社,2022,p.11.
- Lean UXとは、コラボレーティブ、部門横断的、ユーザー中心方法によってプロダクトの本質を素早く明らかにするためのデザインアプローチである。
- Lean UXの手法は、ユーザー、ユーザーのニーズ、ソリューション案、成功の定義についてのチームの共通理解を構築する。
- Lean UXは、チームの意思決定に求められる根拠を築き、プロダクトやサービス、価値の提供を絶えず向上させるために、継続的な学習を優先させる。
上記を前提として、以後の詳細な原則や2部以降の内容につながってきます。弊社でも関心の高いワードが並んでいますね。
2部では「Lean UX キャンバス」というツールを通じてLean UXの具体的なプロセスについて説明しています。この部分はいざ組織で「実践しよう」となった時に改めて読み込むのが良いと思われます。
このツールのオリジナルは著者のブログにありますが、有志の方がMiroやNotionでテンプレートを公開しているようなので、気になる方はご活用ください。
3部、4部では本記事の冒頭に述べた通り組織内でのコラボレーションの工夫や、組織改革の必要性について書かれています。
Lean UXとアジャイル開発を融合するうえで、「デュアルトラックアジャイル」や「デザインスプリント」などのアプローチが有効であることもこの辺りで言及されています。個人的に最も読み応えのある部分であり、組織内での役割を越えたコラボレーションの仕方については関心のある方も多いのではないでしょうか。
より詳細な要約及び解説はクラスメソッドさんのこちらの記事で非常に丁寧に為されており、大変わかりやすいです。筆者も読了後に拝見しましたが、より本書に対する理解が深まりました。(ありがとうございます)
こういった書籍を読んだ際にありがちなのが、「この本に書かれている内容を実践すればすべてうまくいく」といった盲目的な実践。
または、「本当にこれを実践すればうまくいくのか?」という疑問から生じる不実行だと思います。
本書にてLean UXとスクラムの接続について言及されていますが、スクラムの文脈でも「まずは型どおりにやってみる。そのうえで自分の組織に適合しないところを変えていく」ことを推奨されることが多く、Lean UXについても同じことが言えるのではないでしょうか。
冒頭でも述べた通り、本書は対象読者となる職種を選ばず読むことのできる良書であり、自組織の共通言語として機能すると思われます。
まずは輪読などを通して組織の中での共通理解を図ってから実践してみてはいかがでしょう。