前工程に参加するだけでは解決しない

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代表取締役 枌谷 力

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「企画や戦略の段階から参加できない」
「要件定義に同席させてもらえてない」
「だからアウトプットが適切に作れない」

こうした不満の声は、私が社会人になった20年前からしばしば耳にしていた。これはそれ以前からも存在する「IT業界あるある話」の1つなのだろう。

いわゆる「前工程」「上流工程」に参加できず、仕様を勝手に決められてしまうのは、デザイナーやエンジニアといったクリエイターたちの不満が募りやすいポイントの1つだ。私がデザイナーだった時も、似たような不満を抱いていた時期があった。

ただ、「それは確かに問題だね」と社内で合意が取れたとする。いや、実は合意を取って同席するのは難しくない。なぜならほとんどの関係者は、実際に作る人たちも話に参加してほしい、作り手視点の具体的な意見がほしい、と思っているからである。

なので声をあげれば、いわゆる前工程への参加は割と実現しやすい。しかしそれが実現すると、次の新たな問題が起きる。

例えばデザイナーであれば、以下のような問題である。

  • デザイナーがビジネスサイドの会話についてこれない。
  • デザイナーが会議の中で有益な示唆やアイデアを提示できない。
  • アウトプットの的が絞れるようになる有意義な質問ができない。
  • 前工程の内容を踏まえたデザインを次工程で示せない。
  • 置物のようにただ座ってるだけで、デザイナーの存在感がまるでない。
  • 何も発言しないので、結果的に「あの人大丈夫なの?」という印象を残してしまう。
  • これだったら同席しないほうが良かったかもしれない、と皆が後悔する。

企画や戦略や要件定義は、制作や開発のではなくビジネスの話がメインになる。デザイナーであれば、それを咀嚼して抽象度を上げたうえでデザイン領域の話に接続する、ということが必要になる。しかしこれが難しい。

まず、話が理解できるだけでは不十分である。話が理解できることと、デザインに反映させることの間には、大きな隔たりがあるからだ。話が理解できない。言ってることは分かるがそれが何をどう意味するか分からないので判断も活用もできない。となると、それ以前の状態ということになる。

得意分野が人それぞれ違うのは当然のことなので、実際にはすべてを皆と同じように理解する必要はないのだが、そうであるならば、有益な情報を引き出すためのヒアリングやコミュニケーションが必要になる。それができるディレクターがいればいいが、それがいないからデザイナーが同席しないといけない、ということが多い。しかし肝心のデザイナーも、それができない。

私の経験では、前工程の会議に同席しただけで、これらをすぐにやり切れるクリエイター人材は、実はかなり少ない。良い経験を積めば一定の割合でクリエイターでもそれができるようになるのは間違いない。しかし、そうなるまでにやや時間がかかる。元々コミュニケーションが苦手で言葉少な目な人だと、なおさらである。

そうして、クリエイターも、彼らに依頼する側も、前工程にクリエイターが参加してることに、無駄な時間や工数を費やしてる感覚に囚われる。クリエイターが十分な経験を積んで育つまで堪えきれない。あるいは経験を良質化するフィードバックを周囲ができない。その結果、前工程の同席を止めて、元のプロセスに戻る。

そんな光景を何度も見てきた。クリエイターが前工程に参加することには大賛成なのだが、実はそんなに簡単なことではない、と今は思っている。

まず必要なのは、クリエイターもビジネスや事業を前のめりに理解し、質の高い質問を出せるなどのコミュニケーション力を身に付けることだ。最初から得意でなくてもいいが、「こういうの苦手」と最初から及び腰になるのではなく、そのことが自分の価値を高めると、慣れればある程度できるようになることだと、前向きに根気よくとらえることだ。そしてクリエイターを抱える組織側は、彼らの成長を根気強く待つ。

こうしたクリエイターと会社側の双方の努力がセットにならないと、単に前工程にクリエイターが参加するだけでは、問題の根本はほぼ解決しない。

そんな傾向を感じるので、ベイジではクリエイターの前工程の参加を推奨しつつ、プロジェクトメンバー一丸となって、クリエイターをサポートする体制に移行しつつある。

  • 一気にすべてを求めず、スモールステップでできることを増やす計画を一緒に立てる
  • 結果をすぐに求めないが、〇か月後にこのくらいできていようと、目安の期限は決める
  • 同席した打ち合わせの直後に、メンバー全員で振り返りを必ず行う
  • その時に、ヒアリングやコミュニケーションの仕方について、細かくフィードバックする

全メンバーが前工程(戦略やコンサルフェーズ)に参加する機会創出やそれを遂行する能力獲得に、より力を入れようとしている。

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