コンサルタントとして働く傍ら、一時的にディレクション業務も担当することになった。
出自がディレクターなので、ディレクターのスイッチが入るとやるべきタスクは明確に見えてくる。それゆえに、現時点で最低限必要なタスクだけでなく「早めにやっておいたほうが良さそうなタスク」までもが頭に浮かぶ。そういうときは迷いつつも「コンサルタント業務を優先しながら、可能な範囲で取り組もう」と決めて行動している。
人は自分がなじみのある領域、経験を積んだ分野において思考や観察の解像度が高くなる。必然的に、その領域における違和感への気づきや建設的な意見が増えていくのだ。極端に表現するならば「親しみのある領域にはでしゃばりやすい」ということになる。私自身、以前のディレクター経験があるからこそ、この領域では自然と意見やアイデアが湧き出てくるのだと実感している。
反対にでしゃばりにくい場面がある。それは自分に知見や経験が不足している領域、あるいは自分より詳しい人がその場にいる状況だ。確かに、より専門性の高い人がいる場面では、無理に発言する必要はないかもしれない。しかし、ミーティングやアイデア出しの場ででしゃばらないことを選択してしまうと、その場に自分が参加している意味や価値が失われてしまう。
これは組織行動論でいう心理的安全性の観点からも重要な課題だ。参加者が発言を躊躇しない環境があってこそ、多様な視点やアイデアが生まれる。自分の発言が間違っているかもしれないという恐れが、新しい価値の創造を妨げているのかもしれない。
専門外の領域で価値を生み出すためには、論理的な思考プロセスの構築が不可欠だ。つまり、仮説思考が必要になる。論理は数字と同じように、誰もが理解できる共通言語としての性質を持つ。そのため、たとえ知識や経験に差があったとしても、どのような論理展開で導き出された質問や意見なのかが相手に伝わることで、新たな視点や切り口としての価値を持ち得る。
未知の課題も複雑な課題も、要素を一つ一つ解きほぐすことで新たな示唆を得られることがある。実際に現場で覚える何かおかしいという違和感も、論理的に分解すれば具体的な改善案へと発展させることができるのだ。
自分の仮説思考力に一定の自信を持てるようになれば、なじみのない領域でもでしゃばりやすくなり、場所や状況を選ばず価値を生み出せるようになる。
このような「でしゃばり」は、組織に新しい視点をもたらす原動力となる。普段は接点のない部署や顧客とのプロジェクトでも、自分なりの考えを発信することで、周囲に思わぬ気づきを提供できたりする。既存の専門性を超えて新しい領域に踏み出すことは、個人の成長だけでなく、組織全体の可能性を広げることにもつながっていくのだ。