例えば、企業内にビジョンを浸透させたり、クライアントに提案を行う上では、論理性や一貫性が大事と言われる。論理性や一貫性とは、より確実なコミュニケーションをする上で確かに有効であり、多くの仕事は、この基本にのっとっているべきだろう。
しかし、仕事の中のもっと生々しく、現実的な部分に目を向けると、実は論理性や一貫性に固執するとうまくいかないことも多い。むしろ矛盾する2つのことを許容できる人でなければ、コンスタントに良い仕事をすることができないともいえる。
矛盾する2つのこととは、例えば以下のようなことである。
いずれも矛盾していて、どちらかを立てればどちらかが立たず、となりがちであるが、そうでなくてはならないことでもある。
そしてこれらに一つの共通性を導き出すとすれば、それは、いつも同じ方法、一辺倒のやり方でうまくいく仕事はない、ということである。あるいは、仕事ができる人とは、矛盾する両極端のバランスを取れる人である、とも言える。
自分にも経験があるが、若い頃には、上司の一貫性の無さ、状況によって言うことがコロコロ変わることに反発を覚えることもある。確かに、何も考えず場当たり的に動いているだけの人も存在はするが、一方で、仕事ができる人もまた、その場その場で言動を変えたりする。こういう人は、矛盾する2つのことを状況に応じて使い分けているからであり、それはリーダーや上に立つ人として、大事な資質を備えているともいえる。
何か経験をしたり、本を読んだり、あるいは仕事の中で学ぶことが日々あると思うが、それらを分解して一つの法則を見つけ出すことは、とても大事である。しかし、仕事も、この世の中も、矛盾を内包している。その法則が通用しないケースが必ず出てくる。それは1時間後に訪れるかもしれないし、2年後に訪れるかもしれない。
いずれにしろ、一つの成功パターンに当てはめてそれ以上自分では考えなかったり、一辺倒の価値観を頑なに守って仕事をする姿勢では、矛盾を活用できるバランス感覚を身に付けることはできないだろう。潔癖なまでに論理性や一貫性を追及するのではなく、矛盾する両極の100%を目指しながら、その使いどころ、力のいれどころ、配分などをその都度考えながら選択しなければならない。
今後、あらゆるものがオートメーション化されていくが、オートメーションシステムでは、矛盾のない法則、パターンしか扱うことができない。そういう世界で存在価値を発揮するのは、法則性のない矛盾を取捨選択し、バランスを取るような仕事の仕方、頭の使い方をするような人たちなのだろう。