大々的に発表していなかったが、2023年7月1日、ベイジは経営体制が少し変わった。
まず、営業改革を中心的存在と知ってやり切り、経営や組織の数字に大きな影響を与えてくれた佐々木俊祐が執行役員となった。
同時に、CxOを新設し、一応私がCEO(最高経営責任者)、今西毅寿がCOO(最高執行責任者)となった。佐々木は現在ベイジのマーケティング改革を担当しており、これらがひと段落してある程度の成果が見えた時点で、CMO(最高マーケティング責任者)に就任する予定である。
ベイジは創業から13年、CxOを設置していなかったが、なぜ今になってCxOを置き始めたのか。そのあたりの意図を解説しておこう。
CEOやCOOは日本の会社法には存在しない役職であり、その由来は米国型のコーポレートガバナンス(企業統治)にある。従来型の日本企業では「社長」という名で経営も執行も兼ねるケースが一般的だが、米国では経営と執行を明確に分離し、それぞれのトップを取締役会で任命するのが一般的になってきている。CFO(最高財務責任者)やCTO(最高技術責任者)といった役職も同様であり、役割の明確化と権力の分散を目的とした、透明性のある健全な企業統治を行うために生まれたポジションである。
日本では代表取締役社長や創業者がCEOを名乗っているケースが多く、社会通念としてCEO=社長のように捉えられている。しかし本来これらは異なる概念であり、CEO=社長とは限らない。例えばベイジの取引先であるホットリンク社では、創業者であり長年代表取締役社長を勤めてきた内山幸樹氏ではなく、執行役員の桧野安弘氏がCEOとなっている。本来のCEOの定義に従えば、このような体制も選択肢の一つである。
日本においては、1976年にソニー創業者の盛田昭夫が会長兼CEOに就任したのが初の事例と言われている。その後、90年代~00年代にかけて、企業規模に関わらずCEOやCOOを設置するのがある種のトレンドのようになり、その後はCHRO(最高人事責任者)やCDO(最高デジタル責任者)など、海外で使われているCxO(最高○○責任者を総括する略称)の輸入も一般化し、現在に至っている。
ただ、先ほども述べたように、CEOをはじめとするCxOは会社法に定義があるわけではない。そのため本来的な定義に従えば、日本企業がCxOを導入する必然的理由は、以下に限られるのではないかと思う。
このように整理すると、さほど人数が多くなく、上場を目指しているわけでもなく、グローバルな活動を視野に置いてない企業が、CxOを設置する意味はあまりない。近年は小規模のローカル企業でもCxOを設置するケースが散見されるが、「ネーミングの響きの良さ」「採用活動における印象の良さ」といった、平たく言えば「箔をつけたい」くらいの動機が大半だろう。
ベイジが長年、CxOを置いてこなかったのは、言うまでもなくこの「本来の用途」と離れた言葉の使い方になってしまうためである。ベイジのような小規模のウェブ制作会社には、本来の意味のCxOは必要ない。もともと明確な意味があって生まれた言葉を、雰囲気や流行や演出のために使いたくない。そんな私のポリシーが強く働いていた。
そんなベイジが手のひら返しをし、CxOの設置に踏み切ったのは、米国型のコーポレートガバナンスを取り入れて規模の拡大を目指す方向にシフトしたから、というわけではない。
ウェブの制作や労働集約型の顧客支援というビジネスに、まだまだこだわりと信念を持っている。そしてこの業態を選択している以上、規模拡大の経営に移行することはほぼない。にも拘らず、前言を翻すかのようにCxOを設置したのはなぜか。それは「会社側のメリット」ではなく「働く側のメリット」に着目したためである。
具体的には、CxOというジョブタイトルは、それを与えられた人に、以下の2つの大きなメリットを提供できるだろう。
①対外的なコミュニケーションのしやすさ
例えば、マーケティング部のトップであれば、マーケティング部長と名乗る手もある。しかし、CMOと名乗ることで、「経営に近いポジションの人」「経営者と対等に話している人」という意味合いが加わる。このことが、イベントやメディア露出などの広報、あるいは顧客折衝においても、有利に働くと考えられる。
また、CMOと名乗ることで、会社に囚われない広く一般のCMOコミュニティに入ることにもなる。CMOといっても実際には千差万別だが、社外での交流や情報交換をする際に、同じCMO職と交わりやすくなるだろう。これは会社にとってというより、本人にとってのメリットになると考えている。
②キャリアにおける優位性
ベイジでは、いつかベイジを辞める日が来ることを前提に育成や評価基準を考えている。そんな辞めた後のことを考えたときに、世の中に通りの良い、世間の人がある程度認識している役職名であった方が、少しは有利になるだろう。CxOとして、経営者の傍で仕事をする将来を描いているのなら、そのタイトルを提供したい。
いずれの理由も、会社にとってのメリットというより、働く側のメリットである。そんなことのためにCxO職を創設するというのは邪道に思われるかもしれない。しかし、経営にしっかり貢献し、その資格を有していると思える人には、単に昇給だけでなく、キャリアのお土産になるような、何かを渡したい。これは、そういう心情的な側面が強い判断である。
うちは上場を目指している企業ではないので、ストックオプションにメリットはない。給与も業界の水準を超えてさらに上げていく方針といえ、現時点では世間一般の大企業と比べて特別高いわけではないし、事業会社に対して給与で優位性を示せるような金額を出せるビジネス構造でもない。
そんな中で、ささやかながら、貢献してくれた社員に対する恩返しの一つに、CxOという役職があるのではないかと思っている。
働く側のメリットが理由だからといって、絶対にしたくないのは、CxOをバラまくことである。そもそも、安易にCxOのタイトルを与えてしまうことで、転職時の期待値が上がりすぎ、次の会社で期待外れと思われるリスクが高まるようでは、元も子もない。そのため、以下のような一定の基準を設けている。
端的に言えば、ベイジではなくどの会社に行っても「CxOに相応しい」と思ってもらえる人、ということだ。もちろん実際には企業規模や事業モデル、業界によって、同じ肩書のCxOでも動き方は全く異なり、「どこに会社に行っても活躍する」と断言するのは不可能だが、少なくともベイジより少し上の規模、100~500人規模の会社のCxOが勤まりそうなくらいの能力や実績を、一つの目安にしたい。
なお、10の「ジョブタイトルに固執してない」だが、これは結構大事な素質だと思っている。もちろん、人生の目標として何らかの立場になることを目指すのは悪いことではなく、むしろ良いことだと思うが、肩書に過剰にこだわる人は、結局その肩書に相応しくないことが多いと、色々なケースを見てて感じる。それはあくまで目標設定の一つにすぎず、結果論的に手にするものであって、もっとも大事なのは仕事の中で明確な結果を残すことであるというマインドこそ、CxOに必要なのではないかと思う。
こんな感じで、組織構造を変えるような大きな変化以外に、役職や職能の名前を変えるような細かなチューニングも含めて、ベイジでは引き続き成長に向けた改革を色々継続していこうと思う。