男性育休に対する当社の考え
4月1日、川村という男性ディレクターが、3か月の育児休暇から戻ってきました。以下の記事は、その川村が育休開始直後に書いてくれたnoteです。
川村は2020年10月に入社し、3か月働いたのち、2021年1月から3か月間の育休に入りました。彼が育休を希望しているという話は、最終面接直前に面接担当のスタッフから聞きました。私は「別にいいんじゃないの」と即座に了承しました。
私のこの時点の最大の関心事は、優秀な社員が入社してくれるかどうかでした。そのことと比べたら、入社してすぐ育休を取るはどうかは問題ではありませんでした。
このnoteの中で、「会社に貢献していないのに権利だけ主張するのはどうなんだろ、うーん……」と悩む部分があります。確かに私が社員の立場だったら、そう思うかもしれません。でも、経営者の立場からすれば、そのことはまったく重要ではありません。
入社3か月で育休を取るのも、入社5年で育休を取るのも、時期が違うだけで同じです。いやよく考えれば、入社してすぐ、業務に馴染む前の育休の方が、業務に馴染んで戦力化してからの育休より、会社への影響は少ないかもしれません。
彼は「貢献していない」ということについて、ある種のジレンマを感じていたようです。しかし、そもそも育休を含む休暇制度は貢献に応じて付与されるご褒美ではありません。入社すれば全社員が持つ当たり前の権利です。貢献度を気にするのは彼の謙虚さや真面目さと思いつつ、育休と貢献度はまったく関係ない話です。
日本において男性が育休を取るケースは、2019年の段階でまだ7.5%です。女性が83%であることと比べると、かなり少数であることが分かります。
男性が育休を取ることに非協力的な会社の話は、SNS等でもしばしば目にします。多くは同調圧力のような形で現れるのだと思いますが、育休後に報復人事めいたことが行われるという話も聞いたことがあります。しかし、このような判断をする社や管理者は、私からすれば旧世紀の化石のように思えます。
今年の年始、『逃げるは恥だが役に立つ ガンバレ人類 新春スペシャル』を観ました。
様々な社会テーマを盛り込んだ素晴らしいスペシャルドラマなので、是非Paravi等で観てほしいのですが、この劇中でも男性の育休に関する印象的なやり取りがありました。特に響いたのが、古田新太さん演じる沼田頼綱のこのセリフです。
「誰が休んでも仕事が回る。帰ってこられる環境を普段から作っておくこと。それが職場におけるリスク管理」
まさにこの通りです。
育休に限らず、事故・病気・災害、介護など、社員が一時的に、あるいは長期に職場を離脱しなければいけないことは、必ず起こることです。そして、事故・病気・災害だったら休むことを承諾するのに育児だったら承諾しない、というのは理屈が通りません。
育児休業は、子を養育する労働者が法律に基づいて取得できるもので、日本国民なら誰もが受ける権利がある制度です。
会社側の経済的負担を最小限にできるよう、給付金も支給されます。時々、「会社に育休制度がないと育休が取れない」と思ってる人がいますが、全くの誤解で、会社の制度と関係なく、誰でも取得できるものです。
国家レベルでここまでの環境を整えているのに、会社や上司が、会社のマネジメント上の理由、あるいは過去の価値観に根差した感情的な理由で男性の育児休業を認めないというのは、あってはならないことに思えます。
男性育休に反対する理由として、「男性の育休まで許可して、皆がどんどん休みだしたら、仕事が回らなくなるじゃないか」という意見もあるでしょう。
確かに私たちのように、社員数が20人前後、仕事は労働集約型という会社において、欠員が出て困らないといったらウソになります。しかし、大抵のことはその気になればなんとかなります。私には10年少々の経営者経験しかありませんが、そう思います。
実際、川村が3か月休んだことで、売上や利益に影響を与えた形跡はありません。以前男性デザイナーが1か月の育休を取った時も同様に、大きな影響はありませんでした。事故や病気と違い、育休は計画的に取るものなので、事前準備もできます。不在期間中にフォローできる体制を作れば、何とかなります。それでもどうしても回らなくなるなら、売上目標を下げて、仕事を減らせばいいだけです。
そもそも、男女に限らず育児休業は、組織の規模が大きくなるほど取りやすく、小さくなるほど取りにくくなる傾向があります。このグラフでは、従業員30人以上の組織と、従業員5人以上の組織で、10%以上の開きがあります。
小さな会社はそもそも育休が取りにくく、男性育休となるとさらにハードルが上がるのだと思います。ただ、30人に満たない労働集約型ビジネスの当社がなんとかできるわけですから、他にもなんとかできる会社や職場があるのではないでしょうか。「なんとなく無理そう」という印象だけで諦めてるのではないでしょうか。
少子化問題は深刻な社会問題です。総人口の減少、少子高齢化の加速、いずれもがGDPに強く相関し、日本の経済力はさらに低下すると多くの専門家が予想しています。これはもはや一企業の努力だけで変わるものではありません。ただ、例え小さなことであっても、一企業で協力できることはあるはずです。男性でも育休を取りやすくして各家庭の育児を支援する、ということもその一つです。
長期的な視点に立てば、このような形で子育てを支援することは、巡り巡って会社や自分たちに利益をもたらすものだと思います。これは別に優しさでも、博愛主義でも、物分かりの良さでもなんでもなく、これは経営者としてごく当たり前の、長期的視点、全体最適視点に立った上での、合理的な判断なわけです。
このように、男性育休を認めることは、職場のリスク管理、企業が実践すべき社会貢献という観点でいともたやすく論理的に肯定できますが、私の考えの根底には、もっと原始的な精神論もあります。
つまるところ、男性育休を認めるかどうかは、経営者や上司の「覚悟」の問題だと私は思っています。
目標としている売上に到達しなくなるかもしれない。欠員によって現場が混乱するかもしれない。「私も」「俺も」とどんどん休む人が出てきて組織が壊れるかもしれない。「あの人は綺麗ごとばかりで現場が分かってない」と部下から批判されるかもしれない。
だけど、会社のことは自分が何とかする。だから君は今は育児に専念しなさい。そういう覚悟を持てるかどうか。
今の日本社会における男性育休問題というのは、経営者や上司の仕事に対する覚悟が問われているのだと思います。覚悟のない経営者や上司の元からは、人が去っていくでしょう。私は、一時的な利益の低下や現場の混乱より、そのことの方が遥かに怖いです。
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