ワインセラーと日本酒セラーを製造するさくら製作所は、個人向けの国内ワインセラーメーカーの販売シェア1位を誇る企業です。温度制御技術で特許を取得し、世界で初めて2温度管理式のセラーを開発するなど、高い商品開発技術と巧みなマーケティング戦略で、社員数わずか6名ながら年商12億円まで事業を拡大しています。
ベイジは、2018年から現在までさくら製作所のサイトリニューアルやマーケティング施策など幅広く施策を実施してきました。
この記事の前半ではどのような戦略がウェブサイト制作に反映されたのかをご紹介します。後半ではさくら製作所さんにインタビューを行い、ウェブサイト制作への関わり方やサイトの効果などをお伺いしました。
得られた成果(after)
・お問い合わせ数が月間で約5倍増加
・サイトリニューアル翌月の月次売上が前年比150%超
・専門性の高い情報発信でSEO上位表示
・店頭での販売力強化
・海外からのお問い合わせ増加
・営業情報の均一化さくら製作所が抱えていた課題(before)
・サイトの修正を重ねるうちに情報整理ができなくなった
・セラーの技術力や独自性が伝わりづらいサイトになっている
・ブランドイメージが定まっておらず、サイトに統一感がない
・技術の話ばかりのわかりづらいサイトになっていた
・ワインセラーの正しい情報が伝わりづらいサイトになっていたベイジが行ったこと
・強みや事業戦略などを整理
・ユーザーニーズの洗い出し
・ユーザー視点を意識してコンテンツに反映
・長期的な事業展開に向けたサイト改善
※リニューアルの成果について詳しく知りたい方はインタビューからお読みください
リニューアル前のサイトは、自社が伝えたいことだけを盛り込んだ構成、新製品の情報などを後から付け足すような運用、など複数の課題が重なり、ユーザーが知りたい情報にすぐたどり着けないウェブサイトになっていました。
それによって他社に対して明確な強みや独自性があるにも関わらず、販売員や商品を検討している消費者に「さくら製作所の強み」が十分に伝わっていないことが大きな課題でした。
ワインや日本酒の美味しさを持続させるためには、温度・湿度管理ができるセラーでの保管が理想的です。また、一般家庭でも使用されることを考えると、インテリア性や静音性も重要なポイントとなります。
さくら製作所のセラーは酒質をキープするための優れた温度制御技術や、高いデザイン性などで高い評価を受けており、他製品と比べて明確な強みがあります。
しかしワインセラーや日本酒セラーは、まだ一般家庭に広く普及しているわけではありません。初めてセラーを購入する顧客は、何を基準にどのメーカーを選べばよいか迷ってしまいます。「どの製品でも同じ」という誤った認識のもと、販売員におすすめされる製品をそのまま購入してしまうケースも多いのです。
このようなワインセラー業界や顧客特性を踏まえ、「独自性の訴求」と「セラーの正しい知識を伝えること」を軸として、ウェブサイトを制作することにしました。
まず、ウェブサイト制作初期の段階で行ったのが、競合分析やディスカッションを通して強みを洗い出しブランドを定義する「ビジネス設計」です。強みや独自性を明確にすることは大切ですが、その情報をただウェブサイトに並べるだけでは不十分です。強みをより多くの人に伝えるには、「伝え方・見せ方」を工夫する必要があります。その「見せ方」の基盤となるのがブランドイメージなのです。
ビジネス設計では以下のような流れで、強みやブランドイメージを定義していきました。
まずは、競合他社の製品やサイトを分析したり、口コミサイトで調査をして強みを洗い出します。分析の結果、さくら製作所は他社に比べて以下のような強みや独自性があると定義しました。
さくら製作所の強み
・高い温度・湿度管理技術と優れた静音性で2つの特許を取得
・世界で初めて「ツイン冷却」の2温度式セラーを開発 ※1
・0℃を維持し続ける強力な冷却機能
・設置面積と収納性を両立したコンパクト設計
・国内メーカーの高性能部品を採用
・断熱と紫外線カットに優れたLow‐Eガラス扉※1 日本酒・ワインをそれぞれに適した2温度で管理できるセラー
次に、ワインセラー業界内でさくら製作所がどういった立ち位置を目指すべきかを明確にします。ワインセラーは家電市場の中でも特化型事業に分類されます。さくら製作所はその中でも温度管理技術などに優位性があるので、業界のリーダー的ポジションの獲得を目指しました。
ワインセラー業界の動向やさくら製作所の現状を踏まえて、会社として発信していきたいメッセージや目指すべき姿を明確に定めました。このミッション・ビジョン・バリューを土台にして、いよいよブランドイメージを固めていきます。
ブランドイメージの方向性を定めるために、競合分析や口コミサイトでの調査を実施。調査結果やミッション・ビジョン・バリューを踏まえ、サイト全体のトーン&マナーやコンテンツ、デザインの土台となるブランドピラミッドを作成しました。
定義した「訴求すべき強み」や「ブランドイメージ」を、ただ会社から一方的に発信するだけでは、ユーザーには受け入れてもらえません。リニューアル前のサイトでも、ユーザーが必要とする情報の不足や、使い勝手の悪い構造が大きな課題でした。
大切なのはユーザーがウェブサイトに訪れたときに、知りたい情報がすぐに見つかること。つまり「ユーザー視点」のウェブサイトです。そんなユーザー視点での「現状サイトの問題点」や「ユーザーの必要としている情報」などを洗い出すために実施したのが、ユーザーテストとフィールドワークです。
ユーザーテストでは、サイト訪問者の行動を4つのシナリオに分け、実際にサイトを利用した際の行動パターンや発話などを記録。そこから現状サイトの問題点を分析し、ユーザーが情報取得しやすい動線設計や必要なコンテンツなどを検討しました。その一例が以下です。
リニューアル前の製品購入率はネットが6割、量販店が4割と、量販店の売上も多くを占めていました。そこで量販店の販売員と実際に会話をしたり、ネット上でアンケート調査を行うなど、フィールドワークを実施。現状の問題点を洗い出しました。
ビジネス設計やユーザーテストを通して定義した強みやブランドイメージを、コンテンツやデザインに反映していきます。
まずサイト全体として意識したのが、ユーザーテストを踏まえたユーザー視点の動線設計です。さくら製作所は、ワインセラーと日本酒セラー、個人と法人など、製品や事業ごとに複数の軸があるため、サイトに訪れるユーザーが必要としている情報も様々です。そのため、ニーズ別にページを分類して、ユーザーが知りたい情報にすぐたどり着けるサイト設計を意識しました。
コンテンツでは、さくら製作所の強みや特徴を伝えるページとして「私たちの強み」「メッセージ」「開発ストーリー」「パートナーとの共同開発」を制作。「私たちの強み」では、セラーの種類を分かりやすくまとめたブロックや機能性の高さを説明するブロック、お客さまの実際の声を掲載。「メッセージ」「開発ストーリー」「パートナーとの共同開発」では、どんな思いでセラーを作っているのか、セラー開発までの道のりや苦労など、さくら制作所をもっと知りたくなるようなストーリー性の高いコンテンツを用意しています。
ワインセラーの正しい知識を伝えるコンテンツとしては、「ワインセラーの正しい選び方」ページを作成。セラーを選ぶ際のチェックポイントなど、ユーザーに役立つ情報を盛り込みつつ、「ワインセラー 選び方」「ワインセラー 比較」などのキーワードでSEOを意識。専門家としての認知度向上とウェブサイトへの流入数増加を狙いました。
また、「よくある質問」ページでは、ユーザーテストの結果を反映。実際のお悩みや疑問に応えた内容に改善しています。
製品一覧画面では、ユーザーの保管本数に合わせたサイズ・性能順のレイアウトに変更。製品の絞り込み機能を追加し、ユーザーが比較検討しやすいデザインを意識しました。また、製品の実際の質感やデザインが伝わるように、製品画像を撮り直し、部屋での設置イメージが分かる画像も用意しました。
買い手・売り手のあらゆるニーズに応えたウェブサイト制作で、月間お問い合わせ数が5倍増加、サイト訪問数が209%アップ、売り手の製品理解度向上、専門知識を持った企業としての信頼獲得など、定量定性の両方で成果が出ています。
また、ベイジはサイトリニューアル後も継続的にサイト運営のサポートを行ってきました。その中で見えてきたのは、法人への売上が伸び悩んでいる、サイトの直販率が低い、業界内での認知度が低い、ミドル層の人材不足など、中長期的な事業成長を阻む課題です。そこでサイトリニューアル時に整理したビジネス設計をもとに、中長期的な事業展開につながるサイト改善施策をベイジから提案し、現在まで支援を続けています。
サイトのBtoB強化
目的:法人の売上率向上
施策:法人向け個別ページ・ホテルや飲食店向けの導入事例を追加。法人向けお問い合わせ窓口の設置サイトのEC化
目的:サイトの直販率向上
施策:サイトにEC機能を追加。商品検討から購入までサイト内で完結できる動線設計に改善オウンドメディア「SAKE TALK」運営
目的:専門家としての認知拡大と業界内での関係性構築
施策:全国の蔵元やワインメーカーの取材記事、アルコールに関する雑学記事を発信採用ミニサイト制作
目的:優秀なミドル層の獲得と安定的に人材獲得できる制度構築
施策:ウェブサイトに採用カテゴリを追加。働くメリットや職種紹介などのコンテンツ作成
6年間に渡るリニューアルプロジェクトでは、サイト制作やブランド構築、オウンドメディア運営まで幅広い施策を実施してきました。その積み重ねの結果、さくら製作所の認知度は徐々に高まりつつあります。
今回はプロジェクトのコンサルティング・ディレクションを担当した今西とさくら製作所の穂積氏・奥村氏にインタビューを実施。サイト制作への関わり方や一連の施策が事業拡大にどう繋がったのかを語っていただきました。
ーベイジにサイト制作を依頼しようと思ったきっかけを教えてください。
穂積:リニューアルの要件から一緒に整理してもらえる点が魅力的でした。伝えたい情報がたくさんある中で、事業内容の整理から効果的なコンテンツの見せ方まで、数多く提案していただけたことが決め手です。
今西:プロジェクトの前半では、サイト構成の話より、今後の事業戦略について重点的に話し合いました。温度管理に特化した会社として、業界のリーダーを狙っていこうという議論や、温度をテーマにしたロゴの提案などもさせていただきました。我々としても事業や課題に対する理解を深めることができたので、議論を通して丁寧に目線合わせができてよかったと感じます。
ーロゴ制作やコンテンツの見せ方などはブランディングにも通じる大切な要素だと思います。ブランディングはプロジェクト初期から重要視されていたのですか?
穂積:ロゴ制作が、ブランディングの重要性に気づくきっかけとなりました。ワインセラー業界でリーダーになりたいという思いは当時からありましたが、売上で1位を取ることだけでなく、会社の活動や考え方を形にして発信する必要性を実感したんです。ワインセラーのスペックではなく「健康」「幸せ」のようなもっと大きな概念で世の中に貢献すべきという方向性が明確になったと思います。
奥村:会社のトーン&マナーを定めたこともブランディングに活きていると思います。以前は提案資料やパンフレットごとにデザインが異なっていて、統一感がありませんでした。そこを明確に設定することで、資料のクオリティを担保できたり、伝わりやすさにも繋がったと思います。
ー実際にブランディングやサイトリニューアルの効果を感じる場面はありましたか?
穂積:サイトリニューアル当時、販売員さんやバイヤーさんから「サイトが分かりやすい」「ワインセラーや温度管理の知識が身につく」という言葉をいただきました。特にバイヤーさんは、売れ筋の商品やその特徴など、新しい情報を日々チェックしています。その中でサイトの情報量が全然違う、さくら製作所のサイトを基準にして他と比較する、という話も耳にします。
奥村:サイトリニューアル後から5年間、売上1位を継続できているので、売上と評判から見ても業界内で1つのスタンダードになれていると思います。
ー現サイトはコンテンツ量がかなり多いですが、サイト制作時は大変だったのではないでしょうか?
穂積:ウェブサイトの制作自体を営業活動と捉えて、自社のマーケティング業務に活かすことができたので、特に負担はなかったですね。サイト制作の過程で得られたコンテンツは資料化して、戦略工程で言語化してもらったマーケティング戦略は、実際の経営方針に置き換えていました。
今西:確かにサイトリニューアル時に制作した資料やコンテンツを、カタログやパンフレットにも反映したり、量販店さんへの提案書にも活用いただけているので、汎用性は高いかもしれませんね。
ーウェブサイトのコンテンツを顧客だけでなく、社内にも活用しているのですね。その他にはどんな活用方法がありますか?
穂積:社内で言うと、サイトを社員の教育ツールとして活用しています。今のサイトは商品のスペックや詳細情報が網羅的にまとまっているので、社員はサイトを見て基礎的な知識を覚えています。また、サイトのFAQに沿ってお問い合わせ対応をしているので、従業員の回答や知識にばらつきが無くなりました。
奥村:採用ミニサイトも、社内の負荷削減につながっていると思います。以前は採用活動をする度に募集要項を考えて、応募者にカルチャーや会社概要を説明していましたが、今は採用サイトに内容がまとまっているので説明が楽になりました。求職者目線で考えても、転職を考えている会社にちゃんとした採用サイトがあると信頼感が生まれると思います。
今西:サイトから直接の応募はまだ少ないと思いますが、エージェントがさくら製作所を深く理解するために採用サイトを見る、という使い方も考えられますよね。働くメリットや会社が大事にしている価値観もしっかり言語化して掲載したことで、会社と求職者のミスマッチを防ぐことにも繋がると思います。
ーウェブサイトのコンテンツを充実させることは「信頼感」にもつながるのですね。
奥村:今のサイトは日本酒とワイン、個人と法人などユーザーのニーズごとにページを用意しています。さらにストレスなく知りたい情報にたどり着ける構造も意識しているので、それがページの離脱率の低さや会社全体の信頼感、最終的には売上にもつながっていると感じます。
穂積:最近海外からのお問い合わせも増えていますが、それもコンテンツの豊富さが関係している気がします。海外の方は実際の売れ行きや実績というより、ウェブサイトのイメージや情報量で判断することが多い。コンテンツに力を入れても誰も読まないと思われがちですが、海外の方や業界内のプロは細かい情報まで精査する人が多くいます。そういった人達は大きなビジネスの種になる可能性が高く、重要視しなければいけないんです。
今西:確かに雰囲気だけで情報量が少ないウェブサイトを制作しても、商品の強みや特徴は伝わりませんからね。コンテンツを充実させることで信頼感が生まれて、やっと納得して購入に踏み切ってもらえるのだと思います。
ーベイジとさくら製作所のプロジェクトも今年で6年目を迎えますが、ベイジに継続的に依頼いただいている理由を教えてください。
穂積:成果が出ているというのが一番の理由です。売上やそれ以外の施策でも効果が実感できています。サイト自体がビジネス事業の根幹だと思っているので、ウェブサイト制作で固めた戦略を土台にして、海外進出など今後の施策を考えていこうと思っています。
奥村:6年という長いお付き合いを通して、我々の事業や指針を理解した上で提案をしていただけるというのも理由の1つです。例えばオウンドメディアの記事の提案なども、こちらの意図を汲んでもらえていると分かる。改めて前提をすり合わせる必要がないので、議論がスムーズに進んで助かります。
今西:こうやって結果に繋がっているという話を直接聞くことができて嬉しく思います。関係性が良好でも、成果が出なければ上手くいったとは言えませんからね。こうして関係を継続できているのは、さくら製作所さんが我々をパートナーとして捉え、提案を受け入れてくれたり、快く情報提供していただけるからです。よい信頼関係が築けていると感じます。
ー今後ベイジに期待することはありますか?
穂積:現サイトでは、消費者目線のコンテンツは多いですが、業界のトレンドや商品を売るためのコツなど、販売員やバイヤーさん向けのコンテンツは少ない状態です。これからは、売り手目線を意識したコンテンツを発信して、売り手の中にある「ワインセラー=難しい」というイメージを払拭していきたいです。
今西:売り手向けに、ウェブサイトからダウンロードできるお役立ち資料を作るのも1つの案かもしれません。数十ページにまとまった資料があれば十分な検討材料になります。そういったホワイトペーパー作りにも取り組みたいですね。
奥村:製品の特徴や温度管理に関してなど、さくら製作所の基本的な情報が今のサイトでどれだけ伝わっているのかを把握したいです。もし取りこぼしがあるのなら、基礎的な部分に立ち返った記事の発信なども考えていけたらと思います。
今西:サイトをリニューアルして4年が経過したこの機会に、定量的なアンケートや、購買者へのユーザーテスト、量販店の方に話を聞いてもいいかもしれません。海外展開を視野に入れているのなら、海外の方が注目するポイントを調査して、コンテンツにもぜひ反映したいですね。次のステップとして、そういった定量・定性の調査を行い、サイトや製品に活かしていける施策を考えていきたいと思います。
ベイジとさくら製作所のサイトリニューアルプロジェクト成功の裏には、お互いをパートナーとして捉え、議論し合える確かな信頼関係がありました。ベイジ自身もプロジェクトを通して多くの知見や学びを得ることができています。
今後もマーケティングやカスタマーサクセスの視点から、事業がより成長できるような提案を行えるように、パートナーとしての関わり方を探していければと思います。
撮影:加藤 アラタ(オフィシャルサイト)
ウェブ制作といえば、「納期」や「納品物の品質」に意識を向けがちですが、私たちはその先にある「顧客の成功」をお客さまと共に考えた上で、ウェブ制作を行っています。そのために「戦略フェーズ」と呼ばれるお客さまのビジネスを理解し、共に議論する期間を必ず設けています。
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