転職サイトの運営会社からベイジに転職するうえで、一番興味深かったのはベイジが提示する「情報量」だ。採用サイトや日報サイトなど誰でもアクセスできるページが多く、社内文化や取り組み、会社として目指す姿勢といった情報にも入社前から気軽に触れられる。
ここまでの情報量が一般公開されているというのは、求職者・採用企業側どちらにとってもかなりありがたい環境だろう。なぜなら、入社前の段階でこれだけ企業のことを知れるなら、確実に入社後の「ミスマッチ」要素が減らせるからだ。
求人市場に限らず、様々な情報に簡単にアクセスできるポータルサイトのおかげでユーザーの選択肢はかなり広がった。自分の希望にマッチした働き方や給与、勤務地などをフリーワードで検索すれば結果が一覧で表示され、該当しない企業は候補から外れていく。「転職によるキャリア形成は当たり前」という考え方が浸透した背景の一つには、景気の移り変わりはもちろんのこと、欲しい情報を効率的に得られるようになったこともあるだろう。
しかし実は、転職サイトで転職先を決めた人の中には、「ミスマッチで即退職」というケースも少なくない。自分で検索し、自分で見つけて応募したはずなのに、一体なぜなのか。転職サイト経由での転職にありがちなミスマッチと、その要因について考えた。
転職サイトもビジネスなので、やはり掲載される求人広告の枠には「優劣」が存在する。
掲載順位も付与オプションもコンテンツ量も、受注金額の大小によって決まる。低価格枠で出稿するとなると、他社に埋もれて見向きもされずに終わってしまう可能性も高い。コンテンツ作成側はできる限りユーザーの目に留まるように、検索されそうなワードをふんだんに盛り込んだ広告作成に注力するため、「実際は歓迎されていないけれど、実績はあるから産育休・時短OKと入れた」「形骸化した制度も一応記載しておいた」という事象が発生する。
記載された内容を信じて応募したのに、入社してみたら実態は異なった……なんてことも正直ザラにあり、求職者に幻滅されてしまうのだ。
サイト内でフリーワードやカテゴリ検索ができるということは、当然その検索数なども可視化される。ある時期は安定企業に人気が集まり、またある時期はリモートワークが注目され……。そうした検索結果のランキングに踊らされて、コンセプトありきの求人広告が量産されていく。たとえば、「ベテラン社員がじっくり丁寧に育ててくれる文化」が魅力なのに、リモート勤務が流行っているからという理由で「リモートで自由に柔軟に働けるよ!」を全面に出した募集をかけ始めたりするのだ(極端な一例だが)。
こうなると、「自由にやらせてもらえる!と思って入社したのに、実際はリモート人口も少ないし、先輩にもすごくコミットされて、思っていた働き方と違う……。」といった理由で辞めてしまう人も出てくる。どちらが良いか悪いかではなく、企業の文化にマッチする人材を理解せずにトレンドに食いついたことで悲しい齟齬が生じてしまうといういい例だ。
競合他社の存在を意識すればするほど、情報の誠実性を追求することよりも、「限られた場所でいかにその求人を目立たせるか」に心血を注ぎがちになる。ジレンマだが、こうした背景から転職サイトは“本当に求職者に合った企業を探せる場所”ではなくなってしまっているという現状があるだろう。
では、どうすればこのミスマッチを減らせるのだろうか。答えは実にシンプルで、「誠実でいること」が最も重要だと思う。たとえばある求人広告では、リモートワークが人気を集めていた時期に「リモートが流行っていますが、うちは顔を合わせて働きたい社員が多いため、ほぼ全員出社です!」という広告を掲載したところ、若手~10年選手まで複数名のエンジニア採用につながったという。応募数やPVに固執せず、等身大の社風を訴求できたからこそ、「企業風土にマッチした社員の採用」が成功した事例といえるだろう。
もちろん、適した人材に求人を届けるためために、より多くの人の目に触れる広告をつくらなければいけないのも事実。PVや応募数も当然意識するべきであることを考えると、ジレンマは大きい。しかし、このバランスは採用企業側に限った話ではなく、求職者側もかなり重視するべきものだ。知名度やきらびやかな情報に踊らされずに、転職先の文化や社風を見極めていきたいところである。
Webサービスは便利になったが、あくまでもそこに集められた情報を求めるユーザー(この場合は求職者)は生身の人間。そう考えると、「この企業に入社して幸せになれるのはどんな人だろう」という原点に立ち返らなければ、ミスマッチが起きない求人広告は作成できない。
ベイジでは採用サイトの作成をお任せいただくプロジェクトも多い。だからこそ耳障りの良い言葉や情報の羅列だけでCVRを求めるのではなく、顧客企業の理解・ターゲット理解への努力を惜しまず、必要な情報をぽん、と届けていける誠実なライターでありたいと思う。