ウェブ制作会社を探している発注企業にお会いした際、私は「コンペはやめた方がいい」という話をよくします。
複数の会社を選ぶこと自体は問題なく、むしろそうすべきと思いますが、ここでいうコンペとは、提案書やデザイン案などの課題を提出させるようなコンペです。
(ちなみに「コンペ」という俗語は、語源のcompetitionから派生して、人や会社によって定義に幅がある使われ方がされていますが、ここでは「なんらかの課題を作らせて競わせる方法」といったん捉えています。見積中心の比較は「相見積」と捉えます)
ウェブ制作会社の立場でこういう話をすると、「その方が自分たちにとって都合がいいからでしょ?」と思われるかもしれません。しかし、もし私が発注企業の担当者だったとしても、やはりコンペという手段は選択しません。
この記事では、私が考えるコンペを実施しない方がいい理由と、コンペをせずに効率よくウェブ制作会社を選ぶ方法をお教えします。
まず、発注企業側にとってのコンペのメリットを整理してみましょう。
こう並べると、大きなメリットを感じるかもしれませんが、1や2については、発注企業側に提案内容からウェブ制作会社の実力と相性を見極める力があることが前提になります。プロジェクトがうまく行くかどうかは、プロジェクト推進力やコミュニケーション能力など複数の要因が絡むため、提案の質だけで見極めることはかなり難しいでしょう。
「だからこそ課題を与えるべきでは」と思うかもしれませんが、提案書や企画書の類だとプレゼン力の強弱にフォーカスすることになり、プレゼン力の優劣を比較しているだけです。プロジェクト推進力やコミュニケーション能力は図れませんし、プレゼン力が優れているゆえに、より重要な要素を無視してしまうことにもなりかねません。
つまり、1や2はメリットのように思えますが、「どう転ぶか分からない」という類のメリットで、ウェブ制作会社選びのギャンブル性を軽減する良策とは言いにくいでしょう。
メリットの3は「そんな気がするだけ」ではないでしょうか。なぜなら魅力的な案件であれば、普通のウェブ制作会社は皆緊張感をもって獲得に動きます。コンペだから特別やる気を出そう、コンペじゃないから気を抜こう、とは普通考えません。
と考えると、発注企業がコンペを実施する最大のメリットは、4の「社内を説得しやすい」のみになります。これは「納得感」のような情緒的な部分が満たされる効果です。中には「素直に自分たちの言いなりになるか」ということをコンペで見極めたがる年配の方もいるかもしれません。そういう目的なら、コンペは有効でしょう。
ただしそこに合理的理由はありません。プロジェクトの約束を必ずしも成功しない「儀式」に、発注企業もウェブ制作会社も時間を費やさないといけない、とも捉えられます。
一方で、発注企業側にとってのコンペのデメリットを整理すると以下のようになります。
結局はメリットとデメリットを比較した上での判断になりますが、私は1の「コンペで選ばれる必要がない優秀なウェブ制作会社に逃げられる」というデメリットをカバーするほどのメリットが、コンペにはないのではないかと感じています。
大前提として、ウェブ制作会社は世の中にたくさんありますが、本当に実力があるウェブ制作会社は限られています。
そういった実力派のウェブ制作会社は常に引く手あまたで、仕事が溢れている状態になっています。彼らの経営上の課題は主に採用や人事であり、顧客獲得にはそれほど悩んでいません。つまり彼らの多くは、コンペなどというリスクを取ってまで、仕事を獲得する必要がないのです。
「大きな仕事を手にするためにリスクを取るのは当たり前だろう」という風に思うかもしれませんが、ウェブ制作会社にとってのコンペのリスクは、発注企業が思っている以上に大きなものです。例えばそれは以下のようなことです。
どれもウェブ制作会社にとっては大きなデメリットですが、特に深刻なのが2のリソース確保の問題です。1は営業コストの範疇と捉えれば受け入れられなくもないですが、2は、営業コストでは賄えない大きな損害を与えかねません。
例えば、工期が6か月の案件のコンペに参加するためには、コンペ確定月から6か月分の人的リソースを確保しておかなければいけません。コンペに勝ったのに受けられない、となるわけにはいかないからです。
そのために、コンペに参加表明して結果ができるまでの期間(多くの場合は1~2か月ほど)、引き合いが多い会社は、そのコンペ案件に勝った時のことを想定し、他の仕事を断る必要が出てきます。そこまでしてコンペに参加した結果、「御社ではない」と言われてしまうと、確保したリソースを早急に埋める必要に迫られます。
これが労働集約型ビジネスであるが故の大きなリスクです。特に30人以下で営業専任担当がいないような小規模ウェブ制作会社にとっては、このことは経営に影響を与えるほどのリスクになります。時々「提案フィーを出すからコンペに参加してくれないか?」という話をいただくこともありますが、提案フィーではなく、確保したリソース分の費用をいただかないと割に合わないのがコンペなのです。
賢明なウェブ制作会社の経営者であれば、コンペに参加しなくても望む顧客と出会えるよう、自社のサービス強化、あるいはマーケティングやブランディングに力を入れるはずです。中には「コンペが好き」と豪語する会社もいますが、そんな会社でも、コンペじゃない案件であえて「コンペをしましょう」とは言わないでしょう。コンペをしなくて済むならそうしたい、というのがほとんどのウェブ制作会社です。
だから、割に合わないコンペからは撤退してしまいます。割に合わないコンペとは、予算が小さい(リターンが少ない)、ブランド力がない(実績として誇示しにくい)、というタイプのコンペです。
つまりコンペを選択すると、実力あるウェブ制作会社を遠ざけてしまう可能性が高まるというわけです。
コンペの中でも特にオススメしないのが「デザインコンペ」です。
デザインコンペとは、ウェブサイトであれば実際にホーム画面(トップページ)などの課題となるビジュアルデザインを作ってもらって、その出来を加味してウェブ制作会社を決めるようなコンペです。
弊社に相談する企業の中には、「コンペでウェブ制作会社を選んだが、うまく行かなかった」というケースがありますが、その中には、デザインコンペでウェブ制作会社を選んでいることが少なくありません。
デザインコンペがウェブ制作会社選定の手段として「悪手」とまで私が断言するのは、以下のような理由からです。
短期間で安易に制作されたビジュアルデザインを評価に加えることで、ウェブ制作会社選定のギャンブル度が高まります。私はコンペ自体に反対ですが、もしもコンペをするなら、ビジュアルデザインを作ってもらうのではなく、企画やプロジェクト計画の提案をしてもらいます。そのことに時間を費やしてもらった方がマシだからです。
「それなら企画や計画と一緒にビジュアルデザインも作ってもらうのがいいのでは?」という意見も出てくると思いますが、その考えにも私は反対です。
ビジュアルデザインが気になるなら、その会社の実績で判断すればいいでしょう。短期間で一方的に作られたビジュアルデザインより、クライアントと何度も検討を重ねて生み出された実績の方が、はるかにその会社のビジュアルデザイン力を表しているはずです。
しかしそんなことよりも、短期間で作られたデザインの視覚的な印象によって、その他のもっと大事な要因の判断基準がぶれる可能性があるのが、大きな問題です。
「なぜビジュアルデザインが必要なのか?」と尋ねると、「上長が納得しないから」という回答が返ってくることが多いですが、その上長が、ビジュアルデザインからウェブ制作会社の実力を測れるほどに、ウェブサイトやUIデザインに精通していることは、ほとんどありません。
私の経験では、そうした上長を含む非デザイナーが「良い」と評するのは、単純に選ばれた写真や配色が好みなだけ、ということが多いです。
非デザイナーは、ウェブサイトのビジュアルを「コンテンツ」「レイアウト」「機能」「写真やイラスト」などと分解して捉えることができないため、写真や配色の印象が良いだけで、そのビジュアルデザインのすべてが素晴らしいと誤認してしまいます。しかしながら、ウェブサイトがユーザーに使われたりマーケティング成果を生み出したりすることと、写真や配色の印象が良く思えることとは、それほど一致しません。
適切な選定眼がないからこそ、たまたま写真や配色が好みなビジュアルを作ってきたウェブ制作会社がいると、強く惹かれてしまい、その他の理由で落とすことが難しくなります。これは、異性と交際した経験が少ない人が、美女やイケメンに心奪われて、自分と相性が悪いにも関わらずその人に固執してしまうという現象に似ています。
このように考えると、少なくともウェブ制作に関してはほぼすべてのケースでデザインコンペをやらない方がいい、と思うわけです。
このようなコンペの問題点、デザインコンペの無意味さは、「コンペをやる」と決めている企業にお会いした際には、必ずお伝えしています。
さらに、こういう話をした後の反応は、私たちは「この企業を顧客とすべきか」ということを見極める一つの判断基準としています。
私たちが「コンペはやるべきではない」「(後述する)コンペではない方法で選定した方がいい」というお話をして、実際にやり方を変える会社がいます。
こういう会社は、ウェブ制作会社の意見を受け入れたり、担当者の意見を上司が受け入れたりできる、風通しの良い会社であると判断しています。実際にお付き合いしてもその印象が変わることはなく、健全な関係で仕事ができることの方が圧倒的に多いです。
一方で「デザインがないと上司を説得できない」という理由で、私たちの提案を拒否する会社もあります。もちろん選択権は発注企業にあるので、私たちはそれ以上何かを言う立場にはありませんが、「部下の論理的な意見に耳を傾けない上司」「合理的な判断より上司の意見を優先する組織風土」「上司を説得する機会すらない担当者の権限の弱さ」に危険を感じ、私たちは辞退をします。
そういう企業と付き合ってもプロジェクトがうまく行くとは思えないし、ウェブサイト以前に組織に重大な問題を抱えているように思えるからです。つまり私たちの場合、コンペをする/しないの判断が、自分たちと相性がいい発注企業かどうかを見極める試金石になっているわけです。
さて、「コンペはするな」と言われると、「ではどうやってウェブ制作会社を選べばいいんだ」となってしまうでしょう。
多くの発注企業にとって、ウェブサイトの制作にかかる費用は安い金額ではないでしょう。だからこそ慎重に確実に選びたいし、可能なら複数の会社を比較して決めたい、と思うはずです。
これはごく自然なことで、私が発注企業の担当者だったら、複数の会社を比較します。ただ、実力あるウェブ制作会社に逃げらずに比較をするために、提案書やデザインを提出させるようなコンペは実施せず、以下の流れで行います。
(こういう選定方法も「コンペ」と呼んでいる会社もありますが、本記事では、提案書やデザイン案などの課題を提出させるようなコンペとは区別して捉えています)
まず、社内の情報提供やネット検索を活用して、ウェブ制作会社の一次候補リストを作り、そこから精査して絞り込みます。この絞り込みには、前回記事のチェックシートを活用してみましょう。
こうして有望な3~5社に絞り込んだら、ウェブサイトから問い合わせをし、会って話を聞きましょう。
面談時は、以下のようなチェックリストを事前に作っておき、これらに基づいて複数人で協議しながら、複数の会社を評価するとよいでしょう。
面談では、特にネット上では収集できない情報を確認していきます。またウェブ制作会社に提出してもらう資料としては、会社紹介を含む実績紹介と、進め方を説明した資料、見積書の3点で十分でしょう。
実績も進め方も、面談時にも詳しく話を聞くとは思いますが、それ以外にまとまった資料をもらっておくと、社内を説得するのに有効です。
提案書まで求めると制作会社の負荷が高まるため、忙しく実力のある制作会社には逃げられてしまう可能性が出てきますが、進め方を説明する資料であれば、どの会社もすぐに作ることができるため、気軽に応じてくれるはずです。
この進め方資料で、具体的にどんなプロセスで、どんなアウトプットを出しながら仕事を進めているのか、プロジェクトマネジメントをどう考えているのか、ということをチェックしましょう。
見積書は、金額感が合わないとそもそも取引できないのでとても大事ですが、「サイト一式=○○万円」という見積書ではなく、作業項目ごとの値段が見える詳細な見積書をもらい、金額と内容に認識の相違がないか、きちんと確認しましょう。
なお、見積書を依頼するとき、予算を伝えずに依頼する企業がいます。予算を伝えてしまうことで、「もっと安くできるのに高く見積もられてしまう」と考え、駆け引きとしてそうしているのかもしれませんが、予算感がわからないとウェブ制作会社は独自解釈してばらばらの基準で見積書を作ってくる可能性が高まり、結果的に見積り確認の無駄な手間が増えてしまうだけです。
妙な駆け引きはやめて、「うちの予算の上限はここまでです」ということを明確に伝えて、そのうえで詳細な見積書を作ってもらうようにしましょう。
なお、予算に関しては、面談前に先に伝えてしまうことをおすすめします。というのも、ウェブ制作会社によって金額感はマチマチであり、そもそも金額が全然合わないウェブ制作会社とわざわざ面談をする時間が無駄だからです。
予算と希望納期、サイトの規模や要件など、基本的な前提を最初に伝えて、その条件で請けられそうなウェブ制作会社と面談をする、という流れにした方が生産的でしょう。
「デザインを含む商材はコンペで選ぶ」というのは、世界的な商習慣として定着しているため、コンペという行為全体の良し悪しについては、私の立場で一概に決められるものではありません。
ただ、「効果的なウェブ制作会社の選び方」という観点でいえば、企画内容やビジュアルだけがそのすべてではない以上、コンペのやり方を間違えると、本当に大事な要素に目がいかなくなり、結果的に不幸な選択になってしまうことも多いのではないでしょうか。そんな思いもあり、主観的なことも含めて、この記事にまとめさせていただきました。
なおこの記事含めて、ウェブ制作会社選びにおいて留意しておくべき点を「ウェブ制作会社選び記事3部作」としてまとめています。
こちらでは、ウェブ制作会社間での値段の違いのカラクリと、安いウェブ制作会社を選ぶ時に気を付けておきたいリスクを解説しています。
またこちらでは、マーケティング型、クリエイティブ型、ファクトリー型に分類したうえで、自社に合ったウェブ制作会社の選び方を解説しています。
これらの記事を参考にして、自社に合ったより良いウェブ制作会社を皆様が選べるようになれば幸いです。
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