生成AIの進化でウェブ制作会社が消える可能性があるという話

20,331View
枌谷力のプロフィール画像
代表/マーケター/デザイナー/ブロガー枌谷力

2023年、生成AIへの注目度が一気に上がったとき、「AIに人間の仕事が奪われるのでは?」という議論がウェブ制作界隈でも巻き起こった。

その後、「AIは仕事を楽にしてくれるもの」「AIは人間の仕事を奪わない」という考えが主流となり、一旦は落ち着いているように思う。

あくまでSNSで観測している範囲だが、ウェブ制作界隈は生成AIに対する発信が少なく、他分野と比べてあまり強い関心を持っていないようにも見える。特にデザイナーの関心が低く、当社内でもエンジニアとライターは積極的に生成AIを使っている一方で、デザイナーの生成AI活用は緩やかである。

それだけデザイナーの業務は複雑性が高く今の生成AIでは対処しにくい、ということでもあるのだろう。また、デザイナーの職業選択動機やこれまで培ってきた努力を根こそぎ否定しかねない存在だから真剣に向き合いたくないという緩やかな抵抗感、意外と保守的で価値観や手法を積極的に変えたがらない職務特性もあるかもしれない。

確かに、今の生成AIにはウェブ制作の仕事を完全に奪うほどの力がない。しかし、昨年から現在に至るまでの進化スピードを見ていると、3年後や5年後には、今とまったく違うワークフローになっていることは容易に予想できるし、その先は相当な部分が自動化されている可能性も高い。

一般的に、オペレーションはAI化できるがディレクションは人がやらなければいけない、と言われているが、高度なプレゼンテーションまでAIが担い、人はビジネスに基づく指示・選択と意思決定だけ、という領域はかなり広がりそうでもある。そんな時代には、作る行為に対して1人月=○○万円と請求するビジネスは成り立たないだろう。

私はやはり、長期的に見て生成AIはウェブ制作者の仕事を奪うと考えておいた方が良いと思っている。少なくとも、今のような作ることに価値を見出すウェブ制作は、遅かれ早かれ間違いなくなくなる。だからこそ、「仕事が楽になった」と捉えることに対しては、楽観的・近視眼的過ぎるという感覚を持っている。

こういう話をすると、「危機感を煽って注目を集めたいだけでしょ」という意見が出てきがちだが、色々な条件を元に、ロジカルに、現実的に、冷静に考えていくと、実現可能性のある妥当なシナリオの一つにどうしても思えてしまう。

仕事が消えるまでの5つの段階

今まで色々な技術が登場しては消えていった過去の流れを踏まえても思うが、「仕事を奪う」「職業が消える」などというのは最終段階で起こることであって、一気に起こるわけではない。

一般的に、テクノロジーの進化による職業の消滅というのは、その最終形態に至るまでに以下のような段階を踏むように思う。

①仕事が楽になる
②職業人口が増える
③価格が下落する
④職業人口が減る
⑤職業が消える

生成AI×ウェブ制作に関して、「仕事を楽にするお助けツールが登場した!」の認識の人は、①の段階しか見えていないのかもしれない。しかし今後、②~③に急速に移行する可能性があるし、なんならすでに移行がはじまっている可能性もある。

まず、仕事が楽になるということは、その仕事を実践するハードルが下がるということである。これにより、以下の新規参入者が増えると予想される。

  1. 他職種×生成AI
  2. 未経験者・レベルが低い人×生成AI

1にあげられる他職種としては、経営者や事業責任者や事業責任者などがあげられる。既に宣伝用チラシや店頭POPをデザイナーでない人がCanvaで作るみたいなことが起きているし、ノーコードツールの登場でコーダーの仕事がなくなることが実際に起きているが、テクノロジーによって他職種が既存職種を侵食する流れが加速する、あるいは既存のウェブ制作者との仕事獲得戦線が拡大する可能性がある。

また2のように、今までは難しくてスキルが低い人だとできなかった仕事が、スキルが低い人でもそこそこのものが作れるようになり、企業に貢献できるようになる。これにより、細部まで配慮できるハイスキルな人の価値が相対的に弱まり、「レスポンスがよくて安くてそこそこな人で別にいい」と判断する発注者が増える。

仕事が楽になるので、フリーランスや業務委託が台頭し、1つ数万円で提供する事業者が現れる。安価な事業者が業界に多くなることで、発注企業側の価格参照点(このカテゴリの商材はだいたいこのくらいの価格が妥当という心の中の価格基準)も下がり、相場となる金額が下がっていく。

こうして、「③価格が下落する」に移行する。

それまでハイクオリティ戦略で行っていた制作者や制作会社は、それに見合うROIが提示できるか、特定層に異常に指示されるようなニッチ戦略を突き詰めない限り、低価格化へのシフトか、撤退を余儀なくされる。

「私たちはそんなクオリティの低い仕事をしていない」「そういう人たちとは違う世界線で戦っている」と誇りを持っていても、特にウェブ制作の場合、こうした市場全体の圧力の影響から逃れることは難しいのでは、と個人的に感じている。

なぜなら、ウェブサイトのように実態がないデジタル商材は物理的な制約がなく、技術環境の変化によって価値が変わる性質が強いため、一時的に作って何年かで捨てる前提のフロー投資の性質が強いからだ。建築物や物理プロダクトとは異なり、長期維持できることを前提としてクオリティにコストを支払うことが極めて少ない商材特性がある。

例えばギャラリーサイトに掲載されているような特殊なウェブサイトはどうなるかというと、配信時代にレコードを好む人がいるように、あえてメインストリームでないものが欲しいニーズは完全にはなくならないだろう。そこにフォーカスするのが要するにニッチ戦略である。ただし時代のメインストリームではないので、その仕事に絞りこんでそれなりの収入を得続けたい人が座る椅子が徐々に減る流れなのは止められないと考えられる。

「生成AIは仕事を奪うわけではなく私たちの仕事を楽にしてくれるツールだよね」と楽観的に捉えている人があまり考えてないように思えるのは、価格下落により現在の収入維持が難しくなるという、途中段階で起こる市場変化のことである。

仕事が奪われる前に、今の収入が維持できなくなるフェーズがまずやってくる。そして、より身軽な事業体に変身するか、別の職種にジョブチェンジするか、職域を広げてウェブ制作以外にやることを増やすか、という判断を迫られる。生成AIと関係なく既にそうした動きを見せているウェブ制作者やウェブ制作会社も存在するが、その流れが加速する。

私自身は、単純にウェブ制作だけで数十人の規模の会社や事業を維持するのがますます難しくなるはずと考えている。というか、市場の流れは既にそうなっている。一見ウェブ制作会社に見える100人を超える企業の多くは、制作そのものではなく保守運用、人員の貸し出し、あるいは別の事業が稼ぎ頭になっていることが多い。

このようにウェブ制作単体で事業拡大させるのは既に相当に難易度が高いのだが、それがさらに加速する。それとは対照的に、過渡期として、人件費が安い地方の零細中小企業やフリーランスがより台頭する時代がやってくるようにも思う。

その先でさらに生成AIが進化し、まるで写真アプリで手軽に写真を編集するかのように、誰でも簡単に小綺麗なウェブサイトが編集できるようになった段階で、ウェブサイトを作る行為は、現時点のWordやPowerPointと似たような存在になる

こうなってはじめて、「④職業人口が減る」が起こり、最終段階の「⑤職業が消える」に至る。ウェブ制作の「仕事が奪われる」「職業が消える」になる。これが一気に起こるわけではない。

PowerPoint=パワポを例にとると分かりやすいが、パワポを専門にデザインする会社は皆無ではないが、市場で大きなカテゴリを形成するほどには存在しない。またパワポのデザインに数百万円をかけるようなビジネスも多くは存在しない。

しかし、パワポを納品するコンサル会社に人月300万円以上で年単位で契約する会社は多数存在する。そして私たちは、そうした人たちのことをパワポデザイナーとは呼ばないし、そうした会社のことをパワポ制作会社とも呼ばない。

この先にウェブサイトが必要なくなることは10年単位で起こることは考えにくく、ウェブサイトを利活用するための周辺の知識領域の少なくない部分はこれからも人が担当し、必要とされ続けるが、その知識を格納するための「器をオーダーメイドで作る」という必要性は限りなくなくなり、それを専門とする職業や会社もなくなるか大きく縮小する、あるいは肩書や主力事業や業態を変える、ウェブ制作会社と名乗らなくなる、というのが私の見方である。

ウェブ制作者が直面する問題

2023年後半以降、ウェブ制作のみならず、ウェブデザイナーやUIデザイナー、フロントエンジニアという職業が今後数年でどう変わるのかということを、30人を超える経営者やデザイナー上位職の方々に話を聞きながら探っている。

また、最近はChatGPTの最新バージョンに聞いてみたりもしている。GPTの回答は、以下の通りである。

https://chatgpt.com/share/63cf2ced-51b0-447d-b9b5-383389856965

共通するのは、「今の職務定義のまま今の給与を維持・向上するのは無理」という話である。多くのウェブデザイナー、フロントエンジニアは、ここ2~5年の間に抜本的に職務定義を変えないといけなくなる可能性がある。

もちろん、フリーランスや副業、地方移住して安い単価でやる、という選択肢はある。「今の職務定義に対するこだわり」が強いのであれば、そういう選択もいいだろう。ただそれも過渡期という感じもする。数をまわして採算が合う低利益ビジネスの方向に行きやすいリスクもある。(幸せに生きるためにはお金は不要という考えとセットで移行できれば、それはそれで幸せな選択だと思う)

実際の時間軸として、「⑤(今の定義の)職業が消える」という現象は、3~5年では起こらない可能性もあるが、テクノロジーには「専門スキルの民主化」という側面があり、ウェブサイトを専門職でない人でも作れる方向に進化する可能性が極めて高い。

こうした将来に対して、知見を貯めて一定の地位を確立した人たちによる「いや、あんなの使い物にならないでしょ」「限定的な話でしょ」という人が必ず登場するが、こうした先行者の予想が外れることは頻繁に起きる。

スマホより高機能で利便性が高いと言われていたガラケーがなくなったり、ストリーミングより音質が良くて所有する喜びがあるといっていたCDが(ほぼ)なくなったり、「洋服はさすがにネットで買わないよね」と思ってたら店舗が減ってネットで買うことが当たり前になって実店舗を持たないブランドまで登場したりと、こうした変化と似たようなことがウェブ制作界隈でも高確率で起きるのではないだろうか。

端的に言えば、ウェブデザイナーやフロントエンジニアは、今後2~5年で岐路に立たされると思う。「職業が奪われる」の前に「今のままだと収入が減る」という岐路である。実際に当社では月間40~50件程度の引き合いが安定して来てはいるが、お問い合わせの金額を見てても、価格低下圧力は年々強まっている。

動画が5万円で作れるようになったり、生成AIで広告バナーが安く作れるようになったりする中で、「似たようなジャンルのウェブサイトに数百万円も出すの得策じゃなくない?」と考える人が増えても当然である。また、スクールの増加で職業人口が増えることで、身近で「安くていい人に出会ったよ」という話を聞く機会が増えれば、「高いこの会社に頼み続けるのが本当にいいのかな」と疑問を感じる人も増えるだろう。

もちろん将来のことなど完全には予想できないが、基本的に「ウェブ制作の仕事が消える」というシナリオが来ること前提に、ウェブ制作系の人たちは今後のキャリアを考えておいた方が良いのでは、という気がしている。

※なお、これは補足説明になるが、本記事では「ウェブサイト」を、文章などのコンテンツを閲覧することが主目的のウェブページとその集合体、という意味合いで使っており、インタラクションの比重が強いECサイトのようなウェブサービスやSaaSのようなウェブプロダクトとは分けて考えている。そして後者を担当するのは一般的にウェブデザイナーではなくUIデザイナーと呼ばれていることが多い。

生成AIの影響は、ウェブデザイナーとUIデザイナーでは異なる部分が色々とあると思っているが、その話をするとさらに長くなるので、この記事では、ウェブデザイナーやウェブデザインを中心とした話にしている。

仕事のそもそも論

生成AIとはまったく関係なく、そもそもキャリアは2~4度は大きく変化するもの、という話もある。

また、生成AIの進化よりも先に、Notionのようなツールやノーコードツールによってウェブ制作の職務内容や市場価値が大きく変わり、ジョブチェンジを余儀なくされる可能性も十分ある。生成AI云々と関係なく、「技術の進化によって仕事が変わる」というのは今後当たり前に起こりえることだし、今までも当たり前に起こってきた。

私はウェブ制作の仕事を20年以上やってるが、こういう人はどちらかというと少数派で、20年前にウェブデザイナーやエンジニアをしていたが今は別の業界で別の仕事をしている、という人の方がむしろ多いように思う。私も既にウェブデザイナーじゃなくなってるという意味では職業が変わっている。

こういう業種や職種の変更は、最初は勇気がいることかもしれないが、ある分野で活躍している人は、案外色々な職業を渡り歩いていることも多い。

業界や職業を変える時、抵抗感を感じるのは「今まで数年間勉強した努力が無駄になる」というサンクコスト心理である。

私もかつてFlashというある一時期にもてはやされた技術に相当な時間とコストを投資しており、自分がその道の上位10%に入ってない自覚があったにも関わらず、「Flashを諦める」という判断がなかなかできなかった。が、結局は緩やかに止めていく流れになった。

自分の中のサンクコスト心理と市場の推移は、まったく連動せず別次元で起こったりするので、サンクコストに引っ張られると、市場とシンクロできなくなる可能性もある。

考え方によっては、前時代に学んだことも抽象化すれば無駄じゃないことが多く、前向きにとらえてサンクコストを切る、という判断も必要かもしれない。

これは私が考えることではなく、皆さん一人ひとりが考えることなので、正解もないし、私からアドバイスすることでもない。ただ、ここから2~5年にキャリア上の大きな転換点を迎える人は、ウェブ制作では多そうと私自身は感じている、という話である。

そして、40人を超えて間もなく50人に迫ろうとしているベイジもこの大きなうねりの中で例外となるわけにはいかず、これから2~5年の間に、大きな経営改革、事業形態、ビジネスモデルの変更に直面するはずである。

私たちは顧客の成功を共に考えるウェブ制作会社です。

ウェブ制作といえば、「納期」や「納品物の品質」に意識を向けがちですが、私たちはその先にある「顧客の成功」をお客さまと共に考えた上で、ウェブ制作を行っています。そのために「戦略フェーズ」と呼ばれるお客さまのビジネスを理解し、共に議論する期間を必ず設けています。

成果にこだわるウェブサイトをお望みの方、ビジネス視点で相談ができるウェブ制作会社がいないとお困りの方は、是非ベイジをご検討ください。

ベイジは業務システム、社内システム、SaaS、管理画面といったウェブアプリケーションのUIデザインにも力を入れています。是非、私たちにご相談ください。

ベイジは通年で採用も行っています。マーケター、ディレクター、デザイナー、エンジニア、ライターなど、さまざまな職種を募集しています。ご興味がある方は採用サイトもご覧ください。

こんな記事も読まれています

知っておくと便利な思考フレームワーク×35
大舘仁志のプロフィール画像
大舘仁志
119,379View
すべての働く人におくるストレスマネジメントの基本
枌谷力のプロフィール画像
枌谷力
92,684View
経営者というモンスターのエクスペリエンスをハックする
枌谷力のプロフィール画像
枌谷力
69,016View
営業の崩壊と再生~営業の問題を解決する14の処方箋
枌谷力のプロフィール画像
枌谷力
54,114View
上に戻る