注文住宅を買った顧客体験の一部始終を言語化したついでにウェブ戦略も考えてみた

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代表/マーケター/デザイナー/ブロガー枌谷力

私事ながら、昨年、東京から福岡に移住しました。移住にあたって新居も建てたのですが、ハウスメーカーを選ぶ自分の顧客体験を振り返ることが仕事の参考になると思い、一部始終を書き連ねてみました。

私自身は、15年間も住宅展示場に通うなど、注文住宅の典型的な顧客像から外れたエクストリームカスタマー(極端な顧客)の可能性が高いです。一方、情報取得における行動や心理には、一般的な購買者と重なる部分も多いのではないかと思います。

マーケティングやデザインの現場では近年、顧客理解の必要性が強く叫ばれています。特定の一個人を精緻に観察したN1分析、現場のリアルを観察するエスノグラフィーなどと呼ばれる調査手法も、仕事の中で頻繁に耳にするようになりました。

この記事も、自分自身の行動をメタ化したセルフN1分析といえるかもしれません。

加えて、ウェブ制作に20年以上関わり、現在もウェブ制作会社の代表を務めるという立場から、ハウスメーカーのウェブサイトに対して思うところも後半に追記しました。

ビジネス上の背景や制約など、注文住宅ビジネスのリアルを分からずに書いているため、見当違いの指摘も多々あるかと思います。的外れな部分は無視していただきつつ、リニューアルを検討中のハウスメーカー様各社、その依頼を受ける支援会社や制作会社の提案活動のヒントになれば幸いです。

1. 私の顧客体験の概要

1-1. ブランドの認知状況

家づくりの検討初期段階で触れたブランドは、「①知ってて思い出せた」「②知ってたけど思い出せなかった」「③知らなかった(検討を始めてから知った)」に大別できます。

住宅メーカー想起比較

①知ってて思い出せた

  • 積水ハウス
  • 三井ホーム
  • 住友林業
  • 大和ハウス
  • ヘーベルハウス(旭化成ホームズ)
  • ミサワホーム
  • タマホーム

②知ってたけど思い出せなかった

  • パナソニックホームズ
  • トヨタホーム
  • 一条工務店

③知らなかった(検討を始めてから知った)

  • スウェーデンハウス
  • AQレジデンス
  • ベルクハウス
  • クレバリーホーム

①②の多くは、テレビCMや屋外広告に接する中でいつの間にか記憶していたブランドです。他にも、家族や親戚、知人がそのブランドで家を建てたことを耳にした、近所に素敵な家が建ってて「のぼり」を目にしたことから記憶されたブランドも含まれます。

ただその中でも、「ここの住宅展示場を見に行きたい」とパッと思い出せるブランドと、住宅展示場ではじめて「そういえばそんなメーカーがあったな」と思い出すブランドに分かれました。前者が①で純粋想起ブランド、後者が②で助成想起ブランドです。

③は、まったく触れていない、あるいはまったく記憶されておらず、住宅展示場に行って認知したブランドです。

①のように、脳内にインプットされていて、購買のトリガーが引かれた段階ですぐ純粋想起されて想起集合の中に入ってくるブランドの方が強いと、一般的には言われます。

ただしハウスメーカーの場合、以下の傾向から、純粋想起ブランドが圧倒的に有利ではないようにも感じます。

  • CMの印象がどれも似ててあまり区別がつかない
  • 検討期間が長く、純粋想起や第一想起の優位性があまり活かされない
  • 住宅展示場の印象が強力で、想起の優位性を打ち消してしまう

例えポールポジション(第一想起)を取ってスタート直後の第1コーナーをトップ通過しても、チェッカーフラッグ(成約)までの長い道のりの中で、競争相手にごぼう抜きされてしまうことが多い商材だと感じました。

1-2. 住宅展示場というタッチポイント

ここまで、何の説明もなく住宅展示場の話をしましたが、ハウスメーカー選びでほとんどの人が利用する接点が住宅展示場だと思います。私も例外ではなく、購買意欲が高まった段階でまず訪問したのが住宅展示場でした。

住宅展示場には、複数のハウスメーカーがモデルハウスを構えていて、短時間で多くのサンプルを体験できます。さらにどこに行っても営業担当が手厚く対応してくれるので、CM等での事前の印象はここで完全に上書きされます。

つまり、想起されるイメージよりも、住宅展示場での視覚/触覚/嗅覚/聴覚を刺激する体験(多感覚体験=Multisensory Experience)の方が、圧倒的に強く働くわけです。

ただ、第一想起や純粋想起が無駄かというと、そういうわけでもありません。

私は、住宅展示場ですべてのモデルハウスを体験することは、一度もありませんでした。なぜなら、モデルハウスを見て営業担当の話を聴くのは結構疲れるからです。最初の1~2件は集中力があるが、3~4件目は惰性、それ以上は見ないことがほとんどでした。

そう考えると、住宅展示場での顧客接点創出戦略においては、最初の1~2件に入る上位訪問が重要ということになります。

つまり、マス広告等での複数回接触によって獲得できる第一想起は、ハウスメーカー選定の決定打にはなりにくいですが、住宅展示場における訪問優先順位には影響を与え、これが顧客獲得において有利な立場を間接的に作るように思います。

1-3. ウェブ活用の実態

「住宅展示場に行こう」となった段階では、近隣の住宅展示場を「地名+住宅展示場」などでウェブで検索を行いました。この時に訪問したのは主に住宅展示場の公式サイトで、ハウスメーカーのウェブサイトではありませんでした。

ただし、CMの影響や家族や知人の推薦など、特に好印象を持っているハウスメーカーが存在する場合には、そのハウスメーカーのモデルハウスを見ることができる住宅展示場を探すこともありました。

この場合、ハウスメーカー名で指名検索し、公式サイト内の展示場一覧などに訪問しました。最近のGoogle検索は優秀なので、ホーム(=トップページ)を経由せず、展示場ページにダイレクトに訪問したことも多かったように思います。

また、仮にトップページに訪問しても、グローバルメニューをすぐに確認し、展示場一覧に遷移することがほとんどでした。つまり公式サイトのトップページに求めてるのはナビゲーションであり、掲載情報は見ないし記憶しない、ということです。

私自身は、家を買いたいブームが数年おきに訪れており、初めて住宅展示場に訪れたのは2005年にまで遡ります。そこから断続的に訪問していったため、最終的には、都内にある約20の住宅展示場に訪問するに至りました。ハウスメーカー選定後にも、設計の参考のために住宅展示場には何度か足を運びました。

このような経験からも、ハウスメーカー選びの最重要チャネルが住宅展示場であり、ハウスメーカーは住宅展示場を起点にマーケティング施策を設計した方がよく、公式サイトも住宅展示場の情報に素早くナビゲートできるようにしておくべき、と思ったりします。

1-4. 注文住宅以外の選択肢

いきなりハウスメーカーで注文住宅を作る前提で話を進めてしまいましたが、当然ながら最初からハウスメーカーに頼んで注文住宅を作ろうと思ってたわけではありません。

具体的には、以下のような5段階の意思決定ステップがあった上で、最終的に「ハウスメーカーに依頼して作ろう」という結論に至りました。

住宅購入までのステップ図

ステップ1:賃貸か持ち家か

多くの住宅購入者と同じく、私も元々は賃貸に住んでおり、引き続き賃貸に住み続けるか、持ち家にするかの決断がありました。ここでの主な選定基準は、経済合理性、将来設計などです。

ステップ2:マンションか戸建てか

持ち家を選択した後は、次にマンションか戸建てかの選択が行われました。ここでの主な選定基準は、経済合理性(資産価値)、ライフスタイルなど。一般的には、都市生活者はマンション、地方生活者は戸建てなど、居住エリアの影響も受けやすいと考えます。

ステップ3:中古か新築か

戸建てを選択した後は、中古か新築かを検討しました。ここでの主な選定基準は、経済合理性と、個々の物件の条件、機能など。

ステップ4:建売か注文住宅か

新築戸建てを選択した後は、建売か注文住宅かの選択になります。一般的に、コストパフォーマンスを重視する層が建売、予算に余裕がある層、家づくりにこだわりがある層が注文住宅を選択すると言われています。私の場合、経済合理性よりも「この先10~15年を理想の住環境で暮らしたい」という思いが強かったことから、「家づくりにこだわりがある層」だったと思います。

ステップ5:大手ハウスメーカーか中堅ハウスメーカーか建築家か

注文住宅を選択した後は、どの業者に発注するかの選択になります。私の場合、「大手ハウスメーカーは高いだけでコストパフォーマンスが悪い」という情報に多く触れていたため、建築家との比較で選定が行われました。

あえて分かりやすく意思決定のステップを5段階で表現しましたが、実際には綺麗に順番で行われるわけではなく、前後しながら同時進行で検討と絞り込みが行われました。

そしてこの5つの意思決定を乗り越えてようやく、ハウスメーカーに新築の注文住宅をオーダーする、という結論になりました。

こうした自らの意思決定の経緯を振り返ると、ハウスメーカー、特に大手ハウスメーカーで新築の注文住宅をオーダーするのは、必然的に以下のような層になるのではないかと思います。

  • 比較的予算が潤沢(ただし地域やプランにとって多少変わる)
  • 保守的で安全志向(建築家に頼むようなリスクは取りたくない)
  • 自分で考えるよりなるべく任せたい(なので信頼できる大手ブランド)
  • デザインへのこだわりはあるが、相対的には実は強くない(建築家や先鋭的なデザインが得意な中小メーカーに依頼するほどのこだわりではない)
  • 機能性よりもブランドイメージ(細かな機能の優劣はよく分からないし調べる意欲も相対的にはない)
  • コストパフォーマンスより安心感(多少高くても安心できる会社がいい)

大手ハウスメーカーは皆この層を狙ってるため、分かりやすい差別化/独自性が非常に重要になりますが、この差別化/独自性は「ハウスメーカーの独りよがり」ではなく、きちんと顧客が求めている「顧客ニーズに根差した差別化/独自性」である必要があります。

こうした諸々の前提があった上で、私自身の購買体験を振り返ると、注文住宅を購入するまでのプロセスを整理すると、以下の4ステージに分けることができます。

住宅購入の4ステージ

  1. 夢想ステージ:家が欲しいなと夢見てる段階(購入意欲ナシ)
  2. 検討ステージ:家を作ろうと具体的に検討を始めた段階
  3. 選定ステージ:数社の候補から一社を選ぶまでの段階
  4. 建設ステージ:契約を済ませてから竣工するまでの段階

それぞれの段階について、私がとった行動や心理を元に、より詳しく説明します。

2. 夢想ステージ

住宅購入の4ステージ(夢想ステージ)

夢想ステージとは、「将来的には家を持てたらいいな」という欲求はありつつも、具体的な購買行動には移ってないステージです。このステージは案外長く、私自身もそうでしたが、人によっては10年以上続くこともあるように思います。

ある中規模ハウスメーカーの経営トップは、「『家が欲しいですか?』と言われればほとんどの人が『欲しい』と回答する。それなのに家を買わないのは何らかの障壁があるからで、家が欲しくない人はそもそもいない」という話をしていました。

このように捉えれば、現時点で家を所有していないすべての人が夢想ステージにいる、という見方もできます。

そんな夢想ステージの主な顧客体験の基本は

  • テレビCMを見る
  • 身近な人の口コミを聴く
  • 近所で素敵な新築の家を見る

という受動的な体験ではないかと思います。この体験の質が、1-1で解説した想起に繋がっていきます。

このステージでは購買に向き合う姿勢が基本的に受動的なため、大手ハウスメーカーのCMのような抽象イメージでは関心をそそられず、記憶にもあまり定着しない傾向にありました。

2-1. トリガーは「経済問題の解決」

「夢想ステージ」にいる受動的な顧客が次の「検討ステージ」に移行するには、先ほど経営トップの言葉の中に出てくる「障壁」を取り除く、なんらかのトリガーが必要です。そのトリガーとは、突き詰めると多くの場合は経済的な問題の解決ではないでしょうか。それは、私自身の体験でも例外ではありません。

私がはじめて住宅展示場を訪れたのは2005年頃で、家づくりを決断したのが2020年ですから、住宅展示場に興味を持ちながらも、その後約15年に渡って夢想ステージが続いたことになります。

ここで検討ステージに行けなかったのは、やはり経済問題に起因します。私が理想としていたのは、以下のような条件でした。

  • 下北沢のオフィスに近い
  • 渋谷や恵比寿などの繁華街からタクシーで10分くらいで帰れる
  • 50坪以上の土地

この条件をクリアするには私の経済力では難しく、それが「賃貸」という選択肢を選び続けた主な理由になりました。

しかし、その前提がコロナで変わりました。リモートワークが本格的に浸透し、「オフィスの近く」という条件の優先度がかなり下がったのです。

土地を選ぶ自由度が上がったことで、経済的な制約が緩和し、理想の家づくりができると考えられるようになりました。15年間夢見ながらも膠着状態だった家づくりが、一気に検討ステージに移行しました。

知人などには、家づくりのキッカケは「コロナ」と答えていることが多いですが、厳密には「コロナによって経済問題が解決した」ということになります。コロナによってハウスメーカー各社には問い合わせが殺到し、ある種の新築戸建てブームが訪れましたが、こうした人たちも私と同じく、住む土地に縛られなくなったことで、経済問題がクリアされて検討ステージに移行したのだと推測されます。

2-2. トリガーを引く定石

「経済問題の解決がトリガーになる」というのは、特段目新しい視点ではなく、コロナ以前も各ハウスメーカーがそのトリガーを引こうと、積極的にアプローチをしていました。

住宅展示場に行くと、必ず年収を聞かれ、営業担当に相談すれば、住宅ローンのざっくりした返済計画を立ててもらえます。「家は無理」と思っている層の中には、住宅ローンの知識が乏しく、「無理」だと固定観念で捉えている人も少なからず存在します。こうした人に対する簡易的な返済シミュレーションは効果的です。

また、訪問営業を強みとするあるハウスメーカーでは、営業担当に住宅ローンを含むファイナンスの知識を教育し、近隣住人に訪問してまずファイナンス計画の話をするそうです。このように、「家を持つのは無理」という固定観念を積極的に壊しに行くような営業活動も、顧客化の手段としては有効と考えられます。

とはいえ、無責任にローンを組ませるようなコミュニケーションを取ると、後々に候補から外されるリスクを高めます。例えばあるハウスメーカーは、どこの展示場の営業担当も「あなたなら絶対に大丈夫です!」というシミュレーションを出してきましたが、実際にはそんなに簡単ではないことを知った時に、そのハウスメーカーに対する信頼度が落ち、以降のステージでそのハウスメーカーが選ばない強い理由の一つになりました。

トリガーを引くことは大事ですが、強引な誘導は信頼の低下や悪い口コミに繋がり、長期的に見て顧客化の機会を失わせます。仮にトリガーを引いて検討ステージに誘導できても、対応がマズければ競合の顧客化をアシストするだけになってしまいます。

「顧客に家を買わせる」という近視眼的な対応ではなく、「顧客の人生設計に貢献する」というもっと広い視点から顧客の相談相手になると、その後のステージで有利な立場を作れるように思います。

このような「トリガー」としてウェブサイトを活用したいのであれば、短絡的な公式サイト誘導や展示会誘導、コンバージョン創出ではなく、時には家づくりからもいったん離れて、「顧客の人生設計に貢献する」といったような大きなテーマを掲げて、中長期的な関係作りをテーマにメディア運営していった方が、結果的には事業に貢献するウェブ活用になるかもしれない、と感じました。

2-3. やはり重要な住宅展示場戦略

夢想ステージの顧客は受動的で積極性に欠けますが、夢想ステージであっても住宅展示場への訪問は発生します。私自身がまさにそうでしたが、住宅展示場には「家を持った夢見心地気分を味わうテーマパーク」としての側面があり、娯楽として住宅展示場に訪問したいニーズが一定あると考えられます。

マーケティングを含む購買プロセス全体で考えると、夢想ステージの段階で住宅展示場に訪問する人の数を増やすほど、その後のステージに移行する見込み顧客が増えます。いわゆる購買ファネルを太らせることができます。

これについても既に多くのハウスメーカーが取り組んでおり、住宅展示場を地域住民に開放して、ワークショップやお子様向けイベントを行ったりなどの活動を行っています。比較的高額なハウスメーカーの場合だと、近隣住民を招待するだけでは顧客に繋がらないかもしれませんが、企画内容やチャネルを工夫することで、ターゲットとする顧客層に近い層を住宅展示場に誘導することは十分に可能と考えます。

こうした住宅展示場に誘導する活動にも、ウェブサイトやSNSが貢献する余地はあると考えられます。

2-4. まとめ

ここまでの内容を整理すると、夢想ステージの顧客へのアプローチは

①検討ステージに移行するトリガーを引く

が第一優先になると考えられます。そのためには、障壁となっている経済問題を解消する必要があります。その手段の一つが、住宅展示場や対面営業でのローンシミュレーション、ということになります。

この考えを発展させて、ウェブサイト上でローンシミュレーションできる機能を提供する、といったアイデアも考えられます。ただ、このようなサービスは既にネット上に存在しており、ハウスメーカーが後発で作る必然性が薄いものになります。また、他社ブランドを選ばない差別性を作るのも難しく、そもそもそのページにどうやって誘導するのがいいかという問題もあります。

しかし、展示場で生まれた顧客接点を継続する手段として用意するのであれば、ある一定有効かもしれません。展示場に訪れた顧客に対して「当社ウェブサイトでもシミュレーションができるので、自分の好きな数字を入れて試してみてください」と誘導をかけて、個人情報の獲得やアンケートと引き換えに使ってもらう、といった使い方です。

このように、夢想ステージの顧客に対してはトリガーを引くことが第一の優先施策でありますが、それでも大多数の顧客は簡単には検討ステージには行かないでしょう。そのため、その次に優先すべきアプローチが

②認知された上で良好な関係を続ける

となります。

その手段の一つがテレビCMなどのマスを使ったイメージ広告、住宅展示場を使った広く人を集めるイベント、デジタルを使った展示場誘導施策、マーケティングオートメーションを使ったリード管理やメルマガなどのデジタルコミュニケーションになります。

夢想ステージの顧客は、ニーズが顕在化されてないため、指名検索や一般検索で公式ウェブサイトに訪れて回遊するような能動的な行動はあまり考えにくく、受動的な態度でも触れられるような施策を行うのが現実的と考えられます。

注意すべきは、夢想ステージの顧客は、個人情報をかき集められたり、電話をしつこくかけられたり、メールマガジンを頻繁に送られたり、といった積極的なアプローチを嫌う傾向にあります。積極アプローチを潜在的に待っている層もいるため、実際には見極めが必要ですが、望まないアプローチをすると、その後の関係が途絶える可能性もあります。

そのため、イベント参加のついでにSNSの公式アカウントをフォローしてもらって後は放置するような、顧客の能動的な意識の高まりに委ねるようなチャネルも用意し、顧客がそれらを選択できるようにしておくのが理想に思えます。

3. 検討ステージ

住宅購入の4ステージ(検討ステージ)

検討ステージとは、「家を買おう」と決断し、具体的に検討を始めてから、2~4社程度の有力候補を選ぶまでの段階です。便宜上、夢想ステージと検討ステージで分けていますが、実際にはグラデーションで、夢想ステージの終盤と検討ステージの序盤では、似たような行動をとることも多いです。

検討ステージの人々は、様々な方法で情報収集をしながら、1-2で紹介した5段階の意思決定のステップをクリアし、自らの希望を明確にしていきます。この過程の中で、経済的な制約条件をクリアし、理想の家作りができそうな、信頼できる注文先候補を選定していきます。

3-1. 2種類の顧客心理

自分自身の体験を振り返ってみても、家づくり、特にハウスメーカーに新築の家を注文しようとする顧客心理として、以下の2種類の心理が常に存在していたように思います。

  1. 理想の家や生活が実現するワクワク感(期待系)
  2. 人生最大の失敗をするのではないかという恐怖感(不安系)

1の期待系は主に、映像や写真などの非言語的な視覚的情報によって高まっていきました。2の不安系は主に、ロジカルに説明された言語情報によって解消・緩和されました。

ハウスメーカー選びとは、端的に言えば、できる限り期待を醸成し、可能な限り不安を解消してくれたハウスメーカーを選定することだと思います。しかし現実的には、青天井に期待を高めることも、完璧に不安を解消することもできないため、顧客としては常に妥協ラインを探している状態になります。

この期待醸成と不安解消はいずれも必要ですが、どちらがより重要かといえば、圧倒的に不安解消ではないでしょうか。私自身もそうでしたが、特にネームバリューのある企業グループに属する大手ハウスメーカーを選ぶような人は基本態度が保守的なため、その傾向がより強いと思われます。

ハウスメーカーのウェブサイトやSNSを見ると、まず入口としてデザイン性を競ってアピールしていることが多いです。実際、デザインの「最低ライン」はあるため、ある程度以上の視覚的インパクトは初期段階において重要です。

しかし注文住宅においてはデザインは「注文次第でどうとでもできる(予算さえあれば)」が現実です。最初は分からなくてもやがてそのことを知るので、デザイン性がもっとも強い選定理由にはなりにくいようにも思います。

またビジュアル以外に、「間取りの自由度」や「木のぬくもり」による住空間の快適性なども期待醸成に繋がります。ただこれは実際に各社に話を聞いても自社に有利な話しかしないため、どの会社が最も「間取りの自由度」「木のぬくもり」があるかは、顧客側では判断しにくい要素です。

そして結局、こうした視覚的・構造的な期待は、住宅展示場のモデルハウスが好みかどうかにほとんど依存するのが実態ではないでしょうか。モデルハウスが好みなら好意的に解釈するし、好みじゃないといくら説明されても心動かされません

一方、顧客心理として不安解消はより重要です。失敗すれば経済的・心理的に深刻なダメージを受ける家づくりにおいて、①まずはより上手に不安系に対処したハウスメーカーが優位に立ち、②次に期待醸成がより上手なハウスメーカーが選ばれる、という心理上の優先順位に従って、私自身は候補の絞り込みを行いました。同じような人が多いと考えられます。

繰り返しになりますが、家づくりにおいて顧客は以下のような多種多様な不安を抱えています。それは期待系よりも遥かに多く、外した時の心理的ダメージも遥かに深刻です。

  • 欠陥住宅だったらどうしよう
  • 住み始めてからトラブルが絶えない家になったらどうしよう
  • 終わった後のアフターサービスを全然してくれなかったらどうしよう
  • 経営が不安定でアフターサービスがなくなるハウスメーカーだったらどうしよう
  • 壁が剥がれたり結露したりするような家だったらどうしよう
  • 検討する中でどんどん値段が吊り上がっていったらどうしよう
  • 地震の時に崩れてくるような家だったらどうしよう
  • 火災の時に燃え広がるような構造の家だったらどうしよう
  • レイアウトはいいけど、音や振動が伝わりやすかったらどうしよう
  • 質の低い施工業者に依頼しているハウスメーカーだったらどうしよう
  • 地盤など問題がある土地を薦められてしまったらどうしよう
  • 無理な住宅ローンで支払えなくなったらどうしよう
  • 夏に暑く冬に寒く、湿気も多い快適性が低い家になったらどうしよう
  • 見た目は良いけど使いにくく不満の多い家になったらどうしよう
  • 子供が怪我をするような家になったらどうしよう
  • 口の上手い営業に乗せられ契約し、ストレスが多い家づくりになったらどうしよう

こうした不安解消にもっとも有効なのが言語化された情報です。検討ステージにいる顧客は、様々な手段を尽くして言語化情報を収集し、不安を最小化する方向に向かうのが、基本的な行動パターンになります。

実際に私自身も、家づくりを具体的にイメージしてから(2020年以降)は、デザインのようなパッと見の印象で安易に「ここがいい」と判断することは少なくなり、例えデザイン性が良くて、本当のそのハウスメーカーでいいのかと疑い、できるだけ多くの言語化情報に触れ、不安要素が少ないハウスメーカーであるかを確かめる行動を、多く取っていたように思います。

こうした不安解消は営業担当の知識と話術に委ねられる部分も多いですが、インターネットの発達によって、顧客側でもより客観的で様々な情報を入手できるようになり、情報戦における顧客優位の傾向がより鮮明になっています。競合の情報も含めると、営業担当より顧客の方が詳しい、ということも普通に起こってるように思います。

ハウスメーカー側から見れば、顧客がこうした情報環境にいることを考慮せず、過去の商習慣に囚われた中途半端なコミュニケーションを重ねていると、良かれと思ってやったことで顧客の信頼を損ね、機会を逸しやすい環境になっているともいえます。

3-2. 顧客の情報環境

企業の情報戦略を考える時、コンテンツやチャネルといった切り口から考えてしまいがちです。しかし顧客視点で考えると、どういうコンテンツフォーマットであるかや、どういうチャネルで入手できる情報であるか以上に重要な観点があります。それが「企業発の情報か」「第三者発の情報か」ということです。

企業発の情報というのは、主に以下のようなものです。

  • 公式サイトの情報
  • パンフレットに記載の情報
  • 展示場内に展示してある情報
  • 営業担当の話

顧客目線で見るとこれらの情報は、「間違いない公式情報」という意味の信頼はありますが、「購買の参考になる有益情報」という意味の信頼は希薄です。なぜなら各社、自分たちに都合の良い情報のみを掲載し、不利な情報は掲載しないという前提があるためです。

対する第三者発の情報とは、以下のようなものです。

  • 購入者のブログ
  • 購入者のYouTube
  • SNS上の口コミ
  • 比較情報が充実したアフィリエイトサイト
  • 専門家が書いたブログ
  • 専門家が書いた書籍
  • 第三者機関の評価

これらの情報の真偽は定かではありません。しかしあくまで購入者の目線で、企業寄りではない客観的な立場の意見であることが、顧客にとっては最大の価値となります。各メーカーの公式情報や口コミを集計して詳細に比較したウェブサイトも存在し、相当数のトラフィックを集めていると推測されます。

ハウスメーカーの情報戦略上の大きな課題の一つは、顧客の多くは「第三者発の情報」を求め、「企業発の情報」をあまり見ようとしないことです。

例えば私は、最終的には住友林業さんを選定しましたが、彼らの公式サイトは、展示場一覧以外に見た記憶があまりありません。もしかしたら見たのかもしれませんが、記憶がないくらいにしか見ていません。

住友林業さん以外に候補だったメーカーも同様で、住宅展示場の印象と営業担当の話は参考にしましたが、ある1社を除いて、そこでもらえるパンフレットをサラっと見る程度で、公式サイトを参考にしようとしませんでした。

それよりも圧倒的に参考にしたのが、上記のような「第三者発の情報」です。また、ブログや比較サイト以外に、ハウスメーカーに発注するリスクを解説した書籍も何冊か購入しました。こうした書籍には、ハウスメーカーと家づくりをすることに否定的な見解も多く掲載されているのですが、この書籍に限らず、実は世の中には、特に大手ハウスメーカーには不利な情報が溢れています

例えば以下のような情報です。

  • 大手ハウスメーカーの値段は広告費が乗ってるので無駄に高い
  • 大手ハウスメーカーも結局は下請けに発注するので、質が高いわけではない
  • 大手ハウスメーカーのプランは自由度が低く要望を出すほど高くなる
  • 大手ハウスメーカーは担当者がコロコロ変わる可能性がある
  • 大手ハウスメーカーの担当者は複数案件掛け持ちで親身に見てくれない

事実かはさておき、ハウスメーカー側からこれらに反論する、あるいは反証となる情報を示すことがほとんどないため、流通しているこれらのネガティブ情報は、半ば事実のように伝わってきます。またSNSでは、特定のハウスメーカーを名指しで「あのメーカーに頼んでは絶対にダメ」という投稿を見たことが何度もありました。

こうした情報環境であるが故に、私自身、検討ステージに移行した段階では、大手ハウスメーカーではなく、個人の建築家や工務店に頼もうとしていました。住宅展示場を数多く見て、それなりに好意を抱いているブランドがあったにも関わらず、です。それくらい「大手ハウスメーカー=コストパフォーマンスが悪い」という印象が根付いていました

さらに、そもそもハウスメーカーに不利な情報に囲まれている状況の中で、ハウスメーカー同士のディスり合いが、住宅展示場で繰り広げられています。言い方は直接的だったり間接的だったりバラバラですが、総論としては「自分たちのメーカーが結局は一番いい」「他のメーカーにはこんなデメリットがある」という話を口にします。

これを様々なメーカーから様々な切り口で言われるので、顧客としては誰が言ってる情報が正しいか分からなくなり、企業発の情報に触れるほどどのメーカーを選択すればいいか分からなくなります。そして家に帰ってネットで検索し、結局は比較サイトや個人ブログをアテにする、というサイクルに入っていきました。

3-3. あるべき情報戦略とは

日常的に様々な情報に晒されている現代の顧客に対し、ハウスメーカーの情報戦略としては、以下の2つの方向性があると思います。

  1. 情報は最小限に、ブランドイメージで集客し、営業力でカバーする
  2. 情報をできるだけ公開し、信頼を積み重ねる

多くの大手ハウスメーカーがとっているのは、1です。しかし、それを成立させるのは、以下の条件を満たす必要があります。

  • マス広告などを積極的に行い、認知や好意が高い状態を作る
  • どの住宅展示場にもモデルルームがあり営業がいる状態を作る
  • 優秀な営業担当を育て、良質なブランドイメージを営業が引き継ぐ

つまり、企業としての規模が大きくないと、この戦略は取りにくいといえます。また、大手ハウスメーカーはいずれも似たような戦略を取っているため、その中での差別化は難しく、さらに後工程を担う営業担当に関しては人の問題なので属人性が高く、質を安定させるのは困難です。

こう考えると、多くのハウスメーカーは本来は、「2.情報をできるだけ公開し、信頼を積み重ねる」を選択すべきだと思うのですが、現状、どのハウスメーカーのウェブサイトも広告的な情報を掲載するばかりで、顧客心理に真正面から向き合ったような情報発信に欠けています

第三者発の情報が溢れている今だからこそ、第三者発のネガティブな情報に反論するエビデンス、あるいは第三者では決して書けない詳細な情報を積極的に発信するなど、情報に対して情報で応戦するのが、この情報戦における正攻法であるように感じます。

私が様々なハウスメーカーと接する中で、1社だけ、これをやり切ってると思えるメーカーが存在しました。それがスウェーデンハウスさんです。

スウェーデンハウスさんの住宅展示場に行くと、まずその情報量に圧倒されます。「窓」だけでも分厚い冊子が用意されており、安心できる家づくりのエビデンスがこれでもかと揃っています。先ほど「ウェブサイトに訪問しようとしなかった」と書きましたが、スウェーデンハウスさんだけは、公式サイトへ訪問しました。なぜなら、住宅展示場で提供された情報が豊富であり、ウェブにも豊富な情報が載っているのではないかと期待したためです。

公式サイトはその期待に応えるものでした。機能性などを解説しているハウスメーカーのウェブサイトは珍しくありませんが、スウェーデンハウスさんのウェブサイトはテーマごとに分かれて、一方的な機能訴求だけではなく各種の客観データも添えて、徹底的といえるくらいに解説されています。

ウェブサイトに掲載されている図のデザインは正直あまり洗練されてはいないのですが、読みやすく、文字も大きく、長時間見たくなるようなウェブサイトになっていました。

一方で他社サイトは、見た目は「スタイリッシュ風」にまとめられていますが、面倒な動きがついていたり、文字が小さく読みにくかったり、独りよがりの専門用語を列挙していたりと、顧客視点だと思えたウェブサイトには、残念ながら出会えませんでした。

スウェーデンハウスさんはオリコン顧客満足度調査で8年連続首位を独走していることから、第三者発の情報においても信頼性が高く、ネット上でもあまりネガティブな情報が見られません。今でも個人的にはハウスメーカーカテゴリにおける「最強のブランド」という印象を持っています。

こうした情報戦略は突き詰めると製品戦略の問題になります。製品自体に明確なコンセプトがあり、語るべきことがあるから、情報量も多く、内容も具体的にできます。一方で製品戦略が曖昧だと、語るべきことが少なくなり、コピーは抽象的になり、ビジュアルで押すような訴求しかできなくなります。

規模と経済力で戦えないハウスメーカーは、スウェーデンハウスさんのような情報戦略を選択すべきだが、そのためには語るに足る強い製品戦略が必要になる、しかしそれ自体は情報戦略以上に難しい、そんなジレンマがあるのではないかと、差別化の乏しいパンフレットやウェブサイトを見て、勝手に推測してしまいました。

3-4. デザインに対するニーズ

さて、これだけ私の中で評価が高かったスウェーデンハウスさんですが、結局私は住友林業さんを選びました。なぜかというと、スウェーデンハウスさんの個性的な家のデザインが、私の好みではなかったためです。

となると、「デザイン性がもっとも強い選定理由にはなりにくいというさっきの話と矛盾してるじゃないか!」と思うかもしれません。しかしこれは矛盾してはおらず、デザインは強い選定理由にはならないが、除外理由にはなる、ということです。

スウェーデンハウスさんと同じく、検討段階では高評価だったヘーベルハウスさんも、最終的には選定から外れた理由の一つに、デザインの好みの問題がありました。両ブランドとも機能特性から来る必然的なデザインで、個性が際立ってることは客観的にはとても素晴らしいことだと思いつつ、私の好みからは外れていました。

もちろん、注文住宅は作り込めば限りなく自分好みにできるのですが、それなりのお金もかかる話です。候補として選んでいあのはいずれも元々平均単価が高めのハウスメーカーだったこともあって、そこまでしようとは思いませんでした。個人の設計士や建築家を含めて無数の選択肢がある中で、あえて「好みではないデザインのハウスメーカー」を選ぶ理由はなく、「好みのデザインが実現できそうな中からより不安解消できるハウスメーカー」を選ぶのが、自然でした。

このように自分の行動を振り返ると、「デザイン性」はやはり重要です。顧客から選ばれるためには、検討フェーズの初期段階でデザインに対するハードルをクリアしておく方が圧倒的に有利です。ただそれは、「最高のデザインセンスを見せつける」ということではありません。

そもそも、住宅展示場やパンフレット、ウェブサイトで見るデザインは、「最上級の理想形」であり、ここまではできない、という目で顧客としては見ていました。また、パンフレットやウェブサイト、広告に関しては、今は安い価格帯のハウスメーカーでも高級感のある写真を使っており、もはや写真による差別化はほとんど不可能だと思えました。

さらにいえば、「好きなデザイン」というのは人それぞれ違います。四角くて白いモダンな家が好きな人、木が沢山使われた和を感じさせる家が好きな人、個性的なタイルを張った家が好きな人、ヨーロピアン調のデザインが好きな人、フランク・ロイド・ライトのような家が好きな人、オシャレ長屋のようなデザインが好きな人など、人によって「好きなデザイン」「良いデザイン」は大きく異なります。

このようにデザインの好みが多様なことを踏まえると、住宅展示場のモデルルームへの投資は一定の効果があると思いますが、実物が見れないウェブサイトで美しい写真が掲載されていることに大した効果はなく、除外理由にされない程度のものが掲載されていれば事足りるというのが、現実ではないでしょうか。

デザイン性については、視覚的に美しいことをアピールするよりむしろ、「デザインの自由度がある」「あんなデザインもこんなデザインもできる」というアピール、ようするに「あなた好みにできますよ」という訴求の方が、より有効に思えます。

住友林業さんと家づくりをする中で知ったのは、彼らが独自開発した3Dのデザインツールが存在し、これを見ながら打ち合わせができることでした。3Dのレンダリングを施すことも可能で、実物にかなり近い状態の3Dサンプルを着工前に確認できます。

しかし、住友林業さんはこういう仕組みを持っていることを営業段階では一切アピールしておらず、少なくとも私自身は、展示場に何度も足を運びながら、まったく知りませんでした。

もしかしたら、他の会社でも似たような仕組みはある、と思っているのかもしれませんが、他社も訴求をしていないのであれば、見せれば確実に差別化ポイントになるのではないかと思います。

このように、顧客のデザインの要望に応えるためにやってることだけど、十分にアピールできていないことは、探せば色々あるように思います。これらを情報開示すれば、美しい写真を見る以上に「好みのデザインが作れそう」という期待を得られる気がします。

「デザイン性が高いことを知ってもらおうと綺麗な写真を見せつける」というのは企業目線の発想であり、少なくとも検討フェーズで顧客が求めているのは、デザイン性を担保するための仕組みやプロセス、そのことを証明する情報ではないかと思うわけです。

3-5. まとめ

ここまでの内容を整理すると、検討ステージの顧客へのアプローチは

①期待を醸成する
②不安を解消する

の2つのアプローチを同時に進める必要があるように思いました。その中でも、後続の選定ステージにおける有力候補として残るために重要なのが、②の不安解消となります。

この不安解消に対処するには

  • マス広告などでイメージ漬けにして優秀な営業にパスする
  • 情報をできるだけ開示し、いつでもアクセスできるようにする

の2方向のやり方があります。多くの大手ハウスメーカーが1を選択していますが、大手ハウスメーカーから顧客を奪い取る立場のメーカーほど、情報戦略によって、差別化するのが現実的と思われます。

また、①の期待醸成の手段としてのデザイン性について、除外されないための最低限のアピールは必要だが、写真などの視覚的要素での差別化には限界がある、むしろ顧客が求めているのは「美しいイメージ」よりも「自分好みのデザインを作るためのプロセス」であり、そのことを丁寧に開示していく方が、結果的にデザイン領域における差別化に繋がるのでは、という話をしました。

検討フェーズは、ウェブサイトが顧客にもっとも活用されるステージですが、ウェブサイトを含むウェブ戦略については、後ほど改めてまとめます。

4. 選定ステージ

住宅購入の4ステージ(選定ステージ)

選定ステージでは、数社に絞り込んだ候補の中から、金額やアイデアを詳細に比較し、1社に決定します。ここでのコミュニケーションは対面が中心となり、ハウスメーカー側からすると、営業が主役になるステージです。

ここでも基本的な顧客心理は期待と不安になりますが、私自身は不安解消への要求がより強まりました。またこの段階では、ハウスメーカー発の情報収集に公式サイトやパンフレットを参考にすることはあまりなく、情報源はほぼ営業担当になりました。この段階の営業担当は信頼の最大の根拠であり、ここでの営業担当の心象が悪ければ、それまでのマーケティングの取り組みがすべてが無に帰すと言っても過言ではありません。

顧客目線で言えば、住宅展示場などで営業担当から聞いた話を、他のハウスメーカーの営業担当の話や、ネットで検索すると出てくる第三者発の情報と照らし合わせて検証するのが、主な行動パターンになります。

ハウスメーカー選びが佳境に入るこのステージは、人それぞれで行動がかなり異なってくると思いますが、参考までに、このステージにおける私の顧客体験をご紹介します。

4-1. 私の顧客体験

検討ステージを終えて選定ステージに入った段階で、私の中の候補を以下の4つに絞り込まれていました。

  1. 都内在住のある建築家
  2. 地方在住のある建築家
  3. 九州拠点のある建築家ネットワーク
  4. 某ハウスメーカー

1番目の候補の選定理由はデザインでした。4つの候補の中では、デザインが最も好みだったということで、候補になりました。

2番目の候補の選定理由は、生活動線の専門家だったことです。建築家さんは、動線設計に関する書籍を複数書いてるような方でした。

3番目は、私が東京から福岡に移住する上で福岡に詳しい建築家の方がいいかもしれないと思い、候補に入れました。これは安心感を求めての選択です。

そして4番目に、長年の住宅展示場通いの中で、もっともバランスがいいと感じたハウスメーカーを選びました。これには知人の推薦があったことも大きかったです。

この例でも分かるように、15年間も住宅展示場に行き、数えきれないくらいの営業担当の話を聞いたのに、この段階でも「大手ハウスメーカーに頼むのはコストパフォーマンスが悪い」という考えが抜けていません。それくらいネガティブ情報は強く働きます。大手ハウスメーカーはこの段階に来るまでの情報戦略を、もっと真剣に考えるべきなのでは、と思ったりもします。

それはさておき、結局この中で、1~3の候補は早々に選択肢から消えてしまいました。

1のデザインが強い建築家さんは、問い合わせをした時のメール対応が淡白すぎて、質問への回答も的が微妙に外れている感じだったのと、実際に会う日程がなかなか決められず、やり取りをするほど不安が募ってきて、やり取りを止めました。

2の生活動線の専門家である建築家さんは、返信がかなり遅く(1週間経ってから)、お忙しかったのだと思いますが、やはり初回打ち合わせの日程もなかなか決まらず、竣工までの時期も2年くらいかかると言われ、これは厳しいと考え、打ち合わせを設定せずそのままになりました。

3の建築家ネットワークは、窓口の方は本当に親身になって電話で話を聞いてくれたのですが、紹介してくれた建築家さんのデザインがまったく好みではなく、かといって親切であるがゆえに「紹介される」→「好みじゃないと断る」という一連のやり取りを続けるのが心苦しく、コミュニケーションを続けるのがちょっとしんどく感じてしまいました。あくまで紹介なので、どうしてもレスポンスが悪くなったというのもあります。

この段階で、「建築家さんと直接やり取りして家づくりをするのは結構ハードルが高いぞ」と思うようになりました。

理想の建築家さんと出会うことができれば、ストレスなく、コストパフォーマンス高く、家づくりができるのでしょう。しかしこの「理想の建築家さんと出会う」ということ自体がかなり難易度が高いと感じました。

また私の場合、東京から福岡への移住という条件もあり、土地勘のない福岡での土地探しもできれば手伝ってほしく、さらには銀行のローンに関してもアドバイスが欲しかったために、このすべてを個人の建築家さんにお願いするのは、なかなか厳しいとも思いました。(実際そういう相談もしましたが「大丈夫ですよ」みたいな手短な返事しかなく、それがまた不安に繋がるなど)

このような顧客体験をする中で、私の中での「5段階の意思決定ステップ」がすべて完了し、組織がある程度しっかりしている比較的大手のハウスメーカーに発注する意思が固まりました。

住宅購入までのステップ図

建築家という選択肢がなくなった段階で、4つの選択肢の一つ、もっともバランスがいいと感じたハウスメーカーである某ハウスメーカーさん一択となりました。そして話を進めてみたのですが、約2ヵ月後に、この某ハウスメーカーとの交渉を断念しました。

当時はコロナ禍の影響で戸建て需要が急速に高まっていた時期でした。私の周囲でも家を建てた人が急増し、毎月のように「家づくり宣言」や「家できました報告」をFacebookで見かけていました。こうした時期であったため、どのハウスメーカーの営業担当も多忙を極めていたと聞いています。

私たちが選んだ某ハウスメーカーさんの営業担当の方も、最初は対応が丁寧で良かったのですが、やがて連絡が途絶えがちになったり、約束の期日が守られなかったり、噛み合わない話をするようになっていきました。その営業担当の方自体の人柄の問題というより、会社としてのサポートが全然できておらず、忙しすぎて回ってない印象を受けました。

このような状態のハウスメーカーさんと1年を超える期間家づくりをしていくのは心理的に無理と考え、契約もまだだったこともあり、改めてお断りの連絡をしました。

ここで私たちの家づくりは、振出しに戻りました。しかし建築家という選択肢は既に消えており、ハウスメーカーにお願いする、という方針だけは残りました。

この段階になって、長年の住宅展示場巡りの中で収集した情報と培われたブランドイメージが効いてくることになります。そして「比較的ベターな印象のハウスメーカー」を4社選び、企業サイトの問い合わせフォームから連絡しました。

やはり「戸建てバブル」の影響か、返信は比較的遅めで、あるハウスメーカーに至っては、問い合わせから2週間後に返信が来ました。しかしそんな中で唯一、ほぼ即日返信が来て、すぐZoomで打ち合わせをしてくれたハウスメーカーがいました。それが住友林業さんです。

結果的には、土地、ローンのことまで手厚くサポートしてくれた営業担当の方の対応が強い動機となり、住友林業さんに発注を決めました。

よく、複数のハウスメーカーに提案してもらってから決めるという話もありますが、結局は家のアイデアよりも大事なのは安心感であり、安心感の源泉は企業の総合力と営業担当のコミュニケーション力であり、そこが満たされていれば、やり取りをしながらある程度満足いく家づくりができると思い、コンペなどはせず、住友林業さん一択で決めました。

4-2. ハウスメーカーを選ぶ決定打は?

この記事を書いている時点で、新居に移り住んで約1年が経過しました。家づくりに100点満点は存在せず、70点が合格ライン、なんて話を聞いたことがありますが、1年経った今でも、家に関する不満がほとんどありません。その点でも、この時に住友林業さんに決めてよかったな、と今でも思います。

さて、こうした私自身の顧客体験の一連を客観視すると、ハウスメーカー選びにおいて購買を決める心のスイッチが何かが見えてきました。

外観/内観のデザインや快適性、耐震性などの機能便益が重要だと、当初は思い込んでいました。しかし、購買を決める決定打となったのは「どこよりも感じられる安心感」だったように思います。

安心感は、他のすべての要素を打ち消すくらいに重要でした。また、検討の初期段階よりも、最終段階に近付くほどに不安は大きくなり、安心感を強く求めるようになっていきました。

重要購買決定要因(KBF:Key Buying Factor)が「安心感」だと考えると、各ハウスメーカーが訴求しているデザイン性や住宅としての機能性などは、最初の呼び水にはなれど決定要因にはならず、むしろ「圧倒的な安心感とそれを証明するエビデンス」を顧客に提示し続ける方が、遥かに購買に結び付く気がします。顧客目線に立ち、不安感の解消を最も上手に、細やかにケアできるハウスメーカーが一番強い、というわけです。

最後の段階で、営業担当の属人的な力によって、私たちは住友林業さんの顧客になったわけですが、言い換えると、この段階に来るまで、住友林業さんに対する圧倒的といえるほどの安心感はありませんでした。

その意味では、選定ステージに来る前段階、いわゆるマーケティングの工程に、大きな課題感、あるいは伸び代があるのではないかとも思います。そしてそれは、ほぼすべてのハウスメーカーに共通している気がしますし、そのヒントの一つはスウェーデンハウスさんが握ってるようにも思います。

これはあくまで私だけの事例、N1なので、実際のビジネスでは、私以外の様々な顧客の生の声を詳細に聴くことが大事だと思いますが、そんなことを感じました。

5. 建設ステージ

住宅購入の4ステージ(建築ステージ)

建設ステージとは、ハウスメーカーとの契約を終え、家の設計や施工を行う段階のことです。セールスフォースが提唱した営業モデル「THE MODEL」でいえば、カスタマーサクセスにあたるパートと言えます。

契約が終わっている状態であるため、新規顧客獲得の観点ではあまり重要ではないステージに思えるかもしれません。しかし実際にハウスメーカーさんと共に家づくりを体験する中で、このステージにこそ、大手ハウスメーカーであることの優位性を活かせるアイデアや、次なる顧客獲得に繋がる糸口が、色々と眠っているように思いました。

建設ステージでの私の顧客ニーズを、6つのテーマに分けてご説明します。

  1. 土地を評価してほしい
  2. ローン関係のサポートがほしい
  3. 納得できるデザインにしたい
  4. 進捗は小まめに知りたい
  5. 知人にシェアしたい
  6. 同じ立場の人と情報交換がしたい

5-1. 土地を評価してほしい

家づくりを決めた時点で、土地を自分で探さないといけないことが多いと思います。しかしながら、自信を持って土地を選べる一般生活者はほとんどいないでしょう。

立地条件から新しい生活をイメージしてワクワクする半面、自分が気付いてない欠点があるのでは、地震や水害に弱い土地だったらどうしよう、不動産価値の低い土地を高く買わされたら嫌だな、という不安が常に付きまといます。ここで、第三者であるハウスメーカーさんの助言が大いに役立ち、頼もしく思った記憶があります。

ハウスメーカーからすれば、さっさと土地を決めて設計に入ってくれた方がいい面もあると思います。しかし住友林業さんの営業担当の方は、私たちが気に入った土地に対して「ここはオススメではありません」ということを明確な理由を付けて断言してくれたり、現在の土地も、わざわざ東京から福岡まで来てくれて、現地を見て、土地の所有者とも交渉しながら、本当にここでいいかを私たち以上に慎重に精査してくれました。

また、たくさんの実績があるハウスメーカーさんだからこその豊富な知識が、ここの判断で活きているな、とも思いました。どのハウスメーカーさんも「土地探しから手伝います」とは言ってくれるのですが、ここまで丁寧に対応いただけるとは思っておらず、いい意味で裏切られました。

土地探しのサポートに関しては重要度が高く、一方で家づくりの主体業務ではなく、どこまで関わるべきかは、個人の建築家さんからすると、迷うポイントなのではないかと思います。真剣に関わると調査も含めてそれなりに手間もかかるはずです。このあたりに、大手ハウスメーカーの人的リソースの余裕がうかがえます。

個人的には、土地選びサポートを有料サービスにしてもいいのでは、と思いました。有料化する代わりに専門家が手厚くサポートし、土地選びの明確な審査基準、回避すべき失敗リスクなど、実績が多く知見が豊富なハウスメーカーだからこそ言えることを明確にメニュー化できると、選定ステージ以前でも有利な立場を作れるのではないでしょうか。

5-2. ローン関係のサポートがほしい

住宅を購入する時にローンを組む人が多いと思いますが、素人が金融機関を探して、金利などを精査し、意思決定するのは、なかなか負担のかかる作業です。書籍も買いましたが、即席で知識を身に付けても、やはり問い合わせなどの細々とした対応や、分厚い申込書類への記入など、面倒な作業が非常に多いです。

もちろんハウスメーカーさんが住宅ローンを手掛けてくれるわけではありませんが、このあたりの相談相手にもなっていただき、土地と同じく助けられました。私たちの営業担当は奥様が金融機関勤務ということもあり、金融機関の仕組みなどにも詳しく、私たちの知識不足をかなり助けていただいた記憶があります。

これも土地探しと同じく、有料サービスにしたうえでサービスメニューを分厚く明確にすることで、ハウスメーカーへの「安心感」が上乗せされる気がしました。

5-3. 納得できるデザインにしたい

家づくりの中で最も楽しくワクワクしたのが、設計でした。私だけでなく誰もが、見た目が好みで、住みやすく、予算にも収まる、納得できるデザインを期待して設計に臨みます。一方で常に「設計と実物が違ったらどうしよう」という不安も付きまとっています。

住友林業さんは住宅展示場とは別に、住宅のパーツなどが一式揃ったショールームをいくつか持っています。ここで実物を見ながら検討を重ねられるので、デザインの構成要素を具体的に確認しながら納得しながら進めることができました。

また先ほどもお話しした、設計用の3Dツールのインパクトも大きく、軽微な要望ならその場で変更しながら確認できました。3Dのレンダリングもかなりリアルに作れるので、実際に完成した時の家のイメージをかなり忠実に再現してくれました。

さらに、住友林業さんは住宅展示場にたくさん出展してるので(23区内だけでも20以上)、自分たちのイメージに近かったり、使いたい部材を実際に使ってるモデルハウスがあったら、すぐに現物を確認することが可能でした。

さらにを重ねると、住友林業さんで建てた家は近所にもたくさんあり、また施工中の家もいくつか見ることができ、そうした身近な例を参考にすることもありました。

このようなデザインにまつわる不安を払拭し、納得できる家づくりができる環境は、やはり個人の建築家ではない、規模が大きく実績が豊富な大手ハウスメーカーならではの強み、安心材料であったと思います。しかし、こうした訴求が選定ステージ以前では十分には行われていない(あるいは伝わってこなかった)ので、もったいないとも思いました。

どのように伝えるかは要検討でしょうが、この辺りの顧客体験に関する情報発信も課題であり、あるいは伸び代だと思いました。

5-4. 進捗は小まめに知りたい

設計方針が固まって施工が始まると、家づくりの不安感は少なくなり、期待感が高まっていきます。この段階での顧客心理として強かったのが「進捗を毎日でも見たい」でした。

ただ私たちの場合、東京に居ながら福岡で家を建てたので、毎日見るのは不可能でした。実際に毎日見ても、何も変化がないことの方が多いのですが、それでもほぼ毎日のように「今頃家はどうなってるかなあ」という話を夫婦でしていました。

住友林業さんの方でもそのあたりの期待に応える施主限定のマイページを用意しており、写真付きで現在の進捗が確認できます。ただし、反映が遅い、頻度が低い、写真の画質が粗い、ということで、実際にログインすることはほとんどありませんでした。

代わりによく見たのが、現場責任者さんがLINEグループに頻繁に送ってくれる現場写真でした。これが届くのがいつも楽しみで、まめに送ってくれる現場責任者さんへの感謝がうなぎ上りになりました。この時の写真はスマートフォンに保存し、今でも大事に保管しています。

企業としては、「LINEグループに送る」という現場の方の機転と親切心に任せるのではなく、サービスとしてメニュー化したり、仕組み化したりした方がやはり望ましいようにも思います。「進捗を小まめに知りたい」というニーズに応える仕組みを整えれば、選定ステージ以前の交渉材料にできるのと、実際に家づくりをした顧客からの好意的な口コミにも繋がりやすくなるのではないでしょうか。(これも有料メニューでもいいかもです)

5-5. 知人にシェアしたい

家を作るという話は、家族や仲のいい知人には知れ渡っているため、「家作りはどうなってる?」ということを時々聞かれることがありました。また、「こんなにできあがったよ!」とこちらから見せたくなることもあります。

さらに、私はしませんでしたが、Facebookではフレンド限定で、家づくりの様子を投稿している方も何人かお見かけました。

このように考えると、「施工中の家」というのはシェアしたくなるコンテンツであると言えます。そして、シェアしたくなるということは、認知を拡げる好機が転がっているともいえます。この「シェアしたい」という欲求をうまく活用すると、新たな顧客獲得に繋がっていきそうに思えます。

ただし、一般的な嗜好品やエンタメと違い、不特定多数にはシェアしたくない、という心理もあります。また住所などを知られたくないというリスク意識も働きます。そのため、シェアと言っても、TwitterやInstagramではなく、FacebookやLINEのような、クローズドに発信できるプラットフォームが前提のアイデアになるでしょう。

5-6. 同じ立場の人と情報交換がしたい

これは設計・施工を通してですが、「家づくりについて誰かと語りたい!」という気持ちになります。私の場合には、周囲に同時期に住友林業さんで家づくりをしている人が3人もいたので、それぞれと家づくりに関する情報交換をしていました。

また、住友林業さんでは、Instagramを使ったお宅訪問の配信をしばしばやってて、これもほぼ欠かさず見ていました。

このように、建築中は「同じハウスメーカーで家づくりをしている人と情報交換をしたり語り合ったりしたい」というニーズが生まれるために、このような声に応えるユーザーコミュニティの運営なども、有効であると考えられます。

現実的にはユーザーコミュニティの運営にはリスクがあるため、企業公式として実施すべきかには議論の余地がありますが、こうした「同じ立場の人と繋がりたい」というニーズに応えることは、ブランド作りの一つの鉱脈になりえるように思います。

6. ウェブ戦略

ここまで、私自身の顧客体験を軸に、顧客側から見た時の「家づくり」にまつわるお話をしてきました。ここからはこの記事のもう一つのテーマである「ハウスメーカーのウェブサイト」について、顧客体験を踏まえて思いつくアイデアをまとめてみます。

まず、前述の私の顧客体験を一つのモデルケースとすると、以下のようなウェブサイトやウェブコンテンツが使い方があると思われます。

夢想ステージ

  • 認知を獲得する情報発信(オウンドメディア)
  • トリガーとなる情報発信(オウンドメディア)
  • ローンシミュレーション(専用コンテンツ)
  • マス広告と連動したウェブプロモーション(公式サイト)
  • 住宅展示場と連動したウェブプロモーション(公式サイト)

検討ステージ

  • 期待を醸成するコンテンツの掲載(公式サイト/オウンドメディア)
  • デザイン工程を紹介するコンテンツ(公式サイト)
  • 不安を解消するコンテンツの掲載(公式サイト/オウンドメディア)

選定ステージ

  • 営業を補完するコンテンツの掲載(公式サイト)

建築ステージ

  • 土地選びに関するコンテンツの掲載(公式サイト/オウンドメディア)
  • ローンに関するコンテンツの掲載(公式サイト/オウンドメディア)
  • 進捗が確認できる専用サイト(マイページ)
  • シェアできる機能を持った専用サイト(マイページ)
  • 情報交換をするコミュニティ(コミュニティサイト)

ウェブというのは単なる要素技術なので、創意工夫次第でアイデアはいかようにも拡げることができますが、ここではウェブ戦略の中心になるであろう「公式サイト」と「オウンドメディア」に絞って、解説します。

6-1. 公式サイト

戦略

一般的にウェブサイトを構築する場合、「ウェブサイトは必要なものであり、できるだけ重厚なものを作るのが理想だが、予算を主な制約因子として優先順位をつけて絞る」という前提で作っていきます。しかしその前提自体を、きちんと話し合ってチーム内で共有しておく必要があります。

「検討ステージ」の章の中で「あるべき情報戦略」として、以下の2つを紹介しました。

  1. 情報は最小限に、ブランドイメージで集客し、営業力でカバーする
  2. 情報をできるだけ公開し、信頼を積み重ねる

この話と同じですが、各ハウスメーカーが得意とする顧客獲得戦略がどういうものかによって、ウェブサイトの重要性は変わってきます。

例えば、

  • 十分な知名度と企業規模が強み
  • 著名人を使ったマス広告で認知を拡大させる広告予算がある
  • 多くの住宅展示場に出展でき、街中に多くの顧客接点を作れる
  • 採用や教育に優れており、優秀な営業担当を多く抱えている

といった大手ハウスメーカーであれば、横綱相撲ができます。つまり、手間がかかる情報コンテンツへの投資は最低限、コンテンツは広告を拡張させたもの、コピーも情緒的で雰囲気重視、デザインは見劣りしない程度に整えて期待感は煽り、できるだけ展示場に誘導して営業担当にパスしてクローズさせる、という戦略です。

これとは逆に、

  • 知名度も企業規模も競合の後塵を拝している
  • 広告露出量で戦えるほどの広告予算がない
  • 限られた住宅展示場にしか出展しておらず、街中の顧客接点が少ない
  • 採用や教育がうまく言ってるとはいえず、優秀な営業担当は限られている

という場合は、明確な強み領域を作って大手と差別化するゲリラ戦的な戦い方をしていく必要があります。

この「明確な強み領域」にもいくつかの選択肢があり、例えば「営業担当の数」を強みにし、地域密着型の訪問営業をひたすらかける、というのも一つの作戦です。また、「営業担当の質」を強みにして、営業担当の教育を徹底するというのも一つの作戦です。そして、「情報」を強みとして、営業担当に渡る前から顧客目線の情報発信を行い、営業段階で有利な立場を作っておく、というのも一つの作戦になるかと思います。

どれが正しいというわけではなく、自社の商材特性、組織特性から、どういうスタイルが得意かに合わせて、自社なりの顧客獲得戦略を考える必要があります。こうした顧客獲得戦略を前提としたときに、ウェブサイトはどうあるべきかを考える。これがあるべきウェブ戦略です。

以降は、こうした顧客獲得戦略を踏まえた上で「やはりウェブサイトの充実は欠かせない」「ウェブサイトには情報コンテンツが不可欠」と判断されたことを前提に、お話ししていきます。

コンテンツ

ここまでに紹介したウェブの使い道を改めて公式サイト軸で整理すると、公式サイトとは、以下のような役割を包括したものが理想と考えられます。

  • マス広告と連動したウェブプロモーション
  • 住宅展示場と連動したウェブプロモーション
  • 期待を醸成するコンテンツの掲載
  • デザイン工程を紹介するコンテンツ
  • 不安を解消するコンテンツの掲載
  • 営業を補完するコンテンツの掲載
  • 土地選びに関するコンテンツの掲載
  • ローンに関するコンテンツの掲載

大原則として、ウェブサイトは、ユーザー像をフォーカスして限られた人に最適化して設計するより、できるだけ多種多様なユーザーに使ってもらうように設計した方が、ウェブサイト全体としての価値(投資対効果)は高まります

なぜなら、ウェブサイトは掲載期間や掲載量によってコストが変わる広告メディアではないからです。ウェブサイトは、どれだけの数のコンテンツを載せても、どのくらいの期間載せても、運用費用は基本的に変わりません。(トラフィックによってコストが変わる従量課金のクラウド環境など細かな条件はひとまず置いておくとして)

また、家という商材は、顧客単価数千万円から時には億を超えるような商材です。例えば1年に100人程度しか訪れないニッチな属性の人向けのコンテンツであっても、その中の数名が家を注文すれば、コンテンツの投資額を上回ることがあります。それが数年続くことを考えると、ニッチなニーズも含めた多様性のあるウェブサイトの方が投資対効果が高くなりやすいわけです。

もちろん、実際にはコンテンツ制作の手間や限界もあるため、無尽蔵にウェブサイトを拡張することはできませんが、原則としはそういう考え方になります。そして、投資対効果の高い多様性あるウェブサイトの要になるのが、情報コンテンツです。

このような諸々の考え方があった上で、ハウスメーカーのウェブサイト全体の理想のコンテンツ構成を考えると、以下のようなものになる想定されます。

■ホーム(トップページ)

ホームはその企業サイトの顔になるため、どの企業も力を入れて作り、自社のアピールポイントを詰め込んだ作りにしがちです。しかしユーザーからすると、ホームは中継地点に過ぎず、欲しい情報に速やかに導くナビゲーションの役割を一番期待しています。建物に例えるなら、入り口の玄関で待たされて関係ないポスターや絵画や社歴を眺めたいとは思っておらず、できるだけ速やかに目的の部屋に到着したいと思ってるはずです。ホームは、ナビゲーションを最優先にした情報設計を基本とし、企業側が見せたいバナーで埋め尽くした構造は控えるべきと考えます。

■特長

そのハウスメーカーの特長を1ページでまとめたページです。特長を掴むのに複数のページを見る構造だと、ユーザーに負担がかかり、すべての訴求ポイントに目を通る前に離脱されてしまいかねません。それを避けるために、ダイジェストで分かりやすくポイントだけを説明した特長ページが存在します。問題提起→結論→実証→信頼→安心というダイレクトマーケティングなどで使われている基本セオリーに沿って展開すると、ウェブサイト内の回遊や資料請求、展示場訪問など、その後の行動に繋がりやすくなります。

■進め方

多くのハウスメーカーはここの情報が不足している、あるいは差別化できないように思います。顧客体験において不安解消は非常に重要であり、進め方は最も力を入れるべきポイントだと個人的に感じます。進め方を細かく分解して、用いる資料やツールを紹介し、時には動画も併用するなどして、とにかく「安心して望む家づくりができる」ということをできるだけ解像度高くイメージを持ってもらえると、その後の顧客獲得プロセスで有利になると考えられます。

■家づくり成功の秘訣

これもやはり不安解消コンテンツの一種です。顧客が感じる不安を先回し、そのすべてに回答するようなコンテンツを先に乗せておけば、顧客の不安ができるだけ減らした状態で営業できるようになります。また、こうしたことをしっかり言語化しておくことが、営業担当の教育にも繋がるかもしれません。

■製品シリーズ

各ハウスメーカーの製品シリーズを紹介するページです。どのハウスメーカーのウェブサイトでも掲載されていますが、内容、見せ方については再考の余地があると言えます。

まず、製品シリーズに外来語や造語のサブブランド名を付けていることが多いですが、顧客からするとこうした名前がむしろ情報の複雑性を増しているようにも感じます。

車であれば、「トヨタのカローラがほしい」「日産のセレナがほしい」とサブブランド名を想起し、そこから各車種について調べる、という情報取得行動は起こり得ます。しかし家において「セキスイハウスのレグヌムコートがほしい」「住友林業のプラウディオがほしい」と想起し、それを基準に情報収集するケースはほとんどないと考えられます。

各サブブランドの説明も、それを選んだ顧客への配慮からか、差が分かりにくい曖昧な説明が多い傾向もあります。実際に私自身は、夢想ステージから選定ステージに至るまで、製品シリーズの紹介ページが参考になったことは一度もありませんでした。こうした企業側と顧客側での製品シリーズに対する温度感の違いは、ウェブサイトの構造を考える上で考慮しなければいけないポイントの一つと言えます。

例えばセキスイハウスさんは「鉄骨1・2階建て」といった商品ラインナップで、独自のサブブランドを作っていなかったりしますが、これもハウスメーカーがやりがちな製品シリーズ名に対する課題感から、そうしているのかも知れません。

■テクノロジー

工法、構造、耐震性、断熱性、耐久性、窓、部材など、家を構成する要素の技術的、機能的な優位性を説明するページです。現状でも多くのハウスメーカーが掲載してはいますが、伝わりやすく分かりやすく説明できていることは少ないように感じます。

単に「○○工法によって快適な住環境を実現」と言われても、なぜそう言えるのか、それがどのくらいすごいことなのか、価値が伝わってきません。テクノロジーを説明するときは顧客視点に立った上で、文脈、前提、理由、エビデンスといったものを丁寧に示す必要があります。例えるなら、住宅展示場で営業担当が家のことを何もわかってない訪問者に優しく説明するような、そんなコンテンツが求められます。

■デザイン

デザインについては繰り返し説明してきたように、初期の関心を惹くためには重要な要素です。そのためメニューとしては独立させ、目立たせておくのが望ましいでしょう。また、本来は顧客の要望に応えられるのに、「好きなデザインではない」と誤解されないよう、大きく綺麗な写真を使うこと、様々なニーズに応えられるように、バリエーションの幅を伝える必要があります。

一方で、本当に重要なのはデザインを検討するプロセスです。どのようにしてデザインのすり合わせを行い、顧客が納得するデザインに仕上げていくか、その一部始終を丁寧に、体験の様子が肌感覚で感じられるように伝えていくことが理想です。動画などを用いてもいいでしょう。この点に力を入れているハウスメーカーがいない(極めて少ない)ため、やりきれば他社と差別化できる要因の一つになるはずです。

■お客様支援

土地探し、住宅シーン、アフターサポートなど、家の設計・施工のみならず、その周辺でお客さまを支援するためのサービスを丁寧に訴求するコンテンツです。単に家を作るだけでなく、家づくりという人生最大のイベントのすべての体験が、安心して、納得して進められるハウスメーカーだと確信を持ってもらえるための情報発信が、このコンテンツの価値になります。

■建築事例

住宅展示場のモデルハウスや、パンフレットに掲載している例だけでは、施工の自由度を紹介しきれないため、より現実的なサンプルとして、建築事例の紹介は有効です。事例は外観/内観のデザインを詳細に見せることにもニーズはありますが、検討段階から設計・施工に至るすべての工程で、どのような支援をしたかを丁寧に書いていくと、検討中の顧客に訴求するコンテンツになるでしょう。顧客のインタビューを交えて、顧客視点絡みた時の感想や体験を、できるだけ詳しく丁寧に掲載するのも有効だと感じます。

■参考資料

営業担当から渡される資料などは、敢えてホームページからダウンロードできるようにすることで、ウェブサイトに訪問するきっかけを作ることができます。そこからウェブサイトのコンテンツに誘導し、知らなかった情報に触れていただく、という流れを作ることで、営業支援の機能を強化することも可能になります。

■展示場

各地の展示場を紹介するページです。大手ハウスメーカーの公式サイトにおいて、おそらく一番閲覧されるカテゴリになっているのではないかと思われます。そのため、どのページからも展示場に誘導するような動線設計が不可欠です。また、展示場の写真なども大きく綺麗に見せ、訪問したくなる見せ方をするといいでしょう。さらにダイレクトに予約できるフォームと直結していると、展示場への訪問率の向上が期待できます。

上記が代表的なコンテンツですが、これ以外にも、資料請求、お問い合わせ、イベント情報、お知らせ、サイトマップなどの機能的なコンテンツを組み合わせて、ハウスメーカーのウェブサイトは構成されています。

すべてをグローバルナビゲーションに列挙するのはメニュー数として多すぎるので、グルーピングやカテゴリ分けなどの情報設計の必要はあるでしょうが、全体像としてはこのようなものになるかと思われます。

ウェブサイトのデザイン

上記のようなコンテンツ構成を前提としたとき、ハウスメーカーのウェブサイトのデザインは、どのようなものが理想なのでしょうか。

ハウスメーカーに限らず、デザイン(ビジュアル)の重要性が高い商材では、ウェブサイト自体をアニメーションやグラフィカルな装飾性や審美性を重要視してデザインした方がいいと、企業側が思っていることが多いです。ウェブ制作会社からもそうした提案がなされることが多いでしょう。しかしこのようなビジュアル優先のウェブサイトは、顧客であるユーザーの希望と乖離していることも多いです。

そもそも論に立ち返ると、ユーザーが見たいデザインとは、「家のデザイン」です。それは家にまつわる写真や動画だけであって、ウェブサイトのユーザーインターフェースのデザインが見たいわけではありません

そのため、綺麗な写真等を大きく表示させることは重要ですが、それをグラフィカルに装飾したり、映像のように演出的なアニメーションを入れたりすることは、必ずしもユーザーが望んでいることではありません。

また、ウェブサイトの見た目をスタイリッシュにするために、文字を小さくしたり、英語を使ったりすることもありますが、ユーザーはそのことによって「カッコいい」という印象を持つことは少なく、むしろ文字情報を読み飛ばす可能性を高めてしまいます。

ハウスメーカーとしてのデザイン性を伝えようと、グラフィカルさやスタイリッシュさにこだわったデザイン処理を施すことで、逆に見づらい、使いづらい、頭に入ってこない、と感じさせてしまれば、ブランドとしてはマイナスに働きます。

極論を言えば、Wikipediaのように簡素なウェブサイトに、大きく綺麗な写真が沢山掲載され、豊富な情報が読みやすく分かりやすく並んでいれば、ユーザーは満足します。むしろ余計なノイズを感じることなく迷わずスムーズに「そのハウスメーカーの世界感」に没入できたりします。

このように、アニメーションやグラフィカルな演出が、結果的にユーザーの認識率を下げたり、ユーザーにストレスを与えたりしている実状は、弊社にて行っている様々なユーザーテストでも検出されている明らかな傾向です。

「2-2. 検討ステージ」の中の「デザインに対するニーズ」で言及したように、顧客が求めているデザインに関する情報とは、以下のようなものです。

  • 最低限のデザイン性があること
  • 自分の好みに合うバリエーションや自由度があること
  • 理想のデザインが実現できるプロセスがあること

こう考えると、ウェブサイトとして、デザインに関して満たさなければいけないのは、

  • 最低限のデザイン品質を写真等で伝えること
  • デザインのバリエーションをできるだけ多く見せて自由度を証明すること
  • デザインのプロセスをできるだけ具体的に丁寧に伝えること

ということになります。

大前提として、ウェブサイト上での写真や動画で、デザイン性の高さをすべて伝えるのには、限界があります。今は写真の技術が向上しているため、安価なハウスメーカーでも、まるで高級住宅のような印象の写真を撮影することができ、実際多くのハウスメーカーはそうした写真を使っています。そのため、「最低限」を伝える意味で写真は重要ですが、「最低限より上」は写真では伝えられないともいえます。

そこで重要になるのが、バリエーションとプロセスです。バリエーションはできるだけ多くの写真を見せるということです。プロセスは、文字を中心とした言語化した情報を見せることになります。

この2つを満たす理想のウェブサイトのデザインとは、装飾性が強いUIではなく、シンプルでオーソドックスで迷わないUIになります。ようするにUIの個性は不要で、むしろUIを没個性にすることで、写真や文章が頭に入ってきやすくし、そのことによってブランドの本来の価値を伝える、という考え方が賢明です。

繰り返しになりますが、顧客からすれば「家のデザイン」は初期段階で気になる要素ですが、ハウスメーカーを決める決定的な要素ではなく、インサイトはむしろ「安心感」の中にあります。つまり、安心感をできるだけ高めたハウスメーカーが最終的に選ばれる可能性が高いです。

その考えに従えば、ウェブサイトには安心感を醸成するコンテンツが豊富に掲載している必要があり、その意味でも「スタンダードなデザインでコンテンツが見やすいウェブサイト」が望ましいと考えます。ウェブサイトのビジュアルでブランドを差別化するのは事実上不可能なので、むしろコンテンツ体験を通じてブランドを感じさせる戦略、とも言い換えられます。

また、ウェブサイトのデザインに個性を持たせず、オーソドックスでスタンダードなものが望ましいというのは、他にも2つの観点があります。

ひとつはスマートフォン対応の観点です。ハウスメーカーのウェブサイトは、おそらく7~8割の訪問がスマートフォンからのアクセスになるかと思います。スマートフォンは画面サイズが小さいため、装飾の余地が少なく、シンプルで簡便なウェブサイトが、結局は一番使いやすい、ということになります。

もう一つはアクセシビリティの観点です。家はあらゆる人が必要とする商材です。企業の社会的なスタンスとしても、障害がある方でもできるだけ不自由なく閲覧できるよう考慮された、アクセシブルであることの必然性が高いと考えられます。例えばバリアフリー設計のような商材を売り出しながら、ウェブサイトはアクセシビリティに配慮してないと、言ってることとやってることの辻褄が合わなくもなります。

ウェブアクセシビリティには明確な基準がありますが、これに習えば、自然とウェブサイトのUIは個性的ではなく、スタンダードな方向に収束していきます。言い換えれば、見た目の個性ではなくアクセシビリティに対応している姿勢が、そのハウスメーカーのブランドになりえる、というわけです。

このような様々な観点を踏まえると、ハウスメーカーのウェブサイト自体がデザイン的に華麗だったり個性的だったりする必要はまったくなく、できるだけスタンダードに作り、個性はそこに掲載されている写真や文字情報などのコンテンツで表現する、という方向性がもっとも合理的で適切であると、一顧客だった経験と照らし合わせて強く感じます。

6-2. オウンドメディア

オウンドメディアとは、「自社で情報発信にイニシアチブを持っているメディア」ということであり、厳密には公式ウェブサイトなどもオウンドメディアの一種になります。ただしここでは一般的に言われる、ブログ型の情報メディアをオウンドメディアと呼び、解説していきます。

近年は「オウンドメディアが集客に繋がる」という認識から、様々な会社が様々なオウンドメディアを立ち上げています。このような流れに乗って「うちの会社でも」と闇雲に始めたものの、運用が続かず、更新が止まっているオウンドメディアも少なくありません。

オウンドメディアは成果が出るまでに時間がかかることが多く、またコンバージョンのような直接的に目に見える効果が分かりにくい場合、社内で評価されず、志半ばで運用を止めてしまうケースもあります。

「オウンドメディアを立ち上げる」ことそのものが重要ではなく、大事な考え方は公式サイトと同じで、マーケティング&セールス全体でどのような課題を抱えており、その解決のためにオウンドメディアをどのように使うべきか、という戦略的な視点です。また、その視点は常に顧客視点である必要があります。顧客視点が欠如した企業都合のオウンドメディアでは、当然ながら訪問されにくくなるからです。

そして、オウンドメディアを顧客体験に最適化すると考えると、夢想ステージ向けに作るか、検討ステージ向けに作るかによって、以下のような方針の違いが生まれます。

夢想ステージ

夢想ステージでハウスメーカーがやれることは、

①検討ステージに移行するトリガーを引く
②認知された上で良好な関係を続ける

だというお話をしました。そうするとオウンドメディアの役割も、

  • 購買のトリガーになる情報を提供する
  • 認知を獲得する
  • 認知済の場合はリマインドし、良好なイメージを持ってもらう

といったあたりになってきます。

最初の「購買のトリガーになる情報」とは、主に家作りの検討を阻んでいる経済的な障壁をです。ただ、経済的な障壁を取り除く記事そのものをオウンドメディアの主軸とするのは、あまり現実的ではないように思います。流入経路や記事のバリエーションを作る上での難易度が高いからです。せいぜいオウンドメディアの主目的というより、その中にある一記事という立ち位置でしか、成立しにくいように思います。

となると、オウンドメディアの役割として主に期待できるのは、残り2つということになります。では、どうすれば認知を獲得し、良好なイメージを持ってもらうことができるでしょうか。

そもそも夢想ステージの顧客は、家づくりを具体的には検討していないが「将来家が持てたらいいな」という淡い夢を持っている状態です。そのため、家づくりに関する具体的な情報を求めていません。ただし、現在の住居や生活など、今の自分の身近なこと、関心事に関係があることには、反応を示します。

つまり、ハウスメーカーと関連する「家」や「暮らし」を扱いながら、「家づくり」にはフォーカスしない、ライフスタイル系雑誌のようなメディア運営が適切であると考えられます。

成功のポイントは、読んで面白い質の高い記事作り、コンスタントに記事を発信できる編集・制作体制です。また、認知効果を実際に得るには、月間数万~数十万のページビューでは不十分で、最低でも月間100万ページビューはほしいところです。さらに、記事公開時の拡散を促すために、フォロワー数の多いSNSアカウントを保有する必要もあります。

こう考えていくと、夢想ステージで顧客と出会える確率を高めるオウンドメディア運営は、やり切ると大きな果実を得られる可能性はありますが、これを成し遂げるのはそれ相当の投資が必要であり、かつ成功させる難易度はかなり高い、という結論に至ります。

検討ステージ

家づくりを考え始めた段階が、検討ステージです。このステージ向けのオウンドメディアは、比較的分かりやすいです。記事の中心は、家づくりに関することになります。顧客が家づくりをする上で悩むこと、迷うこと、心配すること、知りたいことを、コンテンツにしていきます。こうした記事はSNSでシェアされることは少ないため、集客手段としてのSEOが重要になってくるでしょう。検索すれば上位に表示されるような記事を多く抱えるほど、オウンドメディアからの送客効果が高まっていきます。

しかしSEOからコンバージョンに貢献するオウンドメディアもまた、成果が出るまでには時間がかかる傾向にあります。記事数も必要になり、最低でも100記事は用意したいです。これを1年以内に実行して、やっと効果が実感できるレベルになります。

そもそも家づくりというテーマは、記事やメディアが既に多数存在しているため、SEOでの上位表示させるのはかなり難しい、あるいはかなり手間がかかると考えられます。こうしたことをやり切って、月間100万ページビュー以上をコンスタントに記録するようになって、ようやく事業への影響が感じられるようになるでしょう。

個人的見解

このように顧客体験のステージ別にオウンドメディアでできることを考えると、アイデアは色々出てきますが、いずれも投資に見合った成果を獲得するまでには、困難な道が予想されます。

こうした諸々を踏まえると、私自身は、ハウスメーカーがオウンドメディアに取り組む優先度は、多くの場合はかなり低いような気がしています。そのことに年間1000万円以上を投下するのであれば(最低でもそれくらいは投下しないと、効果が出る状態まで持っていけない)、他のことに使った方が、より事業に貢献できるのではないかと思います。

7. さいごに

というわけでここまで、顧客体験とウェブ戦略というテーマで、私の体験と知識に基づいて、色々と書かせていただきました。

繰り返しますが、ここに書いたのは私の体験に基づく一意見に過ぎません。特に後半で取り扱ってるように、ウェブサイトをリニューアルしたり、オウンドメディアを立ち上げたりするならば、もっと多くのサンプルを入手した上で、どうあるべきかをより客観的に、多角的に検証する必要があります。

その上で、この記事が何かの参考になり、ハウスメーカーのウェブサイトがより良い方向に行けば幸いです。また、ハウスメーカーや住宅ビジネスのウェブサイトのリニューアルを検討されている方は、是非ベイジまでご相談ください

私たちは、お客さまの成功を共に考えるウェブ制作会社です。

ウェブ制作といえば、「納期」や「納品物の品質」に意識を向けがちですが、私たちはその先にある「顧客の成功」をお客さまと共に考えた上で、ウェブ制作を行っています。そのために「戦略フェーズ」と呼ばれるお客さまのビジネスを理解し、共に議論する期間を必ず設けています。

成果にこだわるウェブサイトをお望みの方、ビジネス視点で相談ができるウェブ制作会社がいないとお困りの方は、是非ベイジをご検討ください。

ベイジは業務システム、社内システム、SaaSといったウェブアプリケーションのUIデザイン、UXデザインにも力を入れています。是非、私たちにご相談ください。

ベイジは通年で採用も行っています。マーケター、ディレクター、デザイナー、エンジニア、ライターなど、さまざまな職種を募集しています。ご興味がある方は採用サイトもご覧ください。

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