プロジェクトやコンペにおいて、クライアントにデザインを提案する瞬間はいつだって緊張するものです。苦手意識を持っているデザイナーの方も多いのではないでしょうか。
本記事ではそんなデザイン提案における注意事項や、覚えておくとスムーズに進むノウハウや心構えについてまとめてみました。
構成としては、提案前日までの資料を作成したり練習したりといった「1.準備編」、当日実際にデザインを提案する「2. 実施編」、提案が終わった後の「3.事後編」といった具合に、時系列にそって要点を解説しています。
提案の機会が多いデザイナーや、それ以外の職能でもクライアントと対峙することの多い方には広く応用できる箇所もあるかと思いますので、是非参考にしてみてください。
資料にページ番号(ノンブル)がついていない場合、「〇ページをご覧ください」と具体的に該当ページを指し示すことができません。PowerPointなど自動ページ生成機能が搭載されている場合はそれを有効活用し、そうでないアプリケーションは手動で忘れずにページ数を記載するようにしましょう。
背景色が白いデザインを、背景色が白いドキュメントの台紙上にそのまま配置してしまうと、全体的にデザインと背景の区別が曖昧になってしまい、デザイン自体が引き立たなくなってしまいます。
こうした事態を避けるため、デザインに枠線をつけるか、あるいはドキュメントの背景色を変更するなどの処理を施しましょう。それだけでデザイン自体が引き立ち、資料がグッと引き締まった印象になります。以下に参考例を用意しましたので見比べてみてください。向かって左が枠線を施さないデザイン、右が枠線を施したデザインです。
できればデザインだけでなく、それを実際のデバイスやスクリーンにはめこんだイメージ画像を用意すると良いでしょう。提案された側はそのウェブサイトやアプリケーションの利用シーンをより明確にイメージできるようになります。ウェブ以外のデザイン提案でもよく行われる手法です。
デザイン提案に説得を持たせるためには言語化は欠かせず、資料にはある程度のボリュームは必要でしょう。
ただしあまりに資料自体が分厚くボリュームが多いと、提案を受ける側は身構え、気が削がれてしまうのも事実です。受け取る側の気持ちを考慮し、資料はできるだけコンパクトにまとめることはできないか、検討しましょう。
その上でどうしても長くなってしまった場合、資料の冒頭に目次や趣旨をまとめたものを用意するのも良いでしょう。聞いている方もまずは冒頭で全体像を把握できるので、より提案内容に集中してもらえます。
余裕があれば、デザイン資料に「お土産」があると、当日の提案がスムーズになるかもしれません。例えば、競合企業のデザインをマッピングしたマトリックス図、デザイントレンドなどを解説したブログ記事など。こうした補足資料がデザインの裏付けとなることもあるでしょう。
ベイジでは基本オンラインの会議を推奨していますが、プロジェクトやクライアントによっては会議もオフラインで行い、当日は資料を印刷して持参する必要がある場合もあるかもしれません。その際覚えておくと良いノウハウをいくつか挙げておきます。
紙や画像だけのデザイン提案の弱点として、当たり前ですが、アニメーションやインタラクションが解説しづらい点が挙げられます。ウェブはインタラクティブなメディアですので、実際の動きをプロトタイプとして可視化してあげると、より効果的なデザイン提案になるでしょう。
手段としては、XDやFigmaなどのUIアプリケーションに付随してあるプロトタイプ機能を有効活用しましょう。あるいは動画などを提案する場合は、CSSフレームワークを使って簡易にコーディングするのも手でしょう。当日、その場でスクリーンに写したり、デバイスを配布して操作してみるとインパクトも大きく実装のイメージもよりリアルに感じられ、提案の満足度も上がります。
当日は資料の全量を余すところなく伝えたいところですが、現実問題としてミーティングの時間は有限であり、また全て読み上げながら説明していくと冗長な印象になってしまう可能性もあります。
そのため、資料とは別に要点をまとめて抜粋したアンチョコ(カンペ、メモ)を手元に用意しておくのをおすすめします。当日の提案はそれを元に話を進め、優先順位が高いポイントを漏らさず伝えるようにしましょう。
アンチョコの内容は、ただのメモではなく、「ですね」「といったところで」「はい、それでは」のような些細な口語まで書いておくといいでしょう。要件だけ抜き出したメモだと、前後関係のつながりをその場で頭の中で構成しながら話すことになり、意外につまづきがちです。
そのような事態を避けるため、アンチョコにはいっそのこと自分の話し言葉や口調まで決めておき、それを丸暗記して当日に臨むと良いでしょう。
用意が整ったらリハーサルをおすすめします。誰か社内のメンバーをクライアントと見立ててプレゼンし、感想をフィードバックしてもらいます。また、提案に対する質問や疑問をメンバーに考えてもらい、当日想定されるやり取りを行ってみるのも良いでしょう。
予行練習にはストップウォッチは欠かさずに用意し、プレゼン時間を計測します。当日は準備など何かのトラブルが発生し、巻きで進行せざるを得ない場合も多いため、できれば想定の時間より少し短くまとめるように意識するのがおすすめです。
「練習は試合のように、試合は練習のように」というスポーツの格言がありますが、本番の方がえてして緊張し、本来の実力が出せないものです。そのため、本番で100%の力を発揮するためには、練習の時点で120%に仕上げておく必要があります。
例えば資料を暗記しておいて初めて、当日に資料を読みながらスラスラ淀みなく提案できるようになります。言い換えれば、練習の時点で資料を読みながら解説できる程度であれば、本番では辿々しい口調になってしまう可能性があります。時間が許す限り練習を繰り返し、プレゼンの精度を上げておきましょう。
デザイン提案に限らず社会人として当たり前のマナーですが、アポイントメントには遅刻しないようにしましょう。初めての場所なら余裕を持って家を出て、場所を確認したあと、近くのカフェやビルのロビーなどで待機しておくのがおすすめです。心に余裕が生まれ、落ち着いた状態で本番に臨めます。
デザイナーならファッションでも個性を出したいところですが、あくまでデザインの中身で勝負し、服装は無難にまとめましょう。
また、クライアントの世代や年齢によっては、ドレスコードを厳密に気にする方もいます。無用な偏見を避けデザインに注目してもらうために、個人的にはあまりラフすぎる格好は避けることをお勧めします。
開始前に時間があれば、クライアントの商材を使用した感想や、その業界での体験を交えると良いでしょう。アイスブレイク代わりになりその場が和みますし、緊張も解れます。
当日はいくつかトラブルがつきものです。代表的なものとその対応策を上げておきます。
提案が始まったら早速デザイナーは自身の成果物を言語化し、解説したいところですが、クライアントによってはデザイナーの意図や設計背景は一旦省略し、まずは先入観抜きでそのデザインを閲覧・操作し評価したい方もいます。
そういったケースでは、提案が始まってまずはじっくりデザインを確認いただき、その後は質問に応える形で解説してもいいかもしれません。プロジェクトに応じ、このあたりは柔軟に対応しましょう。
デザイン=設計であり、情報設計(ワイヤーフレームなどで議論される要素の有無や位置)とビジュアルデザインは密接に関わり合っています。
ただしデザインを解説するときにこの2つを混ぜて解説してしまうと、議論の焦点がずれてしまう恐れがあります。情報設計とビジュアルデザインは意識的に分けて解説するようにしましょう。
またその際、クライアントなど非デザイナーのほとんどは情報設計とビジュアルデザインとの違いを意識しているわけではありません。現在説明している箇所は情報設計のことを指しているのか、それともビジュアルデザインのことを指しているのか、明確に区別し補足してあげるようにしましょう。
例えばボタンの色について述べた後、テキストの色について解説したりしてはいないでしょうか?あるいはフォントの種類やサイズについて、いろいろなコンポーネントにおいて言及していないでしょうか?
このように「色」や「文字」など、デザインのいろいろな箇所で同じ要素を繰り返し説明をしてしまうと、提案の体系化が崩れ、聞いている側も全体像を理解するのが困難になってしまいます。
対応策としては、まずは大きな方向性(基本方針)から細部の解説 (詳細方針)、そして具体的なコンポーネントについてと、デザインの方針を解像度を上げ具現化しながら順序立てて解説することをおすすめします。そのための区分の一つの例を上げておきます。活用してみてください。
デザインの説明には、一見華やかで耳障りはいいものの、よく読むと説得力に欠けている言い回しが混在していることも少なくありません。
以下にそのような本質でない解説例を挙げてみます。安易にこういった説明を盛り込んでいないでしょうか?振り返ってみましょう。
まず例として、以下のデザインに対する説明を2種類用意しました。ご確認ください。
説明A:青をメインカラーとしたことで、ユーザーに信頼感・安心感を醸成します。人と都市のイメージを重ね合わせ、余白を活かした精緻なレイアウトを施すことで、サービスとしての質の高さを強調します。キャッチコピーには英語を施し、知的な印象を訴求します。
説明B:青はCIカラーから引用しました。色数が多いと配色ルールをまとめにくくなるため、青以外は極力使わないようにしています。大企業のビジネスマンがターゲットであるため、保守的で落ち着いた印象を与える配色でまとめました。メインビジュアルについては、都市のイメージと人のイメージを結びつけ、御社の印象を表現してみました。ただしメインビジュアルは、機能的な効果が見出しにくい領域であるため、最終的には好みの問題になると思います。
いかがでしょうか。説明Aは一見それっぽくまとまってはいますが、青がなぜ安心感に繋がるのか、なぜ精緻なレイアウトがサービスとして質の高さを演出できるのか、よく読むとロジックが繋がっておらず曖昧です。
一方、説明Bは客観的事実と、そこに立脚したデザイナーの設計意図のみを忠実に述べています。また、写真についての所感も「好みの問題」と正直に打ち明けています。結果、説明Aよりも真摯で中立な解説になっていることがお分かりいただけると思います。
このようにまずはロジカルな解説になっているか、自分の都合のいいように論理を飛躍・歪曲して無理な理屈を捏造していないか、意識してみましょう。
その一方、どうしてもデザインは感性に委ねてしまう表現があるのも事実です。その場合は無理に理屈を重ねず、自分自身の主観・感性に依るものであることを伝えます。主観はネガティブなことではなく、議論活性化のための材料として活用しましょう。
複数案を提示する場合、バリエーションを提示するだけだと、提示された方は判断基準が分からず、困ってしまいます。それぞれの案を作成した意図、そこにあるメリットやデメリットなど、選定する上での基準を盛り込むようにしましょう。
ボタンを大きくしたから目立たせました、キャッチコピーを明朝体からゴシック体に変えました。こうした説明はデザインを見ればわかることであり、改めて時間を使ってくどくどと説明する必要はありません。
クライアントが知りたいのは「なぜそうしたか」「それによってどういう効果が期待できるか」といった観点です。デザインそのものの「状況」ではなく、その背景にある「意図」を解説できるようにしましょう。
一つのデザイン全ての要素について、満遍なく等しく時間をかけて説明する必要はありません。そのデザインの中で特に自分が気に入ってる箇所があれば、そこは思い切って強調してアピールするのも作戦の一つです。
苦手なところを説明するより上手くいった箇所を強調するように振る舞うと、話し方も流暢になり、良い提案になるでしょう。
プロジェクトである以上、現実的なQCD(クオリティ・コスト・デリバリー)を念頭に入れて進行しなくてはいけません。
しかしその一方で、我々の仕事は納期にさえ間に合えばいいといった種類のものでもありません。まずはものづくりのプロとしてクオリティにこだわるべきであり、プロジェクトの中ではまずはプレイヤーであるデザイナー自身がその役割を担いましょう。
現実的なコストやデリバリー(予算や工数の話)はディレクターやプロジェクトマネージャーが担ってくれるはずです。そういった関係性や役割分断ができていると、制作と進行管理側とでバランスの取れた、理想的なプロジェクトチームと言えます。
デザインを提案し見てもらったあと、早速議論を始めたいところですが、提案された側も身構えている状態です。専門家を前に的外れな指摘をしてしまわないかと、心配しているクライアントもいるかもしれません。
活発な議論を引き出すために、まずは一旦ハードルをさげ、率直にどう思われたか、第一印象の感想をフラットに伺うように振る舞いましょう。まずはその場の緊張感を緩和させ、議論を始められる空気作りに努めます。
また、見た目の第一印象には、作り手が見落としがちな新鮮な視点が紛れていることも多くあります。特にその場で初めて出席される方がいれば、貴重なユーザテストにもなるでしょう。率直な第一印象を是非有効に活用しましょう。
議論が活性化した場合、それを収束させる軸が必要であり、多くの場合、デザイン方針やサイトコンセプトがそれに当たるでしょう。関係者間でデザインのあるべき姿が曖昧になりそうな場合は、うまく前提条件へ誘導し、決定する上での拠り所を提示しましょう。
議論が紛糾した場合、デザインの当事者としてその場をファシリテートするように振る舞いましょう。その場合、いきなり民主的にいろいろな意見を統合するのではなく、まずはプロフェッショナルとしてあるべき判断を下しましょう。クライアントもデザイナーを単純な御用聞きではなく、戦略的なパートナーであることを望んでいるはずです。
上記と矛盾していますが、一方で専門家故に厳密な用語にこだわりすぎて、今本当に議論すべき話題からずれてしまうことがないようにしましょう。多少ディテールがあやふやであっても、まずはこの議論で握るべき大きな流れやポイントにフォーカスすることのできる視野の広さもまた重要です。
デザインは時にトレードオフであり、何かを獲得することで何かを失うこともあります。例えばあるボタンを強調すると当然他の要素は目立たなくなるし、見栄えを重視するあまり運用や更新に手間がかかってしまう設計になってしまうかもしれません。
そういった場合、メリットだけではなく、それに合わせて想定されるデメリットも伝えるようにしましょう。作り手として都合の良い一面しか伝えないのは、公平さに欠ける振る舞いです。
デザイナーはデザインの専門家です。当然デザインの議論になれば、知識においてはデザイナーに分があります。ただし提案において、クライアントは打ち負かす相手と想定し、そこが論破するだけの場になってしまってはいないでしょうか。
デザインは勝ち負けではなく、人は必ずしも正論で動くわけでもありません。単純な正しさだけでは推し量れない、様々な事情を抱えている場合もあります。あるべき姿や正論を訴えた上で、相手側の事情も察してみましょう。その懸念点や事情を汲み取り解決できるアイデアを提案してこそ、ホスピタリティのあるデザイナーと言えます。
これもデザインに限った話ではありませんが、質問にはまずはYES/NOで返すようにしましょう。聞いてる方は結論がわからないとまどろっこしく感じてしまいます。理由や論理はあくまで結論の後、解説しましょう。
なかなか結論が出ない場合、最後はその場でグラフィックツールなどをスクリーンに投影して作業し、イメージをすり合わせるのも一つの手でしょう。ビジュアルとして具体化することで、議論で曖昧だったポイントが明確になります。
クライアント側にもいろいろな性格の方がいます。複数人担当者がいる場合、あなたのデザインを気に入り、ニコニコ聞いてくれる人もいるでしょう。
そういう方を見つけたらチャンス。意識してその人に向けて語りかけるように提案してみましょう。こちらの気分も乗るし、波長効果で場が和んでいきます。
事前に名刺などが頂けた場合はすぐに覚え、そのまま提案中その方を名指しで呼んでみると好印象です。名前で呼んでもらえるということは自分に興味関心を持ってもらえたという証拠でもあります。
クライアントのプロジェクトメンバーの立場は様々で、それぞれに思惑があります。提案の流れの中で、その方ごとの悩みを解決してあげるような形に持っていくのもデザイン提案の手法の一つです。
以下にそれぞれの代表的な担当者ごとの悩み・注目ポイントを挙げてみました。
デザインに限りませんが、自信がない人の口調はどこかあやふやで頼りなく、聞いてる側は良い印象を持たないものです。その結果、提示されているものの品質の印象は悪くなりがちです。まずは空元気でも構いません、作った人間として堂々と話し、振る舞うようにしましょう。
緊張は誰でもするもの。緊張を取り除くのではなく、まずは自分の緊張の特徴を把握し、その対策をとっておくようにしましょう。例えば声が震えるなら発声練習をする、汗をかきやすいのならハンカチを用意するなど。それだけで随分と心に余裕が生まれます。
特に経験が浅いうちは、振り返り・ラップアップは欠かさず行いましょう。同行者に感想を聞くのも良いですし、録音しておいて後で振り返るのも有効です。
「鉄は熱いうちに打て」という言葉がありますが、提案当日中に資料一式はデータでお送りしておきましょう。記憶が鮮明なうちにデザインが手元にあると、見返してくれる可能性も高いです。
その際、当日の提案で話しきれなかったことがあれば、その補足も添えて送りましょう。
資料のPDFやPowerPointだけでなく、デザイン画像データのみも切り出して送りましょう。ブラウザ上で実寸サイズを確認したりする上で便利です。
以上、より効果的なデザイン提案を実現させるためのポイントを、事前・最中・事後の3つの時系列に分けて説明してみました。
全ての工程にこの通り実行すると大変ですし、我々もプロジェクトにおいては省略する箇所もあります。まずは気軽に取り入れられそうな箇所から参考にしていただくことをおすすめします。
デザインを作った後は、そのデザインを提案する体験をデザインすることも、デザイナーの重要な役割の一つと言えるでしょう。
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