マインドフルネス瞑想に2か月間、全社員で取り組んでみた結果

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代表/マーケター/デザイナー/ブロガー枌谷力

社員のメンタルを整える、ストレスとの健全な付き合い方を啓蒙する、というのはコロナ禍になって以降、経営者である私に課していた大きなテーマの一つでした。その活動の一環として、数々の書籍を読み漁って勉強を重ねました。

アウトプットの一部は、このブログでも公開しています。

こうしたメンタルヘルス活動の最終章として、1日10分の瞑想を2か月間、全社員で行ってみました。その結果、社員の意識がどう変わったかをレポートします。

マインドフルネスとは

マインドフルネスとは、今この瞬間に意識を向けた心の状態を指す言葉です。とはいえ、この説明だけでは、「今この瞬間に意識を向けることの何がそんなに大事なのか?」と疑問に思うかもしれません。

実は私たちの意識は、今この瞬間ではなく、過去や未来に向かっていることの方が圧倒的に多いです。

人は多かれ少なかれ、怒り、不安、恐怖などのネガティブな事象に注目する特性があります。そういう傾向が強い人ほど、いつも過去や未来に関するネガティブな気持ちで頭の中がいっぱいになっています。今現在の目の前の状況は平穏なのに、頭の中は怒りや恐怖や不安の嵐が吹き荒れているわけです。

そんな時、過去や未来を一旦切り離し、今この瞬間に注意を向けることができたらどうでしょう。その間は、怒り、不安、恐怖から開放されます。もちろん根本的な問題が解決するわけではありません。ただ、感情が暴走したり、何かに過剰反応したりすることもなくなります。

「今この瞬間に意識を向ける」とは、「今この瞬間の自分を、評価を加えず、客観的に見る」ということです。例えば、「仕事で嫌なことを言われて頭に来た!」と捉えるのではなく、「仕事で嫌なことを言われて頭に来た、と今私は思った」というように、頭の中にもう一人の自分を作り出し、今の自分を観察するような感覚です。

これができれば、ネガティブな感情に飲み込まれ、反応的な言動に出ることが少なくなります。他人を傷つけ、自分を傷つけることも減るでしょう。「頭に来た」という素直な気持ちを無理に殺す必要はありません。ただその感情に飲まれ、状況を悪化させることだけを回避します。

今この瞬間に意識を向ける心の状態=マインドフルネスを身に付けると、これが可能になります。完璧にはできないかもしれませんが、今までよりも上手に現実と折り合いが付けられるようになります。

マインドフルネスとビジネスの関係

マインドフルネスのルーツは仏教にあるため、宗教的な精神論と誤解されることもありますが、数多くの実験がマインドフルネスの脳科学的な効果を証明しています。

米ハーバードメディカルスクールの心理学部講師サラ・ラザール博士の実験では、毎日約30分のマインドフルネス・エクササイズを約8週間続けた参加者において、学習や記憶に影響する海馬と恐怖や不安といったネガティブな情動に深く関わる扁桃体に変質が確認され、ストレス軽減などとの一定の相関があることが分かりました。

こうした科学的な裏付けから、マインドフルネスはビジネスにおけるリーダーシップ開発やストレスマネジメントの文脈で注目されています。

世界的な経営学誌『ハーバードビジネスレビュー』日本語版では、2013年5月「小さなストレスから身をまもる簡単エクササイズ」というコラムで「マインドフルネス」という言葉が初登場し、以降、約140の論文でマインドフルネスについて言及されています。

また、グーグル、マイクロソフト、フェイスブック、アップル、ゴールドマン・サックス、マッキンゼー&カンパニー、インテル、トヨタ、パナソニック、ヤフー・ジャパン、メルカリといった企業でも、マインドフルネスの取り組みが過去に行われています。

特にグーグルは、社内のマインドフルネス研修をリードしたエンジニア、チャディー・メン・タンによる著書『Search Inside Yourself』が世界的にヒットしたことによって、2010年代中盤以降のビジネスシーンにおけるマインドフルネスブームを牽引した存在と言えるでしょう。

ベイジにおける取り組み

マインドフルネス・エクササイズの手法は一つではありません。散歩、食事、筆記、傾聴、会話の中でもマインドフルネスは実践できます。「今、この瞬間に意識を向けた心の状態」を作ることができればいいので、基本的に手段は問わないのです。

ただそれでも、第一選択肢となるのはやはり瞑想(マインドフルネス瞑想)でしょう。特に、今この瞬間の呼吸に意識を向ける「呼吸瞑想」が、もっともよく知られた手軽な方法です。呼吸は人間なら誰もがする行為であり、それに注意を向けることはいつでもどこでもできるからです。

ベイジのマインドフルネス活動も、この呼吸瞑想が中心でした。

テレワークが浸透しているベイジでは、毎朝10時にDiscord(音声チャットツール)で朝礼が行われています。この冒頭10分間を、瞑想の時間としました。より具体的には、Discordの画面共有機能を使ってYouTubeを共有し、YouTube上にアップされている瞑想動画を再生して、皆で10分間瞑想に取り組みました。

同じ動画を続けていると飽きが来るので、動画は頻繁に入れ替えました。また、集中しやすい手法は人によってバラつきがあるため、呼吸瞑想以外に、ボディスキャン、注意トレーニング、ジャーナリング、慈悲の瞑想、ラベリング瞑想、フリー瞑想など、様々な手法にトライしてみました。

幸いYouTubeには様々な瞑想系の動画がアップされているため、素材に困ることはありません。

ちなみに、数ある動画の中でも、「特に集中しやすい」と社員から評価が高かったのが、吉田昌生さんのこちらです。

動画を入れ替えてバラエティを持たせる以外に、社員が前向きに捉えられるような工夫として、全社員向けのストレスマネジメントの講座を全3回実施しました。また、毎週月曜日の回はマインドフルネスの効果や科学的な裏付けなどの解説を行うなど、納得感と意義を感じられることには最大限の注意を払って、活動していきました。

なぜ全員強制参加にしたのか

私たちのマインドフルネス活動は、最初の2ヵ月は全員強制参加、以降は任意参加としました。ここで社長権限を発動し強制参加としたのは、以下の理由からです。

  1. 懐疑的な人に、一度経験してから肯定するか否定するかを判断してほしかった
  2. 参加することにこれといったデメリットがなかった
  3. 能力によってできる人・できない人という差が生まれる取り組みではなかった

特に大きいのは理由1です。私は、マインドフルネスかどうかはともかく、自分の心の状態やストレスに自覚的になり、心を平静にするために数分でも時間を使うことを、各自の習慣として浸透させたいと思っていました。

ただ、「気が向いた人だけ自由参加」では組織全体の習慣として根付かせるのは厳しいと考えました。なぜならこれは、数字などで分かりやすく効果が見える取り組みではなかったからです。一方で理由2や理由3のように、実施にリスクがある取り組みでもありません。うまく行けば社員のメンタルに好影響を与え、最悪ただ効果がないだけ、という取り組みです。

そのため、社員には「まぁ2ヵ月間だけ騙されたと思って」などと言いながら、全社員強制参加という判断をしました。

その判断が本当に正しかったのか、2ヵ月の必須参加期間終了間際に社員にアンケートを取って確認しました。以下がその集計結果となります。

2ヵ月後の社員の反応

私の事前の予想では、6割の社員が瞑想に対して肯定的な印象を持てれば成功、くらいの気持ちでいました。逆にいえば、4割は瞑想に対して懐疑的な印象を持ったままになるだろう、と予想していました。というのも、瞑想には科学的な裏付けがあるとはいえ、自分自身に起こる変化を数字等で明確に証明できるわけではなく、またどことなく宗教儀礼的な印象も漂っており、全社員を肯定的な態度に変えるのは難しいと考えていたからです。

しかしながら、この予想は嬉しい方向に外れました。開始から2カ月後のアンケートでは、参加した社員の9割以上が、瞑想に対して肯定的な印象を持つに至りました。うち32%は、もともとは懐疑的だったけど、瞑想活動を通して肯定的な印象に変わったと回答しています。

マインドフルネス_グラフQ1

瞑想の効果や裏付けを科学的な立場から説明し続けたことも、理由の一つにあると考えられます。実際、6割の社員はその科学的根拠を信じているようです。

マインドフルネス_グラフQ2

9割以上の社員が肯定的に捉えたというのは、科学的な裏付けの解説だけでなく、各自が何らかの好影響を感じ取っているということも大きいでしょう。実に9割近くの社員が、瞑想は仕事に良い影響を与えそう、という結論に至っています。

マインドフルネス_グラフQ3

またより具体的には、以下のような効果を実感していると答えています。

マインドフルネス_グラフQ4

マインドフルネス_グラフQ14

各種の調査研究では、マインドフルネス瞑想は脳の偏桃体や海馬に影響を与えることが証明されているものの、そのことを実感するのはなかなか難しいでしょう。その一方で現実的に実感するのは、やはりリラックス効果だったり、ストレス状態で冷静になることが増えたり、ということになるかと思います。

実際に私も瞑想活動を続けてみて、自分の脳が変化したことを実感するには至っていません。もしかしたら体質的には何も変わってない可能性があります。

ただ、毎日瞑想を通じて今の自分の状態を観察する行動を続けることで、自分が感情的になったり、何かの考えに囚われてしまっているときに、「あ、こういう時にマインドフルネスだな」と思い出す習慣が身に付きます。このマインドの変化、新しい視点の獲得こそ、マインドフルネス瞑想を続けることで一番実感しやすい効果なのかな、と思います。

こういう実感があるのは私だけではないようで、社員の9割近くが、仕事中に落ち着きを失っているときに瞑想のことを思い出し、自分を客観的に見ようと思った経験があると答えています。

マインドフルネス_グラフQ5

また、全員で一緒に瞑想を行うだけでなく、自主的に瞑想を行うこともあったようです。6割以上の社員が、自分だけで瞑想をしたことがあると答えています。

マインドフルネス_グラフQ6

とはいえ、自分一人でやりたいとまで思うのは少数派で、7割以上の人が誰かと一緒に瞑想をしたいと思っているようでした。特に5割近くの人が一人では続かないため、人と一緒に瞑想したいと答えています。

マインドフルネス_グラフQ7

これは、瞑想は有益だと思ってはいるが、緊急性がある何かを解決する活動ではないために、仕事に焦る気持ちなどに負けて、自分一人では続けにくくなる、完全に習慣化するには時間がかかる、という瞑想の特性を表しているように思います。

また、呼吸瞑想だけでは飽きてしまう可能性もあったため、期間中様々な手法を試してみたのですが、やはり一番しっくりくる感覚があったのは、呼吸瞑想のようでした。ただ、「書く瞑想」と言われる、脳内で湧き上がる気持ちをひたすらメモしていくジャーナリングも比較的人気がありました。

マインドフルネス_グラフQ8

一方で比較的不人気だったのが、自己肯定感を高めるセルフコンパッションの手法としても知られる慈悲の瞑想(ラヴィングカインドネス瞑想)です。

マインドフルネス_グラフQ9

これも科学的には効果があると証明されている手法で、今目の前に自分が愛する人がいることを想像し、「◯◯が安全でありますように」「◯◯が幸せでありますように」「◯◯が健康でありますように」「◯◯に安らぎが訪れますように」と考え、続けて自分自身に対して同じように愛と慈しみの気持ちを送りながら瞑想する、というものです。

これがあまり支持を得なかった理由の一つは、慈悲の瞑想のYouTube動画はいずれも瞑想中の解説が大変多く、10分間だとほとんど解説を聞いているだけになってしまうこと、もう一つは「自分を愛する」「愛と慈しみの気持ちを持つ」というのがどことなく自己陶酔的、宗教的で、気持ち悪さをぬぐえなかったことなのだと考えます。慈悲の瞑想に対するこのような居心地の悪さは、瞑想当日の日報の中でもちらほら言及がありました。

このように、色々と工夫をしながら行った2ヵ月間強制的に行った瞑想活動ですが、結果的には多くの社員に肯定的に受け取っていただけました。さらに今後の任意参加についても、9割以上の社員が、引き続き参加したいと答えています。

マインドフルネス_グラフQ11

また、ストレスをためている人が身近にいた場合、瞑想を勧める可能性があると9割以上の社員が回答をしました。

マインドフルネス_グラフQ15

最後に

現在は、マインドフルネス瞑想は任意参加となっています。社員の自主的な運営に委ね、確実が持ち回りで担当を決めて実施しています。ほとんどの社員が今も瞑想を続けており、始業前に瞑想を行ってから仕事をすることが組織として習慣化されつつあります。

マインドフルネスや瞑想は、実践することでスーパーパワーを得られるような取り組みではありません。規則正しい食事や睡眠と同じように、病気になりにくい心身を作るための日常的な習慣のようなものです。目に見えた効果を実感しにくい活動ではありますが、科学的に効果が証明されており、手軽に実践でき、実践することのデメリットがほとんどありません。

社員のメンタル環境改善の取り組みとして、皆さんの会社でも取り組んでみてはいかがでしょうか。

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