Webディレクターが身に付けておきたい15のビジネススキル

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マネージャー/ディレクター今西毅寿
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ライター西岡紀子

「Webディレクター」と聞いて、どんな仕事をイメージしますか?「やるべきタスクが多くて忙しい」「社内外への調整が大変」などハードワークのイメージが強いWebディレクター。実は現代のビジネスパーソンに必要なビジネススキルの多くを、日々の業務を通して自然と身に付けられる職業です。

Webディレクターは守備範囲の広さがゆえに何屋さんなのかはっきりせず、ふわっとした職業に思われます。たとえばベイジの制作プロセスでは、ディレクターは「戦略フェーズ」とよばれる制作前の調査・分析や要件定義から携わります。他にはリード(見込み客)の管理や仕分けなどのインサイドセールス的な業務や、商談などではフィールドセールスとしての役割も担っています。

ベイジのウェブサイト制作ワークフロー

ベイジのウェブ制作ワークフロー

一言で表すなら、ディレクターはウェブ制作の責任者です。デザイン制作と実装以外の多くの領域にまたがるディレクション業務を通して、ディレクターはどのようなスキルを獲得できるのでしょうか。ベイジで制作会社のディレクターとして働くなかで、身に付けておくべきと感じた15のスキルをまとめました。

1. プロジェクトマネジメント力

プロジェクトマネジメントとは設定した目的や目標を期限までに達成するために、プロジェクトの管理を行なうことです。ウェブ制作会社ではディレクターがプロジェクトマネジメントを担うことが多いですが、企業によってはデザイナーやエンジニアなどが担当することもあります。大規模案件ではディレクターとは別に専門のプロジェクトマネージャーを立てるケースが多いでしょう。

プロジェクトマネジメントはシステム開発や事業開発など、さまざまなプロジェクトを管理するために必要なスキルです。プロジェクト管理技法として代表的なものには「PMBOK(Project Management Body Of Knowledge)」があります。プロジェクトマネジメントの標準として国際的に浸透しており、改訂を繰り返しながら現在はPMBOKガイド第7版(2021年)が発行されています。

多くのプロジェクトではディレクターがプロジェクトの設計から納品までの責任を持ちます。このためディレクターの判断次第では、スケジュール遅延や品質管理の不手際などプロジェクトが炎上してしまう可能性もあります。しかしプレッシャーがかかる立場だからこそ、シビアに仕事を回していくスキルが向上するとも言えます。筋トレなどのトレーニングでいう「過負荷の原理」(体に一定以上の運動負荷を与えると機能が向上する)に近い状況かもしれません。

それなりの負荷がかかるなかでも、ディレクターは新たなワークフローを考案して制作工数を圧縮し、利益率を改善するという取り組みにも挑戦できます。大きな範囲でPDCAを回し、会社の利益に直結する成果をあげられるのはディレクター職の楽しさではないでしょうか。

ディレクション業務でのポイント・心構え

  • 常に全体に目を配り、一歩先を予測しながらプロジェクトを進める
  • 予定どおりには進まないという前提でバッファを持たせたスケジュールを組む
  • 想定モレを見越したアクションを取りプロジェクトをスムーズに進める

2. 提案力

相手のニーズを満たす案や課題や悩みを解決する案を考え、分かりやすく相手に伝える力です。人を動かしてプロジェクトを推進するディレクターにとって、提案力がプロジェクトの主導権をにぎる鍵となります。

経験が浅いうちは、たとえば集客に課題があるのにサイト内の動線についてだけの提案をしてしまうなど、ポイントがずれた提案をしてしまうこともあります。そんなときはクライアントがモヤッとした表情を見せたり、打ち合わせの場が気まずい沈黙に支配されることもあるでしょう。提案の質を上げるためには第三者からフィードバックをもらうのが効果的です。

ベイジでは社内レビューの場をつくり、提案へのフィードバックと修正を行なっています。回数を重ねるうちに経験が浅いディレクターでも提案の精度が上がっていきます。クライアントへ提案した後にはチームで振り返りを行い、問題点を洗い出して改善します。このプロセスを繰り返すうちに提案力がじわじわと身につき、つねに複数の選択肢をもって相手に提案できるようになるのです。

クライアントからの質問への回答やミーティングの設定など、日々のクライアントとのやりとりについても提案ベースで行なうのが基本です。社内でも他部署への連絡やチームの企画会議など、日常的な業務のいたるところで提案力を生かせます。

ディレクション業務でのポイント・心構え

  • 顧客の課題を定義し、解決するために最適な方向を指し示す
  • 顧客のビジネスへの解像度をあげ、精度の高い提案をする
  • 顧客が受け入れやすいように複数の選択肢を提示する

3. 交渉力

立場や役割、利害の異なる人に対し、お互いが納得できるゴールを目指して話し合う力が交渉力です。プロジェクトの予算やスケジュール、仕様の決定など、ディレクターには多くの交渉の機会が訪れます。

米ハーバード大学には交渉学を研究する専門機関があり、ハーバード・ビジネス・スクールをはじめとする多くのビジネススクールで交渉を学ぶ講義が行われています。ビジネスにおいて交渉が重要なスキルであることがうかがえます。

一般的に交渉は守備的な内容のものが多く、提案よりもシビアな状況で行われます。たとえばサーバーなどの環境構築は誰がどこまでやるのか、見積もり料金内での対応範囲はどこまでかなどを交渉することは多いでしょう。モメそうな箇所を洗い出し、あらかじめ交渉してつぶしておくのはディレクターの腕の見せ所ともいえます。

交渉をスムーズに進めるには、クライアントの希望に添えなくても受け入れてもらえるような提案や代替案を常に用意しておくことが重要です。相手にもメリットがあることを納得してもらえれば、当初は否定的な態度だった相手を味方につけることができます。

顧客のためと思って一方的に相手の意見を受け入れてしまうと、制作現場に大きな負担がかかり、プロジェクトの炎上につながりかねません。交渉の目的は双方の利益を最大化することです。相手の要望や要求も汲み取りつつも、自分たちの正当な主張を通すやり方を、ディレクターは交渉術の基本として身につけていきます。

ディレクション業務でのポイント・心構え

  • 「最良の代替案」を用意して交渉に臨む
  • 相手にもメリットがあることを分かりやすく説明し、納得してもらう
  • プロジェクトの進め方や成果物などへの期待値をコントロールする

4. 問題解決力

ビジネスパーソンに必要なスキルのなかで、問題解決力はもっとも重要なもののひとつ。問題解決のためにフェルミ推定や推論、ピラミッド・ストラクチャーなどさまざな思考法が研究されています。

問題解決は問題の発見、課題の設定、解決策の提案と実行のステップに分けられます。ウェブ制作の現場ではディレクターはそのすべての工程に関わり問題を解決することが求められる立場です。

多くの関係者を巻き込んで進行するウェブ制作のプロセスには、不確実な要素が多く存在します。綿密な計画を立てていても、クライアントの組織体制が変わったり、メンバーが急病になったりなど、予期せぬ問題に直面した経験があるディレクターも多いのではないでしょうか。

問題を構造化し、課題を定義するのがディレクターの役割です。顧客や社内メンバーなどさまざまな職種・立場の人がプロジェクトに関わるため、ひとつの立場に偏らない視点で情報を整理するのが、迅速に問題を解決するための第一歩でしょう。

ディレクターは予算、時間、顧客やチームメンバーの特性など、多くの制約と変数のなかで課題解決の案を考え抜かなければなりません。プロジェクトごとに特性が異なるため、前例がない問題が発生することもあるでしょう。そんなときに顧客や上司は必ずしも正解を持っているわけではありません。自ら問いを重ねて問題の本質を見極めた上で、課題を解決していくスキルが鍛えられていきます。

ディレクション業務でのポイント・心構え

  • ひとつの立場に偏らずフラットな視点で情報を整理する
  • 問いを重ねて問題の本質を見極める
  • 制約のなかで最善の解決案を見出す

5. ファシリテーション力

会議やプロジェクトがスムーズに進行するように調整する力です。ファシリテーションの語源は英語の「facilitate」で、物事を容易にする・促進するという意味です。

最近は打ち合わせをオンラインで行なうことが多くなりました。出席者の表情や感情を把握しやすい対面での会議と異なり、得られる情報が限られているウェブ会議ではファシリテーション力の重要性が増しています。

ウェブ制作のプロジェクトでは、顧客との会議やワークショップ、社内のプロジェクトミーティングなど、多くの打ち合わせが発生します。

クライアントの特性やプロジェクトの進行状況に合わせて、ミーティングの形式やタイミングを調整するのは基本中の基本です。たとえばメインビジュアルの方針が固まらずにチャットで何往復もやりとりが続いているという状態になったなら、方針を決めるためのミーティングを実施したほうがはるかに早く進みます。

ディスカッションに慣れていないクライアントは打ち合わせの場で意見を発散できず、議論が進みにくいことがあります。その場合はアイスブレイクをはさんで発言しやすい空気をつくったり、答えやすいシンプルな質問をクローズドな形式で投げかけたりと、ディレクターが議論を促進するとよいでしょう。

プロジェクトを滞りなく進めるためには、打ち合わせ以外の場でもファシリテーション力が問われます。クライアントの企業文化や担当者と決裁者の関係性なども踏まえ、状況に応じて手を打っていくことも広義のファシリテーションといえるでしょう。

ディレクション業務でのポイント・心構え

  • 相手に合わせてミーティングの形式やタイミングを調整する
  • ディスカッションを促進するための工夫を怠らない
  • プロジェクトをスムーズに進行するための打ち手を複数用意する

6. ロジカルシンキング

直感や感覚的に物事を捉えるのではなく、筋道を立てて矛盾・破綻がないように論理的に考え結論を出す思考法です。ロジカルシンキングは、前述のプロジェクトマネジメント力、提案力、問題解決力を下支えするスキルです。

コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニーで使われていた思考法が、2001年に発売された書籍『ロジカル・シンキング』によって日本にも広まったといわれています。現在でも300冊以上のロジカルシンキング関連書籍が出版されるなど、ビジネスパーソンが常に注目しているスキルのひとつです。

ディレクターは社内外の業務でロジカルに考えて説明することが多く求められます。「自分はこう思う」という個人の感覚に立脚するのではなく、結論と根拠を明確にし、論理的に破綻がないように説明しなければ納得してもらえません。

たとえば顧客に新しいウェブサイトの構成を提案するときに「これが使いやすそうだから」と主観的な意見を述べるより、ユーザー行動の分析結果を用いて客観的な根拠にもとづいて説明したほうが、顧客の納得感が得られるでしょう。

社内に対する説明も同様で、個人的な感覚や判断で決めたことを、チームメンバーに納得して進めてもらうのは難しいもの。「過去案件でもこうしたから」のような判断をして、チームメンバーから猛烈な反発を受けたということはないでしょうか。

注意しておきたいのは、ビジネスを実行するのは人ということ。人を動かすためには自らの熱意や相手の感情への配慮も必要です。多くの関係者を巻き込んで動かすディレクターが押さえておきたいポイントです。

ディレクション業務でのポイント・心構え

  • 根拠が結論を支える構造にして説明する
  • 個人的な感覚や判断で結論を出さない
  • 人を動かすには熱意も必要

7. 分析力

複雑な事象を一つひとつの要素に分けて比較し、構造などを明らかにすることによって、意味を見出したり新たな情報を引き出すことが分析です。マーケティングの代表的な分析手法にはPEST分析や3C分析などがあります。

ディレクターはユーザーインタビューやユーザーテスト、アクセス解析、デスクトップリサーチといった定性・定量のリサーチを行なうことが多いため、分析力を身につけ活かすことができます。

クライアントワークではさまざまな業種・業界のビジネスを担当するため、個別事情をふまえた分析の力が身につきます。それぞれのプロジェクトに適した分析手法を選び、分析結果を制作物の提案に落としこみます。納品後の効果検証を通して得られる生の知見は、ディレクターの経験値を増やす財産となるでしょう。

ただし調査結果だけ提出してもクライアントへの貢献にはなりません。分析は課題解決策を出すためのひとつの手段です。目的とゴールを明確にしたうえで分析を行い、課題を定義して解決策を提案します。リサーチの効果を過剰にとらえたり、特定の調査結果に重きをおいたりせず、定量・定性分析を併用して多面的に検討を進めることも大切です。

ベイジの戦略フェーズでは、ディレクターはクライアントの市場定義や顧客定義、ブランド定義などを行ないます。アンゾフの成長マトリクスやSTP分析、ポーターの競争優位戦略のフレームワークなどを用いて分析します。

ディレクション業務でのポイント・心構え

  • 多種多様なビジネスに適した分析手法を用いる
  • 分析結果から課題解決策を出すのが顧客への貢献
  • リサーチの効果を過剰にとらえない
ベイジのウェブサイト制作ワークフロー

ベイジのウェブ戦略資料より

8. 傾聴力

近年は「聴く」ことへの注目が高まり、傾聴はコミュニケーション手法のひとつとして定着しつつあります。ビジネス書『LISTEN』は発行部数6万を超える大ヒットになりました。コーチングにおいても「聴く」ことは相手の真の関心ごとを突き止めるために用いる基本スキルです。

ビジネスで必要な傾聴力は、ただ相手の話を聞くだけではなく、傾聴を通じて相手を理解し、顕在化していない課題やインサイトに迫るためのものです。

ディレクターはクライアントとの窓口。傾聴力を駆使して社内外の情報を収集します。時にはクライアントの社内事情に踏み込んで話を聞くこともありますが、相手の言葉の表面に左右されたり、安易に判断しないことが重要です。発言の背後にどのような意図があるのか深掘りし、より良い提案につなげます。

ベイジのプロジェクトでも、クライアントが「ベイジさんを信頼しているので...」と意見を言い淀んでしまうこともあります。嬉しい言葉のように思えても、実際には「多少思うことはあるけど、プロの意見だから、きっとそれが正しいんだろう」と考えていることが多いのです。言葉を額面通りに受け止めてプロジェクトを進めてしまうと、後に火種になることも。クライアントの様子をよく観察し傾聴することで、積極的に発言を促すことが大切です。

傾聴は英語では「Active Listening」と表現されます。相手の立場にたってアクティブに話を聞き、相手を理解することを通じて信頼関係を築きましょう。営業、CS、1on1などの育成の現場など、人と関わるあらゆるシーンで活用できるスキルです。

ディレクション業務でのポイント・心構え

  • 相手の言葉の背後にある意図を読み取る
  • 傾聴により相手が言いづらいことを引き出す
  • 傾聴でクライアントと信頼関係を築く

9. 言語化力

言語化は「頭のなかで考えていることを言葉に変換し、相手が理解しやすい表現で伝える」というプロセスです。

複雑な事象や物事をわかりやすく構造化して伝えたり、コミュニケーションでの違和感を認識の齟齬がないように相手に正確に伝えたりと、ディレクターが言語化力を求められる場面は頻繁にあるでしょう。とくにリモートワークでは表情や身振りなどの非言語的な情報が得づらいため、言語化で情報を明確にすることが重要です。

意外とクライアントは自社のビジネスやカルチャーなどについてうまく言語化できていないことが多いもの。「御社のターゲットはどういった特性がありますか?」と質問を投げかけても、明確な答えがすぐに返ってくることのほうが少ないでしょう。そういう場合には傾聴しながら相手の考えを整理するきっかけを作り、言語化を助けるのもディレクターの役割です。

言語化力があがると情報整理→構造化→アウトプットのスピードが上がるので、仕事の生産性の向上やコミュニケーションの効率化が期待できます。提案や交渉を有利に進める力にもなるでしょう。逆に言語化がおろそかになると、背景や前提の共有不足や曖昧な言い回しによる齟齬などで、コミュニケーションコストが増大してしまいます。

ディレクション業務でのポイント・心構え

  • 複雑なことや曖昧なことを整理し言葉にして具体化する
  • クライアントの言語化をサポートする
  • 自身の言語化でプロジェクトメンバーを動かす

10. コミュニケーション力

採用現場では求職者に求めるスキルとして常に上位にあがるコミュニケーション力。日本経済団体連合会が行っている新卒一括採用についてのアンケートでは、企業が選考で重要視するポイントとしてコミュニケーション能力が16年連続で1位になっています(2018年度新卒採用に関するアンケート調査結果より)。

ディレクション業務におけるコミュニケーション力は、「相手の意図を正しく理解して関係者に伝え、物事を動かすスキル」と言い換えられるでしょう。

ディレクターがプロジェクトで関わるのはデザイナーやエンジニアなどさまざまな職種のメンバー。さらに現場の制作者からクライアントの意思決定者まで、複数のビジネスレイヤーの人とやりとりをします。

多様なステークホルダーと円滑にコミュニケーションをとるためには、相手の職種やレイヤーに適した言葉を使うことが基本です。例をあげると、サイト制作の経験がない人に「グロナビ」や「CTA」などの略称は通じにくいため、別の言葉で説明をしたほうがよいでしょう。クライアントとの打ち合わせでは代表取締役や役員クラスのメンバーが同席することも多いため、高い視座から物事をとらえ、対等に議論を進めることも必要です。

またクライアントとクリエイターの板挟みになるのはディレクターあるあるのひとつ。ここでとるべきコミュニケーションは、クライアントの要望の背後にある意図をくみ取り、翻訳してクリエイターに伝えることです。

ディレクターの仕事は1人で完結することがなく、常にチームとして動きます。そのためチームメイトの成長を感じたり、チームやクライアントへの貢献を感じたりなど、チームワークを通じてのやりがいを感じやすいポジションだと言えるでしょう。

ディレクション業務でのポイント・心構え

  • 社内外の要望をとりまとめて交通整理する
  • 相手の視座で物事をとらえる
  • コミュニケーションの頻度を高く保つ

11. 人間関係構築力

人間関係の構築は、情報共有の不足といった人的エラーを予防的に対処できるよい手法です。幅広いステークホルダーの利害を調整する役割を担うディレクターにとって、人間関係構築力は大切にしたいスキルのひとつです。

情報共有のとりこぼしはウェブ制作でよく起こるエラーのひとつです。それを防ぐための手段のひとつがメンバーの関係性の構築です。プロジェクトメンバーの交流の場を設けるなどして、メンバー同士がためらわずに発言や質問ができる関係を作っておけば、プロジェクトの進行がスムーズになります。議論を促進する空気づくりも不可欠です。

クライアントやクリエイターの業務理解も、信頼関係構築に役立ちます。クライアントは自分たちのビジネスを理解している人、同じ目線で話せる人を信頼するため、ドメイン知識や市場動向などのインプットは欠かせません。クリエイターも同様で、彼らと良い関係性を作るためにも、最低限の専門知識を身につけるディレクターも多いでしょう。

人間関係を作っておくと、問題が発生したり判断に迷ったりしたときに、周囲のサポートを得て多少はスムーズに解決できることが期待できます。プロジェクトのディレクションに限らず、日々の社内業務などでも有効な隠れた重要スキルといえるでしょう。

ディレクション業務でのポイント・心構え

  • メンバーの心理的距離を近づける場をつくる
  • 議論を活発にするための仕込みをする
  • 相手を理解する姿勢を見せる

12. リーダーシップ

クライアントが制作会社に抱く不満のトップは「言ったことしかしてくれない」というリーダシップ不足に対するもの。ディレクターはオーダーメイドでサービスを提供するプロフェッショナルとして、提案ベースでクライアントの要望に向き合う必要があります。

クライアントが、当初のスコープ内に収まらない要望を出してきたり、開発が進んだタイミングで変更を提案してきたりということは、制作に携わる人なら一度や二度は経験したことがあるでしょう。

しかしクライアントの要望はすべてがマストなものではありません。そのまま応えようとすると制作現場に負担がかかり、プロジェクトの崩壊につながりかねません。クライアントにメリット・デメリットを説明し、優先順位の整理や代替案の提案などを行って、ディレクターはプロジェクトをリードします。

打ち合わせ当初の要望に含まれていなかったことも、文脈から汲み取って提案したり、スコープに含めるかを事前に確認しておいたりすれば、後手に回らずプロジェクトをリードできます。これはクライアントの「自分たちで気づかないことをプロに教えてほしい」という期待に応えることにもなり、高い顧客満足度にもつながるでしょう。

マーケターの森岡毅氏は、リーダーシップは後天的に獲得できると提唱しています。森岡氏は著書でビジネスパーソンの特性をL型(Leadership)、C型(Communication)、T型(Thinking)に分類しています。

L型(Leadership) 人々を統率して動かす力を強みとする人
・人の世話を焼くのが好き
・自分で決断して実行するのが好き
・人に夢を語るのが好き

C型(Communication) 伝える力や人と繋がる力を強みとする人
・人と会ったり話したりするのが好き
・SNSで交流するのが好き
・交流会や飲み会などに参加するのが好き

T型(Thinking) 思考力を強みとする人
・考えることが好き
・戦略ゲームで遊ぶことが好き
・問題を解くのが好き

決断と実行が得意なL型は「気づいたらリーダー的な行動をとっていた」というタイプでしょう。思考力に強みを持つT型やコミュニケーションに秀でたC型も、それぞれの強みを生かした「型」を用いれば、自分らしいリーダーシップを発揮できます。

ディレクション業務でのポイント・心構え

  • 提案ベースでクライアントの要望に向き合う
  • 後に要望が出そうなことは先回って拾っておく
  • 限られた情報と時間のなかで判断を下し、周囲を巻き込んで進める

13. 情報収集力

ディレクターの業務範囲はきわめて広く、事業分析や市場分析などの戦略・企画からコンテンツ、デザイン、開発などの制作までプロジェクトに一貫して関わります。クライアントとクリエイターの橋渡しをするためには、ウェブサイトのトレンドから技術情報まで知識のインプットと更新が欠かせません。

ディレクターは制作物の品質や、情報の正確性などにも責任を持ち制作を進めます。ウェブ制作を進めるうえで重要な情報には、Googleなどの大手外部サービスの仕様変更や、広告運用ポリシー、セキュリティに関する動向などがあるでしょう。個人情報保護法や著作法などの法令改正や、多様性に対応する表現などの知識も随時更新しておき、クライアントワークへ適切に反映させます。

他にもマーケティング・開発・デザインなどの専門知識や、NDAや取引基本契約書といった法務回りの知識など、多様な知識を身につける機会に恵まれています。世界のことを広く知りたいという好奇心旺盛なタイプの人にとっては、特性をいかして多くを学べる職種といえるかもしれません。情報収集力を強みにアウトプットにも力を入れれば、SNSなどでの情報発信でも活躍できるでしょう。

ディレクション業務でのポイント・心構え

  • 専門知識や周辺知識を積極的に身につける
  • 情報感度を高く持ち、常にアンテナをはっておく
  • インプットとアウトプットの習慣をつける

14. 感情抑制力

業務で想定外の事態が断続的に発生し自身の忍耐力を試される経験は、誰もが記憶にあるのではないでしょうか。ビジネスシーンにおける忍耐力は「感情を抑制する力」と言い換えることができるでしょう。

ウェブ制作は予定通りに進まない仕事の代名詞とも言えます。ディレクションは自分で手を動かすことが少ないためにコントロールできる領域が少なく、不確実性がとても高い仕事です。クライアントからの急な問い合わせが舞い込んだり予期せぬトラブルが発生したりと、予定していた作業を進められないことがしばしば起きます。

ときにはクライアントや社内から無理とも思えるリクエストがくることもありますが、感情的になってしまうとプロジェクトをうまく進めることはできません。ディレクターはクライアントの要望や意見をよくも悪くも真っ先に受け止めるポジションです。ネガティブな意見を貰ったときも感情に支配されず、適切に整理して社内スタッフに共有し、次のアクションを考えるように努めましょう。

アンガーマネジメントという、負の感情をコントロールするためのトレーニング方法があります。近年では社内研修に取り入れられることも増えており、職場での感情のコントロールが重要性を増していることが分かります。ディレクターが身につけた感情抑制力はディレクション業務以外でも役立てられる場面が多いでしょう。

ディレクション業務でのポイント・心構え

  • 感情に支配されない
  • とりあえず次のアクションに専念する
  • ネガティブな意見をもらっても冷静に受け止める

15. 生存能力

ディレクターにはプロジェクトの成否がかかっており、プレッシャーが大きいポジションなのは事実。しかしほとんどのWebディレクターは忙しい日々をたくましく生き抜き、ディレクションというやりがいの大きな仕事を楽しむ術を会得していきます。

ディレクターは「物事は予定通りにいかないもの」という共通認識のもとで仕事を進めます。そのため予期せぬ問題が発生したときにも動じないタフネスが備わっていくのです。

たとえばクライアントから急な要望や予想外の依頼がくることがあります。その場合は費用・予算・期間などの問題を順にクリアしていけばよいので、必要以上に怖がることはないでしょう。予算が大きなプロジェクトになると失敗や炎上を恐れる気持ちがわいてきますが、プロジェクトの進行方法は基本的に同じなので、通常通り丁寧に対応していれば問題ありません。

納品物の公開後にトラブル連絡が来るときはさすがに肝が冷えますが、ウェブサイト上のミスで命の危機に晒されることはほとんどありません。焦らずに状況を把握して最短で対処する対処方法を考え出しましょう。ウェブのコンテンツは更新可能なもの。書き換えて成長させられることがウェブ制作の楽しさのひとつです。

プレッシャーが大きい分、チームでひとつのプロダクトを作り上げたときの達成感や、クライアントから「〇〇さんのおかげで、問い合わせが増えたよ!ありがとう」という声をいただいたときの喜びは人一倍です。ユーザーによいものを届けたい、というモチベーションで動くディレクターも多いでしょう。

公開前の作業確認がやめられずに仕事を終えるタイミングが遅くなる日や、クライアントからの返信が気になって眠れない夜もありますが、経験を積むうちに慣れてしまいます。とはいえ精神的にタフな局面はたしかにあるので、生存能力は強くなります。

英国の生態学者ジョン・フィリップ・グライムは植物が生き残るための成功戦略をC(Competitive:競争型)、S(Stress tolarence:耐性型)、R(Ruderal:攪乱耐性)の3つに分けました。このうちのR戦略は予測不能な環境で臨機応変に対応するための戦略です。R戦略をとる植物は、チャンスは逆境に宿るとばかりに厳しい条件を逆に利用し、生存のための工夫を怠りません。

変化が激しい現代でビジネスパーソンとしてキャリアを積んでいくためには、生存能力は重要なスキルのひとつではないでしょうか。

ディレクション業務でのポイント・心構え

  • 「なんとかなる(なんとかする)」
  • 「できないものはできない」
  • 「面白くなってきたぜ」

最後に

ディレクターの仕事の質が、所属している会社の体制に左右されるという側面はたしかにあります。ベイジは社員が安心して長く働ける環境をつくるためにも、難しい納期を要求してくる案件や、価値観が大きく異なる企業からの発注は請けない方針です。このため無理難題をふっかけてくるクライアントはほぼおらず、予想外のことが発生したときも、話し合いながら解決できることがほとんどです。

またベイジではディレクターがインサイドセールスの役割を兼ねるため、「営業が数字を伸ばすためだけに無茶な案件をとってきた」ということも起きません。売上目標を持たされていないので、短期的な売上に奔走せず、じっくりとプロジェクトに取り組むことができることも強みです。

ウェブ業界は常に人材不足に悩まされています。なかでもディレクターは数が少ないため、企業が有能な人材を奪い合うような状況です。需要と供給が不均衡という点から見れば、おいしい職業といえるかもしれません。

ディレクター職は幅広い知識と経験を得られ、職種をまたいで持ち運びできるビジネススキルを身につけることができる仕事です。プロジェクトマネージャー、プロデューサー、マーケター、リサーチャーなど多様なキャリアを形成する入口にすることもできるでしょう。興味がある方は、恐れずにチャレンジしてみることをオススメします。

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