2021年の抱負・2020年の総括(という思考の整理)

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代表/マーケター/デザイナー/ブロガー枌谷力

新年、明けましておめでとうございます。

多くの企業と同じく私たちの2020年も、コロナウイルスに振り回された一年でした。ただ幸いなことに、売上は前年比150%アップ、営業利益も前年比400%アップと、業績に関しては想定以上の結果となりました。(ちなみに当社は12月決算)

まず、当社と同様に先がどうなるか分からなかった年において、ベイジを信頼して仕事を任せ続けてくれた全てのクライアントに、お礼を申し上げなくてはなりません。

一方、この好調に見える結果は、すべてが私たちの実力ではなく、コロナはウェブ制作会社には追い風になりやすかったという、ある種の運に支えられたものと感じています。2021年開始時点で先行きはまだ不透明、景気の先行きもハッキリと掴めません。また、急速なリモートワーク化による社内の安定を優先した結果、2020年初頭に計画したことの多くが、未達成・未実施のままで終わりました。

たまたま手にした幸運と、経営者としての力不足を再確認しつつ、2021年はこれまで以上に気を引き締めて事業を推進してこうと、思いを新たにしているところです。

さて、私はこれまで過去3年に渡り、年初に前年の総括とその年の抱負をアップしてきました。

昨年も同じことを書きましたが、こうやって年初に細かく言語化しておくと、年末に具体的な振り返りができるようになって便利です。また社員にも説明しやすくなります。

というわけで今年も、コロナが事業に与えた影響を振り返りながら、今年の抱負をまとめてみたいと思います。

※自分と社員向けにできるだけ抜け漏れのないようにまとめたので、相変わらず文字数が多く、15,000字ほどあります。全部読むのは辛いかもしれませんが、目次の中で興味が湧いたトピックだけでもお読みいただけると嬉しいです。

顧客獲得

2020年を含めた、直近4年間の新規顧客獲得に関する各種参考指標は、以下のような結果になりました。

顧客獲得成果

20人規模のウェブ制作という業態において、この結果が優れているのか、努力不足なのかの判断は明瞭には付きませんが、私自身の感触でいえば、2020年も好調でした。

4月に緊急事態宣言が出て、問い合わせが減るかもしれないと構えていたものの、特に落ち込む様子もなく、結果的には過去最高の問い合わせ数となりました。

少し気になるのは、予算500万円以上の高額案件が減少している点です。特に3月~5月は、低予算・短納期案件が問い合わせの多くを占めるようになりました。コロナの影響で「まずウェブサイトをなんとかしないと」と焦る企業が増え、突貫工事的なウェブ制作を求める企業が急増した一方、高額投資は避けるトレンドに入ったのだと解釈しています。

とはいえ、この低予算化の流れも6月頃でほぼ終わり、7~8月には例年通り、秋以降は1000万円を超える高額案件の問い合わせが増加しました。DXが急務と考えて、デジタル投資を活発化させた企業が増えたからだと推測します。

総じて好調だった2020年の顧客獲得ですが、リモートワークによる組織体制の安定を優先させたこと、そして2月末の段階で年間目標売上をほぼ確保してしまい、そもそも顧客獲得に必死でなかったなどの事情もあり、2020年の年初に立てた以下の計画のすべてがほぼ未実施になってしまいました。

  • コーポレートブランド刷新プロジェクト
  • コーポレートサイトリニューアル
  • ホワイトペーパー強化
  • セールス人員の教育と合理化

当然2021年こそは、これらを順次対応していく方針ですが、中でも特に力を入れたいと考えているのが、1と2です。

ベイジはこれまで、明確なミッション/ビジョンを定義してきませんでした。それは、自然に湧き上がってから定義すればいいと考えていたからですが、一昨年の終わり頃から、会社のミッション/ビジョンのようなものが自然と湧き上がってきました。

今年はこのミッション/ビジョンの明確な言語化と合わせて、昨年着手できなかったロゴやコーポレートカラー、ビジュアルの刷新など、コーポレートブランディング系の施策を優先的に走らせていこうと思います。

それに合わせて、自社サイトも公開4年以上たって老朽化しているので、リニューアルしたいと考えています。BtoBに強いウェブ制作会社を謳ってる以上、リニューアルする自社サイトは、BtoB企業におけるベストプラクティスとなるようにしたいところです。

情報発信

情報発信はもはや会社の文化であり、創業以来、呼吸をするかのごとく自然に行ってきました。その方針は2020年も変わらず、特に大きな何かを始めたわけでもなく、ただただ情報発信を継続してきました。

情報発信の成果を推測する参考指標は、概ね以下の通りになりました。

情報発信成果

個別に見ると数字の増減があったりするのですが、総じていえば、好調だったと解釈しています。(余談ですが、私はアクセス解析系の数字を、外部向けのプレゼンではよくお見せしますが、日常的にはあまりモニタリングしておらず、半期や年度末に振り返る時の参考程度にしか見ていません)

特に私が重視しているのが指名検索なのですが、指名検索数で35%、指名検索からのクリック数で73%増加しています。つまり、会社の認知が上がり、その結果として、会社紹介ダウンロードやお問い合わせも増えたのだと解釈しています。

以下、取り組み毎に詳細を解説します。

Twitter

情報発信系の取り組みで最も大きく飛躍したのがTwitterです。私のアカウントはフォロワーが3.1万から6.2万に倍増、フォロワー1万人を超える社員も2名誕生しました。自主的に発信する社員も増え、量の多い少ないはありますが、現時点で21名中16名がなんらかの発信を行っています。

「フォロワー数を増やすことが本質ではない」という話は社内でもよく話しており、フォロワー獲得競争に乗るつもりはまったくありませんが、顧客獲得や採用など、Twitterの好影響は明らかです。

特定のプラットフォームに依存する戦略は危険と隣り合わせなので、さらにTwitterに依存していこうとは思ってはいませんが、使えるものは使おうくらいの気持ちで、引き続きマイペースにTwitterには取り組んでいこうと思います。

オウンドメディア『knowledge/baigie』

情報発信の中心となっているオウンドメディア『knowledge/baigie』については、2020年当初の計画では、「knowledge / baigie累計記事100本達成」「knowledge / baigie年間100万PV達成」という数字を掲げはしたものの、結果から言えば未達に終わりました。

投稿本数については、2020年1月が終わった時点で既に計画に無理があると感じ、すぐに投稿数を抑える方針に変えました。一方、1記事あたりの平均獲得PV数は1.8万PVを維持しており、「量より質」の方針は、ある一定は保たれたのではないかと考えています。

公開待ちの記事がいくつか溜まっており、昨年から参加したライターも力を付けてきていることから、発信量は自然と増えていくものと考えています。今年は目標の数字などは特に掲げず、Twitter同様、こちらもマイペースに発信を続けていこうと思います。

なお、オウンドメディアで一つ心残りがあるとすれば、課題だったエンジニアの露出があまり進まなかったことです。エンジニア陣もその辺に課題意識は感じて記事を仕込んでくれているみたいなので、期待したいところです。

ベイジの日報

毎日書いている社員の日報からピックアップして公開している『ベイジの日報』は、2020年から体制を変えました。

正式にライターが入社したため、ライターを中心として編集部を編成し、運用を任せていきました。これは、小さな規模でもいいので、ライター陣にメディア運営経験を積ませたい、という意図もあります。

結果的には、投稿記事数は72本→81本、PV数は16.5万→21.9万と、いずれも前年をやや上回ることができました。

日報サイトについては、コンバージョンに貢献しているわけでもなく、SEOも考慮していないため、コンテンツがストックされて訪問やPVが伸びるわけでもありません。つまり、定量的には成果が図りにくい施策です。ただ、採用面接や顧客との会話などで日報の話になることは多く、数字では計測できないが、関心度の高い人の記憶には残る類の施策なのだと評価しています。

経営は合理的な判断・意思決定が基本と思いつつ、全てを合理化し、目に見える短期的な数字で判断するのがいいとは思っていません。この日報のように、会社の言語化文化、情報公開文化を体現しているような取り組みは、引き続きこだわりを持って続けていこうと思います。

登壇・取材

一時期、コロナによって、登壇や取材などの回数は大幅に減るかと思いましたが、結果的には後半盛り返して、いずれも2桁にはなりました。とはいえ、減少といえば減少です。

登壇や取材のメリットは、他者の力を借りて情報発信できる点にあります。特に取材は、自社のリソースを使わずコンテンツが生成されてネット上に流通するため、基本的には有効活用した方がいいと思います。

しかしながら、実は私自身は、2021年は、社外での露出を控えようと考えています。というのも、2021年はより社内の土台を固める活動に注力したいためです。一方で、社員が登壇や取材で露出する機会があれば、それは積極的に活用したいと考えています。

事業展開

2020年は業績が好調だったこと以上に、私が理想とする多角的な事業編成に向けて前進したのが嬉しかったです。2021年はこれを加速させ、2~3年かけて、以下の事業ポートフォリオを完成させていこうと考えています。

事業ポートフォリオ

それぞれについて、現状と今後の展望をもう少し詳しく書きます。

マーケティング・コンサルティング事業

コンサルティング系のサービスは、今までは基本的にはウェブ制作とセットで提供していましたが、ゆくゆくは独立したサービスにしていきたいです。実は既にサイト改善などのコンサルティングだけの仕事は時々受けていましたので、これをベースにメニューを複数用意する、というのが主な対応になります。

できれば以下の3つのサービスは、2021年中に開始したいところです。

  • BtoBサイト改善コンサル
  • BtoB企業向け採用サイト改善コンサル
  • BtoB企業向けブランディング支援
  • BtoB企業向けオウンドメディア運用支援

ウェブサイト・デザイン事業

創業以来の柱であったウェブ制作事業です。ニーズは多く、引き続き力を入れていきたい領域です。サービス面では、この2年間で12人が新加入したことも影響し、過去のワークフローでは対応しきれない部分も出てきました。お客様からのフィードバックで学んだこともあったので、それらの改善を加えた「ウェブ制作ワークフロー2021」を現在策定しています。

ただ、ウェブ制作に関してはジレンマがあります。市場全体としては低価格傾向にあり、私たちのワークフローを全て本気で実行しようとすると、採算が取れない案件がほとんどになってしまいます。その結果、今は1200万円を超える高額案件でないとほぼ受けられない体質になっています。

ワークフローの精緻さも、リスク回避の性質が強く、その価値は空気のようなもので、ただ「比較的トラブルが少ない」という形でしか現れず、顧客にあまり伝わらなかったりもします。

もちろん、エンタープライズ企業や大手広告代理店、官公庁などを主要顧客とすれば、採算が取れるのでしょうが、巨大な会社のウェブ制作は、クリエイティブとは別次元のコミュニケーションに時間を奪われる傾向にあり、また業者選定などでコンペを強いられるため、個人的にはあまり積極的にはなれません。

中長期的に考えているのは、会社の売上や利益は他事業に任せて、ウェブ制作に関しては、私たちが応援したい企業やブランドのために提供する、といったフラッグシップ的な事業に徐々に変えていくことです。

これは一つのアイデアに過ぎませんが、少なくともウェブ制作という仕事やビジネスモデルに関しては、岐路に立たされている実感があります。価格感は市場の中でほぼアンカリングされてしまい、労力の割には売上も利益も上がりにくいビジネスになっています。こうした現状に合わせて、私たち自身の考えも大きくシフトしていく必要がある、というのがここ数年思っていることです。

ソフトウェア・デザイン事業

これは、業務システムUX/UIデザインなどと呼んでいた事業です。2014年頃から業務システムのUIデザイン分野に手を広げていきましたが、2020年はそれが一気に開花した年となりました。

2020年初頭の予測では売上の約3割を占めるだろうと予想していましたが、結果的には売上の約4割を占めました。ウェブ制作と比べて利益効率も高く、しっかりワークフローを作りこんでも、十分に採算が取れる実感を得られました。

事業としては急速に拡大したために、仕事の仕方としてまだ粗削りな所もあります。2021年はサービスの洗練化を積極的に進めつつ、デザインシステム公開、情報発信など、ブランディング系の施策も加速させていく予定です。

この事業のリーダーである古長とともに、2023年までにはこの事業だけで3~4億円以上の売上に到達し、それ以降も20%以上のペースで成長していくことを目指しています。それが自然にできるための基盤を、2021年中に作り上げられればと思っています。

法人向け教育事業

2020年は、法人向け教育事業の第一弾として『戦略的ウェブ制作集中講座』を実施しました。リアルイベントの予定が、コロナによって急遽オンライン開催となったものの、最終的には約40社の企業様にご参加いただけました。そして、こういった教育系の事業が、今度の会社の柱となりうる手応えを掴むことができました。

今年はまず、この集中講座をベースに改変したオンラインサロンを、できれば7月頃には開講したいと考えています。

また、「戦略的ウェブ制作」だけではなく、「BtoBサイト制作講座」「オウンドメディア活用講座」「BtoB企業向けTwitter活用講座」「クリエイター向けマーケティング講座」「クリエイター向けビジネスマナー講座」「ウェブ制作者向けライティング講座」など、私たちが持っている様々なナレッジを講座化して提供し、業界全体の知識の底上げに貢献できればと考えています。

プロダクト事業

2020年は目に見える形で外に発信はしませんでしたが、私たちが直接製品やサービスを売る「プロダクト事業」の活動を、2021年以降は活発化させていこうと思います。

その第一弾として現在仕込んでいるのが、WordPressでオウンドメディアをすぐに立ち上げることができるパッケージです。これはマーケティングコンサルティング事業の中の「BtoB企業向けオウンドメディア運用支援」のサービスとともに、4月頃には販売開始したいです。

また、2022以降はリソース不足のため一度停止した自社SaaSプロダクトの開発を本格化したく、2021年はそのための企画・設計などの下準備を始められるといいな、などと考えています。

多角化の意図するところ

多角化というのは、ある程度規模が大きくなった企業が行うのが一般的です。私たちのように、20名弱程度の小さな企業が多角化すると、ただでさえ少ないリソースが分散されて、結果的に各サービスの弱体化を招くリスクがあります。

そこで私が考えているのは、「シナジーある多角化」です。各事業が成長することで、他の事業にも効果が波及する、付加価値が増大する、といった形の多角化です。そのためスタッフも複数の事業に関わり、ウェブ制作の仕事をする以上の経験を、会社の中でしていってもらえるといいいな、と考えています。

コロナによって、単一のターゲットと単一の事業による一本足打法の経営は、非常にリスクがあることを痛感しました。事業のポートフォリオ化、事業の多角化は、創業以来の構想ではありますが、コロナによって計画と意識が加速したところがあります。2021年はこの流れを緩めないよう、前進させていければと思います。

採用

「情報発信が好調なら顧客獲得も採用も好調になる」の法則の通り、2020年の採用も、大きな成果を出した一年でした。

2020年も引き続き、転職サイトや転職エージェントを一切使いませんでしたが、それでも自社の採用サイトから、年間145件の自然エントリーがありました。2019年の70件も私たちにとっては飛躍的な成果でしたが、それがさらに倍増する結果となりました。

エントリーが多ければ当然採用も多くなります。ベイジは現在21名の組織ですが、そのうち6名は2020年にジョインしたメンバーです。さらに、2021年4月にはマーケターとライターの2名が入社予定です。

このように全体としては好調な当社の採用ですが、いくつかテーマを絞って、2020年の活動の振り返りと2021年の方針をまとめてみたいと思います。

採用オンライン化の影響

多くの企業でそうだったと思いますが、私たちの会社にコロナによって、選考プロセスのほとんどがオンラインになりました。結果、一度も会わずに採用に至ったスタッフもいますが、現時点で問題は特に起きてないようです。

以前の発想であれば、一度も会わずに採用を決めるなど怖くてできませんでしたが、以下の3つの理由で、私の考えも改まりました。

一つは、入社後の仕事のほとんどがオンラインで行われるのであれば、オンライン上でのやり取りの印象で採用の合否を決めてしまっても問題ないいうこと。

もう一つは、質問の仕方、課題の出し方などを工夫すれば、仕事をする上での人となりは案外オンラインでも分かるということ。

そして最後は、会社の受け入れ態勢がしっかりとできていれば、オンラインだけの選考でも大きな問題なく、現場に馴染めるということ。

このようにオンライン採用に大きな問題を感じなかった私たちは、コロナに関わらずに、今度の採用はオンライン環境をフル活用しようと考えています。

Twitterの活用(ソーシャルリクルーティング)

2020年の採用が順調だったのは、社員のTwitter活動が好調だったことと無関係ではないでしょう。

これは全体的な数字だけではなく、例えばコンサルタントの古長とやりとりしていたフォロワーがエントリーしてくれて採用に至ったり、ディレクターの今西が一か月で26人のディレクターとZoomで会話をしたりと、Twitter上での影響力が高まることで、アプローチできる人の質・量・スピードも相関して高まる実感を得ています。

またかつてTwitterといえば、未経験の若い方の応募が多く、経験者からの応募が少ない印象もありましたが、徐々にその傾向も薄れてきています。

このように、Twitterを中心としたソーシャルリクルーティングは、カルチャーフィットを重視する私たちの採用方針とも非常にマッチしており、2021年も引き続き力を入れていきたいところです。

採用プロセスの工夫

採用プロセスについても、2020年はいくつかの変更を加えました。

まずは、SPIと読解力テストという、筆記型の試験を導入しました。内容で合否を決めることはなく、むしろ今いる社員の誰に近いか?それと近い印象を面接で得られているか?ということを確認する、データとして蓄積するために行っています。

二次面接の課題については以前から行っていましたが、職種ごとにある程度整備し、採用における課題をベースにしたディスカッションの比重が、以前よりも高まりました。

また、Twitter上で少し話題になったのが「会社の履歴書」の取り組みです。

履歴書

これは、「応募者と会社は対等な関係であるべきだし、そうであるならば、応募者が履歴書を出すなら、会社も履歴書を出すべきだ」という考えから始めたものです。

履歴書以外に、職務経歴書と対になる「会社紹介書」というものも作成し、お配りするようにしました。会社紹介書には、私たちの売上の推移や今後5年の事業計画、現場レベルのリアルな話など、ネット上では得られない情報を多く盛り込んでいます。(こちらは非公開)

このような情報提供は、採用のためのパフォーマンスではなく、ミスマッチを極力防ぐために行っているものです。オンラインによって社風や会社の雰囲気などが掴みにくくなったからこそ、できるだけ実態が掴める情報を、応募者の皆様に事前にお伝えしたいと思って試みている活動です。

2021年の意気込み

このように、採用戦略は基本的にうまく行ってはいるものの、改善したいことはたくさんあり、2021年はそれらを一つでも潰していきたく思っています。

まず見直したいのが採用サイトです。2014年に突貫で公開した採用サイトは、ここまで本当によく働いてくれましたが、さすがに昨今のウェブサイトと比べると古さは否めず、リニューアル待ったなしの状態になっています。

これに関しては今年、デザイナーを中心に採用サイトリニューアルのプロジェクトを動かしてくれるそうで、その動向に期待したいところです。また、採用全体はうまく行ってるものの、ピンポイントでいえば、ディレクター不足が顕著なことから、ディレクター採用に特に力を入れていきたいです。

前述のように、私たちは顧客獲得には全く困っておらず、問い合わせをいただいた中でも、実際に受注できるのはそのうちの2%です。

裏返せば、せっかくのチャンスを無にしているということでもあります。

例えば、もし、2020年に来た問い合わせの全てを顧客化できたら、売上がどのくらいまでいくかを試算してみたところ、17億2300万円という数字になりました。もちろんすべての問い合わせを受注に繋げるなどということは不可能ですが、10億円以上の売上は上げられる機会を掴みながら、その多くを逃しているというのは、私の経営者としての愚鈍さの一つともいえます。

組織を作らなければ事業も伸びないというビジネスモデル上の特性から、採用に関しては、安易に人を増やして現場に混乱を来すような事態は避けつつ、2021年も引き続き最優先課題として力を入れていく所存です。

組織作り

組織作りについても、2020年は例年になく様々なことに取り組んだ一年となりました。すべては書ききれないのですが、象徴的な取り組みだけをご紹介します。

リモートワーク

多くの企業と同様に、私たちも「予期せぬ全社員完全リモートワーク」が、2020年における、あるいは創業以来かもしれない規模の、組織上の最大の変化でした。

結果的に、うちの会社とリモートワークの相性はよく、業務的には大きな混乱もなく移行できたように思います。日頃からできるだけ業務を定型化し、ドキュメントなどによる業務の言語化を進めていたのも、その一つの理由でしょう。

また、Discordによるバーチャルオフィスの仕組みを作ったことも、リモートワークの推進を後押ししてくれました。

Discord

キャプチャをパッと見てもよく分からないと思いますが、オフィス、会議室、1on1ルーム、リリース部屋、集中部屋などの部屋を作り、メンバーが必ずどこかの部屋にいる状態を作っています。さらに同じ部屋にいる人には、いつでもすぐに話しかけるような環境を作っています。

リモートワーク開始直後、一番気になったのは、コミュニケーションの断絶でした。もちろんZoomを使ってはいましたが、きちんとスケジュールを設定し、URLに接続しなければいけないZoomでは、同じオフィスにいるようなシームレスな会話が実現しにくく、空間を共有している感覚を持ちにくく、それぞれがバラバラの空間で働いている感覚になりました。(当たり前と言えば、当たり前のことですが)

一方、音声チャットのDiscordはデスクトップアプリケーションであることもあり、音声だけで、いつでも皆に話しかけられるようになりました。Discordは画面共有もできるので、社内打ち合わせのほとんどはDiscordになり、Zoomはほぼ使っていません。

このDiscordを使ったバーチャルオフィスは、白潟総研さんがTwitterでDMをくれて、『バーチャルオフィス視察会』にお誘いいただいて知ったのですが、声をかけていただいたことに、今でもとても感謝しております。

そして、このDiscord×バーチャルオフィスの導入とともに開始したのが、朝礼です。毎朝10時にDiscordの「オフィス」に集まり、その日の連絡事項の共有を行い、さらに担当者1名が小話をするなど、5~15分ほどの時間を使って行っています。

この中の「小話」とは、仕事の以外の話をする以外に縛りはないフリートークの場です。リモートワークによって失われた雑談に代わるものとして発案したものですが、今まで知らなかった各メンバーの興味関心、個性、人となりが浮き彫りになって、話が盛り上がることも多く、予想外に楽しい取り組みとなりました。

ベイジは20代の社員が多いのですが、20代のリアルな生活や趣味を垣間見る機会になり、私自身の視野が、この朝礼によってだいぶ拡がったようにも感じています。

朝礼の小話については、ライターの古閑が記事をまとめてくれてて、近日公開予定です。

このように今となってはリモートワークをそれなりに楽しんでいる私たちの会社ですが、実は私自身は元々、リモートワーク否定派でした。しかし、3月にはリモートワークを開始し、4月には行けそうと実感、その後はリモートワーク推進派となり、オフィスを無くすことも頭を過るほどになりました。

経営者や管理者の間でしばしば「リモートワークは組織の文化を壊す」「社員の関係性を変える」みたいな話が出てきますが、私はこの言説にはいささか懐疑的だったりします。

組織文化的なものはリモートワークで壊れるほど柔なものではなく、もしリモートワークで何か問題が出たとしたら、それは元々潜在的に持っていた問題が炙り出されただけな気がします。

経営コンサルタント/経営者である冨山和彦氏の著書『コロナショック・サバイバル』でも、コロナは会社の基礎疾患をあぶりだすと書かれていますが、リモートワークで顕在化した問題は、リモートワークの停止によって解決するのではなく、その根本的原因を根治しなければ、別の危機が訪れた時にまた同じことを繰り返してしまう事でしょう。

逆に言えば、組織の基礎疾患がない、あるいはさほど深刻でないのであれば、リモートワークが悪影響を及ぼすこと、リモートワークが組織を壊すということは、少なくともビジネスモデルがリモートワークと相性が悪くない限り、ほとんど起こらないのだと私は感じています。

ただ、後述するように、リモートワークの弊害がゼロとは思っていません。例えば「リモートワークをするとサボる社員が出てくる」という経営者もいますが、経営者がもっとも心配すべきはその逆、「リモートワークで社員働きすぎてしまうこと」だと思います。

そんなリモートワークのメリット・デメリットを総合的に考えた上で、私も社員もオフィスの価値を再確認し、今は在宅とオフィスを自由に選択できるようにしています。この体制は、2021年も継続していきます。

ストレスマネジメント

リモートワークには基本的に好意的な印象を持ちつつ、その弊害もゼロではありません。中でも一番だと思うのが、メンタル面の影響です。

ただでさえコロナ禍で人と直接会う機会が激減している中、誰とも直接会わずに仕事をし続けることが精神面で悪影響を及ぼすケースもちらほら見受けられます。特に独身の若者で、人とのコミュニケーションに喜びを見出すタイプの人は、孤独感が高まるリモートワークは、精神衛生上、必ずしも理想の環境とは言えません。

これは完全に私の仮説なのですが、リモートワークは、オキシトシンに影響を与えるのではないかと考えています。オキシトシンというのは、愛情ホルモンなどと呼ばれているもので、精神を安定させるセロトニンにも作用すると言われています。

このオキシトシン、以前は母親と子供のスキンシップで分泌されるものと言われていましたが、近年の研究では、親しい人との会話などのコミュニケーションでも分泌されることが分かっているそうです。

そう考えた時に、対面で五感を使ってコミュニケーションを取るのと、リモートで音声と映像だけの限定された知覚でコミュニケーションを取るのとでは、オキシトシンの分泌量が変わり、それがセロトニンなどにも影響を与え、不安定な精神状況を助長することもあるのでは、と私は考えます。

年配の方には、「心の問題は気合の問題」などということを本気で思ってる人もいるそうですが、日本人の65%は遺伝子的にセロトニンが不足しやすい体質であり、これは世界最高レベルの水準、つまり世界一不安になりやすい国民だということです。このような医学的・科学的根拠から仮説を繋いでいっても、リモートワークがメンタルに与える弊害というのは、決してゼロではないはずだと、私は思います。

ストレスマネジメントというのは、実はコロナになる前から社内に啓蒙したいと思っていたテーマでした。コロナになって一日も早くやっておいた方がいいと感じ、20冊程度の本を読み漁り、約80枚におよぶスライドを作成し、10月にストレスマネジメントの研修を社内で行いました。

これは、単発的な取り組みに終わらせるつもりはありません。研修の動画は入社した社員に必須で見てもらうことし、またマインドフルネス瞑想を朝礼に取り入れるなど、2021年はこれまで以上に、メンタル面で充実した組織になるよう取り組んでいきたいです。

改善プロジェクト

2020年は、経験豊富なメンバーを中心に「改善チーム」を結成し、会社の問題点の抽出、改善のアイデア出し、施策の実行状況の確認などを行う「改善ミーティング」を2週間に一度実施するという、所謂「改善プロジェクト」を1年間を通じて走らせました。

改善プロジェクト

感覚的には、会社をプロダクトに見立てて、PDCAを回していくようなイメージです。その結果、一年間で約80の改善案が生まれ、約50の改善施策が実行されました。一例をあげると、以下のような取り組みが改善プロジェクトから生まれました。

  • 初心者向けJavaScript教育プログラム
  • 初心者向けエンジニアスキルチェック
  • ベイジ公式JavaScriptライブラリ集
  • 逆1on1制度(部下が上司を1on1する)
  • 警報・注意報システム(プロジェクトの危険度を可視化する)
  • 職能別「心得」の定義
  • 新評価システムの策定
  • 様々なドキュメントやレポートのテンプレート化
  • リソース管理方法の見直し
  • リモートワークにまつわる各種新ルールの策定

改善プロジェクトによって、問題発見→議論→対処のスピードはかなり上がりました。その一方で、打ち手の数が多く、成果まで追えていないものもあるため、運用方法はまだ試行錯誤が必要ですが、この取り組み自体は引き続き実施していきたいと思います。

デザイン組織の自律性向上計画

社員が20名を超え、職能別にしっかりとしたチームができてきましたが、その中でも特にデザインチーム(デザイン組織)については、体質・思想面に変化をもたらす活動を、2020年は特に意識して活動しました。

私自身の感覚として、少なくともウェブ分野におけるデザイナーの立ち位置は、私がウェブデザイナーになった2000年代と大きく変わっています。当時は個のスキルが最大限評価され、デザイナーは競うように自身の「作品」を飾るポートフォリオサイトを作り、スタープレイヤーを頂点とする業界ヒエラルキーのようなものがあり、賞レースのようなものも活発でした。

しかし、2010年以降、iPhoneを震源とする第二の情報大爆発とともに、デザイナーに求められることも徐々に変わってきました。例え間接的であってもビジネス貢献をより強く求められるようになり、個のスキル以上に、デザイナー/非デザイナーとのコラボレーションやプレゼンテーション、組織づくり、プロセスの啓蒙なども、デザイナーの重要な業務になりました。

単にビジュアルを作る能力だけでなく、デザイナーやエンジニアのみならず、ビジネスパーソンと対等に会話し、デザインの価値や打ち手を提案する。ワークショップやユーザーテストなどもその選択肢に持ち、必要な時は自ら実行できる。それらをきちんとアウトプットまで落とし込める。そのアウトプットをもって、目に見える成果、とまでいかずとも、ビジネスパーソンにその意義を説明し、ビジネス系の施策と歩調を合わせられる。

このような新時代のデザイナーをきちんと育成できる組織と考えた時に、旧来のアートディレクター的な人物がクオリティを一元管理し、デザイナーは丁稚奉公のように見習いから始める、というピラミッド型の組織構造は時代遅れではないだろうか、と考えるようになりました。

その考え自体は2015年頃から持ってはいたのですが、デザイナーが数名になった一昨年あたりからできることから手を打ちつつ、新たにジョインした『ウェブデザインの思考法』の著者でもある金をリーダーに据え、改革のスピードを加速させていきました。

2020年以前のことも含まれますが、デザイン組織の体質変化としてこれまで取り組んできたこと、これからやりたいことは、例えば以下のようなことです。

  • ワイヤーフレームをデザイナーの担当にする(2018年~)
  • 戦略フェーズの最終工程に同席する(2019年~)
  • 戦略フェーズのワークショップに参加する(2019年~)
  • アートディレクター制を廃止する(2019年~)
  • デザイナー定例勉強会開催(2020年~)
  • デザイン組織のビジョン(ロードマップ)の策定(2020年~)
  • デザイナー全員でフィードバックするデザインレビュー制度(2020年~)
  • Adobe XDの共同編集機能を使ってコラボレーションする(2020年~)
  • ベースデザインをワークショップ形式で発案する(2020年~)
  • 業務外でデザインコンテストを実施する(2020年~)
  • 自社プロジェクトをデザイナー主導で動かす(2021年~)
  • デザイナーの裁量で仕事を受注し、回す(2021年~)

新時代のデザイナーをきちんと育成できる組織作りという観点ではまだまだ道半ばではありますが、このあたりの取り組みの精度を高めていき、30代、40代を年を重ねていってもキャリアが行き詰らない、むしろ活躍の場がどんどん広がるようなデザイナーを育成していきたいと考えています。

ライターチームの組成

ライターを採用していく方針は、2018年頃に考え始め、2019年の抱負には明確に言語化されていました。2019年にはライター経験があるディレクターが加入し、2020年4月には新卒ながら優秀な専任ライターが入社してくれました。今年の4月にはさらに、経験者のライターが1名加入する予定です。

コンテンツ制作能力はこれからのビジネスに不可欠なものです。それは単に良質なコンテンツをクライアントの代わりに作ってあげるだけでなく、作り方を教えたり、文章力がある社員を教育していくメソッド自体の市場ニーズも高いと考えています。このような市場に需要に応えるためにも、コンテンツチームの編成は急務です。

今はまだ1.5名ほどのメンバー構成でチームと言えるほどではないですが、できれば2023年までには、デザイナー:エンジニア:ディレクター/マーケター:ライターの比率が、1:1:1:1になるような、そんな編成にしていきたいと考えています。

また、その受入れ態勢を作るための、教育システムやナレッジの蓄積などに、今年は力を入れていきたく思います。

さいごに

2020年の振り返りと2021年の抱負の主なところは以上となりますが、その他、上記の話題から漏れたことを、自分自身の備忘録を兼ねて、メモしておきます。

資本提携等のお誘いについて

数は多くありませんが、実は2018年頃から、「ベイジと資本提携したい」「ベイジを買いたい」みたいなお問い合わせが来るようになりました。安易にどこかの子会社・関連会社になることはまったく望んでいないのですが、他社の血が混じることで自分たちの理想実現が加速するような、社員も総じて幸せになれるような資本提携であれば別にいいのではと柔軟に捉え、お声がけいただくたびに一応話は聞いていたりします。

私自身は恥ずかしながら、M&A等のファイナンスの知識に疎いところもあるのですが、昨年あたりから問い合わせがまた増えていることから、勉強も兼ねてもう少し積極的に門戸を開き、オーナーだけの純血経営にあまり固執せず、フラットに経営の打ち手を考えていければと思っております。

私自身の目標めいたこと

ここまでは私の抱負というより、会社の抱負という感じでしたが、私自身の2021年は以下のようなことに取り組もうと考えています。

  • 18時以降は仕事をしない
  • 2週間の長期休暇を取る
  • ジム通いを止めない(週2回が定着したので止めない)
  • メンターを見つける(切実)
  • エグゼクティブ向けのスピーチレッスンに通い、話し方を鍛える(実行済)
  • コーチングを学び、仕事で実践する(できれば春くらい)
  • マインドフルネスを実践して社内に広める(仕込み中)
  • 本を出します(2冊予定)
  • オンラインも活用して今まで接点がなかった人と話す
  • 社外活動を減らして、社員との会話を増やす
  • ブログ等の長文の情報発信はもっと増やす
  • Twitterの発信は少し減らす(中毒の実感あり)
  • ただしTwitter上での返信などはもう少しまめに(交流ツールとして使う)
  • 福岡に家を建てて東京との2拠点生活をする(2022年になるかな)
  • 車を買う(20年間ペーパードライバー。これも2022年か)
  • 普段通いできる美味しいお店を見つける(コロナに負けない)
  • アニメをなるべく見る(ルームランナーで走りながら)
  • 同業者の音楽友達増やしたい(Zoomで音楽飲みとか)

経営者としての意思

私は社員によく「ベイジはベンチャーではない」という話をします。これは一切の挑戦をしないという意味ではなく、生活やメンタルとのバランスを考慮しながら、一人一人が無理のない自然な挑戦をしていきたい、という私の考え方を示したものです。あるいは、無理せず長続きする自分なりの経営方法を確立したい、という別の意味の挑戦でもあり、欲求かもしれません。

私は今のメンバーが好きなので、本人の意思で離脱するケースは仕方ないとしても、そうでなければ、できるだけ今のメンバーを混乱させることなく、無理なく人を増やして成長していくような経営をしたいと考えています。

一方で、何も挑戦しない、何も変化しないでは、中長期的に、会社も社員も守ることが出来なくなるでしょう。日々進歩するビジネスの世界では、現状維持は後退を意味します。なので、ようはバランスの問題と考えています。

2021年も、いきなり緊急事態宣言が出るなど、波乱含みの幕開けとなっています。株式市場の好調に引っ張られて実体経済も伴っていくのか、それともやはり沈んでいくのか、まだ誰にも分からない状況です。こういった不確実性が高い環境で、バランスを見極めながら進めるのはとても難しいことですが、「先が読めないVUCA時代は~」などという言説は10年以上前からあるのであって、今さらなことかもしれません。

年末年始に読んだ、足立光氏・西口一希氏共著の『アフターコロナのマーケティング戦略』でも、「コロナ禍に関係なく顧客の変化は常に起こり続けていて、私たち全員がその変化に対応し続けていかなくてはならない」と書かれていましたが、まさにそうなのだと思います。

自分たちで変えられない状況を嘆いても仕方がありません。自分の手で変えられそうなことはできる限り考え抜きながら、その一方で「自分なら大丈夫」と根拠のない自信を持ちつつ、またその一方では「もし悪い結果になったらその時考えればいい」とある種刹那的になりながら、常に一つの考えに囚われず、前後左右の視界を意識した安全運転を心がけ、バランスよく会社の舵取りをしていければと思っています。

あなたもベイジで働いてみませんか?

私たちは「人生100年時代を生き抜く強い人材を育てる」を人材育成のテーマとしているweb制作会社です。

普遍的なスキルが獲得できる環境を作るためにマーケティングに力を入れ、情報発信を積極的に行い、ワークフロー化を推し進めています。

現在は、マーケター、デザイナー、ディレクター、エンジニア、ライターといったすべての職種を募集しています。ご興味がある方は、以下の採用サイトをご覧ください。

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