仕事をしていると、「言語化が大事」という話をよく耳にします。私自身も短くないキャリアの中で言語化の力を多用し、その恩恵を受けてきました。
特に組織づくりにおいては、理念、行動指針、ブログ、各種心得、日報などなど、考えを言葉に落とす言語化こそ、組織の土台を作る第一手だと、私自身が考えているところがあります。あるイベントに登壇した時は、自らのスタイルを「言語化マネジメント」と例えたこともありました。
ただし、組織を動かすことを目的とするならば、実は「言語化」だけでは不十分であるとも思います。言語化のその先、「共通言語化」まで至らないと、組織や人は変わりません。では、「言語化」と「共通言語化」の間には、どのような違いがあるのでしょうか?
その違いは、以下の2つの文章を比較してみるとよく分かります。
意味としては、言っていることは同じです。そして、どちらも言語化と言えば言語化です。しかし、前者は文章になっており、後者は単語になっています。
前者でも意味は通じますが、このような文章形式の言語化だと、共通言語化の面では、2つの点で不利に働きます。
特に2の「転用容易性」が、共通言語化においては非常に重要です。例えば「ユーザーファースト」という単語であれば、以下のような転用が容易になります。
このような言葉の転用は、「ユーザーを最優先に考えよう」という文章だと難しくなるでしょう。転用が難しいと、組織で使われる機会が減り、組織にその言葉が定着する可能性が減ります。せっかく言語化したのに組織が変わらない、ということに繋がっていきかねません。
このように、単に文章として言語化するのではなく、覚えやすく使いやすいキャッチーな単語にしたほうが、「言葉のユーザビリティ」が向上し、組織に浸透する確率が高まります。これこそが、組織を動かすための言語化=共通言語化の最大の効果です。
私たちの社内でも、言語化によって組織内の行動が変わった例が数々存在します。
例えば、私たちのようなウェブ制作会社では、制作が佳境に差し掛かったり、当初想定よりも作業量が増えてしまったときに、別メンバーの「サポート」が付くことがあります。しかしかつて、このサポートがマネジメントの範疇外に置かれがちで、予定工数をオーバーする事態が頻発していました。
そこで、社内で以下のような共通言語を作り、啓蒙を行いました。
「サポートも含めて工数内で収まるように」と注意喚起するだけでなく、「正常サポート」「超過サポート」という言葉を作って広めることによって、社員にとっては概念をより意識しやすくしました。実際に社内でも、「これは正常サポートの範疇外だからOK」「超過サポートにならないように気を付けようね」という言葉が交わされるようになり、サポートに関する工数の問題が前進しました。
これは一例ですが、このようにマネジメント上の問題解決のために作られた共通言語が、社内には色々と存在しています。
共通言語は端的で短い言葉でありながら、上手に使えば、言葉だけで組織内の言動を変化させることができます。いうなれば、組織に対する呪文であり、組織から良い結果を生成するためのプロンプトであり、組織に対する言葉を使ったUXデザインと言えます。
この共通言語は、ただ作ればいいというわけではありません。いずれにしろ組織の中で浸透しやすいキャッチーさが求められますが、そのために、大きくは6つくらいのコツがあると考えています。
共通言語化の基本は、文章化ではなく単語化です。伝えたいことを詳細に説明しようとすると、必然的に動詞や形容詞を含む文章になってしまいますが、これを端的な名詞にしてしまうことで、共通言語として扱われやすくなります。
前述の通り、名詞化には、記憶しやすくなる、他の言葉と組み合わせやすくなる、などのメリットがあり、これによって組織内で共通言語として使われる頻度が上がります。
日本語のままだと平易な言葉過ぎてスルーされてしまう時は、あえて英語などの外来語に置きかえてもいいでしょう。カタカナ化によって言葉を特徴付けし、記憶のしやすさやトーカビリティ(話したくなる性質)を高めて、共通言語化を促進することができます。
余談ですが、こうしたカタカナに対して「日本語で言えよ」と批判する人が一定いますが、個人的には、この手の批判は安易だな、と思っています。なぜなら、翻訳上の言葉の意味は同じでも、「日本語の中であえて英語が使われる」という状況そのものが、言葉の文脈を変えることがあるからです。
例えば、「事実が大事」というより「ファクトが大事」、「文化が大事」というより「カルチャーが大事」というほうが、言葉にアクセントが生まれます。「事実」「文化」だと平易な日本語なので普通のことに聴こえてしまうかもしれませんが、「ファクト」「カルチャー」と表現することでキーワードとなり、「強調したい」「重要視している」という発信者側や組織側の意図が伝わりやすくなります。
このように、日本語の中で使われる外来語には、より印象的で、より記憶に残りやすくなり、特別な意味を持たせる効果があります。仮に言葉そのものは覚えきれなかったとしても、「これは大事な言葉なんだな」という印象を記憶させることができます。
対外的にこうした言葉をそのまま使うべきかはよく考えるべきですし、何でもかんでもカタカナにするのは私も反対ですが、十把一絡げに「カタカナを多用するのはNG」みたいに捉えてしまうと、言葉が持つ可能性を十分に引き出すことができなくなります。例え日本語で表現できる言葉であっても、意図的にカタカナにするのは共通言語化の観点でも効果的であり、その作用は積極的に活用すべきと考えます。
人には数字に反応してしまう習性があります。この数字を含めて法則名、メソッド名、理論名にすると、組織の中で共通言語になりやすくなります。
大事なことが複数ある時には、数字化は特に便利です。組織に浸透させたい事項が多岐に渡る場合、そのすべてを覚えきれなくても、数字を含む理論や法則名だけを共通言語化しておけば、それに紐づく詳細な概念も芋づる式に浸透する、という効果が期待できます。
日常的に使っている平易な言葉を、研究者や論文、専門書などで使われている専門用語に置き換えるのも、共通言語化には有効です。
専門用語を活用するメリットは、権威性のある学者や研究機関も注目しており、自社だけでなく業界的に重要な概念である、という意味付けが与えられる点にあります(いわゆるハロー効果)。
提唱している人や企業のプロフィール、原案となっている論文や書籍と合わせて、背景にある歴史や環境、業界、関係する企業などの解説を添えると、言葉に文脈が与えられ、共通言語としてより定着しやすくなるでしょう。
特徴的な概念や行動、考え方などを、他の何かに例えることで、言葉が特徴的になり、共通言語化しやすくなります。
最後の例のように、漫画やアニメなど、エンタメをモチーフにしたメタファーを用いると、組織の雰囲気を柔らかくすることができます。メタファーを用いる時は、遊び心を存分に活かしてもいいでしょう。
ちょうどいい既存の言葉がないなら、一層のこと、言葉を組み合わせるなどして、新しく言葉を作ってしまいましょう。行動や概念を一言で言い表す新しい言葉を創造するのは、組織デザイナーとしてのクリエイティビティの腕の見せ所ともいえます。
私がかつて在籍していたNTTグループには、「エイヤー」という社内用語がありました。「勢いで片付けること」を意味するような言葉で、「この仕事、エイヤーでやっつけちゃってよ」といった使い方をよく耳にしました。
さて、この「エイヤー」は、共通言語と呼べるものなのでしょうか?
共通言語に決まった定義はありませんが、「エイヤー」は、この記事で伝えたい共通言語と別物で、自然発生的に広まった社内スラングといえるものでしょう。
改めて定義すると、組織マネジメントに有効な共通言語とは、以下のようなものであると考えます。
この3つの条件に照らし合わせても、「エイヤー」は自然発生的であり、組織の価値観や考え方を反映したものでもないため、共通言語とは言えません。そしてこの3つの条件は、言語が共通言語になるための条件ともいえます。
中でも、共通言語によって組織を変える上で特に重要なのが、2だと私は考えています。
言葉を定義して社内に通達するだけでは、共通言語としては定着しにくいでしょう。
まずはリーダーやマネージャーがその背景や意図を含めて、丁寧に説明する。その上で、関係する社内の仕組みにも、その言葉を適応する。そしてリーダーやマネージャーが、日常業務の中で頻繁に口にする。
このような活動があってはじめて、言葉は共通言語となり、組織に浸透し、組織に作用するようになります。こうした活動の積み重ねはやがて、やがてその会社のカルチャーを作り出していくでしょう。
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