ベイジでは、7月からMomentorの坂井風太さんの組織基盤強化プログラムを受講している。毎回学びが多く、自分自身の振り返りと血肉化を兼ねて、気になったワードについて文章を書き、Slackに投稿している。これを時々公開していこうと思う。
ここに書いた内容は、プログラムで教わったこと以外に私の解釈も混在している。坂井さんの影響を色濃く受けてはいるが、プログラムの内容そのものではない。その前提で読んでいただけると幸いである。
まず、坂井風太さんとは何者かということで、プロフィールはこちら。
2014年新規事業部でのインターンを経て、2015年DeNAに新卒入社。DeNAトラベル(現エアトリ)に配属後、2016年にゲーム事業部へ異動。有名IPタイトルのモチーフ選定職、新規機能開発リーダーを経て、2017年に小説投稿サービス『エブリスタ』に異動。サービス責任者、組織マネジメント、事業統括を担当。2019年に株式会社エブリスタならびにDEF STUDIOS株式会社の取締役に就任。2020年に株式会社エブリスタ代表取締役社長後、経営改革とM&Aなどの業務を経験。2022年8月DeNAとデライトベンチャーズから出資を受け、人材育成領域にて起業。
https://fullswing.dena.com/archives/9203/
Momentorは、その坂井さんが満を持して立ち上げた、東京都渋谷区にある人材育成・組織開発コンサルティング会社である。
坂井さんが収集した、産業組織心理学を中心とする膨大な量のアカデミックな理論と、DeNA時代の組織改革の経験で培った実践知をミックスした独自の組織強化プログラムを作り上げ、上場企業をはじめ数多くの企業のマネジメント支援を行っている。
坂井さんがどんなマネジメント思想を持っている方かは、このYouTubeが分かりやすい。経営者やマネージャーには是非観てほしい動画である。きっと開眼するところがあるはずだ。
ベイジも組織が30人を超え、いわゆるマネジメント課題が以前より大きくなってきた。
仕事におけるマネジメントは、業務を管理するワークマネジメントと、人の成長や育成に関与するピープルマネジメントに大別される。
ワークマネジメントは、いわゆるプロジェクトマネジメントであったり、ワークフローであったりといった、業務を遂行するために必要なマネジメントである。この領域はこれまでも積極的に取り組んできた。仕事を効率よく進めるために考えざるを得なかったからだ。
一方、ほとんど勘と経験と思い込みと手探りで進めてきたのがピープルマネジメント領域である。
マネージャーという職能は、プレイヤーとして何らかの成果を上げた人が昇格して携わっていることが多い。もちろんベイジも例外ではない。正式なマネージャー職というのは存在していないのだが、マネージャー業務を兼任しているプレイングマネージャーが10名近くいる。
幸いベイジは、組織崩壊する程の深刻な危機に直面したことはない。ただ、綻びのようなものはチラホラ出始めている。しかしこれらは彼らが悪いわけではない。マネジメントの教育を施していない会社のせいである。
ということで、当社執行役員佐々木の推薦もあり、先に紹介した坂井さんに相談した。
坂井さんとの1時間に満たない商談の中で、私は契約を即決した。当社にとっては決して安い金額ではなかったが、「これだ!」と思えるものだった。「飛びついた」という表現が近いかもしれない。
本記事を執筆している時点で、全8回のうち4回まで受けている状態だが、毎回学びの連続、アンラーニングの連続である。
坂井さんの講座では、数多くの理論や用語が登場する。研究者が提唱している理論もあれば、坂井さんが独自にネーミングした用語もある。アニメやエンタメを用いた例えも多く、アカデミックな理論を扱いながら、とっつきやすくもある。
(坂井さんはお笑いが大好きでM1の出場経験もある方なのだが、本プログラムにおける言葉選びの巧みさはお笑い経験によって培われたのかもしれない、と勝手に推測している)
これらの用語を組織内で共通言語化し、日常会話の中で習慣化していく。すると、体系的なマネジメントの理論やナレッジや考え方が、自然と組織に浸透していく。これが本プログラムの基本的な考え方である。
以降は、第一回のメインテーマである「自己効力感」と「組織効力感」に関して学んだことと、私なりの解釈のまとめである。
「成長したくない」と思って働いている人はほぼいないだろう。皆、良い経験を積み、その結果スキルを伸ばし、自分の市場価値を高め、人に喜ばれたり、感謝されたり、年収を上げたりしたいと思って働いている。
仮に成長に自覚的でなかったとしても、時代や環境は変わっていくものなので、変化や適応という成長に向き合わざるを得なくなる。
もしそれすらしたくないと考えているとしたら、その職業からはもう撤退をした方がいいのではないだろうか。
私自身はこう考えているため、成長したいと思うことは、働く上での大前提となる、と思っている。
ここでいう「成長」とはどういうことだろうか。それは「今までできなかったことができるようになること」だと解釈している。そう捉えると、成長を実現するには、あるいは成長を実感するには、何をすればいいのだろうか。私は、大きくは2つのアプローチがあると思っている。
「1. 経験があることを繰り返す」は、行動の先に起こることが想像しやすい。過去に経験があるので、失敗リスクも少ない。一定の成功体験があれば、ある程度の自信もあるはずで、ストレスは最小限になる。
なので、人はつい仕事の中ではこちらを選択し、経験がことがあることの繰り返しで、スキルを高度化しようと考えてしまう。
しかし、既に経験していることは、伸びしろが少ない。繰り返すほどに成長は鈍化する。やがて成長実感が感じられない時がやってくる。同じことを繰り返すだけになるため、別能力とのシナジーも生まれにくい。これは持続的な能力開発の面でマイナスに働く。
つまり、「1. 経験があることを繰り返す」というアプローチだけでは、成長の持続性の観点で問題が生じるわけである。
そこで重要になるのが、「2. 経験がない事に挑戦する」だ。こちらを習慣的に行えるようになれば、持続性の問題はほぼクリアされる。
経験がないことへの挑戦を日常的に当たり前のように実践できる人は、成長スピードが速いうえに、成長が鈍化しにくい。常に新しいことを経験し、新しい学びを得ているからである。新しい経験を過去の能力とミックスさせることで、また新たな力を獲得する。事実、成長スピードが速くずっと成長しているように見える人には、「挑戦を避けない」という共通特性があるように思う。
こうした成長と挑戦の密接な関係を理解すると、組織づくりやマネジメントのヒントも見えてくる。つまりは、会社が成長し続ける人を育てたいなら、社員が挑戦できる環境を作る必要がある、という考えに至る。
経営や上司は、「挑戦しよう」「コンフォートゾーンから飛び出そう」などとよく言う。しかし、「挑戦しろ」と言われて挑戦できるほど、人は単純ではない。「挑戦したい」という気持ちにならなければ、いくら人に言われても挑戦しない。これが現実だ。
では、どうすれば「挑戦したい」という気持ちになるか。
そのカギを握っているのが「自己効力感」である。自己効力感とは、「やればできそう」と思える感覚のこと。経験や根拠がなくても、「自分ならできるかもしれない」と思えるから、未知のことにも一歩踏み出し、挑戦できる。挑戦できるから、成長ができる。つまり成長を続けるためには、自己効力感を養うことが不可欠というわけである。
自己効力感と似た概念に、「自己肯定感」がある。
「ありのままの自分を認める」という自己肯定感は、健全に働くうえで必要な要素だが、自己肯定感は挑戦する姿勢には必ずしも繋がらない。自己肯定感だけでは、「今のままの自分で満足」と、挑戦ではなく停滞を選んでしまう可能性もある。
そのため、挑戦と成功においては、自己肯定感よりさらに踏み込んだ、自己効力感が必要である。
それと関連して大事な概念として、「ピグマリオン効果」「ゴーレム効果」を覚えておきたい。人は褒められると能力を発揮し(ピグマリオン効果)、褒められないと自信を失い能力を発揮しない(ゴーレム効果)という、教育心理学の分野で生まれた用語である。
いうまでもなく、前者のピグマリオン効果を高めていくことが、自己効力感に繋がっていく。
坂井さんのプログラムの中では、自己効力感を育てるためには、以下の要素が必要だと教えられる。
こうした要素を育む環境として、「セキュアベースリーダーシップ理論」を教わった。リーダー/マネージャー/メンターの責務とは、社員が安心して働ける土台を作ることという考え方である。確かに、「失敗したら評価を落とされる」という緊張感のある環境で、思い切った挑戦はできない。「失敗しても評価してくれる」という安心感があるから、挑戦しようという気になる。
強いリーダーや上司がいる組織では、「信頼されたいなら結果を出せ」と言われることも多いが、実はこれはセキュアベースリーダーシップ理論には反している。「自分は信頼されている」というセキュアな環境があるから、人は結果が出せるようになる。「信頼されたいなら結果を出せ」という理屈は、順番が間違っている。
こうした環境を整えたうえで、自ら挑戦を選択し、自律的に成長していけるようになるためには、自己効力感に加えて、以下の2つも必要になる。
こうした外部環境と内部要因の両方にアプローチすることで、自己効力感を高めていくことが、リーダーやマネージャー、メンターと呼ばれる人に大事な考え方である、というわけだ。
最終的には、個人が自己効力感を持ってるだけではなく、組織全体が効力感を持っている状態を作らなければいけない。これが組織効力感である。組織効力感とは「この組織ならなんとかやれる」という感覚である。
プロジェクトにしても、チームにしても、会社にしても、常に順風満帆であることはない。必ず困難や試練が訪れる。その時に、「この組織ならなんとかやれる」「この人たちと一緒ならなんとかやれる」という組織効力感があれば、その組織は試練や停滞も乗り越えられる。
ベイジであれば、2022年に営業や利益率の課題があったが、これをわずか半年で回復できたのも、組織効力感があったからではないか、と思っている。
組織効力感を育てるには、ポジティブゴシッピングも有効である。組織の中に「良い噂」を流す。流れる状態を作る。AさんがBさんのことを褒めていた。Cさんがすごく活躍している。こういう噂が流通していくほど、メンバーは自己効力感を覚えやすくなり、組織全体の効力感が高まる。
上司が人前で部下を褒めることも大事だが、上司の行動の有無に組織が依存しないために、メンバー同士が褒め合う「ネットワーク型」にしていくことも大事だ。自己効力感は、上から下だけでなく、横でも高まるし、下から上でも高まる。縦横無尽に高めあう構造の組織が望ましい。
ベイジでは、「毎日書いている日報で、他者の良かったことに言及しよう」という取り組みを最近始めた。これは期せずして、ポジティブゴシッピングの考え方に当てはまっている。
自己効力感のカラクリを知ると、ベイジの今までのマネジメントの反省点も浮き彫りになる。
これまでのベイジは、問題解決手法としてマネジメントにアプローチする傾向があった。本人の課題感から問題を見つけ出し、問題を構造化し、それぞれの小さな問題について理想と現実の差分を分析し、解決策を考え、優先順位を決め、実行する、という一連のプロセスである。
この考え方自体が悪いわけではないのだが、ここに「自己効力感」の概念が欠落していた。だから以下のようなことが起きがちだった。
よくないのが、理想100に対して現状が60の時に「40足りない」という指摘に力点を置くことである。例え前回が50で、今回は60になってて、プラス10の成長をしてても、「まだ40足りない」ということに目を向ける。評価者も本人も、そうやって1on1でゴーレム効果をかけていく。
元凶は私である。自己効力感に無頓着な私自身のマネジメントスタイルが、組織の中で生存者バイアスとして継承され続けて、今に至っている。
しかしこれでは、自己効力感が養われない。
人には感情があり、能力と感情の掛け算でパフォーマンスが出る。仮に50しか能力がない人でも、自己効力感を高めることで、70の結果が出ることがある。逆に70の能力があるのに、自己効力感を下げる環境にいることで、50しか結果が出せないこともある。
ベイジは、アンガーマネジメントができている人が多く、感情的になることを良しとしない人が多い。それ自体は良いことなのだが、「淡々と冷静に」というスタイルに囚われるあまり、組織全体として、人の感情を高めるようなコミュニケーションが苦手な傾向も感じる。(いや、主にそれは私なのかもしれないが)
私自身、こうしたマネジメントのメカニズムに気付かず、まるでウェブサイトの改善プロジェクトのように、人の問題に向き合ってきた。しかし、人の感情や自己効力感を踏まえた上で、人の能力を引き出すマネジメント環境を構築するためには、今までの考え方をリセットしないといけない、という危機感に似た感情が芽生えている。
このように今までのやり方を振り返っていると、つい過去の悪い側面にばかりフォーカスしてしまうが、自信を失っているわけでもない。
実はプログラムを受けながら、「ベイジ、結構できてるじゃん」と思うことも少なくない。坂井さんからも「ベイジさんこれはできてるはずです」と言われることも、私の中の自己効力感に繋がっている。
これからは、社内で行われる社員同士のコミュニケーションのすべてを、自己効力感を高める場にしたい。まず手始めに1on1のアジェンダや問いかけのフォーマットを変えて、自己効力感を高めやすいアジェンダに変えていきたい。
こうした活動は、経営者や上司だけが意識すればいい話でもない。縦と横、上と下、様々なラインで自己効力感を高め、自然と組織効力感が高まるようなネットワーク型のコミュニケーションを、社内に浸透させていきたい。まず何より、リーダーである私が率先して取り組んでいこうと思う。