2020年のコロナ禍で、多くの会社がリモートワークを始めましたが、収束の兆しが見え始めるとともに、オフィスに戻す会社も増えてきました。ただし、以前のように毎日全社員オフィスに出社する働き方に戻るわけではなく、多くの場合、オフィスとリモートを併用したハイブリッドワークに移行していくと考えられます。
アップルやマイクロソフト、フェイスブック(現メタ)のような大手ITもリモートとオフィスが混在した働き方への移行を明言しています。この世界的な動きを受けて、ハーバードビジネスレビュー2021年8月号の特集記事のタイトルは『ハイブリッドワーク』となっています。
オフィスとリモートが混在する働き方はコロナ前にも存在していました。しかしそれは、あくまでメインはオフィス、事情があって出社できない人のための救済措置としてサブのリモート、がほとんどだったと思います。
一方でコロナ後のハイブリッドワークでは、リモートとオフィスの存在が並列になり、働く人が自由に選択できるようになります。見方を変えれば、オフィスはリモート拠点の一つになります。ある人にとってはオフィスはメインの職場になるが、ある人にとっては在宅ワークでは不都合なことを補完するためのサブの存在になります。
このように活動内容に合わせて環境を自由に選択できる働き方は、ABW(Activity-Based Working)とも呼ばれています。コロナ前とコロナ後では、同じハイブリッドワークといっても職場の設計思想が大きく変わり、より柔軟で理想的なABWが求められると予想されます。
この新しいハイブリッドワーク実現の根幹となるのが、コロナ禍に実践したリモートワークのノウハウです。オフィスはリモート拠点の一つとなり、リモートワークを前提に情報ネットワークや社内環境が整備されることになります。つまり、この1年間蓄積したリモートワークに関するトライ&エラーの経験は無駄にならないということです。これからはそこに、オフィスを活用したアイデアを組み合わせて、リモートワークのデメリットを緩和させていくのです。
私たちも昨年の3月以降、リモートワーク中心の働き方にシフトしましたが、ここに来てオフィスを活用するメンバーも徐々に増えてきています。まさにハイブリッドワークが始まっています。
そんな私たちがこれまで培ってきたリモートワークのノウハウと、今まさにオフィスを使って始めようとしている取り組みは、同じように新しいハイブリッドワークを模索する企業の皆様の参考になるかもしれません。
そんな思いもあって、現時点での私たちのハイブリッドワーク実現のための取り組みを、ここでご紹介させていただきます。
リモートワークによって、多くの企業でコミュニケーションの中心は会話ではなくチャットとウェブ会議になりました。業務に必要な情報を共有するという面では一見問題がなさそうに見えましたが、これによって働く人たちが孤独化し、組織は分断され、不安定な心理状況で仕事をすることが増えました。
用件だけならチャットで連絡できますし、仲間のステータスはチャット上でも確認できます。それでも、周囲と自分との空間的位置付けが分からないため、分断された空間で一人で仕事をしている、という感覚に陥ります。
これはウェブ会議も同様です。映像と音声がリアルタイムで送受信できるため、一見対面と同じような感覚でコミュニケーションができそうに思えます。しかし会話をするにはまずURLの発行が必要であり、そこにアクセスした瞬間しか繋がれないため、基本的には一人で仕事をし、必要な時だけ繋がってる、という感覚が強くなります。
つまり、チャットとウェブ会議だけでは「一緒に働いている感」が持てないのです。そして、本格的にリモートワークを始めてみて、社員が同じ空間に集まってると感じ取ることができる環境が必要だ、という結論に至りました。ただしそれは物理空間である必要はない、とも考えました。
人間の脳は、自分や他者との位置関係が可視化されることで、同じ場所に存在していると認識できます。オンライン上の仮想空間であっても、人の気配を感じることができれば、一緒に働いている実感を持つことができると考えました。
このような考えにもとづき、音声チャットツールの『Discord』を利用したバーチャルオフィスを導入しました。
多くのチャットツールと同じように、Discordにもチャンネルという概念があり、テキストでやり取りをする「テキストチャンネル」と音声でやりとりする「ボイスチャンネル」の2種類のチャンネルを作ることができます。
私たちの会社ではこのボイスチャンネルをオフィスの部屋と見立てて、以下のようなチャンネルをDiscord上に作っています。
Discordはデスクトップアプリケーションも用意されているため、常時接続した状態で、この部屋のどこかに入室します。その状態は全社員が目視できるため、「今あの人はあの部屋にいる」「今自分と同じあの人がいる」ということを感じ取ることができます。そしてボイスチャットなので、いつでも好きな時に話しかけることができます。ZoomやGoogle meetのようにURLを発行する必要はありません。
このようなバーチャルオフィスに全員が出社することで、「同じ空間で働いている」という錯覚を生み出し、孤独感や組織の断絶が生まれることを最小限に留めています。
オフィスに出社する時は、オフィスまでの移動時間があるため、自然と仕事とプライベートを切り替えることができます。一方でリモートワークの場合、生活空間に仕事が入り込んでくるため、人によっては公私を切り分けることが難しくなります。この問題は、リモートとオフィスが混在するハイブリッドワークでも同様です。
私たちの場合、多くの社員がオフィスで働いていた頃は、出社したらそれぞれのペースで仕事を開始していましたが、リモートワークを始めてから、朝10時に朝礼をするようになりました。このルーティーンイベントが、気持ちを切り替えるための一つのトリガーになっています。
朝礼が可能になったのは、オフィスがバーチャル化されたことも影響しています。物理オフィスの場合、20~30人が一同で集まって朝礼を実施することは、それだけの人数が入る場所の確保や移動の手間などが発生します。しかしDiscordのバーチャルオフィスであれば、ワンクリックで同じ部屋に集まり、すぐに音声で朝礼を開催できます。
働く環境が分散してても、同じ仮想空間に集まり、音声で挨拶をしてから一日をスタートすることで、組織としての一体感も感じ取りやすくなったように思います。
朝礼の司会は月ごとに当番制としています。会の進行、時間配分、報告者へのコメントなど、ファシリテーションの練習をする機会にもなっています。
朝礼といえば昭和的な古臭い制度のように思えるかもしれませんが、ハイブリッドワーク/リモートワークをする会社にとっては、いくつものメリットが生まれるとても便利な制度であるように思います。
かつて「仕事中の私語は慎め」などと言われた時代もありましたが、適度な雑談はチームのモチベーションや生産性に好影響を与えることが、様々な調査で示されています。その雑談がリモートワークで失われたという話をよく耳にします。
リモートワークでは必要最小限のコミュニケーションしか取らなくなります。そのため意図的に仕掛けないと、雑談はほとんどなくなってしまいます。
そしてオフィスワークが混在するハイブリッドワークでは、このことがより深刻な事態を招きかねません。雑談ができるオフィス組と雑談ができないリモート組で情報格差が起き、結局オフィスに出なければ仕事や評価の面で不利になる、という状況が発生します。
リモートワーク中心の環境で、オフィスのような雑談を完全に再現することは、実際かなり難しいでしょう。ただ、雑談の効果を分解して捉えることで、その一部を代替するコミュニケーションを、リモートで実現することは可能だと考えます。
具体的には、雑談には以下の2つの効果があると思います。
このうちの2を代替する手段として、私たちの会社では朝礼の中で「小話」というのを実施しています。
1回の小話で1人が担当者になり、5~10分ほど話します。テーマは自由で、オススメの映画やアニメ、最近凝っている料理の話など、話題は多岐に渡ります。紹介方法にもルールはないのですが、notionなどで簡単にまとめて共有する人が多いです。
小話を始めてから、「この人ってこんな側面があったのか」と、人柄を知ることができると同時に、興味を持った人が質問をしたり、同じ趣味を持つ人でオフラインでの交流に発展したりと、仕事外のコミュニケーションも自然と増えてきました。
ただ、人前で自分のことを話すのに抵抗がある人もいて、小話をネガティブに受け取ってる人もいるかもしれないという懸念があったためアンケートを実施してみたところ、自分の話をすることにやや抵抗がある人でも、人の話は聞きたがる傾向にあり、小話に好意的な印象を持っている人が多いため、今もこの取り組みは継続しています。
小話については、以下でも詳しく紹介していますので、興味がある方はご覧ください。
ハイブリッドワークやリモートワークに限らず、デスクワークが中心の仕事だと、どうしても人の考えに触れる機会が少なくなり、「他の人はどんな仕事をしていたのか?」「仕事をするなかで何を感じたのか?」「不安に思っていることはないか?」といったことが分からなくなりがちです。
こういった各々の社員の一日の行動や思考について、私たちの会社では退勤時に提出が義務付けられている日報で触れることができるようになっています。
私たちの日報には決まったフォーマットはありません。ただし、営業日報のような形式ばったものではなく、行動指針を一つピックアップした上で、各自の感想や思ったことを共有することにしています。
日報の内容は、「業務でうまく進められなかったこと」「同僚から教えてもらって参考になったこと」など様々ですが、この雑多な文章がマネジメント上の貴重な情報源となっています。
例えば、日報の内容で困っている様子を感じ取ったら、上長や他のメンバーが個別に連絡してサポートにあたることもあります。体調が悪い時などは無理に日報を書かなくてもいいのですが、それによって体調が悪い日が続いてる社員に、誰かが気付けるようにもなっています。
元々は行動指針の浸透と各自の振り返りのために始めたことですが、リモートワークで会話をする機会が減ったことによって、マネジメントツールとしての日報の重要性は、より高まったように感じます。
私たちの会社の日報の運用方法については、以下のブログでも詳しく紹介しています。
コロナ前は、社内勉強会の類は、会議室に集まって開催していました。リモートワークになってオフィスが使えなくなり、それらをZoomで実施するようになりました。
Zoomで実施することで、オフィスに出社しなくても勉強会に参加できるようになります。しかしながら、Zoomの最大のメリットはそこではなく、特別な機材がなくても勉強会を動画コンテンツにできることではないかと思います。
オフィスの勉強会は、その場にいなければ体験できないだけでなく、その場限りで消えてしまうフロー型のコンテンツでした。しかしZoomで開催することで、勉強会がストック型コンテンツに変わるのです。このように、コンテンツとしての社内勉強会の性質が変わったというのは、コロナによって起こった大きな変化の一つと言えます。
勉強会が動画化されてストック型のコンテンツになれば、全員がリアルタイムで見る必要はなくなります。また、今後入ってくる人のための研修教材にすることも可能です。
ベイジでは、社内ルールの解説から効率的な仕事術、社員が実施する勉強会、講師を招いたトークなど、現時点で50本以上の動画が蓄積されていて、いつでも誰でも閲覧可能になっています。この動画コンテンツは今も増え続けていて、新入社員向けのオンボーディングプログラムの中にも組み込まれ始めています。
上記の動画コンテンツ以外にも、社内で流通しているドキュメントや、チャットでやりとりされるナレッジなどは、基本的にはすべて社内Wikiに登録されています。
ベイジではプロジェクト管理ツールとして『Backlog』を利用しているため、BacklogのWiki機能を利用して、社内Wikiを構築しています。
社内Wikiでは、職種ごとのナレッジや社内ルールなど、「Wikiを見れば基本的なことはすべて分かる」状態を目指し、日々更新が続けられています。
新入社員が入社して数カ月後のアンケートでも、「Wikiに必要な情報がまとまっており助かった」といった意見が頻繁に出ています。オフィスのように気軽に質問ができなくなったリモートワーク環境でも、新入社員が悩むことなく基本的な業務に慣れ親しむ上で、この社内Wikiが大いに役立っています。
社内Wikiやナレッジ管理ができるツールは多数存在しているため、Backlogでなくてもいいと思いますが、働きやすいリモートワークやハイブリッドワークを実現する上で、社内Wikiの整備はほぼマストで必要だと、個人的には思います。
ベイジでは以前からツールのクラウド化を進めていましたが、リモートワークになってその動きが加速し、クラウド型ツールのメリットの一つである共同編集機能をよく利用するようになりました。
例えば、画面設計やビジュアルデザインの制作において、Adobe XDの共同編集機能はかなり重宝しています。
コロナ前までは、ビジュアルをディレクター等が確認し、口頭やテキストでフィードバックを伝え、再度修正し、といったやり取りを行っていました。しかし、同じファイルを同時に編集しながら伝えられる共同編集機能と、Discordの音声チャットを併用することで、ファイルを一緒に触りながら具体的で簡潔なフィードバックが可能になります。
またエンジニアチームでは、一人では解決が難しい不具合が発生した時、バーチャルオフィスに集まって皆でソースコードを見ながら解決するようなこともありました。
このように、共同編集を気軽に行うようになったことで、オフィスに居たことよりも遥かに生産的に、チームでのクリエイティブワークが可能になったと実感しています。
他社のマネージャーと情報交換をしていると、メンタルケアがリモートワークにおけるマネジメントの重要課題になっているという話をよく聞きます。もちろんベイジも例外ではありません。
特に独身で一人暮らしをしている若いメンバーは、2020年の一斉リモートワークで、一日の会話量が激減しました。趣味で身体を動かしたり、友人と食事を楽しんだりといったストレス発散もできなくなり、メンタル面で不調を訴えるメンバーもでてきました。
このような状況にならないためには、フルリモートワークではなくハイブリッドワークを選択して、オフィスでのリアルな交流も組み合わせていくといいでしょう。一方で、リモートワークを選択してもストレスをため込まないメンタルケア系の施策も並走させるとさらにいいでしょう。
ベイジではリモートワークになってから、全社員向けのストレスマネジメント研修を実施しました。この研修で使用した資料は、以下でも公開しています。
この研修の後には、全社員で数か月間、マインドフルネス瞑想を実施しました。
メンタルやストレスを完全に管理できる人はいません。どんな人でも、苦手な状況が続くとストレスが貯まり、メンタルの調子を崩してしまいます。しかもその基準は人によっても異なり、同じ人でも状況によって異なります。
このようにメンタルは繊細で難しい問題であるからこそ、ストレスマネジメントのようなことに企業主導で実施するなど、社員のメンタルケアに対して積極的に関わっていくべきでしょう。
新しいハイブリッドワークでは、オフィスはリモート拠点の一つになります。働く人は、リモートとオフィスという2つ以上の選択肢を持ち、状況に応じて使い分けるようになります。これは、オフィスの価値は「オフィスでなければできないこと」に集約されるということです。
では、「オフィスでなければいけないこと」とは何でしょうか?私は以下のようなことだと思います。
こうしたオフィスのメリットを自覚的した上で、ハイブリッドワーク時代に適したオフィスイベントを再設計する必要があると思います。
例えば当社では、プロジェクト単位で月一回オフィスに集まる「プロジェクト会」を先日より始めました。プロジェクトメンバーが6~7名ほど出社し、同じフロアでディスカッションをします。
ディスカッション内容は様々ですが、制作中のビジュアルやコピーについて、職域を超えてアイデアを出し合ったり、一区切りがついた状態でプロジェクトの振り返りをしたりなど、「作業」ではなく「対話」に焦点を当てています。
またその日は早めに切り上げて、夕方から懇親会を開催するようにしています。もちろんこれらへの参加はすべて任意で、社員に選択権がありますが、社員からは歓迎の声が多くあがっています。
コロナ前であれば、この手の交流会は「現場でよしなにやってよ」という感じで、懇親会費用の一部を会社が持つことはあれど、基本的には現場任せでした。ハイブリッドワーク時代においては、この認識が大きく変わります。一見、業務生産性に寄与しないような懇親会や雑談といった場を、会社がオフィシャルな活動として認め、積極的に関与し、意図的に活用することが、求められると思います。
ベイジはリモートワークに順応し、比較的うまく行ってる会社ではないかと思います。ただ、ある社員から「それはコロナになる前に人間関係の土台がきちんとできていたからでは?」と指摘され、確かにその可能性は否定できないと思いました。
コロナで社員が倍近くになって、かつてのようなオフィスでの繋がりがない社員も増えています。そんな中、これからはオフィスならではの力を活用した上で、リモートワークの良さも享受するような、そんな職場設計が不可欠なのだと思います。
もう一つ大事なのが、「働く場所の選択肢がある」ということです。かつて、全員がオフィスに出社しなければいけなかった時代は、働く場所の選択肢はほぼありませんでした。2020年のコロナ禍になって始まったリモートワークは、オフィスとは大きく異なる働き方と捉えられましたが、選択肢がない状態という意味では、同じといえます。
これからの新しいハイブリッドワークは、一見2020年型リモートワークの派生形のようにも感じられますが、「働く場所の選択肢がある」ということが一番大きな違いではないかと思います。
短絡的にリモートワーク vs オフィスワークのような対立構造を作るのではなく、表面的に似ていても考え方や設計思想自体が異なることがあるという認識のもとで、人それぞれの自由で柔軟な働き方を実現するため、マネジメントサイドの人間としてこれからも積極的に取り組んでいこうと思います。
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