私自身は元々話が下手で、社会人になりたての頃はそのことでよく苦労した。気の知れた同僚や先輩ならまだしも、緊張感を伴うクライアントとの会話が特に苦手だった。
そんな私も、20代後半に自分がやりたかった仕事に飛び込み、30代で独立や起業を経験して、少しはマシになったようである。
今でも話上手ではないが、少なくとも仕事を取ってこれるレベルの話術は身に付けてるようだ。またお世辞交じりとは思うが「話が分かりやすい」とお褒めの言葉をいただくこともたまにはある。
自分が話下手だったからこそ、分かりやすい話と分かりにくい話では何が違うのだろうか、と考えたことがある。
「話が流暢だから」「話すのが上手だから」と結論付け、自分にはその才能がないから、などと諦めるのは早計だ。実はそれが一番の理由ではないからである。たどたどしさが抜けないのに話自体は分かりやすい人がいたり、一方で淀みなく話してるのに話が分かりにくい人がいたりするからである。
私は、分かりやすい話には、以下の5つが備わっているのだと思う。
1は、前提となる知識、問題、課題などを共有することである。この認識がズレていると、話は一気に理解しにくくなる。人それぞれの前提条件で話を理解してしまうためである。プレゼン資料で冒頭に与件を整理することがよくあるが、これは前提条件の認識を合わせを行い、話を分かりやすくするためのテクニックの一つだろう。
2は、聴く人にどういうメリットがあるかを、最初にキッチリ伝えることである。これがあれば、他人事で話半分で聴くべきではなく、前のめりで話を聴かなければならない、というように聴き手は姿勢を改めるだろう。聴き手の姿勢の違いというのは、話の伝わりやすさに大きく影響を与えるものである。
3は、映画や小説のような凝ったストーリーテリングが必要と言っているわけではない。「結論→なぜならば」という自然な流れがあるかどうかだけである。当たり前のことではあるが、ついトピックスを列挙するような説明をしてしまったり、誰かの会話内容を忠実に再現しようとしたりして、ストーリーがない話になることはよくある。
4も当たり前だが、専門用語を使う場合でも、まずはそれを平易な言葉で説明すべきである。さらに言えば、専門用語をやたらと列挙することは、話が分かりにくくなるだけでなく、自分の言葉に酔っている、知識があることとアピールして悦に浸りたい、都合が悪いことを誤魔化したい、といった印象も与えかねない。
5は、必ず具体的な例に落とす、ということである。抽象的な概念論は、もやもやとした印象を残すだけである。その例も、馴染のないレアな例をあげると分かりにくくなる。聴き手にとってより身近で、いつもしてること、常に必要と感じていることを例にした方が、話が伝わりやすくなる。
上記のような5点を意識すれば、私のように元々は話下手であっても、少しは分かりやすい話ができるようになるのではないだろうか。