企業のウェブ担当者から「ホームページの値段は、なぜ会社によってこうも変わるのか」ということをよく聞かれます。
確かに発注企業からすれば、同じ規模のウェブサイトなのに会社によって数百万円単位で金額が変わるのは謎の現象でしょう。
実際のところ、ウェブ制作の値付けの基準は会社によって千差万別で、一概には語れませんが、その前提の上で、上記のような質問をいただいた際には、私は以下のように、「ウェブ制作会社の値付けの基本法則」をお話ししています。
ウェブサイトの価格は、主に以下の3つの要素で変動します。
一つずつ解説していきましょう。
会社の規模は、価格にある一定の影響を与えています。比較的規模が大きなウェブ制作会社に見積もりを取ったら価格が2~3倍も違った、ということは珍しくありません。
ウェブサイトの制作費の多くを占めているのは人件費です。オフィスの賃料や設備費といった売上規模や販売量に比例しない固定費の割合は低く、売上規模や販売量と一緒に増えていく人件費が売上の5~6割を占めることがほとんどです。(これはweb制作に限った話ではなく、人が中心のサービスは大抵このような収益構造です)
例えば製造業などでは、企業の規模が大きいほど安い製品を大量供給することが可能になったりします。これは人件費などの変動費が占める割合が低く、コストを下げることで大量に売りさばき、全体の利益率を上げることができるためです。一般的に規模の経済性やスケールメリットと呼ばれるものです。
しかし、人件費が価格のほとんどを占めるウェブ制作やデザインなどの業態で、この法則は当てはまりません。売上規模を大きくすると、その分人を増やす必要が出てきます。結果、売上に占める人件費の割合はほとんど変わらず、利益率も上がりません。ただ売上が上昇するだけです。そのため、規模を活かした値下げが非常に難しいです。
また、仕事内容の属人性が高く、人材の流動性も高いため、オペレーション・エクセレンスの追及が非常に難しい業態でもあります。
属人性の高さ故に、規模が大きくなり、人が増えることで、管理コストもそれに比例して増大します。管理のためのコミュニケーションコストが発生し、管理のためのツールやシステムが必要になり、それらをマネジメントする高度な管理者が必要になります。この管理者は経験者でなければ務まらず、大抵制作者より高額なフィーが支払われています。
さらにいえば、上場企業、上場を目指している企業は、ある程度以上の高利益を求められるため、価格を高額に設定する必要により一層迫られます。何か特別な仕組みでも持ってない限り、安価なサイト制作を提供するのはほぼ不可能です。
このようにウェブ制作という業態は、規模の経済性とは真逆の、規模の不経済性が働きやすいビジネスなのです。だから、規模が大きな会社ほど価格が高くなり、フリーランスが一番安い、となるのです。
規模の不経済性が働くとはいえ、もちろんウェブサイトの価格は、会社の規模だけ決まっているわけではありません。
例えば、会社の規模はそれほど変わらないのに見積金額が全然違う、ということは、発注経験のあるウェブ担当者ならば誰しもが経験することでしょう。
このような価格の相違に影響を与えていることの一つが、その会社の仕事の仕方、つまりは「実施するタスクの量」です。
例えば、同じページ数のウェブサイトを作るという仕事でも、
というプロセスを踏む会社と、
というプロセスを踏む会社では、納品までに必要なタスクの量が大きく異なります。このタスク量の違いが、価格に影響を与えるわけです。タスクを精緻に積み上げていく会社ほどウェブサイトの品質は上がりますが、当然価格も高くなります。
つまり同じ規模のウェブサイトの制作でも、表面的には見えない工程をできるだけ省略して作るウェブ制作会社なのか、表面的には見えない工程にもしっかり手間暇かけるウェブ制作会社なのかで、値段が大きく変わるわけです。
このような値付けの基本法則を知らないと、ウェブ制作会社に対して過度な期待や要求をしてしまうことになります。
例えば、「提案をしてくれない」「しっかり考えてくれない」と、現在取引をしているウェブ制作会社に対する不満を漏らす企業は多いですが、よくよく話を聴くと、かなりの低価格・短納期で発注していることがあります。
もちろんその妥当性を発注企業側が想像するのは難しいのですが、我々のような専門家からすれば、その金額や納期では顧客理解にかける時間がそもそも取れず、とても自主的に提案することなんてできないだろう、と感じることも多いです。
個人的な感覚ですが、例えば30~50ページ規模のウェブサイトを300万円未満の金額で請け負うようなウェブ制作会社に、ビジネスの理解や自主的な提案を求めるのは、かなり難しいように思います。
規模以外で価格に影響を与える要因としてもう一つあるのが、スタッフの経験やスキルです。これは簡単な話で
という話です。
つまり、経験が浅くスキルが低いスタッフを多く抱えているウェブ制作会社ほど金額は安くなり、経験豊富でスキルが高いスタッフを多く抱えているウェブ制作会社ほど金額が高くなる、ということです。
これは、安さを追求するほど、「経験が浅いデザイナーが担当する」「経験不足のディレクター故にプロジェクトが混乱する」というリスクが高まることを意味します。もちろんこれは可能性の話であり、相性の問題もあるので、100%そうなるという話ではありませんが、可能性としてはそうなります。
さて、上記のような基本法則がある中で、それに当てはまらない「お得な価格」を提示してくる会社もおそらく存在するでしょう。
しっかりとタスクを実施し、ベテランが担当するけど、要求した通りに値下げをしてくれるウェブ制作会社です。発注企業にとってはありがたい存在ですが、本当にこういうウェブ制作会社は良い会社なのでしょうか?
これも私の推論含みの話ですが、こういうウェブ制作会社は、経営をしっかりと考えていない可能性があり、その意味でリスクがあるように思えます。
例えば、ホテルや飛行機は、多少値段を下げてでも空室や空席を埋めた方が利益が上がるビジネスです。飛行機などは特に分かりやすいですが、一回フライトするのにかかるコストは、満席でも空席でもほとんど変わらないため、値段を下げてでも席を埋めて飛んだ方が良いわけです。だからこういうビジネスは、ニーズに合わせたダイナミックプライシング(変動料金制)が可能になります。
これと同じように「仕事が空くより、安くても仕事を埋めた方がいい」と考え、ウェブ制作の仕事を値下げするとどうなるでしょう。500万円で売らなければ黒字にならないものを、400万、300万と値下げをして受注するような行為です。
ウェブ制作業でこのような無理な値下げをすると、まず、赤字覚悟の安い仕事を遂行するのに労働時間が奪われ、正当な対価の仕事を受ける機会を逸します。
また、多くのウェブ制作会社はマーケティングに弱く、紹介や繋がりで仕事を増やしていく傾向がありますが、一度安く請けた仕事で繋がると、ずっと安い仕事しか入ってこなくなります。こうして、ほとんど利益が出ない体質になっていきます。
「仕事が空くより埋めた方がいい」と錯覚をしてしまうのは、金額のほとんどが人件費だと錯覚しやすいからです。製造業や飲食業であるならば、仕入れの原価があるため、原価を下回るような値下げはよほど戦略的でもない限り行いません。
しかし目に見える原価が少ないウェブ制作の場合、経営者やクリエイターに経済感覚がないと、「自分たちが頑張ればいい」と判断してしまいがちです。仕事が埋まらないプレッシャーに負け、無理な値下げに応じ、「質は悪くないのに異常に安いウェブ制作会社」が生まれます。
発注企業にとっては一見ありがたい存在に思えますが、こういう経営リスクがあるウェブ制作会社と付き合うには、それなりの覚悟も必要です。
こういう会社は自転車操業になりがちで、スタッフは忙しく、余裕がない状態に陥ります。連絡が遅かったり、対応が雑になったりするかもしれません。担当者が突然辞めていなくなるかもしれません。公開後に「これ以上対応できない」と更新や保守を断られるかもしれません。大きな変更をしたいとき、その会社は業態変更をしているか、最悪は無くなっているかもしれません。
無理は歪みとなり、悪い結果となって返ってきます。値下げ圧力を高めようと安易に考えず、その会社が健全に経営できる金額で発注してあげることが、結局は発注企業にとっても長期的なメリットをもたらすと考えた方が良いと、制作会社側としては思います。
ここまでどちらかといえば「安いウェブ制作会社のリスク」の話が多かったかと思います。しかし私は一概に「安いウェブ制作会社=ダメ」とは思ってはいません。
適材適所という言葉があるように、発注企業が何を求めているかによって、適切なウェブ制作会社の条件も価格も変わります。
例えば市場の反応をテスト的に調べてみるためにミニサイトを立ち上げるだけのプロジェクトで、リサーチや戦略立案から入念なテストまで行うような高額なウェブ制作会社に発注するのは、明らかにやり過ぎです。
こういう場合は、安いウェブ制作会社に発注し、安価でスピーディーに立ち上げ、不具合や不都合があれば、公開後に修正していけばいいでしょう。webサイトの特性はいつでもすぐに変更や修正ができることですから、「公開時点のwebサイトのクオリティ」は、事業的にはそれほど重要ではないはずです。
私が知るあるウェブ制作会社は、とても安価で仕事が早いため、朝令暮改で仕事を進めるスタートアップ企業に非常に重宝されています。
また、発注する側の工夫さえあれば、安いウェブ制作会社はコストパフォーマンスの高いウェブ制作会社になります。発注する側の工夫とは、マーケティングや企画などの考える部分は極力発注者側で考え、ビジネスに直結しないデザインの品質や軽微なミスなどは許容する、といったことです。
基本的に、ウェブ制作会社の価格と成果・品質の関係は、以下のようなものだと考えておくと良いでしょう。
人に依存した仕事であり、自動化されている領域も少ないので、高い金額を出したからと言って青天井でクオリティが上がるわけではありません。
投資した金額と成果や品質は、ある程度まで比例しますが、どこかで相関を失います。その見極めは難しいですが、安易に安い/高いで選ぶのではなく、自分たちがほしい成果や品質に対して「丁度いい」と思えるウェブ制作会社を、じっくりヒアリングして選ぶことが重要です。
良くないのは、安価なウェブ制作会社に自主的な提案や企画力、細かな品質まで求めてしまうことです。このエントリーで紹介したように、ウェブ制作会社の価格には、規模、タスク量、スタッフのスキルと一定の相関があります。その法則性を無視したような、発注側に都合がいいウェブ制作会社には、別のリスクが存在します。
「美味しい話は存在しない」と考え、できるだけ日頃からウェブ制作会社の情報を集め、機会があれば話を聞き、サイト制作の相場観を知っておきましょう。その上で、適切な金額で納得感のあるweb制作会社が選べるよう、準備しておくとよいでしょう。
ウェブ制作といえば、「納期」や「納品物の品質」に意識を向けがちですが、私たちはその先にある「顧客の成功」をお客さまと共に考えた上で、ウェブ制作を行っています。そのために「戦略フェーズ」と呼ばれるお客さまのビジネスを理解し、共に議論する期間を必ず設けています。
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