仕事を依頼される際に「なる早でお願い」と言われたことはないだろうか。私はある。そして人に依頼する際に使ってしまったこともある。
「なる早」とは「なるべく早く」の短縮形だ。この言葉は相手の都合を尊重しているように見えて実際には受け手に多大なストレスや負担をもたらす。こういった依頼の仕方には以下のような問題があるだろう。
ディレクターやプロジェクトリーダーのような立場の人が曖昧なコミュニケーションを取ると、顧客からは適切に情報を引き出すことができず、社内のクリエイターからも期日までに質の高いアウトプットを用意して貰えずに、プロジェクトにトラブルが生じるリスクが増加する。小さなトラブルの繰り返しによりプロジェクトは大きく炎上してしまうかもしれない。
誰かに仕事を依頼する場合、解釈の余地が大きくて、受け手に考えさせたり、質問をさせたりする伝え方は止めるべきで、以下のような観点でコミュニケーションを取った方がいい。
例)提出期限は8月31日(木)17時です。
例)10月に新製品の販売を開始する予定です。そのため、現在の市場の動向や競合他社の動きを把握して、最適な戦略を練る必要があります。前提として、今回の製品は20〜30代の男性を主なターゲットとしています。
例)成果物として、ターゲット層の関心を引きつける2000〜3000文字の記事を3本執筆して欲しいです。
例)AとBのタスクがありますが、Aのタスクから優先して完了を目指してください。
例)毎週金曜日の17時までにメールで進捗を報告してください。もし重大な問題や遅延が生じた場合はすぐ連絡をお願いします。
例)ウェブサイトが本番環境に公開されたら完了とします。
注意すべきは「誰が見ても解釈に違いは起きないか」の観点で、もし曖昧さが残っているのであれば潰していく必要がある。曖昧な依頼内容には5W1Hのうち何らかの情報が抜けていることが多い。
「When(いつ)」「Where(どこで)」「Who(誰が)」「What(何を)」「Why(なぜ)」「How(どのように)」などの情報が含まれているかを確認してから依頼した方がいいだろう。
自分が伝達した内容が相手に正しく伝わらなかった場合、それは自分の伝達方法に責任があると認識した方がいい。「それくらい分かるでしょ」「察してよ」「行間読んで」なんてコミュニケーションを取っていると、やがて誰も仕事を受けてくれなくなる。
依頼内容が曖昧なのは依頼する側の責任である。だが曖昧な状態で作業に入ってしまうと解釈のブレからトラブルに発展してしまい、結果的に依頼を受けた自分の首を絞めることにもなってしまう。
「顧客がこう言っているから」「上司が教えてくれないから」と諦めてしまうのではなく、具体的な情報を得るために働きかけた方がいい。
流動性がない組織、特に古参のメンバーが多く、社員の入れ替えも少ない場合、曖昧な伝え方でも相手が汲み取って物事が進んでしまうので、曖昧なコミュニケーションが増えてしまいがちだ。
当社でもここ数年で社員数は増え、未経験者に対する説明の機会も増えている。文脈や事前の情報に頼らずに、伝えるべきことをすべて言語化するローコンテクストな状態が求められるだろう。
私の経験上、優秀だと感じるディレクターやクリエイターは、曖昧で抽象的なコミュニケーションを取らないことはもちろんだが、相手からの依頼内容に曖昧さがあれば鋭く指摘をしている。
曖昧さをチームや組織から取り除ければ、プロジェクトや組織作りにおいて無駄なやり取りやストレスも減り、成果を出すことに集中できる状態を作ることができるのではないだろうか。