仕事の速さ=頭の回転の速さ、ではない

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代表取締役 枌谷 力

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私は頭の回転がそれほど速くないと自覚している。

若い頃は答えを出す前にじっくり考え込むタイプだった。経営者になった今も、基本的な思考速度はさほど変わっていないと思う。その証拠に、自分の知識や経験がゼロリセットされる環境になると、理解が進まない。そんな時は、なかなか自分の考えをまとめられない。

20代の頃は、優れた回答を素早く出せる人に劣等感を覚えることもあった。

なぜすぐ答えられるのだろう…
なぜ短時間でアイデアが出るのだろう…

そう感じて、自分とその人たちとの間に、乗り越えられない高い壁がある気分になった。

しかし30代になると、その状況も徐々に変わってきた。時々「仕事が速い」と評価されるようになった。30代後半になり、フリーランスのデザイナーとして活動していた時も、「もうできたんですか?」「仕事が速くて助かる」と言われることがあった。

社交辞令も含まれていただろうが、色々な状況を加味しても、比較的仕事は速い方だったのではないかと思う。

言いたいのは私の自慢話ではない。元来、さほど頭の回転が速くない人間が、どうやって「仕事が速い」という評価を時々得られるようになったのか、ということである。

私が思うに、特別な頭脳や能力がなくても、「仕事が速い」という印象を与えることは可能だ。人の2倍速く頭を回転させる必要はない。人の3倍速くキーボードを叩く必要はない。そんなスーパースキルを身に付けなくても、「仕事が速い」という評価を他者から得ることができる。

それは何か?

答えは簡単だ。意思決定を速くする。言い方を変えれば、迷う時間を減らす。ただそれだけだ。

断言するが、仕事の速さとは、意思決定の速さである。特に頭脳労働はほぼ確実にこれだ。そして、仕事の速さ=意思決定の速さということは、以下の3つを身に付ければ、仕事は速くなる。

  1. 意思決定に必要な知識を身に付ける
  2. 意思決定する経験を積む
  3. 意思決定できる状況を作る

仕事が遅い人は、「事前にもらってる情報が足りない」「段取りが悪い」といったことに原因を求めがちだ。

しかし、根本的な原因は単なる知識不足ということも多い。知識さえあれば、情報のインプットがなくても、自分の中の知識だけで仮説ベースで意思決定ができるようになる。それがレスポンスのスピードに繋がる。

十分な知識がないから、決められない。だから迷う。悩みながら、あーでもない、こーでもない、と考える。だから時間がかかる。知識があれば、「こういう時はこうすればいい」とすぐに判断できるし、「こういう時は答えが出ないので、ひとまずこれで終わらせておく」とも判断できる。結果、迷う時間がないので、トータルの時間は短くなる。

つまり、最も手っ取り早く、誰でもできる仕事の高速化とは、知識を身に付けることである。

ただ、知識は多いが仕事が遅い、という人もいる。読書家や雑学博士に仕事が速い印象を持つかというと、必ずしもそうではないはずだ。となると、知識以外に何が必要か。それが「自ら意思決定をした経験」だ。

自分が持っている知識を駆使して、自分で意思決定をしてみる。時に失敗するかもしれない。しかし、意思決定を自分でするから、力を入れる場所、力を抜く場所が、感覚的に分かるようになる。ここまでは考えた方が良く、ここからは考えても無駄、というのが肌感覚で分かるようになる。

これ以上はうまく行かなかったら仕方ない、あとは腹を括ってそれ以上考えない、と割り切る胆力がつく。これは、意思決定する胆力をつける、という考えに近いかもしれない。

意思決定して失敗することに慣れれば、意思決定を恐れないようになる。そうすれば、意思決定が速くなる。いくら知識を突っ込んでも、自分で意思決定をする機会が少ない人は、ただの頭でっかちになりやすい。仕事が速くはならない。むしろ選択肢が増えて、迷う時間が増すかもしれない。

ここまでの話をまとめると、仕事が速くなるために、頭の良さも、手の速さも必要ない。まずは知識を身に付ける。知識がたくさんあればあるだけ、仕事は速くなる。あとは仕事の現場で、自分で意思決定する回数を増やす。「どうすればいいですか?」と聞いて、自分では答えを出さない。ではなく、一旦自分なりに考えて結論を出してみる。

これらを愚直に続けていれば、平均的な人たちと比べて、「仕事が速い」という印象を、周囲に自然と与えられるようになるだろう。

勿体ないのは、「私は頭の回転が速くないから」「私はゆっくりした人間だから」と、自分をラベリングすることだ。「仕事が遅いのは仕方がない」「これは私の個性だ」と開き直ることで、本当は速くする方法があるのに、それをしない。

スピードやレスポンスは、仕事において、非常に重要なファクターである。これがないだけで、本来得られるチャンスが得られなくなることがある。これがあるだけで、能力以上の好機が転がり込んでくることがある。

人はだれしも、100の能力があるレスポンスが期待を下回る人より、能力は80だがレスポンスが期待を上回る人と仕事をしたがる。あなた自身も、誰かと一緒に仕事をするとき、多くの場合はそういう人を求めるだろう。

仕事の速さとは、後天的に身に付けられるものである。「自分はそういう人だから」と自分に呪いをかけるのはやめよう。知識を身に付ける。積極的に自ら意思決定する。この2つを愚直に続けていくといいだろう。

若い頃、自分は人よりも頭の回転が遅いと思っていた私は今、そう思う。

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