ベイジでディレクターをしている今西です。
ベイジには2016年7月に入社し、ディレクション業務全般から社内のワークフローや制度の整備などにも関与してきました。今後はディレクションや組織作りに関連する情報を発信していく予定です。
さて、私たちの会社は、日報にとても力を入れています。その一部は「ベイジの日報」というオウンドメディアで公開しています。ご存じの方も多いでしょう。
日報を書くという取り組み自体は珍しくはありませんが、ベイジの日報は、一般的な日報とは少々異なっています。
まず、決められたフォーマットがありません。また、業務連絡や進捗報告なども一切含みません。文字数も、書く内容も自由です。ただ一つだけ決まりがあります。それは、行動指針と照らし合わせてその日の振り返りを書く、ということです。
具体的には、以下のような日報が、毎日全社員から全社員宛にメールで送られてきます。
この活動は2012年から続けており、2020年も実施します。今のところ日報を止めるという話は出ていません。
直接的に売上アップやコスト削減に繋がる活動でもなく、時間に余裕がある仕事でもないのに、なぜ私たちは、進捗報告の機能すらない日報という活動を続けるのでしょうか。
それは言うまでもなく、明確なメリットを感じているからです。特に組織作りの面で、大きなメリットを感じています。
そこでこの記事では、私たちが日報に感じている、組織作りの視点から見た6つのメリットをお伝えします。
実は私たちの日報は、ある経営上の課題を解決するために始まった取り組みでした。その課題とは、「行動指針の浸透」です。
ベイジの行動指針は、2012年4月に制定されました。私が入社する4年前になります。当時は創業2年目で、社員はまだ3人の状態でした。その行動指針がこちらです。
最初は、7つの大項目とそれぞれに8つの小項目、合計56項目が策定されました。その後1つの大項目が増え、現在は64項目の行動指針となっています。それ以外は一言一句、2012年の段階から変わっていません。(ちなみに2020年現在、「行動指針」でGoogleで検索すると3位に表示されます)
創業2年、社員がまだ3人の状態で、組織というより個人事業に近い状態です。そんな状態で56項目もの明確な行動指針を作成するというのは、先走り過ぎのように思えます。
しかし、起業後の早い段階で行動指針を作るのは、代表の枌谷がずっと考えていたことのようです。会社員時代、仕事に対する価値観が合っていないことで、不毛な衝突や不満が多く発生し、仕事の大きなストレスになっていた。そこで会社を作るのなら価値観を明確にし、価値観を中心に組織を作りたい。そう考えたようです。
ただこの行動指針、一度完成すると、今後は「どうやって組織に浸透させるのか?」が大きな課題となりました。
確かに、行動指針を作る企業は珍しくありませんが、それが効果的に浸透している施策を打ち出している企業は、私の記憶にはありません。
ベイジでも、デスクトップの壁紙、トイレの張り紙、朝礼などと色々な案が検討されたそうですが、その中で「これだ!」となってはじまったのが、日報という取り組みです。
「行動指針に照らし合わせて日報を書く」ということにすれば、自然と毎日行動指針を読み、それを意識した文章を書くことになります。これほど効果的に行動指針を浸透させる策はないと、私も思います。
私がベイジに入社してからも、仕事のやり方の違いで苦労したことはありましたが、確かに「価値観の違いによるストレス」はほとんど感じず、馴染むことができました。離職者は年に1人ほどいますが、価値観のバラツキで組織全体が揺れ動くといった不安定さを感じたことはまったくありません。
これこそ行動指針のおかげだと思いますが、その行動指針を定着させることを目的に始まった日報も、間違いなく欠かせない要素だったと思います。
web制作会社である私たちは、自分の考えを言葉にして、クライアントや社内のメンバーに伝えるシーンが多々あります。ディレクター、デザイナー、エンジニアと職種を問わず、言語化能力が強く求められる仕事です。
「なぜこの設計がよいのか?」「なぜこのデザインがよいのか?」「なぜこの実装がよいのか?」を、論理的に分かりやすく言葉にする必要があるのです。
私たちの仕事は、電話や打ち合わせなどの音声コミュケーションより、メールやチャットなどテキストコミュニケーションの方が圧倒的に多いです。言語化能力の中でも特に「文章を書く力」は、あらゆるパフォーマンスに影響を与えています。
だからこそ、日報として毎日文章を書くことは、すぐに役に立っているように思えなくても、中長期的に見て仕事のパフォーマンスに影響を与えると考えています。
文章は、「センス」「書けない人は書けない」などという人もいますが、ベイジの社内にいて、色々な人の日報を見ていると、そんなことはまったくないと感じます。
入社当初は文章を書くことが苦手だった社員が、1~2年経って立派な日報を書くようになった例はたくさんあります。文章力、言語化能力はセンスではなく、ある程度までは訓練と経験量で鍛えることができるのです。
今の時代、言語化能力の高い社員を多く抱えることは、強い組織づくりにおいて有利に働きます。このような、普遍的な組織力を高める取り組みとしても、日報という取り組みは貢献していると私は思います。
私たちはデザイナー、エンジニア、ディレクターなど、基本的には全員がクリエイターです。それ故、PCに向かって黙々と仕事をしていることが多く、繁忙期はプロジェクトメンバー以外とはほとんどコミュニケーションを取らないことも珍しくありません。
そんな時のコミュニケーション手段として、日報が役に立っている実感があります。
日報が共有されることで、仕事では関わりのないメンバーがどんな仕事をしていたのか、何を感じているのか、などを知ることができます。
さらに、ランチやミーティング時に、日報の内容が話題になることもあります。業務報告ではなく、一日の振り返りをフリーフォーマットで書くからこそ、それぞれのメンバーの考えや個性がリアルに伝わり、緩いコミュニケーションとして機能するのです。
日報に対して、誰かからの返信が来ることもあります。日報を通じて、本人の課題が可視化されるので、上長が適宜アドバイスをしたり、他のメンバーが自然とサポートしたり、といった動きにも繋がります。月に一度の「1on1ミーティング」や「オンボーディング」などもありますが、毎日の日報によって、より速い反応が可能になっています。
一日中あまり会話をせずデスクに向かいがちな私たちにとって、日報は社員同士を緩やかに繋ぐ、とても貴重なコミュニケーション手段なのです。
日報はもともと社内向けに書かれたものでしたが、2014年からは、一部を外部に向けて公開するようになりました。それが「ベイジの日報」です。
発想は単純でした。代表の枌谷は「全社員で情報発信ができないか」とずっと考えていたそうですが、毎日書いている日報こそコンテンツであり、そのまま公開するだけでベイジのカルチャーや人を紹介する立派なオウンドメディアになるのでは、とある日思いついたのがキッカケとのこと。
そこからの行動は早く、WordPressのテンプレートをベースに、わずか5日目で完成し、10日後には最初のコンテンツを投稿し始めました。「オウンドメディアを始めるのに時間も手間も不要」を表すようなエピソードです。
日報をオウンドメディアにしてしまうことの最大の利点は、オウンドメディアの運営負荷がほとんどないことです。
各日報の文章量は600~800文字ほどありますが、既に書かれた日報に対して軽微なリライトをしている程度で公開しています。またこのリライト作業をする日は、日報を書かなくていい、としています。
オウンドメディアを社内運営する時の最大の問題は、「執筆の時間をどう捻出するか」に尽きるでしょう。多くの企業はこれが解決できず、更新がストップしてしまいます。しかし元々日報を書く文化があり、日報を書く時間を使って記事をアップしているため、ベイジの場合はこういった「書く時間がない」という問題はそもそもありません。
このように、オウンドメディアに転用して外部に発信していけば、日報は単なる社内の情報共有以上の意義が生まれてきます。
「ベイジの日報」を公開した効果として一番感じているのは、採用です。
ベイジは小さな会社ですが、コーポレートサイトとは別に、独自の採用サイトも持っています。ここでは豊富にコンテンツを掲載することで、ビジョンや社風、働くメリットなどをできるだけ伝わるようにしています。
しかし、転職先としてベイジが気になっている人とのコミュニケーションとして、これで十分ではありません。特に「検閲されていない社員の生の声」「日常的な仕事の雰囲気」は、採用サイトだけでは見えてきません。そんな採用サイトに足りないものを、日報サイトは埋めてくれています。
実際、面接をした方の口から、日報の話が出ることは非常に多いです。また、日報サイト内の具体的な記事に言及して、応募の動機を語る方もいます。
日報の中には、仕事の中の悩みを吐露したようなものもあります。こういった社員の生々しい声も、求職者によってはベイジという会社にエントリーしようか判断するうえでの、貴重な情報になっています。
ベイジは2019年の1年間で、採用サイトだけで70件のエントリーがありました。これは転職サイトなどに頼らず、純粋な自社採用だけの結果ですが、そこには日報サイトによる後押しも確実にあると感じています。
また、「日報を強制されるのは、応募のハードルを上げて、むしろ採用にはマイナスに働いているのでは?」という意見もいただいたことがあります。確かに文章を書くのが苦手な人が、日報があるからベイジに応募しない、と判断したケースがあるかもしれません。
しかし、スキルではなくカルチャーで採用する、というのはそういうことではないでしょうか。
私たちが言葉を大事にする文化であり、社員に言語化能力をある程度求める会社である。それが重要と思わない人は、そもそも会社と合わない。日報が障壁となって応募を見送るというのは、ミスマッチが防げているということである。そう判断しています。
「ベイジの日報」はしばしば、成功しているBtoB企業のオウンドメディアとして取り上げられることがあります。それはとても嬉しいことなのですが、このオウンドメディアはどちらかといえば、組織づくりが目的のメディアであり、マーケティングへの貢献度はそれほど高くありません。
ただ、派生効果として感じるのは、思いのほかクライアントの担当者が日報を読んでくれていることです。プロジェクトのミーティングでお会いした際に、「この前の日報を読みましたよ!」と言っていただき、そこから雑談に発展することもあります。
それは受注後のプロジェクトだけでなく、受注前の商談でも一部発生しています。コンバージョン(お問い合わせ)をし、商談が進んでから、ベイジの日報の存在に気が付き、その取り組みに関心を持っていただくようなケースです。
また、ベイジの取り組みを知って、実際に社内で日報を書く習慣を始めたクライアントもいました。代表が率先して日報を書き始めたことで、社員からも「社長が普段から何を考えているか知ることができた」と言われることも増え、ビジョンや価値観の浸透にも効果を感じているようです。
アクセス解析の数字だけで見ると「日報はマーケティングに貢献していない」となってしまうのですが、日々のクライアントとのコミュニケーションの中では、「ベイジの日報」が話題になっていることは多く、おそらく数字で見える以外のマーケティング的な効果を発揮しているのでは、と考えています。
ここまで、私たちが日報を書き続けている中で実感しているメリットのお話をしてきました。こういうお話をすると、「うちでもやってみたい」とおっしゃっていただくことも多いのですが、その一方「うちでは定着しないよ…」と言われてしまうこともあります。
またある方から、「うちでも日報やったけど、根付かなかった」と言われたこともありました。でもそれは失礼ながら、日報が悪いのでも、組織が悪いのでもなく、やり方が悪かったのではないかな、と思います。
ベイジが日報を始めた時に、社員3~4人しかいなかったのは幸運だったといえます。日報があることを前提に採用をすれば、「日報なんて書きたくない」という組織アレルギーのようなものは、そもそも起こりません。
しかし、何十人もいる組織でいきなり日報を始めると、そうはいかないでしょう。文章を書くのが好きではない人を中心に、間違いなく反発が起きるはずです。10人程度の組織でもそれは起こるかもしれません。
この記事で書いたように、文章は毎日やれば慣れることで誰でも上達するし、そこで磨かれた言語化のスキルは汎用的なもので、業務の様々な面に好影響を与えるものですが、直接的な効果がなく、また最初はどうしても時間がかかることから、「メリットがない」「忙しい仕事を押してまでやることではない」と思われてしまうのも、ある種仕方がないことかもしれません。
なので、もし始めるのであれば、日報に前向きな少人数から始めるのではないかと思います。そこで無理なく運営できるやり方を模索し、外部に公開するなどの副次効果の成功体験を積み重ねることで、徐々に組織の中に日報文化を根付かせていくといいのかもしれません。
また、できるだけ無理をせず、なるべく楽しめるような仕組みにすることも重要です。
例えば、ベイジでは、退社時間が遅くなるときなどは日報を見送ってもいい、としています。これを許すとそのうち誰も日報を書かなくなるのでは、と思われるかもしれませんが、幸い組織として習慣化しているため、徐々に皆が日報を書かなくなるということは現状起こっていません。一度習慣になってしまえば、なかなか風化しないものです。
また、日報をゲーム感覚で楽しむアイデアとして、Googleデータポータルを利用して、「日報グランプリ」なる賞レースも行っています。
Googleアナリティクスのデータと接続し、その年の人気コンテンツ、人気ライターをランキング化して、常時順位の推移を確かめられるようにしています。また年の終わりには、一番PVを集めたコンテンツを書いた人、一番PVを集めた人、一番記事を書いた人を表彰しています。(全部取れば三冠王です)
毎日文章を書くというのは、やり続ければ慣れることなのですが、その習慣がない人からすれば大変なことです。そのため、無理せず自然にできる方法、楽しみながらやれる方法なども模索しながら、組織への定着を図っていくといいのではないでしょうか。
そもそも皆が無理、難しいと言っていることをやり切ってこそ、組織の強みになり、差別化になります。
これを読んで日報をやってみようと思った方は、是非チャレンジしてみてください。日報を浸透させるうえで悩み等があれば、是非私や枌谷のSNSアカウントまで、お気軽にご相談ください!
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