デザイナーとしてベイジに入社して1年。初めて担当した案件も終わりに差し掛かろうとしている。プロジェクト前は「顧客ミーティング」と聞くと、こちらが相手に説明する、という一方通行のイメージを持っていた。しかし、想いを汲み取ったり、理解を深めてもらうために伝え方を工夫したりと、コミュニケーションを重ねて相手と共に創っていくのが顧客ミーティングなのだと実感した。
慣れないことばかりで、正直いっぱいいっぱいだったが、毎日さまざまなことを吸収した充実感のある案件だった。今の新鮮な気持ちを忘れないためにも、記憶を探りながら、顧客ミーティングでの学びをまとめていきたいと思う。
私は人一倍緊張しいなところがある。人前に立つことが嫌いではないのだが、緊張で動悸が激しくなったり、汗をかいたり、顔が赤くなったりと、普段通りにふるまえないことも多い。
その対策としてまず行ったのが、ミーティングの流れを想定して喋る言葉を原稿に書き起こしておくこと。実際に一語一句読み上げるわけではないが、緊張や焦りから接続詞すら出てこなくなる可能性を考えると、原稿が1つの安心材料となった。
準備ができたら、あとはひたすら練習をする。前日も当日も一通りの流れをおさらいして、ミーティングの10分前には画面共有できるかの確認などを念入りに行った。
この前準備のおかげで、説明自体でそこまで苦戦することもなく、余裕を持ってミーティングにのぞむことができたと思う。
反省としては、説明することに必死で、顧客の納得度などを確認できていない場面が多かった。話のフェーズごとに、不明点の確認や質問を投げかけていたものの、ささいな懸念や疑問点はその場ではなかなか言い出せないだろう。
首を傾げる、返事の歯切れが悪いなど、相手の反応を見逃さずに、もう少し深堀りしていたら、デザインのヒントになるキーワードが出てきたかもしれない。次回からは、1文や1段落ごとに相手の声のトーンや表情を意識して、見逃がさないようにしたい。
デザインには「親しみを感じてもらうために曲線を用いる」「知的な印象を与えるために明朝体を用いる」など、理屈ではなく感覚的な領域も存在する。この領域のデザインをミーティングで提案する際、「具体的な根拠や裏付けがないのに、無理に論理的に説明しようとしている部分があって、信憑性がなくなっている」とディレクターさんに指摘されることがあった。具体的には次のような例があげられる。
最終的な意思決定の際、「なんとなく信頼できそう」など感覚的な判断が入ることも大いにありえる。抽象的な表現=顧客の意思決定の後押しがしづらい、と言い切ってしまうのは避けるべきだった。
これも必ずしもそう言い切れるとは限らない。「青色には、体温や心拍数を落ち着かせるといった実験結果があるように、鎮静効果を与える特徴がある」という根拠を踏まえて、「信頼感を印象付けるために青色を使用するのが良いと私は思いました」という主観を素直に伝える説明がベストだったのではないかと思う。
上記のように言葉ではどうしても説明できない領域を無理やり論理付けしたり断定したりすると、わざとらしさや陳腐な印象を相手に与えてしまう。大切なのは理屈ではない部分は素直に相手に伝えることだ。今後ビジュアルの説明のときには、社内勉強会「Designer’s Mind Book」で枌谷さんよりお話のあった、以下の「説明出来ない領域に関する話し方」を参考にしたいと思う。
ベイジでは、デザイナーが直接顧客とコミュニケーションをとったり、提案をする機会が多い。ミーティングでは、顧客の所感や、議論の中からビジュアルのヒントになる要素が思いがけず出てくることもある。そういったプラスの面もあれば、今回あげた失敗例のような提案で信頼を失ってしまう可能性もあるだろう。
経験を重ね、スキルを身に着けていくことも大切だが、一つ一つのミーティングからも、意識的にコミュニケーションの取り方や提案の良し悪しを学び、よりフラットな視点で物事を捉えられるようにしていきたい。そして、密なコミュニケーションとディスカッションを意識して、クライアントと「共創」していけるデザイナーに成長していきたいと思う。