すべての働く人におくるストレスマネジメントの基本

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代表/マーケター/デザイナー/ブロガー枌谷力

仕事は挑戦の連続です。経験を積み、スキルが上がり、評価されるほど、難易度が高い仕事に関わるようになります。そこには必ず苦難があり、ストレスが待ち構えています。

ストレス学説の生みの親であるカナダ人生理学者のハンス・セリエ氏は、「ストレスは人生のスパイスである」という名言を残しています。確かにストレスは必ずしも悪いものではありません。

例えばパフォーマンスとストレスレベルは、逆U字の関係にあります。あるレベルまではストレスレベルの高まりに従ってパフォーマンスは向上し、あるレベルを超えるとパフォーマンスは低下します。この法則は心理学者ロバート・ヤーキーズとジョン・ドットソンの名前を取り、「ヤーキーズ・ドットソンの法則」と呼ばれています。ヤーキーズ・ドットソンの法則

この法則に従えば、仕事で高いパフォーマンスを発揮したいなら、ストレスをゼロにするのではなく、適度なレベルにコントロールしなければなりません。そのために必要なのが、ストレスマネジメントという考え方です。

コロナ禍とテレワークは、ストレスマネジメントの必要性を加速させました。テレワークは経済性の面で多くのメリットがある半面、全ての人に心地よい労働環境を保証するものではありません。事実、適量を超えたストレスによってメンタルヘルスの問題が各所で噴出、「テレワークうつ」という言葉も生まれました。

私たちの会社でもテレワークが続いていますが、そんな中、経営者である私自身が率先してストレスとメンタルのことを学ぶ必要があると感じ、メンタルヘルスマネジメント、ウェルビーイング、認知行動療法、マインドフルネスといったジャンルの書籍を読み漁りました。その上で、社員向けにストレスマネジメントの研修を実施しました。その内容をまとめたのがこちらの記事になります。

なるべく短くまとめようとしたものの、それでも35,000字を超えてしまいました。そのため、興味のあるテーマから読んでも分かるように全体を構成しました。

ここには働くすべての人に知ってほしいことが詰まっています。この記事が一つのキッカケとなり、ストレスやメンタルヘルスの正しい理解が広がることを心より望みます。

なお、私自身は一企業の経営者に過ぎず、メンタルヘルスの専門家ではありません。この記事も、書籍の引用とそれに関連する私の考えをまとめただけのものです。

明確にお伝えしたいのは、メンタルヘルスに関する深刻な問題を抱えている方の解決にこの記事は不十分ということです。そういった方はこの記事ではなく、専門家を頼ってください。そして専門家の言葉を優先してください。

これはあくまで、深刻な疾患を抱えていないビジネスパーソン向けの、自己管理・自己啓発・組織マネジメントのための情報です。そのことを前提にご覧いただければ幸いです。

幸せの定義

本題に入る前に、なぜ私たちはストレスマネジメントを学ぶ必要があるかということを、人生における「幸せ」の観点から解説します。

この章の参考書籍

幸せの研究

幸せの定義は人それぞれ。自分で決めることであり、他人に定義されるものではない。そう思うかもしれません。

確かに、大脳が発達した人間は、人によって多種多様な価値観を持っています。沢山の人と出会う刺激的な毎日を好む人もいれば、気の知れた数少ない人と穏やかに過ごす毎日を好む人もいます。

こうした人それぞれの価値観は当然尊重されるべきです。一方で、人は皆同じ遺伝子構造を持ち、数百万年、数千万年かけて形成された社会性動物として共通の本能や欲求を持ち合わせてもいます。例えば、人は皆何らかの形で幸福になりたいと思っています。これもまた人に共通する欲求といえます。

身体的・精神的・社会的に良好な状態にあることを意味する概念を、英語では「Well-Being(ウェルビーイング)」といいます。日本語では「幸福」と訳されます。そして人間が共通して持つ幸福を希求する心理を理解しようと努める学問が、幸福学です。

幸福を研究する活動は古代ギリシャ・ローマ時代から行われていました。今は世界各国の幸福研究者が作り上げた数百の論文があり、その周辺領域の研究者が提唱する考えも含めると、無数の理論や法則、考え方が存在します。この記事の主題はストレスマネジメントなので、幸福学を徹底的に深堀ることはしませんが、ストレスマネジメントを学ぶ上で知っておくといい、幸福に関する3つの考え方を紹介します。

2つの幸福タイプ

ベストセラー『予想どおりに不合理』で有名な行動経済学者ダン・アリエリーは、『幸せをつかむ戦略』の中で、幸福は大きく2つのタイプに別れると述べています。

「幸福タイプ1」は、比較的ラクに手に入る幸福です。睡眠欲、食欲、性欲、知識欲など、人間の根源的な生理的欲求や快楽が即座に満たされるタイプの幸せです。温泉に入る、大好きな音楽やゲームを楽しむ、マッサージを受ける、海辺に座ってモヒートを飲む、などはすべて「幸福タイプ1」になります。また、宝くじに当たった、競馬で勝った、運よくいつもより安い買い物をした、といった「得をした」「運が良い」と感じる快感もここに含まれます。

「幸福タイプ2」は手に入れるのが難しく、継続的な努力を必要とし、時には苦痛を伴います。途中過程には幸福でないように見える瞬間もあります。フルマラソンを走り切る、困難な仕事をやり遂げる、子供を育てるといったように、時間と忍耐を必要とし、その過程には少なくないストレスがあります。しかしそれらをやり遂げた時、達成感、満足感、多幸感、自己肯定感、充足感、他者への愛情・仲間意識などが芽生えます。

アリエリー氏は、国家が守るべき幸福は主にこの「幸福タイプ2」であり、人生においてより重要なのもこの「幸福タイプ2」であると語っています。

地位財と非地位財

イギリスの心理学者ダニエル・ネトル氏が提唱する「地位財」「非地位財」という考え方は、アリエリー氏の幸福タイプの考え方と少し似ています。

地位財と非地位財

「地位財」による幸福とは、周囲との比較によって優越感を感じた時に得られるものです。年収、出世、評価、地位や権力、高価なものを所有することは、個人の成長や進化、生存競争の上では時に不可欠ですが、手に入れた瞬間がピークで、それ以降は幸福感が失われる傾向にあるのが特徴です。

「非地位財」による幸福は、他者との比較と関係なく得られるものです。健康、人生における主体性、社会に貢献している実感、円満な人間関係、自由などがこれに当たります。「非地位財」で得た幸福感は長続きする傾向にあり、より幸福な人生を送るのであれば非地位財に目を向けるべきだと、ネトル氏は語っています。

幸せの4因子

『幸せのメカニズム』『幸せな職場の経営学』『実践ポジティブ心理学』等、幸福学に関する多数の著書がある慶応義塾大学教授・前野隆司氏は、独自の調査方法で因子分析を行った結果、人の幸福感に影響を与える4つの因子を突き止めました。それが「やってみよう因子」「ありがとう因子」「なんとかなる因子」「ありのままに因子」で構成された「幸せの4因子」です。

幸せの4因子①

「やってみよう因子」とは、自己実現と成長の因子です。有能であるという自信、社会に貢献している実感、大きな目標を持ち、そのために日々学習・成長をすることが、幸せに繋がります。やってみよう因子が強い人は自然と行動量が増え、チャンスを手にしやすくなります。たとえ失敗を経験しても、目標に対する意味を考えて「またやってみよう」と肯定的に捉えることができます。

「ありがとう因子」とは、他者との繋がりと他者に対する感謝の因子です。感謝を伝えたり、喜ばせたりするほど、自分も愛情を受けていると感じ、幸福感が高まります。ありがとう因子が強い人は、周囲への感謝を認識し、自分の人生は充実していて幸福だと捉えることができます。

幸せの4因子②

「なんとかなる因子」は、前向きと楽観の因子です。物事がうまくいかない時も自分ならなんとかできると考え、不安やネガティブな感情に引きずられません。この因子が強い人は、自己実現感や他者との繋がりが足りなくても、そのうちなんとかなると考えられます。幸福を実感する上ではもっとも重要な因子ともいえます。

「ありのまま因子」は、独立とあなたらしさの因子です。他者と比較せず、自分らしさをしっかり持ち続けることができます。ネトル氏がいう地位財に惑わされることなく、自分らしくあることを大切にし、そのことで満足できる因子といえます。

これは偉人が語る精神論や自己啓発論ではなく、専門家が科学的に研究した結果です。そしてこの4つの因子のすべてが、ストレスとも強く関係しています。つまりストレスマネジメントの観点から見ても、この4つの因子は重要なカギを握っているというわけです。

幸せな人生とストレスマネジメント

ダン・アリエリー氏の幸福タイプ、ダニエル・ネトル氏の地位財/非地位財、前野隆司氏の幸せの4因子という考え方を踏まえた上で、幸福な人生とストレスマネジメントの関係を私なりに整理してみました。

幸福度を上げるためのロードマップ

まず、幸福度の高い人生にするには、アリエリー氏のいう「幸福タイプ2」を基本にすべきでしょう。苦労や困難が避けられず、時間もかかるが、達成感や自己実現感、他者との繋がりが感じられること。そこにできるだけ時間を投じます。その価値観の中心には、健康や人間関係といった「非地位財」を重視する考えを置きます。

ただし、「幸福タイプ1」や「地位財」を否定する必要はありません。「幸福タイプ1」は、ストレスをうまく解消する効果があります。お金や名誉などの「地位財」を追うことで湧き上がるエネルギーは、モチベーションに繋がります。「幸福タイプ1」も「地位財」も、適度に活用すれば人生の良い潤滑油になりえます。

こうした「幸福タイプ2/非地位財」を中心としつつ、「幸福タイプ1/地位財」を上手に活用する。その根底に「幸せの4因子」の考え方を持つ。このような考えを持った上でストレスマネジメントの理論と実践を学ぶのがいいと、私は考えます。

ストレスの理解

ストレスマネジメントには、当然ながらストレスの正しい理解が必要です。そこでこの章では、ストレスとはそもそも何なのか、ストレスはどうやって発生し、どのようにして心や体に影響を与えるのか、ということについてお話しします。

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ストレスの定義

私たちは日常会話の中で「ストレス」という言葉を2つの意味で使っています。「ストレスが溜まっている」という時は、実体がない感覚のことをストレスと呼んでいます。「この仕事がストレスだ」という時は、ストレスが溜まる原因そのものを指しています。

心理学における正式な定義では、前者を「ストレス」、後者を「ストレッサー」、ストレスによって引き起こされる様々な変化のことを「ストレス反応」と呼びます。

ストレスの作用

つまりストレスマネジメントとは、健康的な生活を維持するために、「ストレッサー」が「ストレス」となって「ストレス反応」を引き起こす一連のプロセスに対して行う活動、と捉えることができます。

ストレスと身体機能の関係

私たちの心や身体は常に一定のバランスを保つように調整されています。これをホメオスタシス(恒常性)の維持といいます。ストレスが溜まってくると、このホメオスタシスが崩れ、健康であるためのバランスが取れなくなり、様々な症状が表面化します。

このホメオスタシスの維持に最も強い影響を与えているのが脳です。一方で体には、脳に頼らず自律的・分散的・自動的に制御できる仕組みがいくつも備わっています。その代表的な仕組みが、自律神経系、内分泌系、免疫系という、いわゆる生体機能調整系と呼ばれているものです。

体の仕組み

自律神経系は、交感神経と副交感神経からなります。交感神経はアクセルのようなもので、血圧や脈拍を上昇させて体を戦闘モードにします。逆に副交感神経は呼吸器や循環器の働きを抑えて体を鎮静モードにする、ブレーキのようなものです。通常はこのアクセルとブレーキがうまく働き、心身は健康な状態を保つのですが、ストレスが溜まってそれぞれの働きが過剰になると、心身に悪影響を与え始めます。うつ病や不安障害も、この自律神経系と深い関わりがあります。

内分泌系は、甲状腺や副腎などの内分泌腺から血液に分泌されるホルモンを司っています。例えば、交感神経の影響で興奮状態が続くと、アドレナリンというホルモンが作用し、血圧や脈拍の上昇をもたらします。他にもノルアドレナリン、オキシトン、テストステロンなど、体の中には無数のホルモンが存在します。ストレスが溜まり内分泌系が正常に働かなくなってホルモンバランスが崩れると、肩こりからメンタルヘルス不調まで、心身に様々な影響を与えるようになります。

免疫系は、白血球やリンパ球からなるネットワークを全身に張り巡らし、細菌やウイルス、がん細胞といった異常細胞の攻撃から体を守ります。健全な状態ではこれらの異物を自動除去しますが、ストレスが溜まって免疫系が弱まると自己回復ができなくなり、様々な症状が表面化してきます。風邪の症状が出てくるのはその典型です。ストレスで免疫系が弱い状態が長期間続くと、癌の発生や進行を助長するとも言われています。

ストレスを原因とする不調の多くは急激な変化として現れず、自覚症状がないまま進行します。それは自律神経系、内分泌系、免疫系のそれぞれが複雑に影響しあいながら、緩やかに影響を与え続けた結果として起こるからです。

物事の捉え方によるストレスの変化

ストレスのメカニズムを理解すると、ストレッサーを除去するのがストレスマネジメントの最初の一手に思えるかもしれません。しかし前章『幸せの定義』でお話ししたように、幸福な人生に困難や苦痛は不可欠であり、常にストレッサーを除去できるわけではありませんし、ストレッサーを除去することが最善の選択になるわけでもありません。

そこで注目したいのが、生体機能調整系に指令を飛ばす中枢神経系への働きかけ、つまり、中枢神経系の中心にある大脳を起点とした「ストレッサーの受け取り方を変えてストレスを減らす」といった発想のストレスマネジメントです。

ストレッサーの捉え方次第で生体機能調整系の働きが変わることは、医学的に証明されている事実です。

対処法と傾向

上記の表にある「頑張る系」の対処を行うと、交感神経が活性化して血圧が上がり、心臓血管系の身体的ストレスが上昇します。一方で「我慢する系」の対処では、落ち込みや不安など、心理的ストレスが増加します。

「肯定的解釈」は、落ち込み・不安・無気力といった反応を軽減させる傾向にあり、逆に「責任転嫁」は、いらだちを増強する(少しのストレッサーでも多くのストレスを感じてしまう)傾向が見受けられます。「人のせいにせずに前向きに捉える」というのは精神論のように思われがちですが、実は脳科学的に見ても合理的なのです。

このように物事の捉え方によって、身体的ストレス反応・心理的ストレス反応が変わるという仕組みが体にはあります。「意識する」というと精神論のように聞こえますが、意識の仕方によって脳や生体機能調整系の働きが変わり、それが心身に影響を与えるというのは、科学的に立証されていることなのです。

このようなストレスのメカニズムを知った上で改めて整理すると、ストレスマネジメントとは、以下の3つの観点を組み合わせてストレスを最小化していく活動だということが分かります。

  1. ストレッサーを除去・軽減する(例:ソーシャルサポート、ストレッサー除去型のコーピングなど)
  2. ストレッサーの捉え方を工夫してストレスを軽減する(例:認知行動療法、マインドフルネスなど)
  3. 生体機能調整系によるストレス反応を軽減する環境を作る(例:生活習慣の改善、リラクセーション、運動など)

メンタルヘルスに影響する3大ホルモン

ストレスやメンタルと関わりが深いホルモンについても紹介しましょう。

重要な3つの物質

「幸せホルモン」と呼ばれるセロトニンは、精神の安定や安心感、平常心、頭の回転、ストレス耐性などに影響があると言われています。セロトニン不足になると、慢性的ストレス、疲労、イライラ、向上心低下、仕事意欲低下、協調性欠如、うつ、不眠といった症状が現れます。そのためうつ病や不安障害の薬物治療では、セロトニンの分泌を促す薬がよく使われます。

セロトニンを増やすためには、日光浴、歩行、咀嚼、意識的な呼吸、人との触れ合いを生活の中に取り入れることが効果的です。また食事では、カツオ、マグロ、乳製品、大豆製品、ナッツ類、バナナが効果的と言われています。セロトニンの90%は消化管、特に腸に存在するため、腸内環境を整えることも重要です。

ちなみに日本人の65%はセロトニンが不足しやすい遺伝子を持っており、先進国の中でももっとも高いそうです。島国の中で不安遺伝子が温存されてきたなど、理由は諸説がありますが、日本人は遺伝子レベルでうつ病や不安障害になりやすい国民と言えます。

「愛情ホルモン」と呼ばれるオキシトシンは、幸福感、ストレス緩和、恐怖や不安の軽減、他者への信頼感、社交性を高めます。オキシトシンが増えるとセロトニンも増えると言われています。以前は女性特有の母性愛の元になる物質と思われていましたが、性別、年齢を問わず、誰でも分泌することが分かっています。このオキシトシンを増やすためには、家族とのスキンシップ、親しい人との会話、食事、ペットとの触れ合い、人にやさしくする、映画を見て感動するなどが有効です。

「やる気ホルモン」と呼ばれるドーパミンは、達成感、快感、喜び、感動、幸福感を向上させます。ドーパミンが活性化されると、学習能力や仕事能率の向上が期待できます。ドーパミンが不足すると、やる気の消失、記憶力や作業能率の低下、無関心などを引き起こし、ストレス耐性も弱くなります。ドーパミンを増やすには、小さくても成功体験や目標達成、ご褒美などの精神的報酬を得ること、大豆製品、乳製品の食事を摂ることが有効とされています。

3種類のストレス反応

ストレスを受けることによって現れるストレス反応は、「身体的反応」「心理的反応」「行動的反応」に大別されます。それぞれに急性反応と慢性反応があり、表面化する事象が異なります。これらのストレス反応が継続されて積み重なっていくと、メンタルヘルス不調や心身症に移行していきます。また、ストレス反応自体がストレスとなり、症状を悪化させてしまうこともあります。

ストレス反応と前兆

この例にあるような変化が、明らかに現れているようであれば、ストレス過多で心身のバランスが崩れてしまっている可能性があります。本格的なメンタルヘルス不調に陥ってしまう前に、適切な対処に向けて行動を起こし、躊躇せず専門家に助けを求めましょう。また身近な人にこのような変化が見受けられる場合は、本人とコミュニケーションを取り、よく話を聞いて、どのような対処をすればいいか、相談に乗ってあげましょう。

何がストレッサーになるのか?

1967年、アメリカの社会学者トーマス・ホームズと内科医リチャード・ラーエは、 5,000人の患者を対象としてストレス調査を行い、『社会的再適応評価尺度(Social Readjustment Rating Scale:S.R.R.S.)』という表を作成しました。世界的にも有名なこの表は、ストレスマネジメントやメンタルヘルスの書籍などで定番と言えるほど頻繁に引用されています。

ストレス評価表

時代が古い、調査エリアがアメリカである、といった条件の違いはありますが、注目したいのは、「結婚」「家族が増える」「休暇」といった一見ポジティブな出来事に対しても、人はストレスを感じているということです。これは、ストレッサーが何かを、一般的な価値基準で安易に判断できないことを物語っています。

同様に、社会人がメンタルヘルス不調に陥るとすぐ「職場環境が原因では」と思ってしまいますが、ストレッサーはいつも職場環境とは限りません。

社会人のストレッサー

長時間労働や過酷なノルマ、職場の人間関係、社員をサポートする仕組みの少なさ、ハラスメントといった、明らかに望ましくない労働環境が大きなストレッサーになることは、もちろんあります。

しかし、労働環境自体に大きな問題がなくとも、著しい経験不足であったり、過剰に受け止める思考傾向、あるいは健康や未来への漠然とした不安感がストレスの原因になることもあります。実は会社や仕事ではなく、プライベートの大きな問題によってメンタルのバランスを崩す人もいます。

かつて働いていた職場でも、昇進による配置転換と子育てが同時に始まった後に長期休職に至った人がいました。昇進による重圧と育児からくる不眠などが同時期に重なったことが主な原因です。それをサポートできなかった社内体制も問題の一因ではありますが、労働環境というより、新しい立場の受け止め方と家庭環境の急速な変化によってストレスをうまくコントロールできなくなったことが一番大きいと、本人が語っていました。

このように、周囲の人間が直感的に感じることがストレッサーではないことは、案外少なくありません。安易に判断せず、専門家によるカウンセリングなども交えて慎重に判断したいところです。

ソーシャルサポートの重要性

ストレスマネジメントには周囲の協力を得ることも不可欠であり、そのためはストレスを緩和できる環境「ソーシャルサポート」を常日頃から構築しておくことが重要です。

ソーシャルサポート

ストレスへの対処方法はその時々によって変わります。感情面のケアがいいのか、情報提供がいいのか、仕組みやツールがいいのか、あるいは評価を変えるのがいいのかなど、対処方法はケースバイケースです。そしてサポートできる適任者もその都度異なります。

ソーシャルサポートは「情緒的サポート」「道具的サポート」「評価的サポート」「情報的サポート」に分類されますが、こうした多様で幅広いソーシャルサポート環境を日頃から作っておくこともまた、ストレスマネジメントの一つです。

ソーシャルサポートの充実に繋がる行動

  • 相談しやすい上司や同僚、友人を増やす
  • 安心できる家庭を築く
  • メンタルヘルスの専門家と繋がる
  • 自分も誰かを積極的にサポートする
  • 4つのサポートに向いてる人を把握しておく
  • サポートしてほしい人と良好な関係を作る
  • 打ち解けるのに無理をせず、少しずつ関係を作る
  • 他者のサポートに頼り切らない
  • 自分には無理と決めつけ、最初から頼ろうとしすぎない

ソーシャルサポートが作れなくなる考え方

  • 人に頼らず、何が何でも自分でやり切りたい(自己完結)
  • 他人は信用できないので任せない、頼らない(不信)
  • 仕事さえしていれば、人付き合いはいらない(過度な拒絶)
  • 困ったらすぐ誰かに頼ればいい(過度な依存)
  • 自分でやるのは面倒だから誰かに投げよう(他人事)
  • 自分には能力がなくサポートを受ける資格がない(過度な卑下)
  • サポートを受けるのは負けを認めるようなもの(過度な自尊心)
  • 人に頼る弱い人間と思われたくない(過度な見栄)

一人でできるストレス対策

ソーシャルサポートのように周囲に頼らなくても、一人でできるストレスマネジメントもたくさんあります。その中でも生活習慣の見直しは、もっとも基本的で汎用性が高いストレスマネジメントと言えるでしょう。

以下は、健康習慣の研究者・森本兼曩氏が提唱した「8つの健康習慣」です。あなたの生活習慣は、このうちのいくつに当てはまるか確認してみましょう。

  1. 毎日朝食を食べている
  2. 毎日平均7~8時間寝ている
  3. 栄養バランスを考えて食事をしている
  4. 喫煙をしない
  5. 運動・スポーツを定期的に行っている
  6. 過度の飲酒をしない
  7. 毎日平均9時間以下の労働にとどめている
  8. 自覚的ストレスが多くない

もし当てはまるのが4つ以下なら、ストレスを感じやすい体質になっている可能性があります。日常的な生活習慣の見直しを検討したいところです。

また、自分自身でできる日常的な活動として「リラクセーション」があります。リラクセーションを行うと、生体機能調節系を介し、生理的ストレスが解消され、ホメオスタシスやストレス耐性の強化が期待できます。リラクセーションが交感神経系の抑制、副交感神経系の賦活、ストレスホルモンの低下、免疫機能の強化などの変化をもたらすことは数々の実験でも証明されています。

以下に、代表的なリラクセーション手法です。

呼吸法

意識的な呼吸を行うことでリラックス状態を作ります。瞑想と組み合わせて用いられることも多いです。呼吸法の中にも様々な手法が存在しますが、アリゾナ大学教授のアンドルー・ワイル博士が究極のストレス解消術として編み出した4-7-8呼吸法は、安倍元首相も実践していたということで一時期話題になりました。

漸進的筋弛緩法

アメリカの内科医、精神医学医、生理学者であるエドモンド・ジェイコブソン博士が1920年代に考案した、筋肉の緊張状態を制御し、観察して学習することで焦燥感を緩和するため技術です。筋肉の緊張を解きほぐすことで、心の緊張を緩和させます。自分の緊張状態に気づけるようになり、不安・恐怖への囚われやストレスが薄れていきます。

自律訓練法

ドイツの精神医学者、ヨハネス・ハインリッヒ・シュルツ博士が1932年に提唱した、心療内科や精神科などで使われている一種の自己催眠法です。数分で全身をリラックスさせ、自己暗示によって不安や緊張を緩和し、自律神経の働きを整えます。「7つの公式」を使って実践されるのが本来の自律訓練法ですが、以下のように重感(第1公式)と温感(第2公式)を体験するステップでも大丈夫と言われています。

  1. 静かなところでゆったりと横になったり、いすに座ったりします。
  2. 目をつむりながら深呼吸をします。
  3. 背景公式「気持ちが落ち着いている」と声を出さずに心の中で唱えます。
  4. 第1公式「両手両足が重たい」と声を出さずに心の中で唱えます。
  5. 第2公式「両手両足が温かい」と声を出さずに心の中で唱えます。
  6. 最後に、消去動作(腕の屈伸、背伸び等)を行います。

ヨガ

古代インドの宗教的儀礼に起源を持ち、20世紀後半に欧米で大衆的な人気を獲得した、身体的エクササイズを含むリラックス法です。現在では解脱を目指すような宗教色は一掃され、呼吸法と瞑想を組み合わせることで姿勢や自律神経を整える健康法として広く行われています。

アロマテラピー

アラビアやヨーロッパで昔から行われている伝統医学・民間療法のひとつで、20世紀になりエッセンシャルオイルを使った方法が欧米で一般化しました。自律神経を整えたり、ストレスを解消したりする効果があるとされ、介護や医療の現場でも使われています。

認知行動療法

ここからは、ストレスマネジメントの一つとしても注目されることが多い認知行動療法を紹介します。

この章の参考書籍

認知行動療法の基本

認知行動療法はさまざまな精神疾患の治療に活用されている心理療法の一つです。1970年代後半には体系化され、1980年代後半には日本でも導入が始まりました。

うつ病や不安障害の治療でまず選択されることが多いのは薬物療法ですが、認知行動療法には薬物療法に匹敵する効果があることが分かっています。また薬を使わないということで、ストレスマネジメントの手法としても近年注目されています。

現在の認知行動療法には行動療法、認知療法、臨床行動分析といった分野が関わり、これら研究の変遷、社会的な注目度の変化に応じて認知行動療法の適応範囲は拡大してきました。その結果、様々な意味合いの認知行動療法が混在するようになりました。

ただ、認知行動療法には多様な解釈や手法が含まれるとはいえ、共通する考え方もあります。それは、自分自身の心理や言動を、「認知」「気分・感情」「身体反応」「行動」といった要素に分解して捉えることです。

自分を構成する概念

何らかのストレッサーが発生した時、人はまずそれを「認知」します。その受け取り方によって「気分・感情」および「身体反応」に影響が出て、「行動」に繋がります。

「気分・感情」と「身体反応」は、心や体が勝手に生み出すものですが、「認知」と「行動」に関しては、自分自身である程度の働きかけができます。これが認知行動療法の根底にある考え方です。「認知行動療法」という名前も、認知と行動に働きかけるということに由来します。

認知行動療法とは

認知行動療法で取り扱われる手法には、認知に働きかける手法、行動に働きかける手法、その両方を混在させた手法が含まれます。このうち行動に働きかける手法には、前章で紹介したリラクセーションも含まれます。不安に感じる状況にあえて飛び込み徐々に慣れていくエクスポージャー法、円滑な自己主張をするためのアサーション・トレーニングなども、行動に働きかける手法の一種と言えるでしょう。

一方、認知行動療法の文脈で紹介されることが多いのは、認知に働きかける手法、および認知と行動の両方に働きかける手法です。そしてこれらの手法で必ずといっていいほど行われるのが、自己の「外在化」と「自己認識」の訓練です。

ある事象に対して、自分がどのように感じ、どのように行動したかをメモなどに書き出して外在化し、客観的に自己認識します。そうすることで、感情に飲まれてしまうことを自らの力で回避し、ストレスを最小化します。

認知行動療法の発想

このような、自分の体験や行動、感じたことの外在化による多面的な評価を「アセスメント」と呼びます。以下に、アセスメントを活用した具体的な手法を紹介します。

認知行動療法の具体的手法

臨床心理士・伊藤絵美氏による『認知行動療法入門』では、「アセスメントシート」と呼ばれるフレームワークを使った手法を紹介しています。

アセスメントシート

ストレッサーやストレスを一塊の事象として捉えるのではなく、ストレス状況、自己に内在する認知、気分・感情、身体反応、行動と分類しています。さらにそれを支援するサポート資源を書き出したうえで、コーピング(対処法)を導き出す、という一連の流れを一枚のシートにまとめています。

例として、以下のようなストレスを感じる状況を設定してみました。

ずっとスムーズにプロジェクトが進んできたが、公開1か月前の段階になり、お客さんからたくさんの追加要望が来るようになった。そのまま受け入れてはスケジュールにも費用にも支障をきたすので、その都度本当にやるべきかを確認し、説明する必要があるが、要望がチャットで五月雨で来るため、そのやり取りに時間がかかってしまう。結果的に仕事が予定通り回せないで毎日を過ごすため、疲れも溜まってきた。さらには「これくらいのことも想定してなかったのか」と徐々にお客さんの方で不満を感じてきているようで、言葉がきつくなってきた。最近はチャットの通知が来るだけで、心臓がドキドキするようになった。それが追加要望だったときは、これは一体いつ終わるのだろう、これだけ対応しているのに、やがてお客さんに怒られてしまうのだろうか、と憂鬱になってしまう。自分の力の無さも感じ、自分には向いてないのかな、と自信もなくなってきた。

このような状況をアセスメントシートを使って整理すると、以下のようになります。

アセスメントシート記入例

このシートを使い、さらに状況を観察します。受け取り方(認知)を変えることができないか。行動は他に選択肢がないのか。頼る相手(サポート資源)として何があるのか。これらを総合的に踏まえた上で、最適な対処方法(コーピング)を導き出します。

アセスメントシート記入例

仕事全般で起こるすべてのことに対してアセスメントシートを作る必要はなく、まずは重要な事象から始めるということでいいでしょう。大事なのは、自己の内面や言動を分解し、外在化し、観察し、バランスの取れた対処法を導き出す思考習慣を身に付けることです。そのため、アセスメントシートの体裁にこだわる必要もなく、構成要素を抜き出して日記風にまとめていっても同様の効果は期待できるはずです。

フォーマットの応用

認知行動療法では「コラム法」という手法も有名です。自己を外在化して観察するという点では、アセスメントシートと同じですが、コラム法は1つのステップに合わせて考えを深めていくだけなので、よりシンプルに考えることができます。

コラム法

  1. 状況:今の状況は?
  2. 気分:今の気分は?
  3. 自動思考:まずどう思った?
  4. 根拠:なぜそう思った?
  5. 反証:そうじゃないとしたら何が考えられる?
  6. 適応的思考:バランスよく考えると?
  7. 今の気分:今の気分は?

コラム法の中で特に重要なのが、3.自動思考を認識し、5.反証を考えるパートです。自動思考で生まれた考えを自分自身でいったん否定することは、自己を客観視しなければできません。つまりこのコラム法においても、自分を客観視することを習慣付けることが、大きな目的となっています。

認知の歪み

アセスメントを通じて自分自身を客観的に捉える手法でポイントとなるのは、極端な考え方に陥っている思考特性に気付くことです。この極端な考え方は「認知の歪み」とも言われています。

1980年に発刊されて以来、うつ病のバイブルとして認知行動療法における代表的な書籍となっている『いやな気分よ、さようなら』(デビッド・D・バーンズ)では、10の「認知の歪み」を定義しています。

  1. 全か無か思考…物事を白黒ハッキリさせる。少しでもミスがあれば失敗と捉える。
  2. 一般化のしすぎ…たった一つの良くない出来事を、「すべてこれだ」「いつもこれだ」と考える。
  3. 心のフィルター…一つのことに囚われ、視野が狭くなってしまい、現実的な見方ができなくなる。
  4. マイナス化思考…良い出来事を無視し、悪い出来事ばかり注目してしまう。物事をいつも悪く考える。
  5. 結論の飛躍…根拠もないのに、早合点したり、「○○に違いない」と決めつける。
  6. 拡大解釈と過小評価…自分の失敗を過大に捉え、長所を過小に捉える。あるいは他人を過大に評価し、弱点を過小に見る。
  7. 感情的決め付け…「自分がこう感じるのだから、絶対そうだ」と感情が現実を反映していると決めつける。
  8. すべき思考…「~すべき」「~すべきではない」と極端に考える。自分に罪の意識を向け、他人に怒りを感じる。
  9. レッテル貼り…「自分は無能だ」「あいつはろくでなしだ」と偏見が強いレッテルを張ってしまう。
  10. 個人化 …自分に責任がないような悪い出来事も、自分に責任があるように捉えてしまう。

「言われてみれば自分にもそんなところがある」と思う人は多いでしょう。これは感情的な人だけが持つ特性ではありません。いつも冷静な人でも「認知の歪み」に飲まれてしまうことがあります。そのため、仕事の中で大きなストレスを感じていると自覚できる時には、「認知の歪み」に陥っていないかを自分自身でチェックしてみるといいでしょう。

ちなみに、実際の認知行動療法において、必ずしも「認知の歪み」を意識させるような手法を取るとは限りません。「認知の歪み」という言い方には、自然に湧き上がる自分らしいありのままの感情を否定するニュアンスが含まれます。

後述するマインドフルネスやセルフ・コンパッションにおいては、「ありのままの自分」を受け入れることが重視され、認知行動療法の一種である日本独自の心理療法、森田療法は「あるがまま」であることに重きを置いています。「認知の歪み」を自覚させることはこれらに反して「ありのままを否定して矯正する」と捉えられる可能性もあり、治療に効果的でないと判断されるケースがあるというわけです。

ただし、精神疾患を抱えていない一般のビジネスパーソンにとっては、「認知の歪み」の話は分かりやすく、自分に置き換えて考えやすい概念です。ストレスフルな考え方から自らを開放するツールとしてはある程度有用ではないかと考えて、ここでは紹介しました。

コーピング

認知行動療法では、外在化や自己観察をした後に、問題を解決するために何らかの対処を行うわけですが、これを「コーピング」と呼びます。コーピングは、問題焦点型コーピングと情動焦点型コーピングに分かれます。

コーピングの種類

問題焦点型コーピングは、ストレッサーやストレスの要因に向き合い、それを除去したり、緩和させたりするコーピングです。悩みやストレスの原因を取り除く、物事の受け取り方を肯定的に変える、極端な思い込みを修正して現実的な見方をするなど、問題そのものに何らかのアプローチを行います。

情動焦点型コーピングは、問題そのものには意識を向けず、情動の変化による精神的・身体的な興奮作用、自律神経の乱れなどに対処するためのコーピングです。リラクセーション、知人とのおしゃべりや愚痴、無理のない有酸素運動、負荷の少ないウォーキングやエクササイズなどもこれに含まれます。

この2つは、どちらかの方が優れているということではありません。ストレッサーに働きかけることができるなら問題焦点型コーピングを選択できますが、ストレッサーは必ず除去や軽減ができるわけでもありませんし、受け取り方を変えるにも限界がある、ということもあります。そんな時には情動焦点型コーピングも有力な選択肢になります。つまりこの2つは、状況に応じてうまく使い分けていくべきなのです。

スキーマ

認知をさらに階層化すると、「浅い認知=自動思考」と「深い認知=スキーマ」に分けることができます。自動思考は出来事に対して自動的・瞬間的に表面化するもので、アセスメントである程度捉えることができます。一方のスキーマは意識の深いところにある信念や思い込み、強固な固定観念であり、アセスメントでは気づけないこともあります。

スキーマ

人生の早期に形成され、その後の人生を生き辛くしているスキーマが自動思考に強く作用している場合、認知行動療法では問題が解決できないことがあります。そんな時に選択されるのがスキーマ療法です。

スキーマ療法を開発したアメリカの心理学者、ジェフリー・E・ヤング氏は、人には根源的な要求である「中核的感情要求」があり、これらが満たされないと「傷つき」が発生すると述べています。

5つの中核的感情要求

  1. 愛してもらいたい。守ってもらいたい。理解してもらいたい。
  2. 有能な人間になりたい。いろんなことがうまくできるようになりたい。
  3. 自分の感情や思いを自由に表現したい。
  4. 自由にのびのびと動きたい。楽しく遊びたい。生き生きと楽しみたい。
  5. 自立性のある人間になりたい。ある程度セルフコントロールできるしっかりとした人間になりたい。

5つの傷つき

  1. 人との関わりが断絶される
  2. 「できない自分」にしかなれない
  3. 他人を優先し、自己を抑える
  4. 物事を悲観し、自分や他人を追い詰める
  5. 自分勝手になりすぎる

生き辛さに影響するような深刻なスキーマには、心の深い傷つきがその根底にあります。そらが強固な固定観念や反応的な認知になり、自分自身をさらに傷つけるという負のサイクルを作り出します。

ちなみに、このジェフリー・ヤング氏の5つの中核的感情要求を応用すると、社会人にも以下のような中核的感情要求があるのではないかと私は思います。

  1. 理解してもらいたい
  2. 有能な人間になりたい
  3. 自分の感情や思いを表現したい
  4. 自由にのびのび働きたい
  5. 自立した人間になりたい

仕事の中で中核的な要求が満たさない状況が続くと、ストレスを感じやすくなり、認知や行動に問題を生じると考えられます。

本資料は健康なメンタルの人のためのストレスマネジメントが主目的であるため、スキーマ療法に関してはこれ以上深堀しませんが、問題の根幹にスキーマがあると感じる場合には、専門家に相談してみましょう。

マインドフルネス

近年、世界中の企業や経営者が注目しているマインドフルネスは、ストレスマネジメントとしても有効な考え方です。この章ではマインドフルネスの基本的な考えと実践法を紹介します。

この章の参考書籍

マインドフルネスとは

マインドフルネスとは特定の手法ではなく、今この瞬間に意識を向けた心の状態を指す言葉です。マインドフルネスを鍛える手法として瞑想がよく用いられますが、瞑想=マインドフルネスというわけでもありません。

マインドフルネスのルーツは仏教にあります。それ故にマインドフルネスは宗教儀礼や精神論と誤解されがちですが、その脳科学的な効果は数多くの研究で証明されています。特にビジネスの分野においては、以下のような能力開発に繋がると期待されています。

  • 注意力、集中力
  • 感情マネジメント力、アンガーマネジメント力
  • 自己認識力、メタ認知力
  • 創造力
  • ストレスの改善とレジリエンス(回復力)
  • リーダーシップ
  • 無意識の思い込み(unconscious bias)への気づき
  • 円滑な関係を作るコミュニケーション力
  • EI(Emotional Intelligence:感情知性)

2010年代中頃から、マインドフルネスはある種のブームとなっています。グーグル、マイクロソフト、フェイスブック、アップル、ゴールドマン・サックス、マッキンゼー&カンパニー、インテル、トヨタ、パナソニック、ヤフー・ジャパン、メルカリといった数々の企業で、マインドフルネスが導入されています。

マインドフルネスとは

世界的な経営学誌『ハーバードビジネスレビュー』日本語版においては、2013年5月「小さなストレスから身をまもる簡単エクササイズ」というコラムで「マインドフルネス」という言葉が初登場しました。それ以降、約140の論文でマインドフルネスについてのなんらかの言及がなされています。こうした数々の例にあるように、マインドフルネスは現在のビジネスシーンにおいて注目度が高いテーマの一つとなっています。

マインドフルネスの科学的根拠

ビジネスシーンでマインドフルネスが注目されるようになった大きなキッカケの一つとして、元グーグルのチャディー・メン・タン氏が開発した『Search Inside Yourself』というマインドフルネス・プログラムがあります。

Search Inside Yourself

同名書籍の冒頭では、マインドフルネス・プログラムが「エンジニアリングの観点から見ても科学的なもの」と語られています。

第一に、私はとても疑い深くて、科学的な頭を持っているので、何であろうと、確固たる科学的基盤のないものを教えたりしたら面目丸つぶれだ。だから、SIY(Seach Inside Yourself)は科学にしっかり基づいている。

第二に、グーグルの古参のエンジニアとして長いキャリアをもっているから、日々の仕事で製品を生み出したり、チームを管理したり、上司に昇給を求めたりと、さまざまなことをするにあたってEQ(Emotional Intelligence Quotient:心の知能指数)を応用する確かな実践経験を積んでいる。したがって、SIYはストレステストに合格し、日常生活にいつでも応用可能だった。

第三に、私はエンジニアリング向けの頭をもっているおかげで、瞑想の伝統的な言語で書かれた教えを、私のように極端なまでに実際的な人間でも処理できる言葉に翻訳できた。(中略)

だからSIYは、科学に基盤を置き、とても実践的で、私でも理解できる言葉で表されているという素晴らしい特徴をもっているのだ。エンジニアリングの学位がきっと何かのためになるとは思っていたが、こうしてりっぱに役立ったわけだ。

著者がこのような説明をするのは、マインドフルネスに対して以下のような誤解があるからでしょう。

  • マインドフルネスは宗教儀礼であって科学的根拠がない
  • マインドフルネスは精神論の一種である
  • マインドフルネスは似非科学である
  • マインドフルネスは催眠術のようなものである
  • マインドフルネスは自己啓発にすぎない
  • マインドフルネスは無や悟りを目的としている
  • マインドフルネスは単なるブームでありファッションである
  • マインドフルネスは経営者の自己満足で行っている

マインドフルネスの科学的根拠については、以下の記事でも詳しく述べられています。

定期的な瞑想(あるいは、ほかの「マインドフルネス認知療法的なエクササイズ」)の実践は、共感や記憶、および自意識にかかわる脳の領域に明らかな変化をもたらすという研究結果があります。

その研究をさらに裏付ける論文が、このたび精神医学誌「Psychiatry Research:Neuroimaging」で発表されました。ハーバード大学の広報新聞「Harvard Gazette」の取材に対し、論文の主執筆者であり米ハーバードメディカルスクールの心理学部講師のSara Lazar博士は次のように説明しています。

「瞑想はよく、安らぎやリラクゼーションと結びつけられます。しかし実践者たちは、認知面や心理的な面でも良い影響が得られ、その効果は終日続くと以前より証言してきました。(中略)今回の実験では、こうした証言を裏付けるような脳構造の変化が見られると示されました。また、気分が良くなるのは、単にリラックスした時間を過ごしたからではないこともわかったのです。」

実験の参加者は、毎日30分近く、瞑想などマインドフルネス・エクササイズを約8週間続けました。16人の参加者は、8週間にわたるエクササイズの前後に、脳のMRI検査を受けました。8週間の実験が終了したとき、参加者の多くで、行動、記憶、およびストレスにかかわる脳の領域に著しい変化が見られました。

「今回のMRI分析は、以前の研究で瞑想に伴う変化が見られた領域に焦点を当てて行われました。その結果、学習や記憶にとって重要な領域だと知られている『海馬』と、自意識や同情心にかかわる構造部分で、灰白質密度増加が認められました。実験参加者が報告したストレスの軽減についても、不安に重要な働きをすることが知られている『扁桃体』での灰白質密度低下と相関関係がありました。以前の実験で判明した、自意識に関係する「島」と呼ばれる構造では変化が見られませんでしたが、この領域に変化をもたらすには長期間瞑想の実践が必要なのかもしれないと研究者らは示唆しています。ちなみに、瞑想を行わなかったグループに変化はまったく見られませんでした。つまり単なる時間経過によって、灰白質密度が変わったわけでないとわかります。」

マインドフルネス瞑想などの有用性については世界中の脳科学者や精神科医が研究を行っています。マインドフルネスを効果的に実践すると、脳内の構造が変わり、ストレスを感じにくい体質に変わるということは、様々な研究で証明されていることです。

行動から習慣へ

マインドフルとマインドレス

マインドフルネスの実践的手法としてもっともポピュラーなのが瞑想です。瞑想といえば「無になること」と思うかもしれませんが、マインドフルネス瞑想は、今起こっている物事をありのままに捉える「マインドフルな状態」を作ることを目的としています。

「マインドフルな状態」とは、感情を失った「無」の状態ではありません。批判的評価や判断を加えず、起こった出来事や感情を「ふぅん」「そうかぁ」とそのまま受け入れている状態のことです。そのためには、心に自分を観察する「もう一人の自分」を作り出す必要があります。これをセルフモニタリングといいます。認知行動療法の中で説明された自己観察とほぼ同じものと考えていいでしょう。

「マインドフルな状態」と反対にあるのが「マインドレスな状態」です。起こった出来事に評価を加え、そのことに囚われ、感情的になる「マインドレスな状態」になると、時に衝動的な行動を取り、周囲や自分自身を傷付けてしまいます。

マインドフルとマインドレス

この「マインドレスな状態」に陥るのを回避し、常に「マインドフルな状態」を自然に作れるようにする訓練の一つとして、瞑想がよく行われているというわけです。

マインドフルネス瞑想では、呼吸など自動化されている無意識の行動を観察し、自分自身の心の動き、体の状態を客観的に捉えます。最初はすぐに気が散ると思いますが、気が散ったと気がついて意識を元に戻すこと自体に、脳を鍛える効果があるそうです。マインドフルネス瞑想を続けると、早ければ8週間で脳の扁桃体に変化が見られるようになると言われています。

マインドフルネス瞑想を続けてみた私自身の経験でいえば、「脳が変わった」ということを実感するまでは至っていません。ただおそらく、脳の変化を自分自身で感じ取ることは不可能ではないかと思います。一方で、感情が高ぶった時に「今、感情が高ぶってる」と、以前よりは気づけるようになりました。マインドフルネスが日常的になったことで、自分を客観視する習慣が以前より身に付いたように思います。

これが脳の変化なのか、単なるマインドの変化なのかは自分では判別できませんが、結果的にはマインドフルネス活動のメリットを享受していると考えています。

ビジネスにおけるマインドフルネスの効果

ヤフー・ジャパン社内で行われていたマインドフルネス研修は「メタ認知トレーニング」という名で運用されていたように、マインドフルネスはメタ認知と深い関りがあります。また、注意力、集中力、コミュニケーション力といった抽象的能力にも関係すると考えられています。

リーダーシップとの関係

マインドフルネスによって自己認識力が高まれば、自分を律するような自己管理が自然とできるようになります。これは仕事や生活の主体性に繋がり、それによってモチベーションの高まりが期待できます。

さらに自己の内面に対する認識力が強化されることで、他者の内面を想像する力が高まり、それが共感力となります。他者に共感する力があれば、強く的確なリーダーシップが発揮できるようになります。

『Search Inside Yourself』の序文は、1995年の世界的ベストセラー『Emotional Intelligence』の著者ダニエル・ゴールマンによって書かれていますが、マインドフルネスはこのEmotional Intelligence=EIの開発にも期待を持たれています。

EI

EIは日本語では感情的知能、情動的知能、心の知能などと訳されます。日本ではIQと対比させてEQなどと言われることもあります。

『Search Inside Yourself』では、セールスや顧客サービス分野ではなく、専門技術が重視されるエンジニアにおいても、以下のような情動的能力がパフォーマンスに大きな影響を与えている、という研究結果を紹介しています。

  • 強い達成意欲
  • 他者に影響を与える能力
  • 難題を引き受けるイニシアチブ
  • 自信

つまり、職務の専門性にかかわらず、人材の力を最大限引き出すためには、EIの開発・獲得こそ不可欠であり、これこそが人と組織を強くするキードライバーであるというわけです。そしてこのEIを鍛える手段としても、マインドフルネスは注目されています。

マインドフルネスの実践

マインドフルネスの実践法としてもっともポピュラーなのが、呼吸に注意を払うマインドフルネス瞑想です。ただし、瞑想以外にも散歩、食事、筆記、傾聴、会話でもマインドフルネスは実践できます。レーズンの味、匂い、手触り、食感などに注意を払うレーズン・エクササイズといった手法もあります。「今、この瞬間に意識を向けたマインドフルな状態」を作ることができるなら手段は問わない、ともいえます。

マインドフルネスの実践

そんな中でも、特に呼吸に注意を向ける瞑想がよく用いられるのは、いつでもどこでも誰でもできるからです。呼吸は全ての人が自然に行っている行為であり、そこに注意を向けるだけなので特別な準備も訓練も不要です。最初は1回の瞑想で10分ほどかけるのが望ましいと言われますが、慣れれば僅かな時間でも実践できます。タン氏は就寝前に娘と一緒に2分間の瞑想を行っているそうですが、慣れればそのくらい短時間でもいいのです。

ボディスキャンという手法でも瞑想を用いますが、呼吸ではなく、全身の部位に順番に注意を向けながら自らの身体反応を観察していきます。私の経験では、呼吸と比べて集中が途切れやすくなりますが、YouTubeにアップされている動画などを使って、音声でサポートを得ながら実践してみるといいでしょう。

また、「書く瞑想」と言われるジャーナリングという手法もあります。ジャーナリングでは、頭の中に自然と湧き上がってくることをひたすら書き続けます。瞑想よりも集中しやすく、終わった後に充実感を覚える人も多いです。

いずれの手法を取り入れるにしろ、まずやってみることが重要です。そして今は、簡単に始めるための無料コンテンツが豊富に存在します。YouTubeにも、マインドフルネスに関する動画が膨大にアップされています。一部を以下に紹介しますので、これらを活用しながら、自分に合ったコンテンツを活用していくといいでしょう。

マインドフルネスの参考動画

こちらはマインドフルネスを分かりやすく解説したアニメーションです。字幕表示にすれば英語が分からない人でもマインドフルネスの効果が優しく理解できます。

ダライ・ラマとの瞑想の研究で有名な、ウィスコンシン大学マディソン校の心理学・精神医学教授リチャード・デビッドソンが、マインドフルネスについてTEDで語った時の動画です。

『Search Inside Yourself』の監訳を務め、企業のマインドフルネス導入を支援している、一般社団法人マインドフルリーダーシップインスティテュートによる10分間マインドフルネス瞑想の動画です。

同じく一般社団法人マインドフルリーダーシップインスティテュートが提供する、ボディスキャンを実践するための動画です。

メンタリストとして有名なDaiGo氏もマインドフルネスに関する動画をいくつか公開しています。

Netflixで配信されている「ヘッドスペースの瞑想ガイド」は映像も内容もハイクオリティなマインドフルネス系コンテンツです。瞑想が人生にもたらす効果について、アニメ映像でわかりやすく解説するとともに、さまざまなテクニックを学び、実際に瞑想も体験できる、実践的で有用なガイドとなっています。

最近はマインドフルネスをサポートするアプリも続々と登場しています。Awarefyというアプリでも、マインドフルネスや認知行動療法を助けるコンテンツが多数用意されています。無料でもある程度利用できますので、是非試してみてください。

ちなみに、チームでマインドフルネスに取り組むのもおすすめです。ベイジでも2021年6月より、朝礼の時間にマインドフルネス瞑想を取り入れようと計画しています。

セルフ・コンパッション

近年マインドフルネスとともに語られることが多いセルフ・コンパッションについても言及しておきます。

セルフ・コンパッション(Self Compassion)、直訳すると「自己への思いやり」ですが、ビジネスで注目されているセルフ・コンパッションは、自己の長所や弱点をありのまま受け入れた上で、自己に対する優しく温かい感情を高めることを指します。

セルフ・コンパッションは、高いストレスを乗り越える力(レジリエンス)、困難な挑戦に対応する意思、周囲と調和する行動、幸福感や充足感、EIに影響を与えるとされています。マインドフルネスと同じく、世界中の心理学者が科学として研究しており、現在までに、世界で146件の科学的研究論文が存在します。

ある研究によれば、「慈悲の瞑想(ラヴィング・カインドネス瞑想)」と呼ばれるセルフ・コンパッションを高める瞑想を続けると、人生の満足感の増加、迷走神経の緊張の上昇(リラックス効果)、愛情に関わる脳部位(右側内側眼窩前頭皮質)の活発化、そしてストレス反応の減少などが認められているそうです。

セルフ・コンパッションの提唱者である自己心理学者クリスティーン・ネフ博士によれば、セルフ・コンパッションはマインドフルネスを内包する概念とされています。

セルフ・コンパッション

マインドフルネスが「判断を加えずそのまま受け入れる」に留まっているのに対し、セルフ・コンパッションは怒りや不安などのネガティブな感情が湧き上がってくる自分自身を許容し、優しく受け入れる点にあります。これは、セルフ・コンパッションを高めるにはマインドフルネスが必要であり、マインドフルネスを高めるにはセルフ・コンパッションを高める必要があるという、相互依存関係を示しています。

セルフ・コンパッションはしばしば自尊心や自己愛、ポジティブシンキングなどと混同されますが、これらとは根本的に異なる概念とされています。

仕事において自尊心が必要と言われることは少なくありません。しかし自尊心とは、他者と比較して自分が優位であるという評価を得る、あるいはそう感じることで得られるものです。裏返すと、他者と比較した上での成功体験がなければ、傷ついてしまう脆いものであるともいえます。仕事において、常に誰かより優れているということは起こりえません。そのため自尊心をエネルギー源にしていると、どこかで破綻するリスクが生じます。

セルフ・コンパッションは人と比較しません。自分の状態をありのままに受け入れ、怒りや嫉妬の感情に支配されません。失敗や成功に一喜一憂しない、持続性のある心理環境を作り出すことができます。これが他者からの評価に依存する自尊心との大きな違いです。

また、セルフ・コンパッションは自己愛とも異なります。自己愛とは自分を愛することですが、自己愛が強くなりすぎると、自分のありのままを見つめることが難しくなります。自己を過大評価し、時には他者を貶めることさえ厭わない考えに陥ってしまいます。これは他者のみならず、自己をも傷つけやすい状態です。

セルフ・コンパッションは、自分で自分を洗脳するような愛情とは一線を画しています。あくまで今の自分をそのまま優しく受けれることであり、盲目的に自己愛を高めることではありません。

セルフ・コンパッションのような考え方を受け入れると、自分自身を甘やかすのでは、と思ってしまうかもしれません。しかしセルフ・コンパッションは、自分自身の欠点や失敗と向き合わないことを勧めるものではありません。失敗の中で浮き彫りになった自分の良かった点、悪かった点を客観的に受け入れた上で、自分を改善する次のステップに向かうための動機を作り出します。

その意味では、悪いことには目をつむり、良いことだけに目を向けるポジティブ・シンキングとも異なります。ポジティブもネガティブも受け入れた上で、自分を認めるのがセルフ・コンパッションです。

セルフ・コンパッションの理解と実践

セルフ・コンパッションの実践方法は、マインドフルネスと大きくは変わりません。瞑想に時々「慈悲の瞑想」を取り入れる、「自分を応援する友人が自分に対して書く手紙」といったテーマでジャーナリングをすることで、セルフ・コンパッションを高めていくことが可能です。

慈悲の瞑想の実践方法

  1. 自分の良い所を見つめる
    静かな場所で瞑想し、「私が安全でありますように」「私が幸せでありますように」「私が健康でありますように」「私の悩み・苦しみがなくなりますように」というフレーズを優しく繰り返します。
  2. 湧き上がる感情を観察する
    湧き上がる感情を優しく受け止め、心に留めて、1のフレーズを繰り返します。
  3. 他者に対象を拡げる
    自らのコンパッションが自覚できたら、次は家族や友人、同僚、上司、部下に対象を拡げて繰り返します。

もしもメンタルヘルス不調になったら

最後に、メンタルヘルス不調(うつ病・不安障害・双極性障害など)に陥ってしまった時にどうすればいいかについて、お話しいたします。

この章の参考書籍

メンタルヘルス不調に対する誤解

メンタルヘルス不調の問題の一つに、誤解があります。例えば以下のようなことは科学的根拠を無視した完全な誤解ですが、本人、家族、周囲の人がこのような誤った認識を持っているだけで、リスクは一段と大きくなります。

  • メンタルヘルス不調は、心が弱いからなる
  • メンタルヘルス不調にならないためには、精神力を鍛えないといけない
  • メンタルヘルス不調には、厳しく育てられなかった若い人の方がなりやすい
  • 明るい気持ちを持てば、メンタルヘルス不調は自然に治る
  • メンタルヘルス不調になるのは、限られた人だけだ
  • メンタルヘルス不調になる人は、仕事に向いていない
  • メンタルヘルス不調になるのは性格の問題だから、ずっとそのままだ
  • 心療内科や精神科に通院するのは、普通のことではない
  • メンタルヘルス不調の人には関わらない方がいい

欧米のようにセラピストに通うことが一般的ではない日本では、上記のような誤解が根強く残っています。特にメンタルヘルスの知識に触れる機会が少なかった年配の世代では、「気合いの問題」「心構えの問題」などと乱暴に扱う方も少なくありません。このような方が経営者や管理者という時点で、社員のメンタルヘルス上のリスクは一気に上がってしまいます。

『ストレスの理解』の章で、ストレッサー、ストレス、ストレス反応という言葉を用い、ストレスが心身を蝕むメカニズムを紹介しましたが、メンタルヘルス不調とは、大脳や生体機能調整系に起因する身体的疾患の一種です。身体的疾患だからこそ、問題の部位に作用する薬を処方すれば症状が軽くなるのです。

「真面目な人が鬱になりやすい」という話に代表されるように、メンタルヘルス不調の原因に性格があるとよく言われます。確かに性格に起因する思考特性が影響を与えているケースもあります。その場合は、性格に起因する認知の歪みに働きかける認知行動療法も選択肢となるでしょう。しかし、「こういう性格だから絶対にメンタルヘルス不調になる」と言い切れるわけでもありません。一見うつ病とは無縁に思える人がうつ病になることもあります。なぜなら、何にストレスを感じるかは、人それぞれ異なるからです。

『ストレスの理解』の章で紹介した『社会的再適応評価尺度』にあるように、ストレスの原因の中には、結婚のような一般的には幸せに思える出来事も含まれます。人は変化があると少なからずストレスを感じるものであり、何が深刻化してメンタルヘルス不調に陥るかは分かりません。鋼のような精神力を持っているように見える人でも、その人が苦手とする状況が続けば、ストレスを処理できなくなり、ホメオスタシスが維持できなくなり、メンタルヘルス不調に陥ります。

つまり、誰もがメンタルヘルス不調になる可能性があるのです。今まで無縁に過ごしてきた人は運が良かっただけであり、今後ならないとは言い切れません。家族がこれからなる可能性も十分にあります。会社の部下や同僚がなる可能性もあります。だから正しい知識を持つこと、そして専門家に頼ることを躊躇しないことが、重要なのです。

うつ病はしばしば「心の風邪」と表現されることがあります。メンタルヘルス不調に陥るメカニズムを知ると、「心の風邪」というのは的外れな表現であるようにも感じます。

ただ、誰でも罹る病気であり罹ったらすぐ医者に行くべき、というのは風邪と同じです。不調になったことを恥じる必要も、自己嫌悪に陥る必要もありません。このように、メンタルヘルス不調を誰もが罹る身近な病気として捉えるマインドの変化が、働くすべての人に必要なのだと感じます。

メンタルヘルス不調のサイン

『ストレスの理解』の章で「身体的反応」「心理的反応」「行動的反応」というストレス反応を紹介しましたが、メンタルヘルス不調が進行すると、以下のようなサインが現れることがあります。

仕事の能率

  • 不注意や判断ミスが多くなる
  • 同じ成果を上げるのに以前より時間がかかる
  • 締め切りまでに仕事が終わらないことが続く

仕事の様子

  • 席を外すことが多い
  • 仕事中に落ち着かない様子を頻繁に見せる
  • パソコンに向かってぼーっとしてることがある
  • 欠勤、遅刻、早退、病欠が多くなる
  • 休日の前後に休むことが多くなる

健康状態

  • 顔色が悪い、表情が暗い
  • 急に太る、もしくは痩せる
  • 疲労感、倦怠感、不眠、食欲不振、頭痛、腹痛を頻繁に訴える

行動

  • 身だしなみや態度がだらしなくなる
  • せかせか、イライラしていることが多い
  • 投げやりな言動やネガティブな発言が目立つ
  • 極端に口数が減る、もしくは増える
  • 飲酒量が増える
  • ギャンブル、過食、借金、異性とのトラブルが増える

対人関係

  • 急に付き合いが悪くなる
  • 疑い深くなったり、被害妄想を抱いたりする
  • 些細なことで怒ったり、攻撃的になったりする

元々そんな傾向がなかったのに、最近になってこれらが現れるようになったら、メンタルヘルス不調を疑うべきです。躊躇することなく専門医に頼るべきです。

メンタルヘルス不調の種類

メンタルヘルス不調といえば、うつ病のことをすぐ想像するかもしれません。しかし実際にはもっと細かな分類があり、症状によって用いる薬や治療法も異なります。ここでは主だったものを紹介します。

うつ病

主な症状は憂鬱感、不安感、億劫感。初期症状は倦怠感、頭重感、食欲不振など。重度になると、頭痛や腹痛がする、会社に行けなくなる、さらには自死願望を抱くこともあります。興味減退や快体験の喪失が2週間以上続くとうつ病が疑われます。人口の1~3%に見られ、生涯発症率は7%前後と言われています。うつ病と診断された場合、まずは休養をし、薬物療法、さらに認知行動療法などが選択されます。

パニック障害(不安障害)

身体的には異常がないにもかかわらず、予期不安などから恐怖感を覚え、動悸、発汗、圧迫感、めまい、過呼吸などの症状を繰り返します。過呼吸のような体に現れるパニック症状を伴わずに、強い不安感に襲われるなど心理的発作に留まる場合は不安障害に分類されますが、その境界は曖昧で、治療法はほぼ同じです。セロトニンの分泌異常など、ストレスなどによる脳内神経系の機能異常が原因とされています。治療法はある程度確立しており、認知行動療法と薬物療法が有効ですが、服薬は一年以上継続することが多いです。

双極性障害

いわゆる「躁うつ病」と呼ばれるもので、うつ状態と躁状態が繰り返されます。症状が悪化すると、自尊心が高く、配慮に欠ける言動や横柄な態度になることもあります。また、ミスなどが増え、パフォーマンスが低下したりします。本人に自覚がなく、診断初期においてうつ病との区別がつきにくく、一方でうつ病とは薬などの治療法が異なるため、適切な治療が遅れることも多いです。長期間の投薬が必要になりますが、投薬を続けている間は症状を抑えることができます。人口の0.5%前後に見られるとされます。

統合失調症

妄想や幻覚・幻聴などの陽性症状と、コミュニケーション障害を誘発する陰性症状があります。基本的に仕事をしながらの治療は困難とされており、長期的な支援が必要です。陽性症状には薬物療法が有効ですが、陰性症状の場合には、長期間の療養が必要になります。生涯発症率は0.55%程度とされ、10代後半~30代前半に多いと言われています。

適応障害

重大な変化や強いストレスに対処できなくなり、情緒的な障害(不安、憂鬱)や行為的な障害(喧嘩、無断欠勤)などを引き起こします。うつ病や不安障害ほど重篤ではありませんが、仕事に悪影響を及ぼし、社会生活が困難になることもあります。ストレッサーがなくなれば、通常6か月ほどでなくなります。ストレッサーを軽減させる環境整備と同時に、個人のストレス対処能力を高めていくことも重要です。

睡眠障害

睡眠に関する不調で、不眠症、過眠症、概日リズム睡眠障害、睡眠関連の呼吸障害が含まれます。睡眠障害が続くと、業務パフォーマンスが低下するだけでなく、より重篤な精神疾患、身体疾患を引き起こす可能性が高まります。他のメンタルヘルス不調を誘発することが多いため、睡眠障害が続く場合には、専門医に相談する必要があります。

医療機関と薬の種類

メンタルヘルスの不調の治療をするのは、基本的には精神科もしくは心療内科です。心身症は心療内科、統合失調症やアルコール依存症は精神科がメインになりますが、うつ病などの気分障害は、いずれを受診しても同じレベルの治療を受けることができます。以下の表を参考に、精神科もしくは心療内科を当たってみましょう。

医療機関と薬の種類

メンタルヘルス不調と診断された場合、第一選択肢が薬物療法になることは多いです。身体的反応がストレスとなり不調の渦に入り込んでいる時は、まず薬でストレスを低減させます。これは一般的な考え方であり、「薬を飲むような状態になってしまった…」と落ち込む必要はありません。認知行動療法に取り組むにしても、最低限の精神的余裕が必要になり、それが難しい場合には、まず薬で症状を抑えることになります。

なお、薬に対する拒否反応から、サプリメント療法や食事療法だけで治療するような、エビデンスの少ない民間療法に頼るのは、状況を悪化させる可能性があるので絶対に避けましょう。医師が選択する医学的エビデンスがある方法を選択する、風邪と同じで薬を飲むことが特別な意味を持たない、という気持ちでいましょう。

メンタルヘルス不調に対処する薬には「抗うつ剤」「気分安定剤」「抗不安薬」など、似たような名前のいくつかのカテゴリがあり、その中でもさらに多くの種類の薬が存在しています。

うつ病や不安障害と診断された時に比較的処方されやすいのが、ベンゾジアゼピン系と呼ばれる類の抗不安薬です。メイラックス、ソラナックス、リーゼ、デパス、ワイパックスなどといった商品名の薬がこれにあたります。種類が多いのは、効果が出る時間、排出半減期が異なるためであり、患者の症状と希望によって使い分けがされています。(ベンゾジアゼピン系の中には睡眠薬も含まれます)

ベンゾジアゼピン系に代表される抗不安薬はあくまで対処療法的な薬であり、うつ病や不安障害を根治するものではありません。自力で回復できる段階では、抗不安薬だけで回復することもありますが、重度な状態に陥ってる時は十分に対処できません。

また抗不安薬には依存性があり、長期間服用すると禁断症状などが出ることもあります。厚生労働省も「長期間服用することにより患者に依存を引き起こし、薬剤の中止が困難になること、増量を余儀なくされることが問題と考え、臨床上の使用によっても依存が起こりうる」ことを認め、「自己判断で服薬中止、減量しないで」と呼びかけています。

かつて頻繁に処方されていたデパスなどは速効性がある反面、依存性も高い抗不安薬です。デパスの服用によって重症化する、依存した患者が中毒症状になって大量に服用する、ネットで個人売買をする、といった事象も多発し、2016年には麻薬及び向精神薬取締法によって規制対象の薬となりました。今ではデパスの処方を明確に拒む精神科医も少なくありません。

抗不安薬は適切に用いればメンタルヘルス不調から回復する良い薬になるため、過剰に怖がる必要はありません。ただし、副作用などのリスクは必ず付きまとうため、医師の話をしっかりと聴いた上で、適切に処方するようにしましょう。

うつ病や不安障害の薬物療法として中心的に使われるのが、抗うつ剤です。特にSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)やSNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)、NaSSA(ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬)と呼ばれる、セロトニンに働きかける薬がよく使われます。パキシル、ジェイゾロフト、レクサプロなどと呼ばれる商品はSSRI、トレドミン、サインバルタはSNRI、リフレックス、レメロンはNaSSAに分類されます。

多くの抗うつ剤は、効果が出るまでに時間がかかります。急激な変化に体を慣れさせるために、少量から始めて徐々に増量していくのも、時間がかかる理由の一つです。そのため、抗うつ剤が効き始めるまでの間は、抗不安薬で症状を抑えていきます。

抗うつ剤にも副作用や相性があるため、医師とよく相談した上で服用する必要があります。『ストレスの理解』で3大ホルモンとして紹介したセロトニンは、基本的には多い方が良いとされていますが、稀に、急激なセロトニン量の変化によって賦活症候群(アクティベーション・シンドローム)あるいはセロトニン症候群(セロトニン・シンドローム)と呼ばれる拒否反応が生じることがあります。服用をすぐ中止し、別の薬に変えた方がいい方がいい場合もあるため、服用開始時は電話等でサポートを受けられる病院を選んだ方が安心できるでしょう。

これ以外にも、メンタルヘルス不調には多種多様な薬が存在します。いずれも使い方や体質によって副作用や離脱症状、賦活症候群などが起こる可能性もあります。ドラッグストアで買える風邪薬のように、家族が飲んでいたものと同じものを飲むといった安易な服用は危険です。必ず医師の診断を受けるとともに、薬に関する詳しい説明を求めましょう。

なお、薬と並行して副作用が比較的少ない漢方が処方されることもあります。漢方の使用自体は一般的なことなので、この辺りも信頼できる医師の判断に任せましょう。

治療における8つの心構え

メンタルヘルス不調は他の病気と異なり、効果がすぐには見えなかったり、治療期間が予想しにくい特性があります。特に治療初期において不安に陥り、誤った判断をし、症状を悪化させてしまうこともあります。

そこで、私の個人的見解も含まれますが、メンタルヘルス不調の治療を開始するにあたっては、以下のようなことを留意しておくといいでしょう。

①信頼できる医師や病院を見つける

メンタルヘルス不調の治療においては、信頼できる医師と出会うことは何事にも代え難い最重要事項・最優先事項です。しかし残念ながら、患者の状態をよく見ようとせず、短時間の問診だけで診断を下してお決まりの薬を処方するだけ、といった医師も存在します。

理路整然とした話が必ずしも通じない相手に対して、医師自身を守るためにある程度仕方ないことかもしれません。しかし患者側からすれば、ベルトコンベアーに並ぶ商品のように扱われるのはリスクでしかありません。また副作用の説明もされずに処方され続けた結果、元々は軽度だった症状が悪化してしまうこともあります。

状況が二転三転し、時にはトライ&エラーも必要になるメンタルヘルス不調の治療において、医師への絶対的な信頼は不可欠です。以下のチェックリストを一つの参考に、家族や身近な経験者の意見も聞きながら、心から信頼できる医師や病院を見つけましょう。

  • 初診は30分以上かけて、じっくり話を聞いてくれる
  • 患者が質問したり医師と異なる希望を言っても、嫌な顔をせず丁寧に説明してくれる
  • 治療法や薬を即決せず、様々な選択肢からより負担の少ない方法を考えてくれる
  • 一つの治療法や薬に固執せず、うまく行かない場合にすぐに別の手段を提案できる
  • 薬物治療をするときは、副作用や依存、離脱症状などの可能性を丁寧に話してくれる
  • 緊急時に電話などで相談できる体制が、ある程度整っている

②時間をかけてじっくり取り組む

メンタルヘルス不調は、薬を飲んで1~2週間で治す類の病気ではありません。多くの場合、数か月から1年を越える長い治療が必要になります。また合う薬や治療法が見つかるまではトライ&エラーが必要になります。症状が安定すれば治療中でも日常生活に戻れますが、時には環境も変えながら時間をかけて取り組まないと、完治せずに再発させてしまうこともあります。焦ってすぐに結果を求めるのではなく、じっくりと腰を据えて取り組むつもりでいましょう。

③肉体的疾患の一種であると認識する

メンタルヘルス不調に陥っているのに、「私は心が弱い人間ではない」「私がそんな病気に罹るはずがない」といった認識でいると、治療が遅れたり、治療がうまく進まなくなることがあります。

既に説明した通り、メンタルヘルス不調は、ストレスによって自律神経系や内分泌系などのバランスが崩れて起こる肉体的疾患の一種です。ストレスを受けやすい体質や考え方などの影響を受けはしますが、その人が苦手とすることに継続的に晒されれば、誰もが罹る病気です。また、遺伝や体質の影響も大きいとされています。

『ストレスの理解』で紹介したとおり、日本人の65%がセロトニンが不足しやすい遺伝子を持っており、これは世界最高水準と言われています。つまり日本人であれば当たり前のように罹る可能性があるということです。そのため、「こんな風になるなんて自分はダメだ」と悪く受け取らず、誰もがなる、そして治癒できると考え、希望を持って向き合っていきましょう。

④薬に副作用がある可能性を認識する

薬との相性や体質にもよりますが、薬には副作用があることも多く、副作用が状況を悪化させることもあります。副作用なのに、薬が効かずうつや不安症状が悪化している、と誤解してしまうこともあります。また、服用開始時に賦活症候群、断薬時に離脱作用が起きることもあります。副作用については、医師からきちんと説明を聞く、どのような状態になる可能性があるか、どうなったら薬を一旦やめた方がいいのか、副作用が出た場合どう対処すればいいか、などを詳しく聞くようにしましょう。

⑤ネットで検索しすぎない

メンタルヘルス不調に関する情報はネット上にもたくさんあります。最近は医師の監修を受けているものが上位表示されるようになってきていますが、エビデンスの分からない情報が未だ多く存在しています。そのためネットで調べれば調べるほど不安感が高まり、それによって病状が悪化する可能性もあります。ストレスや不安が症状を悪化させるというメンタルヘルス不調の性質上、ネットとは相性が悪いとも言えます。ネットの情報収集は最低限に留め、真偽が定かではない情報は信用せず、信頼できる医師の話を中心に治療方針を立てていきましょう。

⑥日々の記録を取る

メンタルヘルス不調はすぐ治る病気ではなく、回復の兆しも掴みにくい傾向があります。そのため、毎日の様子を日記などに記録しておくと、週単位、月単位での改善の兆候を確認することはできるようになります。認知行動療法でも書くことは推奨されており、自分を客観視し、メンタルを整える行為としても効果的です。また、マインドフルネスの中でも、ジャーナリングという書く行為が存在します。書くことは多岐に渡る効果が期待できるため、無理のない範囲で日々の記録を取っていきましょう。

⑦エビデンスのない民間療法に走らない

ネットなどを検索していると、サプリメントや食事だけで治療するような、医学的エビデンスが確かではない情報に遭遇することがあります。このような治療法を選ぶと、結果として完治から遠ざかるリスクを高めます。特に薬を避けようという気持ちが強すぎたり、メンタルヘルス不調に陥った自分を認めたくない気持ちが強すぎると、正規の治療方法を避け、特殊な治療方法を望んでしまいがちです。しかしその選択が状況を悪化させ、さらなるリスクを呼び込んでしまいます。必ず精神科、心療内科による、一般的で医学的根拠が立証された治療を選択するようにしましょう。

⑧一人で悩まない

家族は当然のことながら、信頼関係があるなら、同僚や上司などにもメンタルヘルス不調のことを打ち明けましょう。会社の理解や同僚の協力が得られれば、会社を辞めたりせず、心理的に安全な状態を確保した上で治療に専念できます。友人にも打ち明けると、いざという時に気兼ねなく相談ができるようになります。

もちろん、治療法や薬のことは医師の判断を最優先にすべきですが、周囲の人に自らの状況を明らかにすることは、ソーシャルサポートのある環境にも繋がります。メンタルヘルス不調になると、人とあまり話したくない気持ちになりがちです。しかし、できる範囲でも構わないので、なるべく一人で抱え込む状況を避けるようにしましょう。

メンタルヘルス不調に対する当社方針

メンタルヘルス不調に関して、本人や家族の意識を変えることはもちろん大事ですが、会社側の意識も重要です。私たちの会社ではメンタルヘルス不調を以下のように捉え、会社全体で安心できる環境が作れるよう、できる限りのことはしたいと考えています。

  • メンタルヘルス不調は肉体的疾患であり、心の弱さを示すものではない。メンタルが強そうな人も、苦手なタイプのストレスに晒され続けると陥る可能性がある。
  • メンタルヘルス不調は、誰もがなる可能性がある。そのためメンタルヘルス不調になった人が周囲にいたら、お互い様と考えてサポートできる会社であるべきである。
  • メンタルヘルス不調は世界中で研究されており、医学的に解明されている領域も多い。精神論・根性論ではなく、医学的エビデンスに基づいて対処すべきである。
  • メンタルヘルス不調は治療法が確立してるものも多く、ほとんどが、中長期的には治る。そのため、メンタルヘルス不調で貴重な人材が会社を辞めざるを得なくなることは、極力避けるべきである。
  • 現実問題としてストレスゼロの環境にはできないが、メンタルヘルス不調の予防と、実際に陥ってしまった時の対処は、会社しては積極的であるべきである。
  • メンタルヘルス不調に陥らないよう、もし陥ってもすぐに相談できるよう、ソーシャルサポートが充実した会社でありたい。これは経営サイドだけでなく、社員全員の協力の下、作り上げていくものである。
  • 仕事が終わるかどうかよりも社員の心身の方が遥かに重要な問題であり、最終的には専門家である医師の判断を優先し、それに従うべきである。

さいごに

仕事をしている以上、ストレスゼロの環境を作ることはできません。ストレスをゼロにすることが、幸福な人生を約束するわけでもありません。適度なストレスは自分自身の成長にも繋がります。人生を豊かにするうえで必要不可欠なものです。

大事なのは、ストレスを一切無くしてしまうことではありません。ストレスとの上手な付き合い方を学ぶことです。そのためにできることは沢山あります。ストレスの正しい知識を身に付ける。ソーシャルサポートのある社内環境を作る。認知行動療法を学ぶ、マインドフルネスに皆で取り組む。

しかしそれでもうまく行かず、メンタルヘルス不調に陥ることもあるでしょう。そんな時、精神論や根性論で問題を片付けてはいけません。世界中の医師や研究者が培われてきた医学的エビデンスがたくさんある領域です。これは当たり前のことと考え、躊躇なく専門家に相談するようにしましょう。

また、これを自分だけの問題と考えるのはやめましょう。困っている人がいたら相談に乗りましょう。一人一人が協力的でありましょう。そのこと自体がストレスマネジメントになり、自分自身のメンタルを守る行動になります。

ストレスやメンタルの問題に対して、経営者も社員も、誰もが自分事として取り組む必要があります。仕事の中で自己成長を果たし、ストレスや苦悩もあるけど最終的に何かを成し遂げる経験できる環境を、自分だけでなく、皆で作り上げる。企業はそのことを理解し、協力的であるべきです。当然、私たちの会社もその理想を目指していきたいです。

ストレスと上手に付き合っていきましょう

過剰なストレスはあなたの心身を蝕みますが、適度なストレスはあなたの秘められた力を引き出します。この記事で紹介したストレスマネジメントの考え方や手法を活用して、幸せなキャリアをともに歩んでいきましょう。

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