リモートワーカーが大半を占めるわが社で、「社内ミーティングをVR空間に移行できないか?」という意見が出ました。
「全社員30人にVRゴーグルを配布しても面白いかな」と一瞬思いましたが、「全然使わなかった」となると勿体ないので、検証する場を設けました。そのレポートです。
検証にあたって、Meta社(旧Facebook)が販売しているVRゴーグル『Oculus Quest 2』で無償利用できるビジネス会議用アプリ『Horizon Workrooms』を使いました。
Horizon Workroomsでは、VR空間上でこんなことができます。
最初はOculus Quest 2を購入しようと考えていましたが、レンタルサービスがあることを知り、これを利用してみました。
ドコモのデバイスレンタルサービスkikito - Meta Quest (Oculus Quest) 2 一体型VRヘッドセット
購入するとゴーグルだけで1台につき3〜5万円しますが、こちらの短期レンタルであれば2泊3日で1台につき3,980円で、かなりお得です。本格的に導入するか定かではないという方は、まずはレンタルで試してみるといいでしょう。
また検証にあたっては、初期設定をお互いサポートできるようにするため、私を含めて4人でオフィスに集まりました。
結論からいうと、開始までの初期設定のハードルが結構高いです。参加した4人全員がHorizon Workroomsを開始するのに1時間くらいかかりました。
ゼロからHorizon Workroomsを開始するまでのステップは結構あって
という感じです。整理して書くとシンプルですが、随所で「あれ?これどうするの?」と戸惑うポイントがあり、全社員で一斉に導入しようとするとまずこの初期設定でつまずくこと間違いなしです。
今回は全員同じ場所にいたのでお互いでサポートできましたが、リモート環境で各自が自宅にいながら初期設定を終えるのはなかなか厳しい気がします。本当に全社導入するなら、何チームかに分かれて、チームごとにオフィスに集まって一緒に設定するのがいいかもしれません。
こうして苦労して接続した全員の第一声は「うおー!」でした。とにかく驚くし、感激するし、感動します。色々と操作しながら全員のテンションは明らかに上がってて、「今この瞬間未来の働き方を体験してる!」という力強い実感を得られます。
この感激だけで「やってよかった!」という気持ちになったのですが、社員からは他に、以下のようなポジティブな評価があがってきました。
とはいえ、気になった点も当然ながらありました。主に以下のようなネガティブな意見が出てきました。
結論、全社的な導入は見送りになりました。
理由としてまず、初期設定の難易度の高さがあります。初期設定は初回だけですが、基本的に使い始めるのにヘッドセットを付ける、アプリにアクセスするなど、数段階の手間があり、ZoomやmeetでURLをクリックして参加するほどの手軽さがありません。
また、短時間だと問題なさそうですが、酔う、目が疲れる、重くて肩が凝るなどの、肉体的な疲労を訴える人も一部にいて、人数が多くなるとこれは無視できないように思いました。全社的にこれを強制導入すると、おそらく40~50代以上には非常に疲れやすい環境になってしまうでしょう。
また、META社は「生産性が上がる」と謡ってますが、正直、通常業務は当然ながら、会議の生産性自体も、Zoomなどのオンライン会議に劣ると感じました。
会話そのもののスムーズさは確かにWorkroomsの方が優れていますが、その他の全てが劣ってるように思えます。キーボードの問題、コントローラーの問題、飲み物が飲めないなども含めて、ユーザー体験を総合的に見た時に「現実世界+オンライン会議システム」に劣っているように思いました。
VR上のホワイトボードにPCの画面が映せるのも、同じ空間を共有してる感は出ますが、画面の見やすさはZoomの画面共有の方が優れていて、使い勝手としてはオンラインの良さがなくなり、退化している気がします。
インターネット初期に、オンラインショッピングを3Dにして現実世界の買い物体験を再現しようとして、結果的にオンラインの良さを失って買い物がしにくくなる、という例もありましたが、この手の「デジタルで現実世界を無理に再現しようとして失敗する」という過ちが、ここでも繰り返されてるように感じます。
また髪型や化粧が崩れるのも地味にマイナスです。オフィスとリモートが混在するハイブリッドワークなどでは、オフィスワーカーは身だしなみを整えている可能性が高いわけで、それなのに髪や化粧をぐしゃぐしゃにされるのは、人によってはなかなかの嫌体験ではないかと思います。
まったく使い道がないわけではなく、全員が自宅にいる完全フルリモートで、1on1のように雑談を含む会話をするのには、オンライン会議システムよりも向いているでしょう。社内イベントなどの福利厚生として限定的に使うのは喜ばれるかもしれません。
ただ、社内ミーティングをすべてVR上に移行するには、まだまだ無理があるように思います。最初は感動しますが、使い慣れると感動は薄れて、使い勝手の問題の方が気になりそうです。エンタメとしてはいいですが、仕事で使うのはまだ先な気がしました。
個人的には、以下のように進化すれば再度検討してもいいかな、とは思っています。
最終的には全社導入になりませんでしたが、こうした新しい技術を使った新しい働き方の模索は、これからも時々やっていきたいと思います。
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