「自信がある」は「実力がある」ではない

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コンサルタント 川道優輝

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「自分はこれが得意だ」——。そう思っていた領域で、予期せぬ失敗をして自信を失いかけた経験はないだろうか。

ある程度の経験と実績を積み、自信をつけてきた「中堅」と言われる人に起こりがちな話だと思っている。

予想していなかった、得意分野での失敗

例えば、こんな社員がいるとしよう。 彼は営業として成果を上げ、人前で話すことにも自信があり、周りからも「プレゼンが上手い」と評価されている。

しかし、ある重要なプロジェクトで、彼は思わぬ壁にぶつかる。これまでとは役割が変わり、初めて納品サイドに回り、品質に責任を持つ立場で説明することになったのだ。

「いつも通りやれば大丈夫」。そう思っていたはずが、彼は極度に緊張している自分に気づく。いざ話し始めると声は上ずり、頭の中が真っ白になる瞬間さえあった。なんとか説明は終えたものの、彼は不完全燃焼のまま席に戻ることになった。

彼を苦しめたものの正体は何か。それは、彼自身が持つ「得意」というセルフイメージと、現実との間にあった“ギャップ”に他ならない

彼が本当に「得意」だったのは、もっと限定的な状況でのことだった。

  • 何度も使い慣れた資料で
  • 商品を売り込む「提案サイド」として
  • 勝手知ったる流れで話すこと

一方で、今回直面した現実は、全く異なる条件の上にあった。

  • 初めて扱う専門的な資料で
  • 品質に責任を持つ「納品サイド」として
  • 手探りの状況で説明すること

「人前で話す」という行為の名前は同じでも、その中身(=条件)は全くの別物だったのである。

ある程度の経験を持つ人こそハマりやすい

このセルフイメージの罠は全くの新人よりも、多少の経験や実績を積んできた人がむしろ陥りやすい。

なぜだろうか。

  • 経験が浅い新人は、そもそも「自分はできる」という自信の元手(原資)が少ないため、過度な思い込みは生まれにくい
  • その道の達人は、数え切れないほどの経験から、自分の能力がどんな条件で発揮されるかを熟知しており、セルフイメージは実態とほぼ一致している

最も危険なのは、その中間にいる人である。 過去の成功体験が「自分はできる」というセルフイメージを育てる一方で、自分の能力の「前提条件」を正確に把握するには、まだ経験が足りない。この、自信と自己分析能力のアンバランスさが、セルフイメージと現実の間に最も大きな“乖離”を生み出してしまうのだ。

このギャップに気づかぬまま失敗するのも問題だが、より深刻なのは、その後の心理的ストレスによるパフォーマンスの低下だろう。 得意分野が崩れ去るという経験は、当然ながら自信を失わせる。そして、自信を失うと、本来向き合うべき課題から目を背けてしまいがちになる。この悪循環は、本人だけでなく、会社や顧客にとっても大きな損失だ。

「致命傷」を負う前に、「かすり傷」を負いに行く

では、どうすればいいのか。自分のセルフイメージを常に疑い、客観視し続けろ、と言われても、それはなかなか難しい。自信を持って仕事に取り組むこともまた、パフォーマンスには不可欠だからだ。

となると「本番で致命傷を負う前に、安全な場所で意図的にかすり傷を負っておく」しかないと思っている。これは、顧客との本番という失敗の許されない場でつまずく前に、社内など、安心して失敗できる環境で、自分のギャップを意図的に見つけに行こう、という考え方である。

  • 社内で本番さながらのリハーサルを行う
  • あえて自分の専門外のメンバーに説明し、素朴な疑問をぶつけてもらう

こうした「模擬戦」を通じて、自分の「できる」が、いかに特定の条件に支えられた脆いものかを痛感しておくことが、顧客に迷惑をかける前に気づける1つの手段だと思う。

いわゆるロールプレイングであり、人によっては「新社会人でもないのに」と思うかもしれない。そういう時は、まず一人で録画した映像を見返すだけでもいいだろう。恥ずかしいとか言っていられない、人に見てもらった方が結果的に楽、と思うはずだ。

「自信を疑え」という趣旨を書いてきたが、特定条件下ならできるのであれば、できる条件を広げることはそこまで困難ではないと思う。自分の能力が通用しなくなる「条件」は何かを常に探し、そのギャップを埋めるための準備を怠らない。この地道で、少し面倒なことを積み重ねた人だけが、本当のプロフェッショナルなのだと思う。

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