クリエイターキャリア論~クリエイターにおける3つのキャリアタイプ

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代表/マーケター/デザイナー/ブロガー枌谷力

世の中のキャリア論は一般的なビジネスパーソンを前提にしたものが多く、クリエイターに焦点を合わせたものは極めて少ないように思います。

クリエイターのキャリアといえば、一律にスタープレイヤーを目指すものだと思いがちです。しかし市場はスタープレイヤーだけで成り立ってるわけではありませんし、スタープレイヤーでなくとも活躍し、評価され、高い報酬をもらっている人もいます。逆に、スタープレイヤーに近い地位まで上り詰めたものの、その後のキャリアは必ずしも順風満帆ではない、ということも起こり得ます。

このように必ずしも一様ではないクリエイターのキャリアについて、デザイナー、エンジニア、ライター向けの社内勉強会で、私の経験にもとづいてお話しをさせていただきました。その内容を皆様にも共有します。

雇用トレンドとクリエイターのキャリア

近年、「メンバーシップ型雇用」と「ジョブ型雇用」の話をよく耳にします。

メンバーシップ型雇用とは、「人を採用してから仕事を割り振る」という雇用スタイルです。大企業の新卒採用など、これまでの日本企業に多かったと言われています。

一方のジョブ型雇用とは、「仕事に適した人を採用する」という雇用スタイルです。スキル以外に、職務内容、勤務地、勤務条件などをジョブ・ディスクリプション(職務記述書)として明記した上で、それに従って雇用します。必然的に、専門的な能力や経験を求めることになります。欧米では主流と言われたりします。

人事戦略の文脈では、これからはメンバーシップ型雇用ではなくジョブ型雇用だ、という話になることが多いです。必ずしもメンバーシップ型雇用よりジョブ型雇用の方が優れているわけではありませんが、これまでの日本企業はメンバーシップ型雇用に偏り過ぎていてその弊害が出ているため、これからはジョブ型雇用をもっと取り入れていくべきだ、とよく問題提起されます。

これは人事戦略だけではなく、転職やキャリア形成の文脈でも盛んに用いられています。つまり、働く側のキャリア観もメンバーシップ型からジョブ型に変えていこうよ、という意見に触れる機会が増えています。

ただ、このメンバーシップ型からジョブ型という話は、デザイナー、エンジニア、ライターなどのクリエイターたちにとっては、ピンと来ないのではないでしょうか。なぜならクリエイターは今までも基本的にジョブ型雇用だったからです。

そのため私がクリエイターに対してキャリア論を語る時には、メンバーシップ型・ジョブ型という大きなトレンドがあることは理解しつつも、クリエイターならではのキャリア観で話した方がいいと思っています。私なりに考えているそのキャリア観というのが、以下の3つのキャリアタイプの話です。

  1. スキルベース
  2. ポジショニングベース
  3. コミュニケーションベース

それぞれについて、詳しく解説していきます。

タイプ1:スキルベース

その名の通り、スキルを中心にキャリアを作っていくキャリアタイプです。スキルを圧倒的に高めて、スキルを武器に世の中を渡っていき、最終的にはスタープレイヤーと呼ばれるような人を目指していきます。

以下のような状態になったら、スキルベースのキャリアにおいて一つの成功に到達したといえるでしょう。

  • その分野の専門家としての圧倒的な地位を確立する
  • その分野に関わる人なら、誰もが知る存在になる
  • その分野の有名な賞を複数受賞する
  • その分野の専門家として多くの書籍を書く
  • その分野の専門家として多くのイベントに登壇する
  • その分野の専門家として企業の顧問になる
  • その分野の専門家として大学等で教鞭を執る

スキルベースのメリット

スキルベースのキャリアの構築方法はいたってシンプルで、特定領域の徹底的な学習、実践、経験の積み重ねです。UIデザイナーならUIデザインスキル、フロントエンドエンジニアならJavaScriptなどのフロントエンドスキルを徹底的に深堀りしていくことで、キャリアが前進していきます。

スキルベースのキャリアで成功すると、働き方、働く場所を、自分自身の裁量で自由に選べるようになります。圧倒的なスキルを中心に人が集まってくるので、コミュニケーションが多少下手でも周囲がサポートしてくれたり、気が合う人だけを集めたりして、人間関係を気にせずに好きな仕事を追求できるようになります。

スキルベースの課題

一方でスキルベースのキャリアを歩む上での最大の課題は、その分野の上位1%から数%に入らないと成立しないという難易度の高さです。希少性が前提となるため、テクノロジーの進歩でスキルが民主化されるとキャリアが脅かされます。また、その分野自体が市場性を失った時に、経済基盤が揺らいだり、キャリアの選択肢がなくなったりといったリスクが発生します。

クリエイターの多くは、スキルベースの生き方に憧れてその職業を選択する傾向にあります。スキルベースのキャリアで成功したスタープレイヤーを羨望の眼差しで見つめ、できれば自分もそうなりたいと思います。キャリアの成功とはスキルで成功することであり、それ以外のキャリアは敗北である、という偏った考え方に陥ることもあります。

しかし、スキルベースでのキャリアで成功できる人は極めて僅かです。スキルベースで生きられるような天才的な人は、20代の早い段階、あるいは学生の段階からその片鱗が見え隠れしていることも多いです。そうでない人の多くはスキルベースのキャリアに不向きと思われますが、「スキルで世を渡っていくのがクリエイターである」という固定観念に囚われた結果、遠回りのキャリアを歩んでしまうことがあります。

スキルベースの価値観が強固な人の中には、後述するポジショニングベースやコミュニケーションベースの人物を下に見るような人もいます。圧倒的なスキルで自他ともに認められている時はそうした姿勢でもうまく行きますが、ポジションが変わってチームプレイが求められたり、時代が変わってスキルが通用しなくなった時に周囲との軋轢が生まれ、キャリアが暗転する可能性もあります。

タイプ2:ポジショニングベース

専門家としての最低限のスキルを持ちながらも、スキルや知識の優劣ではなく、市場におけるポジション取りの妙でキャリアを作っていくキャリアタイプです。金融×デザイナー、BtoBマーケティング×ライターなどという文脈を確立しているような人がこれにあたります。

以下のような状態になると、ポジショニングベースのキャリアとしては成功したといえるでしょう。

  • 掛け合わせている各分野では知る人ぞ知る存在になってる
  • 掛け合わせている各分野の専門家として書籍を書く
  • 掛け合わせている各分野の専門家としてイベントに登壇する
  • 掛け合わせている各分野の専門家として企業の顧問になる

ポジショニングベースの強み

市場をセグメントするため、スキルベースと比べると知名度などにやや劣りますが、ある特定分野では抜群の知名度を誇り、スキルベースの人物よりも多くの引き合いが生まれることも珍しくありません。

ポジショニングベースのキャリアの基本的な考えは、専門分野と異分野と掛け算したり、専門分野をセグメントしたりした上で、戦いが少なく勝てそうなポジションやサブカテゴリに身を置くことです。

異分野との掛け算は、デザインだけ、プログラミングだけ、というように専門分野の知識を深めるだけでは不可能です。専門以外の分野に精通しているほど、キャリアの選択肢が広がります。またポジション取りを決める上では、市場構造全体を捉えるマーケティング的な嗅覚も求められます。

ポジショニングベースのキャリアプランにおいては、スキルベースのようにスキルを上位数%まで高める必要はありません。それでも、掛け合わせる市場によってはスキルベースよりも遥かに高収入を得ることもできます。

また、専門分野が衰退しても、掛け算してる分野側で生きることも可能です。そのため保険が効くキャリアプランともいえます。例えば、SaaSビジネスに詳しいUIデザイナーであれば、技術革新によってUIデザイナーでは収入を得ることが難しくなっても、SaaSの専門家としてキャリアを繋ぐことができるでしょう。

ポジショニングベースの課題

専門分野と異分野の掛け合わせやサブカテゴリ化が前提となり、また市場全体の構造を俯瞰しないとポジションを見極められないため、若い頃には頭角を表しにくいのが、ポジショニングベースの特徴です。

キャリアを形成する上で複数の分野を学ぶ必要があるため、結果的に「どの分野も中途半端」となる可能性もあります。キャリア初期はスキルベースかポジショニングベースかを決めず、一つの専門分野をある程度しっかり身に付けた後、スキルベースでキャリアを積むのが難しいと判断した段階で、ポジショニングベースにシフトする人も多いです。

ポジショニングベースの実例

私自身のキャリアは、このポジショニングベースの性質が非常に強いです。

当初はウェブデザイナーとして業界に入った私は、グラフィックデザイン、UIデザイン、フロントエンドエンジニアリングと、ウェブを作るスキル全般に触れる一方、スターデザイナーになるのは難しそうという思いから、自分が持っているスキルを活かせる場所、市場、セグメントを探すようになりました。その一つがBtoBです。

さらに、経営、組織づくり、採用、営業、コンテンツづくり、プレゼンテーションなど、ウェブデザインやウェブ制作の主領域ではないことに多く触れてきた経験は、最初はあまり活かせず、突き抜けたスキルがない器用貧乏型のキャリアに陥っているかのような感覚を時に抱きました。しかし、40歳を超えたあたりからシナジーが生まれ始め、結果的に市場にはあまりいないポジションを作れたように感じています。

このようにポジショニングベースのキャリアは「この道でいいんだ」と実感するまでに時間がかかる傾向にあります。ただ、スキル勝負の一本足打法にならず、リスク分散や市場の変化に合わせた転身が可能になることから、多くのクリエイターにとっては現実的なキャリアタイプといえるのではないかと思います。

タイプ3:コミュニケーションベース

クリエイターとしての最低限のスキルは持ちながら、周囲との信頼の積み重ねでキャリアを作っていくキャリアタイプです。専門スキルの絶対的評価はあまり必要ではなく、むしろ組織内での希少性の方が重要になります。専門スキルの価値を人間関係との掛け合わせで高めていくキャリアともいえます。

例えば以下のような状態は、このキャリアにおける成功した姿の一例といえるでしょう。

  • 社内で特定分野に関して重宝される存在になる
  • 社内で特定分野に関する要職に就く
  • 社内における特定分野の支柱的存在になる
  • CxO的な立ち位置で経営陣の懐刀になる

コミュニケーションベースの強み

このキャリアで成功するには人間関係構築力が不可欠です。専門分野にマネジメントやコミュニケーションの知識や経験を掛け合わせ、信頼を獲得していきます。また、社内の困りごとに積極的に介入するなど、専門領域を越境する動きも多く見られます。

コミュニケーションベースもポジショニングベースと同じく、スキルベースほどにはスキルや知識を高める必要はありません。また、ポジショニングベースのように市場を俯瞰して捉える戦略的な視点もさほど必要ありません。根幹にあるのは専門スキルと掛け合わされた周囲とのコミュニケーション能力です。

そのため専門分野が衰退したり、求められる仕事が変わっても、コミュニケーション能力を強みに生きていくことができます。デザイナーやエンジニアとしてキャリアをスタートさせながら、組織づくりや採用人事を担当するような転身も可能です。

コミュニケーションベースの課題

コミュニケーションベースのキャリアを歩むには、マネジメントやコミュニケーションの力が必須です。しかしながら、マネジメントやコミュニケーションが好きじゃないからこそ、自分の手で何かを作る仕事に就きたい、というのがクリエイターの道を選んだ動機である人も多いです。この原初的な動機に反することが、コミュニケーションベースのキャリアを選択する一番の難しさでしょう。

また、認められるまでの時間はポジショニングベース以上にかかる可能性もあります。人を育てたりチームを率いたりする立場になるまでは、コミュニケーションベースのクリエイターとして評価されにくいかもしれません。また人間関係が基盤になるため、人間関係をリセットする転職がキャリアの有効な手段に必ずしもなりません。その意味では、メンバーシップ型のキャリアスタイルに近いともいえます。

スキルベースで成功した人は、業界内の同業クリエイターの憧れの存在として羨望の眼差しで見られます。一方でコミュニケーションベースで成功した人にそういう目が向けられることはほとんどありません。

この問題は、他者評価だけでなく、自己評価にも当てはまります。コミュニケーションベースのキャリアの方が向いているにも関わらず、スキルベースのキャリアだけを成功とし、コミュニケーションベースのキャリアは挫折や失敗と捉え、「自分はクリエイターとしてダメだ」「こんな風になりたなかったわけではない」と自分自身を過小評価してしまうことが起こり得ます。

コミュニケーションベースの価値

経営者などのビジネスサイドからすれば、コミュニケーションベースのクリエイターは貴重な存在です。

ほとんどのビジネスはチームプレイであり、組織力がケイパビリティに直結します。基本的な専門知識を持ちながら、クリエイターの気持ちも理解し、他の職能者とも円滑にコミュニケーションを取り、チームやプロジェクトを前進させるハブになりえるコミュニケーションベースのクリエイターは、事業に欠かせません。また、経営陣と共に会社や事業や組織を作るCxO的な立場の人は、大なり小なりコミュニケーションベースに近いスキルセットが必要となってきます。

クリエイター界隈にある問題の一つが、このコミュニケーションベースのクリエイターに対する不当な低評価です。中には、「スキルを磨かなかった人」「もはやクリエイターではない」と捉える人もいます。しかし、スキルベースの人材だけが成功であるキャリアイメージは、自分自身にとっても業界にとってもマイナスだと私は思います。

また、クリエイターを抱える企業は、コミュニケーションベースのクリエイターであってもきちんと評価される評価システムを作ることが、クリエイター組織を安定させる上での一つのカギとなります。

ベイジの評価システムも、技術力を評価する「エキスパート評価」と、コミュニケーション能力やチーム貢献を評価する「チーム評価」の2軸で評価が行われます。スキルベースでも、ポジショニングベースでも、コミュニケーションベースでも、いずれのキャリアタイプを選択しても評価されるシステムになっています。

さいごに

スキルベース、ポジショニングベース、コミュニケーションベースという3つのキャリアタイプは、厳密に分けられるわけではありません。

ある年齢まではポジショニングベースだったけど、ある年齢からはコミュニケーションベースにシフトするということもあるでしょう。また、スキルベースとコミュニケーションベースの両方の性質を持つクリエイターも存在するはずです。

このように実際にはグラデーションですが、それでもこのような3つの区分を頭の中に入れておくと、仕事やキャリアで悩んだ時に狭い視野に陥って早計な判断をしてしまうことを避けられるのではないでしょうか。

避けたいのは、クリエイター=スキルベースという固定観念に囚われてしまうことです。スキルベースが向いている人は、その道を邁進しても問題ないでしょう。しかし、ポジショニングベースやコミュニケーションベースのキャリアの方が向いているのに、スキルベースのキャリアに固執し、不向きなキャリアを歩んで、自分の特性を活かさずに市場価値を下げてしまうのは、勿体ないことです。

だからこそ、クリエイターのキャリアは必ずしもスキルベースだけではない、他のキャリアタイプで活躍している人もいる、と視野を広げて捉える必要があるのです。

世の中には、転職の時だけ真剣にキャリアを考える、という人も多いと思います。しかし転職するつもりはなくとも、自分にはどういう特性があり、世の中にはどういう傾向があり、その上でどういうキャリアを歩むつもりなのかを、自分自身の中である程度明確にしておくことは、目の前の仕事を有意義にするうえで非常に重要です。

自分なりのキャリアイメージがないと、仕事の中で困難なこと、一見不毛に思えることに対峙した時、「無意味なことに時間を使ってるのでは」「この経験が何の役に立つのだろう」と疑問を感じ、迷ったり悩んだりしがちです。

明確なキャリアイメージがあると、「こういう仕事は○○に活かせるかもしれない」「望まないけど組織にとって必要なら経験しておくのも悪くない」と、前向きに捉えることができるようになります。あるいは自信を持って断ることもできるでしょう。

つまりキャリアを考えることは、モチベーションやメンタルをセルフマネジメントする手段になりえるわけです。

これまでキャリアにあまり目を向けなかったクリエイターの皆さんも、この記事を参考にするかどうかはさておき、是非これを機にキャリアというものを考えてみてはいかがでしょうか。

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普遍的なスキルが獲得できる環境を作るためにマーケティングに力を入れ、情報発信を積極的に行い、ワークフロー化を推し進めています。

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