話の説得力を左右する「具体化能力」

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代表取締役 枌谷 力

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仕事をする上では「具体化能力」と「抽象化能力」の両方が必要なのだが、今日は「具体化能力」の話。

人に何かを提案するとき、あるいは何かプランを計画するとき、どこまで詳細に、具体的に伝えられるかがポイントとなる。と、なぜこんな当たり前の話をするかというと、実は「できるだけ具体的にイメージする」というのは、ある程度意識したり、訓練したりしないと、なかなか実践できないからである。

この具体化能力が低いと、話をする相手からの良い評価が得にくくもなる。核心が良いアイデアだったとしても「話が具体的じゃない」「ちゃんと考えられたアイデアではない」といった評価をされがちである。

例えば、コミュニケーション改善案として「なるべくランチに行く機会を作る」というアイデアを出したとして、これは良し悪しを議論できる具体化されたアイデアだろうか?あるいは、業務効率化のアイデアとして、「時間をきちんと管理する」という案を打ち出したとして、この話は具体的だろうか?

お分かりと思うが、いずれもまったく具体的ではない。もちろんこれをキッカケにアイデアがブレイクダウンされればいいのだが、こういう抽象的なアイデアのまま議論に臨んでも、なかなか良い反応は得られないだろう。

前者のランチの件であれば、具体的化されたアイデアとは、

  1. 毎週火曜日12:30-13:30は、誰か一人を誘ってランチに行く。
  2. ランチは毎週違った人と行く。5週で1回ループする。
  3. ランチでは、プライベートな話を中心にする。
  4. ランチで聴いた話をメモして、その人の好みや性格を理解するプロフィールシートを作る。
  5. プロフィールシートを全員に共有し、みんなでコミュニケーションと取りやすくする。
  6. その人の好むことについて何か情報があったら、すぐにSkypeなどで共有する。

というところまで詰めて、やっと十分に議論できるレベルといえる。このくらい具体化すると、本当に解決したい課題への効果が予想できるようにもなる。

例えばこのアイデアに関してなら、4あたりから事務的になってきたり、5あたりから気持ち悪い活動になってきたり、6あたりでは仕事中にタスクが増えたりする懸念が見えてくる。一方で、手間をかけた分だけ、チーム内のコミュニケーションの質向上に貢献するのだろうか、ということも感じ取ることができるようになる。

そうすると、この施策はあまり良くないかも、あるいは方法論をもっとよく考えないと施策として効果がでないかも、というような次の発想や議論に繋がっていく。

具体的に考えず、「みんなとランチの回数を増やす」だけだと、話がぼんやりしたままである。具体的なイメージがないので、なんとなく良いアイデアのような気もしてくる。なんとなくうまくいきそうに思えてくる。

しかしそれは、本当に良いアイデアだからではなく、単に、詳細がぼかされているから悪く見えない、というだけのことである。あるいは、実行したときの問題点が具体的に見えていないから、前向きな気分だけでそう思えるのである。

後者の「時間をきちんと管理する」も同様である。じゃぁ、それを、いつ、どのように、どうやって、といった5W1Hを詳細に詰めないと、それは本当に実行可能なのか、日常業務の中でちゃんと回せるアイデアなのか、今までそれが実現できなかった問題は解消されるのか、ということが見えてこない。

「時間をきちんと管理する」という行為自体は別に悪いことではない。だからそれをすればうまくいく、と考えてしまう。良い答えにたどり着いた気になる。思考のゴールに到達した気になって、それ以上考えることを止めてしまう。

しかし、そこで思考を止めてはいけない。じゃぁそれをどうやったら継続してうまくいく方法に転化できるのか、ということを考えることが、一番大事なのである。アイデアの具体化を先延ばしにしていたり、ぼやかしたりしてても、状況は好転しない。

目標や計画の具体化ができるかどうかは、目標の達成率を大きく変える。例えば何か目標を立ててもいつも達成できない人は、単に、目標がいつも具体化されておらず、実現可能性を考慮してないから、ということも多いのではないだろうか。

抽象的なレベルで思考を終わらせる習慣があると、現実的で実現可能性の高い目標が設定できなくなる。人に何かを説明するときに説得力のある具体的な話ができなくなる。結果的に、他人が動かすことができなくなる。

これは社内コミュニケーションだけではなく、クライアントへの提案に関しても同様である

過去に、他人の作ったコンペの提案書を何度か見たことがある。その時「これは落選するだろうなぁ」と思い、実際にそうなった提案書の多くは、内容が具体的ではなかった。

海外の技術トレンドやデザイン理論のページばかりが分厚くて「で、具体的にどうするの?」という部分が希薄だと、落選の可能性は一気に高まる。

それ故に、僕の提案書では、啓蒙や理論はできるだけ薄くし、いかに実現可能で具体的な話にするか、ということをいつも注意を払っている(逆にいえば、夢やロマンを求める提案には僕は不向きなのかもしれないが・・・)。

我々が仕事で求められるのは、最終的には、具体的な意見、具体的なアイデアである。

やり方が全て明確化されてて、明日にでも実行できるような、メリットとデメリットが完全に把握できているような、施策がうまくいったときといかなかったときの対策までしっかり考え込まれているような、そういうレベルに具体化されたアイデアである。

抽象的な思考で留めておくのは、それ以上考えなくてよいので楽かもしれないが、結局のその考えは誰にも価値を生み出さないし、自分自身にもいい影響として跳ね返ってこない。

あらゆることに関して「細部に至るまでできるだけ具体化して物事を考える」というのは、クリエイターであろうが、ビジネスパーソンであろうが、いつも意識しておくべきことだろう。

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