クライアントとの打ち合わせの中で、興味深いことがあった。役員の方と担当者の方で意見が割れて議論が白熱したときのことだった。
今は出来ていないある取り組みに対して、役員の方は、本来はやるべきことなので、これを機にできるように周知すべきだ、と主張した。担当者の方は、やるべきであっても、手間がかかることは結局しなくなる。手間がかからず、継続できる範囲でやるべきだ、と主張した。どちらも間違いではなく、どちらの意見を選択するか、という問題だろう。
ここで興味深かったのは、担当の方が、役員の方の意見に簡単になびかなかったことだった。自分の主張を堂々と言い、役員の方の言う通りにはならないだろう、という自分なりの根拠を主張していた。
そして議論の上、最終的には、役員の方の意見が採用されたわけだが、その時は、不服というわけではなく、意図を理解し、納得して受け入れていた。自分の意見を強く主張しながらも、そこに過度に固執するわけでもなかった。
この両者は、非常に良い関係で意見を出し合っているな、と思った。特に担当の方は、役員の方に敬意を示しつつも、決して、「上司の意見だから・・・」と思考停止にはならず、自分ならこう考える、なぜならば、という視点で主張し、役員の方の意見はあくまでOne Of Themとして扱っていた。
これは、上司の下に就く人の姿勢としては非常に理想的である。上司のいうことはいつも正しいわけではない。だから、上司の意見も一意見として、部下は扱わないといけないのだが、以下のような理由で、そうはならないことも多い。
しかしこれは、組織構造上は理想的な状況ではない。確かに、上司というのは、優秀で、なるべくしてなっている人も多く、そこには一定の緊張感と、尊敬の念が含まれがちだ。しかし、上司はいつも正解を叩きだすコンピュータのような存在ではない。時には間違った判断をすること、情報が行きわたっておらず十分に考えられていないこと、正解が何かわからない状況の中で直感的に主張していることもある。そんな上司の意見や顔色を優先しているだけでは、本来達成すべきことも達成できなくなってしまう。
これは上司だけではない。クライアントに対してもそうである。クライアントの言うことだから、と思考停止してしまっては、正しいゴールへ、効率的な道のりで歩んでいくことは時に難しくなってしまう。
クライアントや上司といった、自分より立場が上の人であっても、その主張の内容は客観的に評価し、その意見はあくまで一つの意見としてとらえ、自分としてはこう思う、という結論を導き出し、それを口に出して主張するということに、日頃から慣れなくてはならない。