制作会社がクライアントに切られてしまう一番の理由とは?

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代表取締役 枌谷 力

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昨年度の当社はほぼ100%が元請けだった。ここ数年、元請け比率は非常に高く、企業のWeb担当者の声を直接聞く機会に恵まれているともいえる。

その中でも新規で取引を始める顧客のほとんどは、サイトのお問い合わせフォームか電話から折衝が始まっている。その依頼の多くはサイトリニューアルである。ということはつまり、過去に既存のWebサイトを作った制作会社(代理店や開発会社)が存在しており、そのうえでネットで他の制作会社を検索し、私たちを見つけ、声をかけてきている。その背景には、今まで付き合ってきた制作会社に対する大きな不満があることが多い。

お会いした際には当然、今までの経緯の一環として、制作会社の何が不満だったのかを聴くことになる。きちんとカウントしたわけではないが、感覚値でいうと8割くらいは同じ理由である。それは「言ったことしかしてくれない」「自分たちから提案してくれない」である。ようするに制作会社のリーダーシップ不足に対する不満である。この理由で今付き合っている制作会社に見切りをつけ、別の制作会社を探している企業は本当に多い。

リーダーシップといっても求められていることはそんなに大げさなことでなく、大抵基本的なことである。サイトを構築する過程の中で、顧客が持っていないアイデアを積極的に提案してくれたり、顧客の出す要望の代替案を示してくれたり、顧客の知らないプロならではの知見に基づいて導いてくれたり、ということである。

リーダーシップをとらない制作会社の言い分としては「スコープ通りに進めないと赤字になる」「無理な要望を無理なタイミングで言ってくるクライアントが悪い」「クライアントは勉強不足だし何もわかってない」といったところなのだろう。

しかし企業側の話を聴き、あるいは実際に付き合ってみると、無茶な要求を通したいわけでも、制作会社を赤字に陥れてでも利を得ようとしてるわけでもないことが分かる。ただ単に、タイミングも手間もよく分からなくて無邪気に要望を出しているだけであったりする。そしてそれが優先度の低いことであるというのならその要望は取り下げるし、あるいは別の優先度の低いことと入れ替えた方がいいと説明すれば、大抵はそうしてくれる。

当初決めたスコープを超える要望が出てきても、根拠を明確にすれば、追加費用や納期の延長を考えてくれるし、それが無理なら、予算や納期に収まるための優先順位の入れ替えもだいたい協力してくれる。顧客もなんでもかんでも思い通りになるとは思っていないし、無用に混乱させてプロジェクトが崩壊するようなリスクは避けたいとも思っている。基本的に大人同士の付き合いなので、先方が理解できるリスクをきちんと提示し、普通に相談すれば、普通に調整してくれることがほとんどである。

そういった顧客に対して、一方のリーダーシップのとれない制作会社というのは、話を聴く限り、以下のような行動をとっているようである。

  • クライアントの出す要望をそのままマスト要望と受け取り、自らプロジェクトを混乱させる
  • 開発側の都合ではなく、クライアントにとってのメリット・デメリットの説明をしない
  • 「スコープ外」の一点張りでとにかく要望を拒否する
  • 自分からは余計なことは言うまいと御用聞きに徹する
  • 予算や納期に収まる代替案を考えない
  • 顧客の要望をそのまま制作スタッフに横流しするだけの稚拙なディレクションをしている

こういう制作会社も、不真面目な態度を取っているわけではなく、むしろ気持ちは誠実なのかもしれない。ただ、契約前に決めたスコープ通りに納品することにはコミットしても、Webサイトを使ってビジネスに貢献するというクライアントが本来望んでいることにはコミットしないから、顧客の不満に繋がっているのだろう。

我々制作会社の多くは、モノづくりやデザインやインターネットのテクノロジーが好きで、その技術力で評価されたいという願望を持っているのではないだろうか。その願望ゆえに、技術力の優劣が制作会社選びに大きな影響を与えていると思いやすい。しかし実際の市場ニーズは、そこからはややズレたところにある。

技術力が勝負になるのは、もっと深い階層においてである。それ以前に制作会社に求められるのはコミュニケーション能力ではないだろうか。そしてその良し悪しの印象を左右しているのは、リーダーシップの有無ではないだろうか。当然リーダーシップのベースには知識や技術が必要になるわけだが、それらがリーダーシップに転化されていない会社は、いくら豊富な知識や高度な技術を潜在的に持っていても、顧客との良好なコミュニケーションは実現できず、高い満足を与えることはできないだろう。

(とはいえこれはいささか極論で、実際には、知識不足・技術不足→自信を持って顧客と話せない→ひとまず穏便に済まそうと御用聞きになる→言われたことしかしない→リーダーシップ不足、というパターンが多いのだとは思う)

私は顧客と直接対峙する社内のスタッフには、以下のようなことを伝えるようにしている。

  • 御用聞きになるな
  • ボールを投げ返して満足するな
  • 相手が動き出すのを待つな
  • お伺いを立て過ぎるな
  • 我々が言うべきは「どうしましょう?」ではなく「こうすべきです」だ
  • 伝言ゲームをするだけのディレクターならいないほうがマシだ

これは、リーダーシップのない制作会社に対して、顧客企業がどのような印象を持ち、どのように不満を感じ、どのように愚痴を漏らすかを見てきているからである。私たちも油断をしていると同じようなことを言われてしまう、という危機感があるからである。

価値観が違って認められないのなら、それは仕方がない。あるいは単純に我々のスキル不足、知識不足で評価されないのなら、それも悔しいが納得はいく。しかし、基本的なリーダーシップ不足で顧客に不満を感じさせてしまうというのは、屈辱的である。なぜならそれは「仕事ができない人」という烙印を押されるのとほぼイコールだからである。そういう思いが、上記の一連の言葉に繋がっている。

リーダーシップの欠如は、受け身の姿勢や根強い待ち体質と表裏一体である。それは過剰過ぎる保身や事なかれ主義を生み、 できるだけ余計な行動をしない、余計な頭を使わないでリスクを回避する、という発想に繋がる。

これは受託のWeb制作に限った話ではない。SIerやコンサルなど、オーダーメイドでサービス提供するプロフェッショナル型サービスでは、みな一様にリーダーシップを求められる。既に決まっているガイドラインを機械的に順守する性格が強いサービスであっても、仕事の中でリーダーシップがゼロということはないだろう。顧客と直接接しない業務に従事してても、上司と部下という関係が発生する以上、似たようなことは求められるはずである。新入社員ならともかく、それなりにキャリアを積んだ「言われたことしかしない」「決めたことしかしない」「自分からは何も提案しない」人が高く評価されるような会社は存在しないのではないだろうか。

私たちの会社はWeb制作会社である。その仕事の中で求められる技術的な側面は、Webの世界でしか通用しないものかもしれない。しかし、仕事の中で求められるリーダーシップの基本的な姿勢は、Webとは関係なく、どんな仕事でも普遍的に求められることではないかと思う。だからこそ、単に日々の業務をこなすことだけを重視するのではなく、もっと長い目で見たときに、「ベイジで仕事をしていたので、どこに行ってもそれなりに通用するリーダーシップが自然と身に付いた」と社員に思ってもらえるような、そんな会社にしたい思っていたりする。

さて、こういう話をすると、「でも、いくら制作会社がリーダーシップを持っていても、それに耳を貸さない横暴なクライアントだっているでしょう?」という話も出てくるだろう。たしかに、制作会社のリーダーシップが通用しない相手というのは存在する。それに対する最善策は「そんな顧客とは契約しない」である。つまりそういった問題を抱えがちな制作会社は、リーダーシップではなく、「顧客の選び方」に改善の余地があるのではないかと思う。

ただ、この話を展開するとまた違うテーマになってしまうので、私たちなりに実践している「無茶な要求をする顧客と付き合わない方法」というのは、また別の機会にまとめたいと思う。

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